在りし日の舞踏会
私が、子供の頃に住んでいた場所は、都心の一等地でした。
今は再開発の連続で、当時の事は頭の中だけになってしまいましたが、場所柄もあって嘗て舞踏会を行っていた建物があったのです。
その建物は、西洋風で先が丸い屋根になっていました。
私が物心が付く頃には、その洋館はとっくに閉鎖されていたのですが、何故か夜の7時頃になると3階部分に濃いオレンジ色のランプが灯るのです。
当時、私は子供だった為、洋館の事は気にも留めていませんでした。
しかし、ある晩に洋館の3階部分が、いつもとは違って見えたのです。
バルコニーの後ろ側にある、お洒落なデザインの窓の向こうに、何人もの人影が見えたのです。
その様子を観察していると、どうやら貴族階級と思しき方々が舞踏会をしているのです。
そんな光景を何度も見ているうちに、舞踏会を開催している建物の前に行ってみたくなりました。
それで、遊び帰りに1人で洋館の前に行ってみたのです。
夕暮れ時でしたが、いつも洋館を見ている時間より早かったので、期待せずに近付いて行きました。
ところが、思ってもみない事に遭遇したのです。
てっきり、賑やかしい舞踏会の局面を少しでも聞けるものだと思っていたのですが、そんな華麗な様相は全くありませんでした。
それどころか、悲鳴や号泣、呻き声や助けを乞う数々の発言が、絶え間なく聞こえてきたのです。
すると、建物の影から囚人の様な格好をした方が、私に向かって走ってきました。
その方は、すぐに門番に取り押さえられ、建物の中に連れ戻されていました。
私は、急いで家に帰りました。
そして、霊感のある父親に洋館の事を聞いたのです。
すると、こんな事が聞けたのです。
「あの建物はな、上階では貴族階級の人達の社交場になっていたらしいが、地下では拷問が行われていたって話だよ」
「でも、実際に見た奴はいなかったそうだ」
「ただ、あそこから脱走した奴もいたらしいぞ」
「その人は捕まったの?」
「いや、うまく逃げ切ったらしいけど、地下にいた奴らは連帯責任で全員処刑にされたんだってさ」
「悲惨そのものだよ」
「へ~、それでどうなったの?」
「どういう訳か、しばらくしてあの洋館は閉鎖になったって話だよ」
「だけど、あの辺の地元じゃ出るって有名なんだってさ」
私は、あれ以来洋館には近付きませんでした。
とはいえ、それから程なくしてあの洋館が取り壊しになったのです。
その時は、心底ホッとしたのを今でも覚えています。




