心配性の冬野くんと運命主義者の秋山くん
あたしがテーブルにラーメンを置き、丼から手を放して、コショーを取ろうとすると、向かいの席から冬野くんが言った。
「だめだよ、春希さん!」
「えっ?」
あたしは目をおおきく開けて、彼を見た。
「……何が?」
「その丼の置き方、キミの膝に近すぎるよ! もし今、地震が来たら、膝の上にラーメンがこぼれて、キミが火傷してしまう!」
「あぁ……。なるほど……」
あたしは頬をポリポリと掻いて、笑った。
「そんなことまで予測してなかった。確かにあれだよね、なんだっけ」
「『憂いなければ備えなし』だよ」
「あぁ、うん。それそれ」
なんか違う気もしたけど、あたしはうんうんとうなずいた。
「なんでもいつ何が起こってもいいように、身構えておけば、安心だよね」
「そうだよ! そして丼から手を放しちゃダメだ!」
見ると冬野くんはいつ地震が起きてもいいように、ラーメンの丼にしっかりと手をかけて、両足は床に踏ん張っていた。
「ありがとう、心配してくれて」
丼を少し自分から離して、しっかりと片手で支えると、割り箸を口で割り、前傾姿勢であたしはにっこり微笑み、お礼を言った。
「本当に、ありがとう」
「本当ならキミのことも……一瞬たりとも放さずに側に置いときたいんだ」
あからさまに不安を顔に浮かべて、冬野くんが言う。
「そうじゃないとキミが他の男に取られちゃいそうで……。でも、束縛は嫌いなんだよね?」
「うん」
ラーメンを食べはじめながら、彼を安心させる笑顔で、あたしは強く言った。
「大丈夫だよ。あたしのこと、信じてね?」
♣ ♣ ♣ ♣
「人間いつかは死ぬんだ」
夕暮れの空を見上げながら、秋山くんが言う。
「だから何をどう気をつけて生きようと無駄なんだ。疲れるだけさ」
「そうだね」
土手の斜面に彼と並んで寝そべって、あたしはうなずく。
「あんまり心配性だと、確かに疲れるかも」
「何がどうなろうとそれは運命なんだよ」
感情の乏しい秋山くんの横顔が、夕陽に照らされて綺麗だった。
「だから春希くん──キミが俺と出会ったのも、俺と付き合っているのも、そして俺といつか別れるだろうことも、どうでもいいことなんだ。運命なのだから」
「秋山くんと愛し合えることはどうでもよくはないよ? 少なくともあたしにとっては」
「確かに今は素晴らしい。キミといるひとときはこの上なく楽しい。しかし、キミがもし他の男のことを好きになったとしても、それは運命だ。俺が悪いことをしたとしても、そうなる運命だったんだ。どうしようもないんだよ」
「ふぅん……。そんなものかな」
「そんなものだよ。そして、それが自由というものなんだ」
風が二人のあいだを通り抜けた。
くっついてるつもりだったのに、風はあたしたちのあいだを通り抜けていった。
「じゃあ、今、別れよっか?」
「それは嫌だ」
「なんで? 運命なんだよ?」
「運命じゃない。それはキミの気まぐれだ。俺はキミとしばらくこうやって空を眺めていたい」
それから二人とも黙って、暮れゆく空を見つめてた。
いいな──
冬野くんに守られるのもいいけど、秋山くんと自由な空気を楽しむのも、いい。
でも……
♡ ♡ ♡ ♡
「春希ちゃん、次の週末、遊園地に遊びに行かない?」
夏川くんに誘われて、あたしはにっこり笑ってOKした。
冬野くんや秋山くんのことは好きだけど、個性が強すぎて時々息苦しくなったり心が離れてしまったりする。
夏川くんはフツーだ。
付き合っててフツーに楽しいし、バランスが取れてる。
優しいのは冬野くんだし、カッコいいのは秋山くんだけど、夏川くんは一緒にいて居心地がいい。
誰か一人にするならやっぱり夏川くんかな。
でも、男のひとって、よく言うでしょう?
『いつも家庭料理を食べていたら、たまには外食がしたくなる』って。
その言い訳、あたしも使わせてもらって、いいよね?
味の濃いものばっかり食べてたら、やっぱり薄味のカレぴが良くなっちゃうんだもん!




