第十八話:湖上の城Ⅳ(犯人の名は)
展開がいきなりすぎるところがあるので、注意してください
2015.10.14 一部修正(?)、世界名を変更
「さて、どうしてくれようか」
合成獣の動きを封じ、簡易的な檻に閉じ込めて、キソラたちはどうするべきか、と合成獣を見ていた。
合成獣本人は、というと、グルルル、と威嚇するように唸っていた。
「唸っても出られないわよ」
それを理解しているのかいないのか。未だに合成獣は唸ったままだ。
簡易的とはいえ、キソラが空間魔法から即席で作ったものだ。そう簡単には壊せない。
一方で、合成獣と戦っていた“湖上の城”の執事やメイドたち人型モンスターは合成獣によって、荒らされ壊された場所の片づけをしていた。
特に見られたりして困るものはないが、その類のものはすでにモンスターたちが最初に片づけており、その他の部分を冒険者たちが手伝っていた。
『リーリア様、何とか通り道だけは確保できました』
『ん、わたしは一応、合成獣が最初に出たらしいテラスにも見に行ってくるから、ここのことは任せても大丈夫?』
『はい』
執事の返事にお願いね、と言い、リーリアはテラスへと向かった。
「だーかーらー、体当たりしても無駄だって言ってるでしょ?」
檻の中の合成獣にずっとそう話しかけているキソラに、モンスターたちだけではなく、片づけを手伝っていた冒険者たちも苦笑していた。
そもそも、キソラとて近くにいたくて近くにいるわけではない。
一度、キソラが離れてリーリアや執事たちを手伝おうとしていたのだが、即席な上に簡易的なせいで檻の効果が薄まるらしく、離れすぎると合成獣が再び暴れかねないので、檻が機能するように、と側にいるというわけだ。
キソラも離れられないなら仕方がない、と自分の周辺だけでも片づけたのだが、それが終わると暇になり、最終的に合成獣と話しているという状況になった。
「……」
諦め悪く檻へ体当たりを繰り返す合成獣を見ていたキソラだが、そこでふと思う。
(あれ? もしかして、何かヤバい感じ?)
簡単には壊せないとは言ったが、嫌な予感をひしひしと感じてくる。
そして、合成獣が相も変わらず体当たりをするとーー
ミシッ。
ひびが入る。
「あーー……みんなー、合成獣が檻から出そうなんで、戦闘再開準備しといて」
「……」
『……』
さすがにヤバい、とキソラが周りに言えば、一度それぞれは無言になり、「はぁあああ!?」と、“湖上の城”のモンスターたちと冒険者たちからブーイングのような声を上げられる。
「いや、気持ちは分かる。私も驚いてるから」
キソラも何だかんだで驚いてるのだ。
次の瞬間にはドン、という音との後にガシャンという音がした。
「壊れないんじゃねーのかよ!」
「そのつもりだったわよ!」
重装備の冒険者の言葉に、キソラはそう返す。
檻が壊れ、ゆっくりと合成獣が中から出てくる。
そして、ぐるりと見回し、キソラに目を向けたところで、見回すのを止め、再びグルルルと唸り始める。
「標的にされたな」
いつの間にか隣にいた少年の言葉に、キソラは苦笑する。
「まあ、出した以上は責任は取るよ」
杖を取り出す。
「また叩き落とすつもりか?」
「まさか」
確認を取るように聞いてくる少年に、キソラはニヤリと笑みを浮かべて言外に「何を冗談を」と返す。
『グルルル……グワァッ!』
唸りながら噛みつこうとしてきた合成獣の攻撃を、キソラは後ろに下がることで回避する。
「いくら檻に入れられたのが気に入らないからってーー」
そう言いながら、杖を前に構える。
それがどうしたと言わんばかりに、合成獣は口にエネルギーを溜め始める。
「いきなり攻撃はしないでほしいなぁ」
合成獣の口から放たれた砲撃を苦もなく防ぐ。
その光景に驚く冒険者たちを余所に、キソラは杖を軽く横に一振りして、光を払う。
「同じ手は食わないわよ?」
『グルルル……』
合成獣の体が光り出す。
『……ス』
「……ん?」
『……コロス』
「喋った!?」
驚く面々にキソラは顔を顰めた。
まるで、厄介なことになったとでも言いたそうな風に。
そして、背にある翼で飛び上がりーーその翼で起こした強風がモンスターたちや冒険者たち、キソラに襲いかかる。
「っ、本気で来やがったか」
「マジでどうすんだよ!」
少年は叫ぶ。
「リーリアはまだ戻ってこないの!?」
『はい。呼んできますか?』
「いや、呼びに行かなくていい」
そう話していると、上から砲撃が降ってきたため、避ける。
「くそっ、『モード:双剣』!」
杖から双剣に変え、右と左でそれぞれ持つと跳躍して、合成獣の体を傷つける。
「って、嘘!」
ーーが、瞬時に傷は塞がった。
『傷つけても、すぐに塞がる、ですか』
執事はふむ、と思案する。
ちなみに、合成獣のこの能力、“湖上の城”のモンスターたちや冒険者たちの魔法が効いているように見えなかった原因でもある。
「こうなったら深く傷つけるしかないか」
キソラは舌打ちし、双剣に魔力を集中させ、再度切りつける。
「チッ、まだ浅い」
他の冒険者たち何名かも同じように切りつけているが、やはりどれも浅い。
「ーー……、」
「ーーえ?」
何か言ったか? と少年はキソラを見るが、そこに彼女はいなかった。
「“連撃ーー緋炎・烈火”!」
双剣から一つの、普通の剣に持ち替え、いつの間に宙にいたのかは分からないが、彼女の持っているその剣は火を纏い、合成獣に向けて、連続攻撃を放っていた。
「これでダメならーー氷だろうが雷だろうがくれてやる!」
じりじりと肉を焼くような音がし、合成獣は悲鳴を上げる。
「うおっ」
痛みで暴れる合成獣に、その上にいたキソラは落ちそうになるが、何とか耐えると、合成獣に刺していた剣を抜き、地に降りる。
合成獣は合成獣で地に降りると、痛みからなのか唸り、苦しいせいで息切れしている。
キソラを睨みつけるものの、反撃はしてこない。
「さて」
それを確認したキソラは一歩前に出て、合成獣の前足と後ろ足を捕らえ、動きを封じると、合成獣に尋ねる。
「苦しいでしょうが、死にたくなければーー大人しくご主人様の元へ帰りたければ答えなさい」
その言葉に、その場の面々は驚いたーーもちろん、合成獣も。
そもそも何故、誰かに送り込まれたとキソラが判断したのかといえば、単純に“白亜の塔”の時に守護者であるフィーリアの意識を乗っ取った人物が“湖上の城”に合成獣を放したのではないのか、または何か関係があるのではないか、と考えたものの、以前にも言ったが、迷宮にはキソラによる結界と守護者による結界があり、あの人物が危険を承知で何度も来るとは思わなかったーーいや、キソラが知らないだけで、他の所にも入られている可能性もあるが。
だから、キソラは「自身の考えを否定して欲しい」という思いと、「これで解決してくれるのならいいんだけど」という不安な思いで合成獣に尋ねるしかないのだ。
「あんたをここに放り込んだのは誰?」
最初は無言で貫いていた合成獣だが、目を離さないキソラに折れたのか、どうせ動けないからと諦めたのかは分からないが、小声で答え始める。
『…………ョ』
「え? 何、聞こえない」
『……魔女』
「……」
聞き取りにくかったので、再度聞けば、『魔女』と合成獣が言うと、キソラが固まりだす。
それはまるで、嫌なものを聞くことになったかのように。
『次元、ノ、魔女、トカ、イウ、人間、ノ、オンナ』
だが、合成獣はその名を口にした。
『次元の魔女』、と。
「ーー……は? 嘘じゃないわよね?」
『嘘、ツイテモ、無意味』
「ーー……」
何かの冗談であってほしいと思って告げても、合成獣にとっては嘘を吐いたとして、メリットもデメリットもない。
理由は分からないが、怒りが湧いてくる。
いつからなのかは分からないーーおそらく幼少時だとは思うーーが、キソラの記憶の一部にキーワードとして『次元の魔女』というものがあった。
そして、頭を過る度に、怒りが湧くのだ。理由も不明なままに。
『大丈夫ですか、マスター?』
いつの間に戻ってきたのか、リーリアが心配そうな顔でキソラを覗き込む。
「……大丈夫。寝てないせいだと思うから」
“湖上の城”の窓からは朝日の光が射し込んでおり、どうやら本格的に朝になってしまったらしい。
(にしても、次元の魔女、か……)
何度記憶を遡っても、やはりその言葉を思い出したという記憶しかない。
おそらく、他の誰かに聞いても分からないだろう。
それに、今日の予定はアークをとある場所に連れて行くつもりなので、寝るつもりはない(今寝たら、すぐに起きられる自信がない上に、夜に寝られなくなる可能性があるため)。
「まあ、何だ。今寝てる冒険者たち叩き起こしてきてくれない? そろそろ“湖上の城”を出るから」
冒険者たちにそう言えば、頷いて起こしに行った。
その間に、合成獣の足止めに協力してくれた冒険者たちを記録しておく。
これで“湖上の城”のランクアップ試験は終了なのだがーー
「さて、君をどうするべきか」
合成獣に目を向ければ、本人(?)はその場で座り込み、大人しくしている。
『マスターが良ければ、こちらで保護しておきますが』
「うーん……」
リーリアの申し出に、キソラは思案する。
保護してもらえるのはありがたいが、その分世話が大変だ。犬や猫のようにペット扱いしたとしても、エサが必要とか、管理するスペースだとか。
だが、問題はそれだけではない。
ここーー“湖上の城”が合成獣の主である次元の魔女により、何らかの被害を齎されないのかを懸念しているのだ。
だからと、キソラが世話できるほど余裕もないのだが。
「はぁ、仕方なーー」
全て言い終えるか言い終えないときに、それは起こった。
天から地へ降り注ぐ、一筋の光が合成獣を貫いた。
『なっーー』
驚愕するリーリアに対し、キソラは光の発生源を睨みつけるように見上げる。
せっかくどうするのか決めたのに、これはあんまりではないか。
「くっーー」
“湖上の城”に来てから、何かがズレ始めている。
別に“湖上の城”が悪いわけではないのだがーーいや、ズレ始めたのは、“白亜の塔”からなのだろうが、昨日から今日に掛けて、何をやっても上手く行かなかった。
光の攻撃を受けて横たわる合成獣に、キソラは近づいてしゃがむ。
「ごめん、魔女の性格が分からなかったから防げなかった」
合成獣は視線だけ向ける。
次元の魔女の性格が分かっていたのなら、必ず防げたのかと尋ねられれば答えはノーだが、少しでも知っていれば必ずとは言わなくとも、何とか防げたのかもしれない。
「そして、蘇生はさせられない。君がしたこともあるが、私の今の実力だと無理だ」
実際、キソラの実力云々を無視したとして、死んだものを蘇らせるのは不可能である。
この世界ーーリラデュイラ世界に存在する各国が死者蘇生だけは共通して、禁忌魔法に指定しているぐらいだ。たとえそれが、キソラの空間魔法と対となるであろう時間魔法の使い手が、いくら魔法を使ったとしても死者蘇生は発動できない。
もちろん、この世界の住人であるキソラは知らないのだが、仮に知っているとすれば、神と外界からの訪問者、次元の魔女のみである。
「だから、助けることはできない」
『別ニ、助ケ、テ、モラウ、ツモリハ、ナイ』
キソラの言葉に、合成獣はそう返す。
その数分後、貫いた光が消えると同時に、合成獣は光の粒子となって消えていった。
「…………」
『…………』
誰も何も言わない。
(このままの気持ちで行かないとダメなのかな?)
キソラは自身に問いかける。
こんな不安定な気持ちで行くわけにはいかないが、どうしても行く必要がある。
はっきり言えば、次元の魔女が合成獣を殺した理由は分からないし、キソラは知ろうとも思わない。
その後、キソラは冒険者たちを連れ、冒険者ギルドに戻ったのだった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
さて今回は、湖上の城編ラストでした
そして、名前だけ出てきた『次元の魔女』
キソラは自分と次元の魔女の関係性を知りません
キソラが感じた理由が不明な苛立ちの理由も、魔女と関係があります
あと、前回も含め合成獣に対するルビ、キメラが出てくる度に数が多い気もしましたが、今回は少し様子見なので、多く感じたのなら、感想で指摘でもしてくれればありがたいです
次回は(キソラの)予定通り、アークとある場所へ向かいます
それでは、また次回




