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迷宮管理者と次元の魔女  作者: 夕闇 夜桜
第三章・前章、夏休み~帝国・大会編~
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第百四話:波乱の実技試験Ⅲ(トラップ×トラップ)


   ☆★☆   


 再出発はしたものの、罠や魔物の遭遇率はこの迷宮に来たときと何一つ変わらず、それだけが、キソラたちの安心材料ではあった。


「そういえば、キソラちゃんは四、五日前に戦ったとか言ってたけど、どんな奴だったの?」

「どんな奴って……」

「だって、空間魔導師を苦戦させるとか、気になるじゃん」


 どうせ『ゲーム』関係でしょーと言いながら、単なる興味で聞いてきたみたいだが、どう答えるべきか。

 だが、どうやらアリシアもアオイも気になってはいるらしいので、キソラは話すことにした。


「一言で言うなら、あちらの世界で、世界最強クラスの存在って、うちの相棒(パートナー)は言ってた」

「もしかして、キソラが戦ったのって……」


 ギルバートから話は聞いているのだろう、アリシアには分かったらしい。


「あんまりしつこいもんだから、帰るように促したりもしたんだけど、聞く耳を持たなくて、一対一(サシ)で殺りあいましたよ」


 きっと、キソラでなければ死んでいた。


「それで、こっちの魔力半分は消費したんだから、『世界最強』の名前は凄いわ」

「たった一人でこっちの『世界最強』を圧倒するんだから、相手も相当な実力者って、ことだったんだろ」


 アオイの言葉には、キソラも同意するしかない。

 デュールという男は、間違いなく強かったのだから。


「えー、でも、キソラちゃんが勝てなかったとなると、誰が勝てるの?」

「さあね。それに、パートナーも分からずじまいだし」


 遭遇回数はあるのに、肝心の契約者(パートナー)については、何の情報も得ていない。


 歩きながら、キソラは目についた罠を解除していく。

 ノークの管理下にある迷宮の守護者であるトリエットを筆頭とした罠の専門家たちに教えられたのと、独自に身に付けたものが役に立っている。


「まあ、そこは追い追いでいい。問題は、俺たちが遭遇した場合だ」

「あ、その心配は無いと思うよ」

「何で?」

「何か因縁があるみたいで、うちの相棒(パートナー)に固執しているみたいだから」


 つまり、用が済むーーアークを倒すまでは、他の奴らに目もくれないのではないのだろうか。


「それはそれでどうなの?」

「というか、私たちにまで迷惑掛けないでよ?」

「それは、ギルバートたちに言って。異世界(あっち)での因縁(もんだい)を持ってきているのは、向こうなんだから」


 キソラの言っていることは正論なので、アリシアも反論できない。


「あと、そろそろ生徒会室に来てもらえない? アンリの奴が約束の件をずーっと待っているから」


 フィールに言われ、キソラは「そういや、そんな約束もしてたなぁ」とは思うが、ここ最近の状態から察するに約束を果たすのはもっと後になりそうだ。


「約束を守るのも大事だけど、そんな時間あるの?」

「ちょっと待って。空いてそうな日を探してるから」


 最近の状態を知るアリシアだからこそ、試しに聞いてみたのだが、キソラは脳内スケジュールを確認する。


「この様子じゃ、直近は無理そうね。来月の件で予定が詰まってるみたいだし、早くて二学期になりそうよ?」

「来月って、夏休みの?」

「この子、空間魔導師として、王族(えらいひと)の隣国訪問に付いていかなきゃなんないみたいだし、それに大会もあるでしょ? その会場の候補地についても王城で調整中だったみたいだから」


 前者はともかく、後者に関しては、勉強会の時に、キソラが面々に愚痴ったためだ。


「ふっざけんな! 会場として迷宮使うとか、何考えてんの!? あと、兄さんも同じ迷宮管理者なんだから、それぐらい兄さんに回せーーーー!!」


 と、そんな感じでキソラが叫んでいたのを、アリシアは覚えている。

 ちなみに、アリシアは『えらいひと』とは言ったが、『王族』とは言ってないし、『帝国』ではなく『隣国』だと言ったために、ぎりぎりセーフだったりする。


「何か、過労死しそうなスケジュールだな」

「言ってあげないで。本人が一番よく分かってるから」


 休みたい、と彼女が言っていたのは、いつだったか。

 まだ自覚があるだけ、マシである。もし、自覚がなければ、本当に過労死まっしぐらだろうから。


「それで、これ(・・)でしょ?」


 実技試験ーー彼女を嫌いまくっている守護者が居る迷宮攻略。


 楽をさせてあげようにも、彼女の能力の万能さに、思わず頼ってしまう。


「あ」

「どうしたの?」


 キソラが唐突に声を洩らし、フィールが問い返す。


「罠、発動させちゃったかも」


 顔を引きつらせるキソラに、三人は無言で彼女を見つめる。

 あれだけ罠を解除しておきながら、何故うっかり発動させてしまうのだ。


「とりあえずーー走れっ!!」


 罠が作動したのだろう。

 壁となっていた右側が開き、ごろごろと何かが転がってくるような音がしたかと思えば、先程キソラたちが居た場所に大玉が出現し、壁にぶつかったあと、一行を目掛けて転がってくる。


「何という、ある意味原始的な罠!」

「話してないで走れ! 潰れるぞ!」


 珍しく、アオイも焦っているらしい。


「それで、この先どこに繋がってるわけ!?」

「分かんない! 今曲がらないと行けないとこ通りすぎちゃったし、こんな方まで来たことないから!」


 つまり、キソラも分からない現在地に居るわけである。


「って、そうか。あれ、止めちゃえば良いのか」


 そう言って、背後を確認しつつ、キソラは地属性の魔法で大玉の速度を落とすための障害物を出現させる。

 時間稼ぎにしかならないだろうが、無いよりはマシである。

 だがーー


(っ、マズいな)


 この先は、キソラも知らない未知の領域のようなもの。

 どんな罠やモンスターが居るのかも、何一つ知らないのだ。

 そして、何よりも戦闘になったら、体力もそうだが、魔力がどれだけ残ることか。


「……ま、仕方ないか」


 もし、この迷宮の守護者に嫌われていなくとも、足を踏み込んだことのない場所に向かうのは、冒険者たちと何一つ変わりない。

 こうなったら、この先は上級ランカーとしても踏破するしかないではないか。


「速度が……」


 若干の坂道になっているとはいえ、大玉の転がる速度は遅くなってきたらしい。


「ちょっと、少しどころかかなりマズい事態になったみたいよ」


 そんなアリシアの言葉に、面々は走りながらも彼女に目を向ける。


「地図が機能してない」

「え、嘘!?」

「このタイミングで嘘ついてどうするのよ」


 慌てて自分の地図(マップ)を確認するフィールに、アリシアがそう返す。


「エターナル、こういう時はどうしたらいい? お前ほど、この迷宮に詳しい奴は、ここにはいないぞ」


 アオイも問い掛けてくるが、分からないものは分からない。

 方法が無い訳じゃないが、こちらの呼び掛けに応じてくれるかどうかは分からない。


「さっきも言ったけど、この辺りについてはよく分からない。でも、手が無い訳じゃない」

「どうするつもりだ?」

「とりあえず、先に大玉(あれ)から逃げ切らないと、その手を打とうにも打てない」


 どうにかするには、一度立ち止まらなきゃなんない。

 どうせ喧嘩になるのは目に見えてるから、こんなのに巻き込めば何を言われるか分かったもんじゃない。


「ーーえ?」


 だが、感じ取った気配に、キソラの足の速度は落ちる。


「キソラちゃん!?」


 面々から遅れ始めたキソラに、フィールがぎょっとする。


(この気配ーーまさか!?)


 何とか速度を上げ始めたキソラに、安堵と疑問を浮かべる三人。


「何、何か感じた?」

「ちょっと、マズいことになった。このまま行くと、アキトたちと鉢合わせることになる」

「はぁぁぁぁっ!?」


 キソラの言葉に、代表して尋ねたアリシアが声を上げる。


「ちょっ、どうするの? 向こうは、こっちに気づいてないんでしょ!?」

「だろうね」


 気付かない方が普通なのであり、気付いてしまったキソラの方がおかしいのだ。

 ーーが、今はそんなことについて言い合っている場合ではない。


「でも、どうするのかなんて、決まってる」


 大玉を止める。

 ただ、その一択のみ。


「どうする気なの?」


 フィールが尋ねる。


「もちろん、止める」


 そして、この程度のことに空間魔法を使うまでもない。

 軽く息を吐く。


(必要なのは、火と水と氷。……まあ、いけるかな)


 火はともかく、水はやや不安ながらも使えるし、氷も水の派生ではあるが、使えないわけではない。


「それじゃ、こっちを一切振り返ることなく、アキトたちの足止めよろしく」

「また、あんたはあっさりと言う……」


 アリシアが呆れているが、それでも彼女がちゃんと伝えてくれることをキソラは知っている。


「でもまあ、任された」


 そう告げるアリシアに、キソラは速度を落とすことでその意に同意する。

 フィール辺りの声か、信じられずに叫んでいるような声が聞こえてくるが、今は完全無視である。


「だから、私を本当に殺せば、兄さんに怒られるのはあんただと、何度も言ってんだろうが。クソ守護者」


 この程度で死ぬ気はないが、怒りはある。


「ーーこの程度で、この私をどうにかできると思ったら、大間違いだよ」


 次の瞬間。

 轟炎が、大玉を包んだ。



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