演奏終了
道路標識を徹底的に守って四十キロ前後で走行させ、二車線の道路では後続の車に何度も追い抜かれながら、車を走らせていた。助手席の与田はいつの間にか眠ってしまっている。久しぶりに懐かしい面々と会って、好きな野球をして、楽しかったのだろう。今日の与田は、珍しくはしゃいでいた。疲れるのも当たり前だ。
運転慣れしていない私は、車を一時間ほど走らせたあと、少し休憩しようとコンビニの駐車場で停車させた。ハンドルを抱き抱えるようにして寄り掛かり、与田の寝顔を見つめる。眠っている人の顔を見るのは失礼だ。そう思ったが、視線は外せない。今日は与田のこの顔を見るために朝五時半に起き、野球をし、運転を買って出たようなものだ。このくらいの失礼は許されるはず。
与田との、必要以上に親しい関係がうまくいかなくなったら、解散までに時間はかからないだろう。メンバーには迷惑がかかる。
与田も私も、そういうことを考えて、お互いの気持ちを曖昧にしたまま、休日に会っている。音楽活動にも影響が出かねない、あまり良くない事をしているのだと思いながら。だがこの寝顔を見つめていると、そんなことはどうでもいいことのように思えた。
起きたら、言おう。
歌詞にはとても使えない、甘ったるくて、誰も彼もが使い古してきた、馬鹿みたいに純粋な台詞を。
(終わり)
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。