プロローグ
――私は、幽霊が見える少女だった。
人の“死にざま”なんて、誰が好き好んで見たいものか。
それでも私の目には、ずっと“それ”が映っていた。
血まみれの少年
足のない女の人。
虚な目のまま立ち尽くすサラリーマン。
炭のように焼け焦げた誰か――。
学校、電車、バイト先、家のトイレの中まで。
幽霊は、どこにでもいた。
両親の顔すら幽霊越しにしか見えないほど、
私の世界には、生きた人間よりも“死者”のほうが多かった。
怖がられ、避けられ、気味悪がられて。
友達なんてできるはずもなく、
家族とすら会話もできなくなっていた。
――私は、ずっと独りだった。
けれど、ひとつだけ。
私を救ってくれたものがある。
それは、本と漫画の中の世界。
友情、恋愛、誰かを想う気持ち。
誰とも深く関われなかった私にとって、それは夢みたいな奇跡だった。
なかでも、色気のあるキャラクターには心を奪われた。
鍛え上げられた体、艶やかな髪、何かを背負った深い瞳。
そして、気だるげに微笑む横顔――。
ページをめくるたび、私はそこでしか得られない“ときめき”を感じていた。
触れられない現実より、温もりのある“架空”のほうが、ずっと優しかった。
……そんなある日。
駅の階段の踊り場で、私は“それ”に出会った。
うずくまる、小さな女の子。
そのすぐ背後に立つのは、血の気のない男の霊――悪霊だった。
本能が叫んだ。
「このままじゃ、あの子が殺される」と。
気づけば、私は彼女を突き飛ばしていた。
代わりに、悪霊に捕まったのは――私だった。
冷たい。暗い。
全身を引き裂くような痛みが、波のように押し寄せてきて。
最後に聞こえたのは、女の子の泣き声だった。
情けなくて、締まらない最期。
漫画みたいに、カッコよく助けて笑顔にさせてあげられればよかったんだけどなぁ。
……そして今、
イケメンの上にまたがっていた。
えっ、なにこれ!? どゆこと!?!?!?
見下ろした先にいたのは、
夜を人の姿にしたような、黒髪赤目の美青年。
整った顔立ち。艶のある髪。
そして、喉の奥をくすぐるような濡れた声で――
「ふむ……ずいぶんと積極的だな?」
なにこのイケメン!? なにこの色気!?
「ちょっ、ま、まって!? これは事故ですから! ちがっ、わたしなにも――!!」
羞恥と混乱、そしてときめきが胸をかき乱していく。
私は――どうやら転生したらしい。
幽霊に囲まれ、孤独だった前世を終えて、
今度は異世界に生まれ変わったみたい。
でも、そんなことよりも今は……
お願いだからその色気、しまってください!!!!!!!!!!!!