よくあるプロローグ?
陽の光が当たらない、正確に言えば太陽も月も存在しないこの世界。それなのに昼間は明るく、夜は月明かり程度の光が闇を照らす世界。この世界を一言で表すのなら、これしかないだろう。
箱庭世界。
俺がこの世界に落とされたのはたしか…大体八百年ほど前の話だ。何年前に落とされたのかを思い出すと急に懐かしさに襲われ、当時の頃を思い出した。
この世界で一番最初に味わったものは恐怖、その次に痛みだった。なんせ一番最初に見つけた生物が敵意丸出しの俺より巨大な蟷螂だったからな。
恐怖で腰を抜かした俺は脇腹を抉られ、背中を切りつけられた。腸がはみ出しそうになりながらも俺は死に物狂いで洞窟に逃げ込んで生き延びたんだ。生き延び、そして戦うことを選んだんだ。
戦い、学んでいくうちにこの世界は飢えと老いが無いこと。闇と魔物が支配していること、そして精神が壊れ、狂うことすら出来ないことを知った。
一旦懐かしい思い出に浸ることをやめ、自分の右腕を見る。今の俺の右腕は肘から先が千切れ、ピンク色の肉が露出している状態だ。だが、それも明日には元通りだろう。
知ったことの一つに、この箱庭世界には特定の場所に、聖域と名づけた場所が存在する。
聖域とは聖域内にいる者の傷を治す能力を持っている場所のことだ。だが、この聖域は体の傷だけではなく、壊れた精神さえも治してしまう場所だった。
死ぬことを許されず、老いることを許されず、壊れ狂うことすら許されない世界で許されたことは一つ、戦うことだった。戦い、学び、ときには喰らって生きてきた。
知っていくうちで再確認したことがある。それは俺が無才能ということだ。得意なことはあっても、それが才能と呼べるほどの物ではない。そんな俺に出来ることは努力だった。時間と老いの概念だ無いこの世界だ、才能の壁というものにぶち当たったときは何年、何十年という月日をかけて幾度も壁を乗り越えてきた。限界なんてものは自分より強い魔物と戦い、時には秘薬なんてものも使ってぶち破った。生きたいという思いを、こんな場所に落とされた恨みを糧に七百年間剣を振るってきた。
まぁ、百年前からは剣に負の感情を乗せて振ることをやめた。何故なら、自分が守らなくてはならない存在ができたから。
「人生ってのは、何が起こるかわからないもんだな…」
そんな言葉を小さく漏らしながら、俺の膝を枕にして寝ている少女の頭をなでた。
俺が百年前に救い出した少女、名はシオンと俺が名づけた。もし俺が一番最初に出会った蟷螂で殺されていたら、もし七百年のうちにどこかで死んでいたら俺はシオンとは出会わなかった。そしてシオンも救われなかった。だから、今まで何の意味も無く生き延びて七百年に、意味があったのだと知った。
そして、これからも生きる意味を作っていく。この箱庭世界への出口は見え始めたけど出たら終わりって分けじゃない。俺はシオンと生きる意味を知るために、生きていく。
私の中では神から授かった能力、転移時のボーナス=チートとなってます