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第5話:嫉妬と心配

二泊三日の自然体験合宿の宿泊は基本的に一部屋当たり3人なので3人組を自由に組むのだが、部屋数の調整で一部屋だけ2人で一部屋になっていた。当然、私は廣田さんと組み、その部屋にした。大浴場での入浴も終わり、消灯時刻まで時間がある。


「それにしても、今日は疲れたね〜。いいなぁ〜、リンはハイキングコースを余裕で登れて。」


「別に美咲だって楽しそうに登ってたじゃん?それに、運動部でしょう?」


「リンは分かってないなー。部活なんて肩書きだけだもん。それに、楽しそうなのは表向き。アッ、URキターーッ!」


彼女は、さっきからベッドの上でうつ伏せになって枕を肘置きにしてゲームをしている。最近、始めたばかりでハマっているらしく、私と雑談をする時もゲームをしている。控えめに言って、私にはその事が少し気に食わない。と言うのも、会話中に疎外感を感じるだけでなく、彼女が遊んでいるのは恋愛シミュレーションゲームで、しかも、女子同士の設定にしてあるのだ。主人公であるプレイヤーが女子なら相手のキャラクターはイケメン系男子かと思いきや、そこも美少女も選べるという、どこまでも自由なゲームだ。


…私は美咲ほどではなくても、そこそこスタイルが良い方だと自負しているが、ゲームキャラには到底勝てそうにない。せっかく、2人部屋で彼女を独占できると思ったのに。まさか、スマホ画面内のイラストに彼女を横取りされるなんて。


「そうだ。美咲、疲れてるなら、ふくらはぎとかマッサージしてあげようか?」


「リンがやってくれるの〜?じゃあ、少しやって貰おうかなぁ。」


部屋着の長ズボンの上から押しているだけで彼女の脚の細さを実感する。


「大丈夫?美咲、痛くない?」


「痛いと言うか…、さっきから、すごいソワソワしちゃって…。」


「ソワソワ?良くわかんないけど、ついでに太腿もやっちゃうね〜。」


「えっ!いや、ちょっと、それはいいや…って。」


「ん〜?いいじゃ〜ん!ふくらはぎのリベンジ、リベンジ。一応、肩と脚のマッサージは自信あるんだ〜。」


「んっ、いや、あっ。」


「えっ。もしかして…。ソワソワって、そういう事!?ごめん、気が付かなくて…。」


「リ、リン、気づくの、遅い〜。あ、やめないでぇ…なんか…もう、スイッチ入っちゃってるみたい。」


「いや、でも、隣の部屋は普通にクラスメイトいるんだよ?」


「隣が賑やかだし、声は我慢するし、短めでいいから…、リンが足りない…。」


「ほら、手短に消灯時刻までに終わらせるから、我慢しなさいよ。」


彼女の弱そうな脇腹や背中を順になぞって下へ手を滑らせていく。


…いくら寝巻きが、風呂上がりと同じく薄めの長袖だからといっても、なんでここまで感じてるんだ?やっぱり、私だから反応してるのかなぁ。私だけの美咲、枕に顔埋めて我慢していて可愛い。やっぱり、止まらない。


「ひゃ、その辺、全部これまでやってない…」


「そりゃ、うつ伏せ状態でやった事無いもの…。じゃあ、慣れてる方やるなら仰向けになって。寝巻きのボタンは外しちゃうね。」


「はぁ…、…、んっ…。」


「美咲、なんで、こんな肌着付けてるのよ…。する気満々じゃない…。そう言えばこの前、たくさんお預けされたから、その分もやろうかな。」


「ッ〜〜。リン〜、ちょっ、ちょと…、さっきから…、ゆよ…いー、イッ。あっ。」


「抑えられてないじゃん…、少し息苦しくなるけど頑張ってね。」


腰の下に手を回し弄りながら美咲の口を覆うと、彼女の方から絡めてきた。まだ、余裕があるみたいなので、もっと攻めてみると私の肩まで両腕を回して、しがみつく様にして、より一層密閉性を高めようとしてきた。確かに、さっきから声が漏れかかってる。反応が良いのは口付けをしつつ、しているからだろうか。


結局、すごい盛り上がってしまったが、消灯時刻の15分過ぎに終わった。一泊目で盛り上がってしまったが、明日はキャンプ場でのテント泊で他のクラスメイトもいるので、速やかに就寝出来そうだ。


翌日。昼食後に渓流で自由時間があり、ほとんどの生徒が水遊びに興じていたが美咲は参加していなかった。


「美咲は遊ばないの?」


「いや、それがさ、ラッシュガードを持ってきてなくて...。」


「でも、もう見えないんじゃない?」


「いや、実は、また増えちゃったんだよね。」


「えっ?昨日は気付かなかっ…、そういえば昨日は美咲ずっと長袖だったなぁ。あれ?でも、大浴場にいたよね?その時はどうしたの?」


「みんな、露天風呂行ってたから室内の方で入ってた。それに、みんなが着替え終わってから入って、すぐ出たから。シャワーも端の方の台を使ってたから。」


「あっ、確かに、露天で見てないかも。」


「だから、アームカバーが濡れても困るから…。」


「じゃあ、ちょっと待ってて。」


「?」

〈5分後…〉

「お待たせ~。はい、これ。借りてきたよ、釣竿と餌。」


「釣り?」


「これなら、できるでしょう?」


「持ってきてたの?」


「違う、違う。河野先生がさっき釣りしたい人を集めてたでしょ?そこで2セット借りてきたの。」


「そういえば…そうだったね。でも私、虫ムリ~。」


「そういうと思って代用餌セットを借りてきたから安心して。例えば…、このスイートコーンとかなら大丈夫でしょ?」


結局、1匹も釣れなかったが、美咲と雑談をできただけで十分だった。ただ、なんで傷を増やしちゃったのか理由は聞けなかった。こちらからは、どこか聞きにくいところがある。


今夜は天体観察があり、ようやく宿泊テントに戻って来れた。6人用テントは一見、広いように見えたが実際に寝てみると狭い。しかも、他のグループのテントの1つが壊れ、そこのグループの一人が、うちのグループに来たので、寝るのがやっとで身動きすらほとんど取れない広さしかない。もちろん、美咲とは隣同士で並んで寝ているが、狭い!

慣れない狭さで中々寝付けずにいると、戻ってくるなり速攻で寝てしまった美咲が目を覚ましてしまったようだ。


「美咲、ごめん。起こした?」


「ん~?リンだぁ。」


「ちょっ!」


「…。」


寝ぼけている美咲が、私を抱き枕のようにして再び寝てしまった。


…美咲~。起きてよ~。こんなに密着してたら、美咲の匂いがして寝れないじゃん。しかも、左腕が間に挟まれてて少し痛い。


左腕を動かそうとした時に気づいたが、動かすときに当たる場所が丁度、彼女を起こしてしまいそうな箇所なので慎重にやらないといけない。しかし、そんな事に注意すればするほど、私の中で欲求が急速に膨張していく。とは言え、昨日とは違って、すぐ隣にクラスメイトがいるので、周りにも迷惑が掛かる。いや、それ以前に寝ている彼女を起こしてよい訳がない。今日ばかりは理性で必死に押さえ込むしかなっかった。


そんな状態で見た夢は、寝る前の予想に反して嫌なものだった。


夢の中の私は多分、中学の頃の記憶が混ざっているのだろうが、通知表の結果が好成績で、喜んで父親に見せたのだが、さぞ当たり前のように無表情で眺めた後に突き返し、成績がより高い特待生クラスに編入させて貰えるように頑張るように言われただけだった。


…ああ、そうか。あれが普通なのか。そうしたら、今の私の成績は...。そういえば、中学入学前は特待生クラスに入ると約束して今の私立中高一貫に入学させてもらったんだっけ。中途半端にしか勉強できない自分と向き合うのも、もう嫌だなぁ。両親も失望しているだろうが、自分に対して自分が一番失望している。両親ともにあの優秀な大学だし、妹も私が入った今の中高一貫よりも偏差値の高い中学に入り、最近は蔑みの目で私をみるだけだった。まあ、小学生の頃は塾の勉強を復習していなかったりして手が飛んでくる事もよくあった。やりたい事をやって美咲と心中できる彼女の提案は、私にとっては渡りに船だった。ただ、彼女の事を知らずに死にたくないなぁ。少しは教えてくれたが、果たして本当に彼女を追いこんでいるのは暴力と孤立だけだろうか?確かに、自分も小学生の頃に勉強関連で何度か死んでみたいと思ったが、実際に行動は起こせなかった。他にもあるんじゃないか。彼女の全てを知りたい。どうしたら教えてくれるかなぁ…。


帰りのバスでも雑談をしたが、どこか上の空だった。このままだと、何か嫌な予感がする。


「美咲~!大丈夫~?聞いてるの~?今日、私の家に泊まっていきなよ。」


「ん~。…、ん?いやいや、流石に今日は家に帰るよ。」


「ダメ。私は我儘だから、泊まってくれなきゃダメ。それに今日の美咲、暗い顔してるもん。」


「そ、そんな事ないよ。」


彼女は笑顔を見せるが、いつもよりも暗い。彼女には、水族館の時のような笑顔でいて欲しい。


「そんな風に笑顔作っても、目が笑ってないよ?私がまた熱を出したって事で私から説明しておくから。ね?両親は出張だし妹は学校行事で東京に泊まって、今日は誰もいないから私の家、泊まってってよ。」


「う…、うん。」


今夜、彼女から理由が聞けるといいが、まずは彼女が少しでもリラックスさせなければ。何をしてあげようか、悩みながらバスに揺られて学校に到着し、美咲と一緒に自宅へ帰った。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。話を更新するに連れて最新話の閲覧数が投稿しているほとんどのサイトで減少していますが、駄作でも最後まで書いていきますので、今後とも美咲とリンをよろしくお願いします!

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