かすみ草の花嫁 第2話
軍服の男は石原莞爾と名乗った。帝国陸軍の軍人で大陸を拠点にしてる関東軍を指揮してる男だ。
「君の話は鍋城先生から聞いているよ。」
「校長先生をご存知なのですか?」
鍋城とは千鶴子が通っていた女学校の校長先生だ。片親だが勤勉で成績優秀の千鶴子を気にかけていた。上の学校に進学する事も勧められた。継母には猛反対されたが。
「彼は私の古くからの友人でね、君の家庭事情は聞いていたよ。」
石原は継母から引き離すために千鶴子を自分の妾にしたいと嘘をついた。
「怖がらせてしまったね。ごめんね。」
石原は千鶴子を働かせいずれは大陸の女学校に編入させてくれると約束した。
「お父さん、お母さん、おはようございます。」
翌日早朝、千鶴子は白い丸襟の黒いワンピースに着替えると白いエプロンをつける。これが石原家の女中の格好だ。
「お父さん、お母さん今日からこのお屋敷で働く事になったよ。」
千鶴子は身支度をしながら机の上に飾らせた写真に話しかける。女中は個室が与えられてる。小さな机と押し入れしかない布団1つ敷けるだけの広さがある小さな畳の部屋だ。
「千鶴子、起きてるかい?」
先輩の女中が呼びに来る。
「はい、おはようございます。」
「支度ができてるならさっさと台所に行っておくれ。」
「はい、杏珠さん。」
杏珠は3年前から働いてる中国人の女中だ。千鶴子の教育係でもある。
石原家の使用人の朝は大忙し。千鶴子は台所へと急ぐ。
「新入り、薪を割って持ってきておくれ」
「はい。」
千鶴子は庭に出ると倉庫から薪を運んで再び台所に戻る。焼却炉の中に入れ火をつける。
「千鶴子、ここはいいからお嬢様の着替えをお願い。」
「はい、杏珠さん。」
朝食の支度は家にいた頃も継母や姉達の分を千鶴子が用意していた。だから仕事には慣れていたが石原家は子供も多く学校に行く身支度も手伝わなければいけない。千鶴子は長女を女学校の制服に着替えさせ髪をとかす。それが終わるとテーブルのセッティング。朝食が終わると子供達が小学校や女学校、大学に行くのを見送り、テーブルを片付ける。やっと一息つけるのだ。
千鶴子は庭のテラスに朝食を持っていき石原からもらった参考書で勉強している。編入するにも試験があるのだ。
「千鶴子、ここにいたのかい?」
朝食を取りながら参考書を読んでいると杏珠がやって来た。
「こんなところで何してるんだい?」
「何って朝食を。」
「呑気に食べてないで。もうすぐ旦那様のお客様がいらっしゃるのよ。」
旦那様とは石原の事だ。軍の関係者が来るらしい。
「玄関でお出迎えするするんだよ。」
千鶴子は杏珠に連れられ玄関へと向かう。既に先輩のメイド達がドアの前に縦1列に待機している。千鶴子も杏珠や他のメイドに倣って隣に並ぶ。入り口から1台車が入ってくる。メイド達のまえに止まると一斉に頭を下げる。千鶴子も遅れて一礼する。
車から降りて来たのは軍服を着た人物が2人だ。千鶴子はふと頭を上げると1人と目が合う。かなりの美青年だ。
「君、新入り?」
美青年が千鶴子に尋ねる。




