花達の出会い
史実で特に芳子様と親しかった3人がもし出会ったらというifオムニバスです。
昭和25年
「お疲れ様でした。」
都内のラジオ局、番組収録を終えた女優の山口淑子にスタッフ達は頭を下げる。
「お疲れ様。」
淑子は玄関口までスタッフからのお見送りを受けると局を後にする。
「あの山口淑子さんですよね?!」
局の外を出てすぐセーラー服姿の少女が淑子の元へやってくる。手には薔薇の花束を抱えている。
「はい、そうですけど?」
「こちら、宜しければもらって下さい。先日ラジオの淑子さんの蘇州夜曲素敵でした。」
彼女は淑子のファンだ。
「ありがとう。」
淑子はかけていたサングラスを外し少女から薔薇の花束を受け取る。少女は満面の笑みを見せると淑子の一礼して去っていく。
少女と入れ替わるように1台の車が淑子の前に停まる。淑子は後部座席に乗り込むと再びサングラスをかける。
「いつもの喫茶店までお願い。」
運転手に告げると車は走り出す。
淑子がたどり着いたのはおしゃれな喫茶店だ。内装は赤い壁、赤いソファにテーブルが設置されカウンター席もある。店内は混雑しており淑子は唯一空いていた半円になったテーブル席に案内される。メニュー表を開きいつものコーヒーとケーキを注文しようとした時
「お客様」
淑子が呼ぶ前にウェイトレスがやって来た。
「店内大変混み合ってましてお相席宜しいでしょうか?」
「ええ、かまわないわ。」
ウェイトレスは白いブラウスに桃色のジャケットにスカートを履いた女性を連れて来た。年は20代半ばの若い女性だ。女性は失礼しますと言って淑子の隣に右座る。
「あの」
女性が淑子に声をかける。彼女も自分のファンなのか?
「素敵な薔薇ですね」
女性が目を向けたのは淑子がファンの少女からもらった薔薇の花束だ。
「薔薇、お好きなの?」
「はい、」
「宜しければ1本どうぞ。」
淑子は女性に花束の中から1本取り出すと女性に渡す。
「ありがとうございます。」
女性は薔薇の花を受け取ると鼻に近づけ香を味い微笑みを浮かべる。
「薔薇の花に思い入れでも?」
「はい、薔薇の花は和子様そのものなのです。」
「和子様?」
淑子が聞き返す。
「初恋の人です。」
女性は少女の頃の遠い日の恋に想いを馳せている。
「失礼致します。」
再び先ほどのウェイトレスがやって来る。
「大変申し訳ありませんがもう1名相席宜しいでしょうか?」
『はい』
淑子と女性が同時に答えると今度は水色の着物にかすみ草の簪をつけた女性が店員の背後からやって来た。年齢は30代半ばで淑子より上に見える。
彼女は淑子の左側に座り小さな鞄から本を取り出し読み始める。
「お兄ちゃん?!」
「和子様!!」
淑子と洋装の女性が同時に立ち上がると着物の女性が読んでる本に目をやる。
「こちらの本ね」
表紙には「男装の麗人」とタイトルが書かれている。
「この本のモデルになった人2年前に処刑されたのよね?中国で。私この人ずっと一緒に暮らしてたのよ。」
「ずっと一緒に?!もしかして貴女千鶴子さん?!」
淑子はサングラスを外す。
「あの?!」
今度は洋装の女性が淑子に尋ねる。
「貴女、もしかして歌手の李香蘭さんですか?!」
「どうしてその名前を?!」
李香蘭とは淑子のもう1つの名前だ。戦前淑子はその名前で大陸で生きていた。中国人歌姫として日本人である事を隠して。
「日劇でリサイタルがあった時和子様がポスターを見て言ったのです。同じ名前、似た境遇。せっかく仲良くなれたのに僕の前から姿を消したって。」
「貴女の初恋の人?その和子って本名なの?」
「いえ、和子は俳句を書く時の名前で本名は愛新覚羅顕シ、日本では川島芳子と名乗ってました。」
「やっぱりお兄ちゃんだわ。」
「貴女、お兄様、いえ川島とはどう言ったご関係?」
今度は和装の女性が尋ねる。
「私の名前は園本琴音です。和子様、いえ芳子様とは女学生の頃福岡で出会いました。お二人は和子様の妹ですか?」
「違うわ。」
和装の女性が答える。
「私は福井千鶴子。かつてはお兄様、いえ川島の妻でもあったの。」




