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You are mine.  作者: 岸部碧
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勇者の正体

 ジェフ・アルフォードとモニカ・アルフォードは、ジエタ地区でも有名なおしどり夫婦だ。

 モニカが旅行の際にコーレの港町を訪れ、がらの悪い男達に絡まれ困っている所を助けてくれたのがジェフだった。

 彼も彼でモニカに一目惚れだったらしく、まるで恋愛小説のようなベタな出会い方をした彼らは、結婚してからもまるで付き合いたての恋人のようだった。

 できれば生まれ育った街を離れたくないというモニカの為に、城下町に移り住む事になったジェフは、モニカの親友であるデイジーの夫・ダンの紹介により、彼と同じ職場に就く事ができた。

 お隣さんという事もあって、彼らが休日を一緒に過ごすことも少なくなかった。

 微笑ましいアルフォード夫妻とボールドウィン一家を誰もが穏やかな気持ちで見守っていると、同じ年に両家に子供が生まれた。アルフォード夫妻の第一子であるフィオナと、ボールドウィン家ではデイヴに次ぐ第二子・ダレルである。

 モニカとデイジーは日中夫が働きに出ている間、家事を終えた後は必ずといって一緒にのんびり過ごしていたので、子供達がきょうだいのように育つのは必然だったと言える。

 娘がいないデイジーはフィオナのことも可愛がり、息子も欲しいと思っているモニカもデイヴとダレルをとても大切にしていた。

 フィオナ達より五歳年上のデイヴは同じ年頃の子供達と遊ぶことも多く、余計にフィオナとダレルはいつでもどこでも一緒で、二人は近所ではまるで双子のような扱いだった。

 城下町は治安もよく、魔物の脅威もそれほどなかった為、町の端とはいえど誰もが安心して暮らしていた。


「ダレル達、旅行に行くんだって」

 普段通りの朝。窓から白い日差しが差し込む食卓の場で、フィオナがパンを頬張りながら思い出したように言った。フィオナが五歳の時である。

 同じテーブルを囲んだモニカとジェフもその事についてはもちろん既に聞いており、やんわりと微笑みながら頷く。

 それほど遠出ではなかったが、たまには田舎でゆっくりするのもいいだろうとダンが提案したらしかった。今頃は馬車に揺られているに違いない。

「いいなあ。わたしも行きたい」

「そうねえ。来年にはフィオナも保育所に行くんだから、今のうちに家族で旅行しておきたいわね」

「じゃあ、来月あたりまとまった休みが取れるよう頼んでみるよ。行き先は君達に任せる」

 娘の大きな瞳がきらきらと輝くのを見て、二人はくすぐったそうに微笑む。「お母さんとよく相談するんだよ」とジェフが大きな手のひらで頭を撫でてやると、フィオナは元気よく返事をして頷いた。

 二人は決して甘やかしすぎることはなく、精一杯の愛情を娘に注いだ。フィオナも、そんな優しい両親が大好きだった。

 いつも通りサラダも食べるよう注意を受け、素直に従って食べていると、突然パリンとガラスが割れる音がした。

 どうやら二階から聞こえたらしいそれに、三人は不思議そうに首を捻る。

「子供達がボールで遊んでいたのかな」

 過去にも度々近所の子供達が窓を割ってしまっているのを知っており、ジェフが確認の為に席を立った。

 フィオナは早速モニカにどこへ行こうかと問いかけ、モニカも穏やかな表情で答える。

 そんな二人の会話をかき消すように、甲高い音が耳を劈いた。

 それが鳴き声だと理解した時、ジェフが血相を変えてリビングに転がるように戻ってきた。

「モニカ! フィオナをつれて逃げるんだ! 魔物だ!!」

 叫んだジェフの背後で、緑色の肌をした熊のように大きな生き物が不気味にうごめくのが見えた。

 今まで魔物など見た事がなかったフィオナは呆然とそれを見つめるが、短く悲鳴を上げたモニカが強く腕を掴んで椅子から引き摺り下ろすようにして走り出した。すぐにジェフがフィオナを抱き抱え、二人は玄関へ向かう。

 しかしそれを阻むようにもう一体の魔物が現れ、追ってきた魔物の大きな拳をぎりぎりのところで避ける。

 目の前をかすめたそれに、フィオナはようやく自分達が危険に晒されているのだとわかった。強く父親にしがみつくと、応えるようにジェフがフィオナを抱えなおす。

 出口を塞がれなんとか逃げる両親を、二体の魔物が楽しそうに追いかけてくる。恐怖で体が固まってしまったのではないかと思った。

 悲鳴を上げる事も涙を浮かべる事もできないままただしがみついていると、ジェフとモニカは家の一番奥の部屋に駆け込んだ。慌てて扉を閉め、ジェフがフィオナをおろしてその扉を押さえるように立つ。

「モニカ! 早く!」

「ええ……っ、フィオナ、早くこっちに来なさい!」

 慌しく木の床をどけて石造りの扉を開けたモニカが、叱りつけるようにフィオナを呼んだ。魔物の声がすぐそこまで迫っている。

 切羽詰った表情をする両親にびくりと体を強張らせたフィオナだったが、すぐさま母親に駆け寄り、縋るように手を伸ばした。

 モニカは小さな体を一度強く抱き締め、額にキスを落とす。そして、強引に地下室へ押し込んだ。

「っお母さ――!?」

 階段を踏み外したフィオナは、冷たい石の床に転がる。ぶつけた体に痛みが走った。

 僅かに呻く娘を見下ろし、モニカはできる限り優しく微笑む。

「――愛してるわ、フィオナ」

 慈愛に満ちた涙声が胸に突き刺さった時、唯一の扉が固く閉ざされた。

 フィオナは慌てて扉に駆け寄るが、びくともしない。泣き叫んでも、誰も答えてくれない。

 ――両親の悲鳴が途絶えたのは、そのすぐ後の事だった。

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