第四十八話:『キャラベルちゃん通信』
この日最後の授業を終え、帰り支度をしていれば、小型通信機が小刻みに揺れており、キソラが確認すれば、どうやら通信のようで、件名の部分には『キャラベルちゃん通信 vol.3』と表記してあった。
「……『キャラベルちゃん通信』?」
中身は大体想像できるが、わざわざこのようなタイトル付けなくても、とキソラは思わず笑ってしまった。
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『キャラベルちゃん通信』というのは、空間魔導師の一人、キャラベル・クラフェニーが作った、キャラベルから空間魔導師の面々に、彼女が得た情報を提供するための手段の一つである。
このタイトルの理由は、大まかに発信元がキャラベルであること、内容が何であれ、キャラベルが送ってきたことを示すこと、カモフラージュを目的としていることの三つに分けられる。
今回は三つ目のカモフラージュが目的だろう。
「あれ、もういいの?」
やることは送り主の確認だけだけだったので、不思議そうに尋ねてくるノエルたちに頷く。
「うん。大体内容は想像できるし」
だから、中身の確認は後ですることを伝えれば、そっか、と返された後、三人は帰るために昇降口に向かう。
でも、キソラは少しばかり内容に目を通していた。
『近づく戦争 帝国の様子は』
と見出しがあったのと、帝国騎士団の師団長たちの名前が記されていたのは分かった。
よくもまあ、バレずに調べられるものである。
ーーいや、彼女の能力なら、それも可能にしてしまうのだろう。
(『現と幻影』、か)
彼女の能力があれば、現実を直視せずにすむのだろうか。
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「……」
キソラのぼんやりとした視線の先には、帰り際に届いた『キャラベルちゃん通信』。
その内容は主に、帝国最強と言われる八人の師団長について。
ニール・ライオット。見た目は軽そうな青年。『黒雷』の二つ名持ち。
アイシャ・クレイソード。剣を背負った美人。その実力から彼女を称え、今世の『剣姫』とも呼ばれている。
エドワード・ウォークライ。体格の良い、傭兵のような老兵。かなりの実力者だと思われ、要注意人物の一人。
アルヴィス・ブラストレイド。戦闘を好んでいるらしく、今回の戦争もどこか楽しんでいる節がある。ただ、それなりの実力があるのは確か。
アレクロード・フォルド。間延びするような話し方をする少年。
キール・ディアンリード。優しそうに微笑む、どこか天然そうな少年。リーシャの兄。
リーシャ・ディアンリード。帝国の防御を担う少女。キールの妹。
ユリウス・サバラーグ。見た目から分かる、強者の気を放つ男。おそらく、今回の師団長のまとめ役。エドワード同様、要注意人物の一人。
そんな師団長たちの情報の下にあった言葉に、キソラは一瞬目を見開いた後、笑みを浮かべた。
『みんな、気を付けて。信じてるよ☆』
キャラベルなりの励ましなのだろう。
彼女の力はどちらかといえば戦闘向きではないため、このような声援も彼女のやるべきことの一つである。
「ほい、キソラ。出来たぞ」
「……ん、ありがとう」
アークが夕食を机に置けば、やや間が空きながらも、キソラは礼を言う。
「うん? どうしたの、アーク」
じっと見てくるアークに対し、キソラが不思議そうにすれば、彼は「いや」と夕食に口を付け始める。
「……」
「……」
互いに無言になる。
少しの間、沈黙が続くが、アークの溜め息がその沈黙を破った。
「なぁ」
「ねぇ」
互いに、声を出したかと思えば、同時である。
「あー、先に言えば?」
「いや、俺は今言う必要は無いから……」
若干気まずくなりながらも、「じゃあ、私から」とキソラが告げる。
「戦争だけど、多分明後日ぐらいに起こると思う。だからーー」
ーーできれば、ギルドへは行かないで、逃げてほしい。
アークは目を見開く。
「は……?」
「だから、戦争が明後日ぐらいにーー」
「いや、そういうことじゃなくて……」
固まるアークに、再び説明しようとするキソラだが、少しばかり待てと言われる。
(一体、キソラは何を言ってるんだ?)
理解が追いつかない。
「何で、そんなこと……」
「巻き込みたくないから」
キソラは告げる。
「この世界の内輪揉めに、異世界の人であるアークを巻き込ませるわけには行かないから」
「何だよ、それ……」
アークは無意識に拳を作る。
「じゃあ、お前はどうするんだよ」
最初は『ゲーム』のパートナーという理由で一緒にいたが、共に過ごすうちに、互いの性格などを理解するようになり、今では『ゲーム』など関係なしに友人や仲間として、一緒にいたいと思うようになった。
それなのにーー……
「え、私?」
「そうだよ。逃げたりしないのか」
アークの問いに、キソラは「あー……」と呟く。
「私、はさ」
逃げられないから、とは言わない。
(約束してしまったから)
逃げないんじゃない。逃げられないのだ。
(守るための、力があるから)
逃げるとしても、それは一番最後。国民全員が避難してからだ。
「大丈夫だよ」
関わる必要のない異世界人を巻き込ませずに、
「私も、ちゃんと逃げるから」
迷宮管理者としても空間魔導師としても力がある限り、ちゃんと大切な人たちを守るために、
(私は……)
ギリギリまで出かけた気持ちを、何とか飲み込み、告げる。
「大丈夫だよ」
キソラは微笑む。
「だから、さ」
そんな不安そうな顔をしないでくれ、と。
安心してくれ、と。
不安そうな表情のアークを安心させるかのように、キソラは微笑む。
「約束しよう? 戦争になったら、頑張って逃げて、終わったら、ちゃんと会うってことをさ」
キソラは小指を向ける。
それを見たアークも、溜め息混じりにキソラの小指に自身の指を合わせる。
「お前には何を言っても、不安しか無いが……どうせ聞いてもらえないんだろうな」
「それは……」
久々に会って日が浅いというのに、やっぱりよく分かっているなぁ、とキソラは思う。
「まあ、俺はお前を今まで通りに信じるさ。ただ、無茶だけはするなよ?」
「不安で不安で仕方ないって顔が、直ってないけど?」
「実際、不安で心配なのは事実だ」
あっさり認めたアークに、キソラは苦笑いしながらも手を引っ込める。
「……少し冷めちゃったけど、食べよっか」
「……ああ、そうだな」
とりあえず、今は冷めた夕食に口を付ける二人だった。




