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クロスボウ父さん、異世界で育児中!  作者: あおいろぱりお


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3/3

第三話 クロスボウ父さん、マイホームを建てる!

「……ふぅ。とりあえず一安心か」


 ホークはベルの口元を布で優しく拭ってやった。

 満腹になったベルは、天使のような寝顔でスヤスヤと眠っている。


 だが、安堵したのも束の間。

 ホークがふと空を見上げると、太陽はすでに西に傾き、空が茜色に染まり始めていた。


「……まずいな」


 ホークの表情が引き締まる。

 昨夜は着の身着のまま野宿で凌いだが、ここは異世界の大草原だ。

 日が落ちれば気温は急激に下がる。夜露は冷えるし、何より夜行性の魔獣がウロウロし始める時間だ。


「こんな吹きっ晒しの場所で、ベルを一晩過ごさせるわけにはいかない」


 ホークは立ち上がり、ボロボロのダスターコートを翻した。

 その目には、戦場に立つ時のような――いや、それ以上の決意が宿っている。


「家だ。家がいる。今すぐに」


 日はあと数時間で沈む。それまでに完成させなければならない。

 テント? 仮設小屋?

 否。


「ベルのための、完璧なマイホームを作る。セキュリティ万全、対魔獣・対プレイヤー用の要塞だ」

「ワン!(俺の犬小屋も頼む!)」


 ウルフが尻尾を振る。

 こうして、夕暮れ時の大草原で、元ランキング1位による狂気の爆速建築(RTA)が始まった。


───◇──────◇──────◇──────◇───


 場所は、先ほどヤギ(エリアボス)を仕留めた泉の近く。水場の確保は基本中の基本だ。


「よし、まずは材木の確保だ」


 ホークは近くの森へ駆け込み、手頃な――といっても直径50センチはある大木に狙いを定めた。

 道具はない。手持ちはサバイバルナイフ一本のみ。

 常識的に考えれば、日が暮れるどころか数日かかる作業だが……今のホークに「常識」は通用しない。


「ベルが風邪を引いたらどうする! 急げ俺!」


 ザシュッ!!


「……あ?」


 軽い音と共に、ナイフが豆腐か何かのように幹を貫通した。

 メリメリメリ……ズドオオオオオン!!

 一振り。たった一振りで巨木が倒れた。


「…………え?」


 ホークは自分の手と、倒れた木を交互に見た。

 安物のナイフだぞ? 切れ味どうなってんだ?


「……ああ、そうか。これが『火事場の馬鹿力』ってやつか。父性とは恐ろしいな」


 ホークは一人で納得した。

 ※違います。エリアボス討伐でLv.45になった基礎ステータス補正(ゴリラ級)です。


「よいしょっと」


 彼は数百キロある丸太を小脇に抱え、鼻歌交じりで運び始めた。

 背後でウルフが「えぇ……(ドン引き)」という顔をしていることにも気づかずに。


 地面を掘ればショベルカー並みに土が飛び、杭を打てばパイルバンカーのように埋まる。

 製材? そのまま突き刺せば柱になるだろう!

 断熱? 土壁を厚さ1メートルにすればいい!


 そして、太陽が完全に沈む直前。

 そこには、素人が作ったとは思えないほど堅牢で、無骨な要塞ログハウスが完成していた。


「ふぅ……ギリギリセーフか」


 ホークは額の汗を拭った。

 ベルを抱き上げ、完成したばかりのベッド(干し草と柔らかい布製)に寝かせる。

 壁の隙間はない。風も入らない。完璧だ。


「ここは俺たちの城だ。誰にも邪魔はさせん」


 ホークが満足げに頷いた、その時だった。


 ――ガサガサガサッ!


 森の奥から、何かがこちらへ走ってくる音がした。

 ウルフが即座に反応し、低い唸り声を上げる。


「……獣か? いや、足音が二つある」


 ホークのスキル【鷹の眼】が暗闇を見通した。

 走ってきたのは――人間だ。

 学生服のような服を着た、ひ弱そうな少年。

 手には……なんと「ボウガン」を持っている。


「ひ、ひぃぃぃ! 来るなあああ!」


 少年は涙目で叫びながら、転がるように走っていた。

 その背後には、巨大な赤い猪――『フレイム・ボア』が迫っている。

 鼻息で草を燃やす、夜行性の凶暴な魔物だ。


「……なんだあれは」


 ホークは呆れた。

 少年の走り方は素人丸出し。持っているボウガンも手入れされておらず、弦が緩んでいるのが遠目にもわかる。

 リロードすらできていない。ただの逃走だ。


「助けて! 誰かあああ!」


 少年が明かりのついた小屋に気づき、助けを求めて手を伸ばす。

 だが、フレイム・ボアの牙が、少年の背中に届こうとしていた。


「……チッ。うるさい。ベルが起きるだろうが」


 ホークは舌打ちし、背中のクロスボウ『バディ』を抜いた。

 構え、照準、発射まで0.5秒。


 ヒュオッ!


 風を切り裂く矢。

 それは少年の真横をすり抜け――背後の猪の眉間に深々と突き刺さった。


 ズドンッ!!

 猪が盛大に前のめりに倒れ、土煙を上げて絶命する。


「へ……?」


 少年は腰を抜かしてへたり込んだ。

 何が起きたのか理解できていない顔で、震えながら振り返り、倒れた猪を見る。

 そして、視線をゆっくりとホークの方へ向けた。


 そこには、ボロいダスターコートを羽織り、無精髭を生やし、まだ硝煙の燻るクロスボウを下ろした男が立っていた。

 月明かりを背負ったその姿は、完全に歴戦の英雄(または世紀末の殺し屋)。


「あ、あ……」


 少年はパクパクと口を開閉させ、次に男の武器を見た。

 使い込まれたクロスボウ。

 そして、その独特な構え。


「……う、嘘だ」


 少年の目に、驚愕と歓喜の色が宿る。


「そのコート……その神速のエイム……! まさか、掲示板の伝説の……!?」


 少年はガバッと土下座の姿勢をとった。


「【Silent Hawk(沈黙の鷹)】さんですよねッ!!?」


「…………あ?」


 ホークの顔が引きつった。

 なぜバレた。

 いや、俺有名人だから仕方ないか?

 というか、こいつもプレイヤー(転生者)か?


「ファンなんです! 動画全部見てました! クロスボウランキング最下位の星野友也です! お願いします、僕を弟子にしてください!!」

「……帰れ」


 ホークは即答した。

 面倒くさいのが来た。一番来てほしくないタイプだ。


「そんなぁ! お願いします! 右も左もわからなくて……猪には追いかけられるし、矢はリロードできないし……!」

「知るか。お前のプレイヤースキルが低いだけだ」


 ホークは冷たく言い放ち、小屋に入ろうとする。

 だがその時、小屋の中から「ふえぇ……」とベルの泣き声が聞こえた。


「あッ! お前のせいでベルが起きたじゃないか!」

「え? 子供……?」


 ホークは血相を変えて小屋へ駆け込む。

 そして、中からバタン!と扉を閉め、鍵をかけた。


「帰ってくれ! 俺は一人がいいんだ!」


 ドア越しに叫ぶホーク。

 これで諦めるだろう。そう思った。

 だが、少年の声は震えながらも、必死に食らいついてきた。


「だ、ダメなんです! 帰れません!」

「知らん! 野宿でもしてろ!」

「違うんです! ホークさん、貴方は知らないんですか!? このゲームの『真のルール』を!」


 ホークの手が止まる。

 真のルール?


「僕みたいな雑魚が死ぬのはいいんです! でも……でも、貴方がもし倒されたら……!」


 友也の絶叫が、夜のとばりに響いた。


「この世界から『ボウガン使い』は全員消滅デリートさせられるんですよッ!!」


「…………は?」


 ホークはドアノブにかけた手を止めた。

 消滅? 全員?


 ――静寂が流れる。

 聞こえるのは、風の音と、ドアの向こうの少年の荒い息遣いだけ。


「……おい、小僧」


 ガチャリ。

 重い扉が、ゆっくりと開かれた。

 そこには、今まで見たこともないほど険しい目をしたホークが立っていた。


「その話……詳しく聞かせろ」


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