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迷宮管理者と次元の魔女  作者: 夕闇 夜桜
第二章、戦争
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第四十八話:『キャラベルちゃん通信』


 この日最後の授業を終え、帰り支度をしていれば、小型通信機が小刻みに揺れており、キソラが確認すれば、どうやら通信(メール)のようで、件名の部分には『キャラベルちゃん通信 vol.3』と表記してあった。


「……『キャラベルちゃん通信』?」


 中身は大体想像できるが、わざわざこのようなタイトル付けなくても、とキソラは思わず笑ってしまった。


   ☆★☆   


 『キャラベルちゃん通信』というのは、空間魔導師の一人、キャラベル・クラフェニーが作った、キャラベルから空間魔導師の面々に、彼女が得た情報を提供するための手段の一つである。

 このタイトルの理由は、大まかに発信元がキャラベルであること、内容が何であれ、キャラベルが送ってきたことを示すこと、カモフラージュを目的としていることの三つに分けられる。

 今回は三つ目のカモフラージュが目的だろう。


「あれ、もういいの?」


 やることは送り主の確認だけだけだったので、不思議そうに尋ねてくるノエルたちに頷く。


「うん。大体内容は想像できるし」


 だから、中身の確認は後ですることを伝えれば、そっか、と返された後、三人は帰るために昇降口に向かう。

 でも、キソラは少しばかり内容に目を通していた。


『近づく戦争 帝国の様子は』


 と見出しがあったのと、帝国騎士団の師団長たちの名前が記されていたのは分かった。

 よくもまあ、バレずに調べられるものである。

 ーーいや、彼女の能力なら、それも可能にしてしまうのだろう。


(『現(うつつ)と幻影』、か)


 彼女の能力があれば、現実を直視せずにすむのだろうか。


   ☆★☆   


「……」


 キソラのぼんやりとした視線の先には、帰り際に届いた『キャラベルちゃん通信』。

 その内容は主に、帝国最強と言われる八人の師団長について。


 ニール・ライオット。見た目は軽そうな青年。『黒雷』の二つ名持ち。

 アイシャ・クレイソード。剣を背負った美人。その実力から彼女を称え、今世の『剣姫』とも呼ばれている。

 エドワード・ウォークライ。体格の良い、傭兵のような老兵。かなりの実力者だと思われ、要注意人物の一人。

 アルヴィス・ブラストレイド。戦闘を好んでいるらしく、今回の戦争もどこか楽しんでいる節がある。ただ、それなりの実力があるのは確か。

 アレクロード・フォルド。間延びするような話し方をする少年。

 キール・ディアンリード。優しそうに微笑む、どこか天然そうな少年。リーシャの兄。

 リーシャ・ディアンリード。帝国の防御を担う少女。キールの妹。

 ユリウス・サバラーグ。見た目から分かる、強者の気を放つ男。おそらく、今回の師団長のまとめ役。エドワード同様、要注意人物の一人。


 そんな師団長たちの情報の下にあった言葉に、キソラは一瞬目を見開いた後、笑みを浮かべた。


『みんな、気を付けて。信じてるよ☆』


 キャラベルなりの励ましなのだろう。

 彼女の力はどちらかといえば戦闘向きではないため、このような声援も彼女のやるべきことの一つである。


「ほい、キソラ。出来たぞ」

「……ん、ありがとう」


 アークが夕食を机に置けば、やや間が空きながらも、キソラは礼を言う。


「うん? どうしたの、アーク」


 じっと見てくるアークに対し、キソラが不思議そうにすれば、彼は「いや」と夕食に口を付け始める。


「……」

「……」


 互いに無言になる。

 少しの間、沈黙が続くが、アークの溜め息がその沈黙を破った。


「なぁ」

「ねぇ」


 互いに、声を出したかと思えば、同時である。


「あー、先に言えば?」

「いや、俺は今言う必要は無いから……」


 若干気まずくなりながらも、「じゃあ、私から」とキソラが告げる。


「戦争だけど、多分明後日ぐらいに起こると思う。だからーー」


 ーーできれば、ギルドへは行かないで、逃げてほしい。


 アークは目を見開く。


「は……?」

「だから、戦争が明後日ぐらいにーー」

「いや、そういうことじゃなくて……」


 固まるアークに、再び説明しようとするキソラだが、少しばかり待てと言われる。


(一体、キソラは何を言ってるんだ?)


 理解が追いつかない。


「何で、そんなこと……」

「巻き込みたくないから」


 キソラは告げる。


「この世界の内輪揉め(・・・・)に、異世界の人であるアークを巻き込ませるわけには行かないから」

「何だよ、それ……」


 アークは無意識に拳を作る。


「じゃあ、お前はどうするんだよ」


 最初は『ゲーム』のパートナーという理由で一緒にいたが、共に過ごすうちに、互いの性格などを理解するようになり、今では『ゲーム』など関係なしに友人や仲間として、一緒にいたいと思うようになった。

 それなのにーー……


「え、私?」

「そうだよ。逃げたりしないのか」


 アークの問いに、キソラは「あー……」と呟く。


「私、はさ」


 逃げられないから、とは言わない。


(約束してしまったから)


 逃げないんじゃない。逃げられないのだ。


(守るための、力があるから)


 逃げるとしても、それは一番最後。国民全員が避難してからだ。


「大丈夫だよ」


 関わる必要のない異世界人(アークたち)を巻き込ませずに、


「私も、ちゃんと逃げる(・・・・・・・)から」


 迷宮管理者としても空間魔導師としても力がある限り、ちゃんと(・・・・)大切な人たちを守るために、


(私は……)


 ギリギリまで出かけた気持ちを、何とか飲み込み、告げる。


「大丈夫だよ」


 キソラは微笑む。


「だから、さ」


 そんな不安そうな顔をしないでくれ、と。

 安心してくれ、と。

 不安そうな表情のアークを安心させるかのように、キソラは微笑む。


「約束しよう? 戦争になったら、頑張って逃げて、終わったら、ちゃんと会うってことをさ」


 キソラは小指を向ける。

 それを見たアークも、溜め息混じりにキソラの小指に自身の指を合わせる。


「お前には何を言っても、不安しか無いが……どうせ聞いてもらえないんだろうな」

「それは……」


 久々に会って日が浅いというのに、やっぱりよく分かっているなぁ、とキソラは思う。


「まあ、俺はお前を今まで通りに信じるさ。ただ、無茶だけはするなよ?」

「不安で不安で仕方ないって顔が、直ってないけど?」

「実際、不安で心配なのは事実だ」


 あっさり認めたアークに、キソラは苦笑いしながらも手を引っ込める。


「……少し冷めちゃったけど、食べよっか」

「……ああ、そうだな」


 とりあえず、今は冷めた夕食に口を付ける二人だった。



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