7話:貴女との日々
初詣に2人で行く事にした。1週間前にも会ったが、彼女は夏祭りの時と同じ様に着物を一緒に着たがっていたが、私は初日の出を一緒に見たかったので、大晦日の夜にお互い私服で集まる事になった。
「リンの家、空いていて良かった。リンが好きな歌手、今から紅白に出るみたいよ〜。」
「もちろん知ってるけど、日の出見るために明日は早起きしないといけないから、今日はそろそろ寝る準備しよっか。それに、ちゃんと録画してあるから大丈夫。ほら、もうテレビ消すよ。」
「え〜。もう少し見たかったのに〜。」
「明日、朝早いから早く寝るよ。」
「じゃあ…、ねえ、リン!しよ?」
そう言って美咲はパジャマの裾をめくり、私にお腹をチラッと見せて誘ってきた。この仕草は彼女が私を誘う際の行動として定着した。普段なら私の中で湧く彼女への想いを膨らませ、彼女の要求に二言返事で応じるが、今日は明日の事を考える。
「美咲…、話聞いてた?明日の事を考えたら、今日は早く寝ないといけないから今日は、お預け。」
「じゃ、じゃあ、一回。一回だけでいいから。」
彼女は、物欲しそうな表情で縋り付いてくる。
「寝坊しても知らないからね…。」
「ねぇ、リン…、早く…。」
彼女に注意喚起をしたが、彼女には既に言葉が届いてないようだ。今日は彼女が少し寂しそうにしているので構ってあげる事にする。何故か彼女は時々、私が美咲から離れるのではないか、と不安になるらしい。きっとクリスマス頃に私が彼女の親から干渉を受けて私に心配をかけた事が尾を引いて彼女を心配させているのだろう。美咲をベットに寝かせて、そのまま彼女が好む箇所を手で順に辿る。
「リン…。」
「ん?どうしたの?」
「どこにも行かないでね。」
「美咲、大丈夫だよ。何があっても私は美咲から離れないし、離れられない程に貴女を愛してるから。でも、急にどうしたの?私、何かしちゃった?」
「ううん。そうじゃないけど。だけど、最近、嫌な夢みるの。」
「どんな?」
「状況は毎回少しずつ違うんだけど、毎回、私がリンを怒らせちゃったり、リンに呆れられちゃったりして、リンが私から離れていっちゃうの。勝手に酔っちゃって迷惑かけたり、いきなり連絡が取れなくなったりするけど、こんな私でも一緒に居てくれる?」
「もちろん!ずっと美咲の隣に居させて。」
「もう少し、私に痕付けて欲しいな。」
「まだ続けるの?もう、あと少しだけだからね。」
付き合い始めた頃は私が一方的に美咲を求めていたが、途中から彼女も私を求めてくるようになった。最近はお互いの想いを確かめ合う余裕もある。
美咲も満足した様なのでタイミングを見計らって切り上げてシャワーを浴びた。気づけば、23時を過ぎていた。普段なら大して遅い訳ではないが、明日は早起きする事を考えると少し遅い。
「美咲、み〜さ〜き。起きて!上の口に着いたから歩くよ!」
「ん〜。どれくらい歩くの〜?」
「25分。初日の出みたいって言ってたでしょ。それに、7:05までに着かないと神峯神社で見れないよ。もう6:38だし、早く行こう!」
「うん…。でも、すごい眠い…。」
「私だって相手してたせいで眠いんだから…、わざわざ来たんだし神社で日の出見ようよ!」
美咲の手を引っ張って長い坂道を登る。普段から朝に弱い彼女は眠そうに着いてくる。しかし、運動が得意なだけあって、眠そうな様子にも関わらず歩くスピードは少し早歩きしている私に余裕で着いてくる。そんな風に歩いていたので日の出時刻の5分前に着いた。
「坂道がこんなに長いなんて聞いてないよぉ〜。」
「この前、美咲に連絡したじゃない。」
「とりあえず、初詣する?」
「ん〜。どっちがいいんだろう?」
「?」
「日の出の前か、後か。」
「えーっとね…、日の出の前か、日の出後早めだって。」
「…。じゃあ、並んでおく?」
「確かに…。思ったより並んでるから、並んでおこう。」
「大丈夫かなぁ。ここからだと、お日様、見えるかなぁ。」
「あと4分もあれば、この列も進むでしょう。」
「暇だねぇ。」
「そう言っている間でも、ギリギリ日の出が見えそうな場所まで進んできたよ。」
「日の出まで、残りカップ麺1つ分…。」
「へぇ〜、美咲でも知ってるのね。」
「なんか今、すごい馬鹿にされたような…。」
「いやいや、そんな事ないって。気のせい、気のせい。」
たった"カップ麺1つ分“の時間でも、彼女と話していると楽しい。この時間だけが永遠に続いて欲しい。今の私は当然ながら幸せなので、これ以上、煩わしい日常に押し潰されたくない。
そんな事を思いながら雑談をしていると、丁度、日の出の時刻が来た。私には何故か分からなかったが、彼女は日の出を見れた事だけでとてもはしゃいでいた。その嬉しそうで楽しそうな彼女の表情を見て、私は安心する。
その後、順番が回ってきたので参拝をした。彼女は何をお願いしたかは教えてくれなかったが、私は彼女と永遠に過ごせるように頼んでおいた。そうすれば、きっと……。
いよいよ、ラストへ…(の予定です!)