彼女とのクリスマス
2学期終業式も終わり、計画通りにクリスマスイブに美咲の家でお泊り会をしようとしているが、何故か彼女との連絡が終業式以降繋がらない。ようやく12/23に『明日も明後日も夜に塾の予定が入っちゃったからお泊まり厳しそう』と連絡が入った。
…多分、また彼女の親と何かあったっぽいな。彼女の塾が終わる時間は、雑談の中で聞いた事があったので塾で待ち伏せてみようかな。そこで彼女の親に会ったら気まずいが、高校生にもなってお迎えには来ないだろう。
21時台に塾が終わると聞いた事があるので、20:50から彼女を待つ。彼女の親に勘付かれる可能性を無くす為に美咲にも連絡は入れていない。21:30になっても、出てこない。もしかすると今日は既に塾は終わっていたのかもしれない。寒さが徐々に体に堪えて、そろそろ諦めて帰ろうか、悩んでいると驚くような声が聞こえた。ふと見れば、驚きを隠せない美咲が半口を開けたまま私を見ていた。
「えっ!え?リン?どうしたの!?」
「リン、ちょっと話そ?」
「な、なんで?それより、いつから待ってたの?わっ、凄く冷えてる、リンの手…。」
「私の事は一旦置いといて良いから。美咲、また親と何かあったでしょ!それが、不安で。」
「あ〜、やっぱり気付いてた?ごめんね〜、急に音信不通になって。2学期終わったら規制強化が始まっちゃってね。」
「そっか…。じゃあ、やっぱりお泊まりは無理かな。」
「家に両親はいるけど、仕事関係で明日の朝が早いから私が帰宅する頃には既に寝てるし、お泊まりなら出来るかも。」
「なら、お泊まりしよっか。とりあえず、美咲の家に行こう。」
「あ〜、でも、明日も塾だし、入退時間は親に通知されるからサボれないから、明日も午前から塾行くから時間短いけど大丈夫?」
「いいよ。せっかくのクリスマスくらい貴女と過ごしたいもの。」
「それと、今日は夜に応じてあげられないからね。」
「わっ、分かってるよ。って言うか、最近は美咲が縋ってくるから…。」
「だって、アレは求めちゃうでしょ。」
「…恥ずかしいから、この話終わり!」
「相変わらず、外では苦手なんだね〜、ウブ狼ちゃん。」
美咲は外出中でも会話内容を気にしないので平気な様で私を揶揄う。私にとっては万が一だとしても赤の他人に聞かれたくない内容なのに。その後は話題を変えて美咲の家の様子や最近の出来事を聞いた。私の家と同じ様に、いや、私よりも厳重だった。敢えて言うならば、彼女の家の中では武断統治、外では厳格な縛りのある文治統治、と言うダブルスタンダードの家庭らしい。そんなに厳しい家で私は密かにお泊まり出来るのか不安になったが、言うまでもなくクリスマスに彼女と過ごせるメリットの方が大きいので美咲の家に行く。
玄関に入ると案の定、家の中は静かだった。いつも通り彼女の部屋に行き泊まり用のリュックをベッドの下に置く。
「じゃあ、お風呂入ろっか。」
「え?美咲、今回は伝えてないんじゃないから私が入っちゃバレちゃうんじゃない?だから、今日はタオルで体を拭くだけで良いよ。」
「いや、それは申し訳ないし…。それに両親は、もう寝てるだろうから。」
「なら、今回はそんなに美咲と長く居られないし、一緒にお風呂入ろうかな。」
「ヤッター。」
今いる部屋から風呂場に向かう途中には、彼女の両親の寝室もあるので、足音を忍ばせて通る。何度来ても毎回感じるが、やはり美咲の家は広い。もちろん、洗面所やお風呂場も。
「やっぱり、リンはスタイル良くて憧れるなぁ〜。」
「それを言うなら美咲でしょう。ほら〜。」
「あっ、リン。今日は、そんなに触らないの!」
「え〜、別に良いじゃん。本番はしないから。」
「そうじゃなくて、私がまた止まらなくなっちゃうでしょう。」
「確かに、スイッチの入った美咲は誰にも止められないね。あまりの色気に。」
「もう、そういう風になったのは誰のせいだと思って…。」
「つまり、私に染められたって事?大好きだよ、私だけの美咲。」
「…リン、なんか始めようとしてない?」
「してないよ〜。なんで、私の信用ないの〜?」
「だって、前科しかないでしょ。」
「ひど~い!」
美咲と何気ない内容の話をして、お風呂をあがると完全に閉めておいたはずの洗面所のドアが若干開いていた。隠し忘れていた自分の靴を玄関に取りに行き美咲の部屋に持ち込む。美咲に頼まれ、髪の長い彼女の髪をドライヤーで乾かす。乾かす為に手櫛で彼女のサラサラな髪に触れていると、髪まで私に委ねられていると思うと言い表せない喜びに似たものが込み上げてくる。乾かし終わると壁掛け時計は12時を回っていた。消灯し、美咲は眠たそうにベッドに入る。後から、私もベッドに入らせて貰う。
「そういえば、リンからのクリスマスプレゼントは?」
「あ~。ないね。だって、美咲は私に心配かける悪い子だし。」
「それ、私のせいじゃないじゃん!!まあ、プレセントは私も用意する時間なかったからいいや。そうだ!せっかくリンと寝るし、抱き枕みたいにして良い?」
「また〜?」
「まあ、いいじゃん。リンと連絡取れなくて寂しかったの~。」
翌朝、7時頃に起きリビングへ向かうとテーブルにメモが置いてあった。そこには、今回のみ美咲の友人の宿泊を許可するので塾は午後からでも良い代わりに、今後は二度と無断で行う事を禁止すると言う趣旨が書いてあった。
「美咲〜、コレ見て!お泊まりの事、バレてる!?」
「あ、本当だ。…この字は父親だ。まあ、バレたなら開き直って夕方から塾に行こうかな。」
「えっ。そんな事して、美咲は大丈夫なの?」
「だって仕方ないじゃん?今後、無断でお泊りすら出来ないんだから。それにどうせ怒られるなら遅い方が良いし、夕方だって午後だよ?」
「でも…、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって。どうせなら、近場に遊びに行かない?あんまり長時間じゃなくて悪いけど…。」
「私は美咲に合わせるよ。そもそも、美咲の事が心配で元気付けにお泊まりに来たんだから。」
「じゃあさ、梅田の周辺に行かない?」
「梅田?」
「確か、丁度、気になってたお店があるし、梅田なら展望台もあるよ?」
「その辺なら交通費も足りそうだし、いいよ。」
「じゃあ、二度寝してくる…、10時前くらいに起こして〜。おやすみ〜。」
美咲が自室に戻ってしまったので、しばらくリビングにいたが特にこの部屋に用もないので戻り、既に寝ていた彼女の隣に腰掛けて読書をする。本を読み終わると時刻は9:45だったので彼女を起こす。
その後、遅めの朝食を食べに美咲が気になっている宇芽田珈琲院へ向かった。その店で、フレンチトーストセットをブランチとして食べた後、スカイビルの展望台へ行った。そして私の提案で心斎橋まで電車に乗り、久しぶりにD Side label も行った。疲れたので、心斎橋駅近くのカフェに入りダージリン付きのケーキセットを注文した。
「リンは本当にあのお店気に入ってるよね〜。」
「そうだねー、もう疲れちゃった?」
「流石に歩き疲れた〜。でも、今日が終わると残り数回しか遊びに行けないね…。」
「別にいいんじゃない?最期の日も遊びに行けば。」
「いや、その日はリンとしたい事決まってるんだ。」
「フーン、何したいの?」
「当日に発表するよ。」
「それよりさ、このモンブラン美味しいから一口あげる!」
「じゃあ、私のもあげる。」
彼女と過ごす時間が永遠に終わらないで欲しいが、特に今日はそうもいかないので高槻駅で別れる。
「今日、楽しかったよ、ありがとう。また来週ね!」
「うん、じゃあね。」
ほんの少し、美咲が元気になった様だった。しかも、一週間後にもう一度お泊まりに行ける予定なので本当に楽しみだ。