IFストーリー:桜の下で貴女と
今回の作品はIFストーリーとなりますので、本編の進行とは異なります。(今作の設定時期を強いて言えば、2人が付き合い始めた翌年度にあたる高校2年生の4月初旬です。)
「リン、早く、早く〜」
美咲は満開の桜の木の下にはしゃぎながら駆け出していき、楽しそうにレジャーシートを敷いて場所取りをしている。場所取りと言っても桜の名所ではない近所の桜のある公園の広場なので、混んではいない。
「はい、はい。ちょっと待って。」
風が吹き、花びらがヒラヒラと舞い落ちる。その中で楽しそうに花びらを追っかけている姿は、ボールを追いかける犬ようであり、猫が猫じゃらしを追うようでもあり、微笑ましいほど可愛らしかった。
「桜、綺麗だよ〜。ほらっ、花びら!」
「良かったね。」
「あ!リンの髪にも着いてる!はいっ、これ!」
「急に抱きつかないでよ。びっくりする。」
「ま、でも、いいじゃん!リンは美咲が好きだし。あっ、でも、外では襲っちゃダメだからね。」
「ちょっ、な、何言ってるのよ。外では、そう言う事は言わないの!」
「リンって、外だと大人しいのに。夜は狼。じゃあ、もしかしてリンって狼男ならぬ、狼女?」
「やっぱ、もう、帰る。」
「ごめん、ごめん。もう言わないから〜。じゃっ、お弁当食べよっ!」
「ほら、これ。」
「も〜。機嫌、直してよ〜。桜綺麗だよ〜、まぁ、リンの方が綺麗な上に可愛いけど。それにリンの作ってくれたお弁当、超美味しいよ。」
「なにそれ。おだてても何も出ないよ。はい、これ、デザートのいちご。」
「わーい!本当にデザート出たぁ!せっかくだし、食べさせてよ。」
「私が?それに美咲、まだお弁当食べ終えて無いじゃない。」
「今は一個だけでいいから。アー…」
「し、仕方ないわね。ほら、アーン…。あっ、こら。私の指まで咥えない!」
「ふぁーひ。」
彼女は比較的食べるのが早いので、私が食べ終わるより前にデザートまで食べ終えて暇を持て余した。てっきり、食べ終えたら花びらでも追っかけに行くと思っていたが、ずっと留まっている。配慮させてしまっているのだろうか?
「どうしたの?さっきから、ずっと私の事見てるけど…。もし、美咲が暇だったら公園内を散歩してても大丈夫だよ。片付けもしておくから。」
「いや、そうじゃなくて…。リンに膝枕して欲しいなぁって。」
「まあ、いいよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。…大丈夫?重く無い?」
「頭だけだから全然大丈夫。でも、珍しいね。眠くなったの?」
「それもあるけど。…今日のリン、ショートショーツだから、太腿見えてるし。」
「………。」
「な、なんか言ってよ〜。まるで、私が変な事言ったみたいじゃん!って言うか、リンが言わせたんじゃん!」
「美咲って…意外と、いやらしい目で私の事を見てる?」
「いや、い、いつもじゃないもん!」
「えっ…じゃあ、やっぱり今日は…。」
「あっ…。えっと〜。」
「そんな風に私を見る美咲には、お仕置きしないとね。確か、美咲の両親って今日は帰って来るの遅いって話だし美咲の家に寄って、帰る前にも、お花見しないと。たくさん花びら型のような痕を付けてあげるから、綺麗に咲き乱れてね。」
「お、お手柔らかに。」
しばらくして弁当を食べ終えると、美咲は既に寝ていた。私は動けないので、寝ている美咲の髪を撫でながら桜を見上げる。。そんな調子でいつも通り過ごしていたら、あっという間に時間が過ぎていた。花見に来ただけなのに気づけば既に15時を過ぎていた。まばらにいた花見客も帰っていた。
「夕方になると急に寒くなる予報だし、帰ろうか。少し花びら取ってくるね。」
「リンも花びら欲しいなら、さっきキャッチしたやつあげるよ?でも、すぐに色褪せてくるし、ゴミになっちゃうよ?何に使うの?」
「あれ、もう忘れたの?まあ、使うのは、いい事に、かな。」
「いい事?なんだっけ?」
「後で、美咲にも分かるよ。」
美咲の家に寄り、少しオヤツを食べる。
「美咲の親って、何時に帰って来るんだっけ?」
「ん?確か、21時だけど?」
「もしかして美咲、まだ思い出してないの?ほら、お花見するよ。悪い子には、お仕置きで。」
「…あっ、そう言えば。え、でも、今すぐは流石に心の準備が…。」
「まあ、今すぐの方が文字通りにお仕置き出来そうだけど、それは可哀想だし、夕食後でもいいよ。」
「じゃ、じゃあ、何か作るね。」
「いや、なんか最近美咲に作らせてばかりだから、今日は私が作るよ。どうする?先にお風呂入る?でも、2回も入るのは面倒か。」
「とりあえず、お風呂入ってくるね。」
「簡単なもの作っとくけど、クオリティーは期待しちゃダメだよ?あと、冷蔵庫のもの使っちゃうよ〜。」
〈数十分後…〉
「みーさーきー。夕食出来たよ〜。」
「ありがとう〜。」
「今、テレビで何かやってないかなぁ。ゲッ、ニュースだ。」
「まあ、偶にはニュースでもいいんじゃない?」
「え〜。流石はお嬢様。」
「こらっ。それに、意外と6時台のニュースって、昼過ぎ程ではないけどローカルな内容だったりするから面白いかもよ。」
「ハーイ。」
『…先日、摂津市で通行人が刺され意識不明の重体となっている事件について、大阪府警は東淀川区東中島に住む30代の男性を…』
「…確かにローカルだけど、怖っ〜!美咲も襲われないように気を付けなよ〜。」
「おっ、襲われ?…ああ、通り魔ね。…リンの事かと…。」
「ん?私?私は大丈夫でしょ。こう見えて柔道やった事あるし。技を仕掛けて、押し倒したり出来るんだよ!」
「…確かに…。」
「あれ?美咲、大丈夫?」
「え?」
「私、もう食べ終わっちゃったよ?もしかして口に合わなかった?」
「いや、そんな事ないよ。」
「とりあえず、私、お風呂入ってくるね。あ、そうそう、自分の部屋には入らないでね〜。」
「はーい。」
入浴後にダイニングルームに向かうと、隣の部屋のキッチンで彼女は片づけをしていた。
「美咲〜。お待たせ〜。あ〜、ごめん。」
「別に良いよ。リンには作って貰ったし。で、丁度、このお皿で終わりなんだけど…。終わったら早速するの?」
「あっ。もう、したいの?確かに今日はお泊まりは出来ないものね。とりあえず、タオルで目隠しするね。」
「えっ?なんで?」
「まあまあ。」
「わっ。でも、まだベッドじゃ…」
「大丈夫、美咲の部屋すぐそこだから誘導するよ。」
ベッドまで慎重に誘導して、彼女を押し倒し目隠しを外す。勿論、普段の美咲の部屋であるのだが、ベッドの回りだけではあるが少し桜の飾り付けが施してある。
「わっ〜。リン、インテリアデザイナーになる素質あるんじゃない?」
「フフッ、そうかも。貴女がお風呂に入ってる間に飾り付けもしちゃったんだ。いつも、美咲に無理させてるかもしれないから少しでもリラックスして貰えたらって…。」
「リンのそういうところ好きだよ。一生、愛してる。」
「…美咲。私も。桜の中の美咲、すごい綺麗だよ。」
ゆっくりとお互いに愛を深める。その癒し合う間だけは時間が止まった様に微笑み合う。そんな甘い時間はあっという間に感じる。時間も近づいたので今日は帰る。
日常の中で様々な嫌な事は絶えないけれど、彼女とこの日々がが永遠に続く事を願いながら。