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【3話】約束とミス

聞き飽きた蝉の鳴き声が耳障りになる夏休みの最終週、彼女の提案で京都水族館に行く事になった。この日の為に買っておいた洋服を着て駅の改札口前で彼女を待つ。LINEの着信があり、確認の為にスマホを覗き込んだその時、背後から「捕まえた!」と白いワンピースを着た彼女が、はしゃいで抱きついてきた。


「リン〜、お待たせ〜。あっ、その洋服かわいい〜。って、あと少しでバス発車しちゃう!逃したら次のバス17分も待たないといけないから急ごっ!」


彼女はそう言って、私の手を引いて楽しそうに駆け出した。


…彼女のこういう楽しそうな笑顔、やっぱり、かわいいな。この可愛い笑顔を見せてくれるのが私にだけだったらいいのにな。


そんな事を思いつつ、バスへ急いだ。


「フー。思ったよりすぐ、着いたね〜。」


「じゃあ、行こうか。」


「フフッ、なんか楽しみだね〜。」


入場すると目の前には大きな水槽があり、そこから青い光が漏れていた。興味津々で大水槽を見ている彼女は水槽から漏れる瑠璃色の光を浴び、静寂に包まれた水族館でよく映えた。もちろん、今日も私と会うためにアームカバーを外している。もはや、ワンピースなので隠していない状態だが以前よりも傷痕は治癒しており、その事を知らない人なら美咲をジロジロ見ない限り気づかないだろう。当然、そんな奴がいれば隣りにいる私が睨み返して傷の発見などさせないが。

水族館のお土産コーナーで商品を見て回ってると、


「ねえねえ、リン、久しぶりに京都で降りたから、京都四条河原も行かない?」


とりあえずYohoo乗換検索で所要時間を調べてみた。


「えっと…、バスで1本みたいだから別に良いけど…。四条河原ってなんかあったっけ?」


「私の母方の実家があって、昔はよく行ったんだ、四条河原に。特に、錦天満宮には小さい頃からよく連れられて参拝に行ったんだ。だから、久しぶりに行こうと思って…。どうかな?」


「じゃあ、えっと…、次のバスが17分後だから少し急いで残りの商品を見よっか。」


途中、美咲が気になっているものがあったようだったので、こっそりプレゼントとして買っておいた。

買い物は順調に進み、予定通り四条河原に行く事が出来たが、錦天満宮に行くと彼女の目的は達成出来てしまったようで、早くも暇に目的地がなくなってしまったが、せっかくなので彼女の思い出話を聞きながら2人で散歩をしていた。


「ところでリンは、さっきの錦天満宮で何お願いしたの?」


「ん?私?もちろん、美咲とやりたい事を全部出来ますようにって。あなたは?」


「私はね〜、今後もリンと楽しく過ごせますように。それと…。うーん、もう一つは、また今度、事後に教えてあげる。」


「何それ。まあ、楽しみにしておく。あっ!話は変わるけど、あれってD-Side-Labelじゃない?ちょっと寄って行って良い?」


「大丈夫だよ。行ってみよっか。もしかして、リンのスマホの背面に貼ってあるステッカーもこの店の?」


「そうだよ。あっ、あった!店舗限定ステッカー。美咲もお揃いで買ってみる?」


「もちろん!」


「せっかくだし、どの柄にするかは任せるよ。」


「うーん。どれにしよう…。これとか、綺麗で可愛いし、これにしようかな〜。ん?なんか、イラストの雰囲気がリンのスマホのやつに似てる?」


「ああ、それ、私がスマホに貼ってるのと同じクリエイターのステッカーだね。」


「じゃあ、絶対、これにする〜!」


ステッカーを購入後、四条河原駅から帰る事になった。帰路にて彼女の希望で富士井プリンの期間限定プリンを食べる事になった。


「これ、美味しいね〜。」


「ね。酒粕使用の甘酒味なんてあんまり見ないし、店頭のポップに書いてあったけど、少量のアルコール分が入ってるなんて本物感凄いよね。専門店なだけあるね〜。」


「えっ…。ほんと?じゃあ、今すぐに帰らないと。」


「えっ、なっ、何で?」


その理由は、京都河原駅から阪急に乗り、高槻市駅に着く頃には分かった。彼女は、やたらとテンションが高く、いつもよりもわがままを言うのだ。


…美咲、アルコール分に弱すぎでしょ。


「だからさ〜、リン〜、私の家に来てよ〜。」


「とりあえず、もうそろそろ着くから降りるよ。」


「ヤダー、リンが来てくれないなら降りない〜。」


「そういう訳には行かないでしょう。急に美咲の家にお邪魔する訳にも行かないし…。」


「えー。」


「それに、もし、あなたのお父さんに会っちゃったら、どう説明するのよ。ね、だから、また今度ね。」


「うっ、うん…。絶対に、約束だよ…。」


「そんな泣きそうな顔、しないでよ〜。約束するから。ね?じゃあ、また学校で会おうね。」


…美咲を脅すような言い回しはしたくなかったが、やはり父親の存在は彼女の意思決定の中で強い影響力を持つようだ。今回は行かない代わりに今度、家にお邪魔する時は彼女を最大限楽しませよう。


学校の休み時間に彼女と話している時にハロウィンの話題になり、11/1は学校が他学年の行事の影響により休みの上に、10/31は偶然彼女の両親が家にいないという事で2人きりのハロウィンパーティーをする事になった。松が丘にある彼女の家に着くなり驚いたのは、鍵はオートロックの綺麗な戸建ての洋風建築だった。夕食は、美咲が作ってくれたものを食べた。メニューは、鶏胸肉とほうれん草のサラダ・アーモンド入りのバナナスムージー・しめじと豆腐炒め・栗の炊き込みご飯など、女子力の高さが伺えるクオリティーだった。風呂上がりに、私は事前に準備した仮装で彼女の部屋のドアを開ける。私の前に風呂に入った美咲が部屋の準備をして仮装した状態でいるはずだったのだが、何故かまだパジャマのままでいる。


「これは…。もう入っていいの?」


「うん」


「あっ、そうなの?…じゃあ、とりあえず。トリックオアトリート!お菓子を…ウッ。抱き付くの早すぎ…」


抱きつかれたまま押されて、移動を促される。美咲に誘導されるがまま、歩くと美咲がベットに腰掛けたので、その流れで隣に座る。


「リン〜!この衣装似合ってるよ〜。」


「あ、ありがとう。そうじゃなくて、美咲の仮装は??まあ、いいや。えっと…、お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」


「やっぱり、私の彼女は何着てもカワイイ!」


「会話不成立だよ〜!もー、ちゃんとやらないならイタズラしちゃうぞ〜。」


「キャー、リンに襲われる〜。」


「んー。なんか…今日の美咲、テンション高すぎない?ひょっとして、アルコール含むお菓子とか食べた?」


「し、知らないもん。フルーティーチョコなんて食べてないもん。」


「あ、本当に空き箱あるじゃん。やっぱりこのチョコ、原材料に洋酒含んでるし、しかも6粒の全部食べてあるじゃん。あなたはアルコールに耐性無いのに…、どれだけお腹空いてたのよ?」


「だって〜、リンにあげる物が美味しくなかったら恋人失格にされそうだし、私が味見しておこうと思ったら食べ終わっちゃっ……、いや、やっぱり食べてないもん。」


「いやいやいや。そこまで言って今更否定しても無駄だから。それに、そんな事で私が貴女を捨てるわけ無いでしょうが。」


「本当?絶対?代わりに、あっちの勉強机の上にある紅茶用ジンジャークッキー食べていいよ〜。ん?、そう言えばリンだけお菓子貰おうとしてズル〜い。トリッカートリート!」


「ちゃんと持ってきてるけど、今じゃない方がいいでしょ。若干、呂律も回ってないみたいだし…。」


「ヤダー!今がイイー。」


「そう?うーん…なら、はい。これ、どうぞ。」


「あっ!手作り〜?ワーイ。いただきまーす♪」


「えっ…?もう食べるの?その…、どう?味は大丈夫?」


「コレ、紅茶味なんだ〜。美味しい〜。上手なんだね〜。」


「ところで、本当にテーブルの上にある紅茶と茶菓子食べていいの?チョコ、食べちゃったんじゃないの?」


「いいよ〜。だって、そこのテーブルの上のクッキー作ってあったけど、あまり上手に出来なかったからチョコに変えただけだもん。」


「そっか。なら、食べようかな。」


「あっ、いい事思いついた!やっぱりそのクッキーは、ダメ。」


そう言って、美咲は後ろ向きに仰向けで寝転んだ。


「えっ!じゃあ、何なら食べていいの?」


「わたs…」


「綿?えっと、なんて?」


「何回も言わせないでよ…。恥ずかしいんだから…。わ・た・し!」


「いや、ちょっと待って待って、そう言うのは新婚カップルがネタでやるやつでしょ…。しかも、漫画の中の…。」


「だ〜か〜ら〜、私はリンと花火大会の時以上の事がしたいの!」


「えっと〜、美咲、一旦落ち着こう!ね?」


そう言って、ベットから立ち上がると逃げるようにベットから離れた。と言うのも、美咲がいつも可愛いのは当然なのだが、今日は普段見ることのないパジャマ姿なので更に可愛く見えて隙だらけの彼女を見ていると、どこか変な気を起こしそうで抑えているのに、彼女から誘われたら歯止めが効かなくなってしまいそうで仕方ないのだ。これ以上、何か迫られると困るので早く就寝しよう。


「きょ、今日は早く寝ようかな〜。だ、だから、歯磨きしてくるね〜。」


「リン〜。待って〜。私も〜!」


…なんで、ついて来るんだ!しかし、追い返そうとすれば理由を聞かれるだろうし、その時に何て答えたらいいんだ…。間違っても本心だけは言えない。今、美咲は“したい”って言ってくるけど、それはきっとアルコール分の影響であって、出来ればその勢いを利用する事はしたくない。でも、本心としては“美咲としたい“。しかも、今なら応じてくれる…、いやいやダメだ。もし、今やってしまったら後で幻滅されてしまう。


歯を磨いている間も彼女を直視出来ないので鏡の反射越しに彼女を見ていると、彼女は唐突に彼女自身のパジャマの裾をめくってお腹をチラチラと見せてくるので、口に溜まりかけた泡を吹き出しそうになった。早めに磨き終え、一緒に美咲のベットで寝る事だけは事前に決まっていた、それ以前に他に寝る場所もないのでリンのベットに潜り端に寄って横になる。美咲も後からやってきて同じベットに入り、彼女と肩が触れ合う。彼女を見ると、気持ちを押さえ切れる自信はないので、背を向けた。


「リン〜、もう寝た〜?」


「…」


「明日、何時に起きる〜?」


「…」


「明日の朝食は何がいい〜?」


「そんな事言ってないで、寝よう。」


「あっ、起きてた〜!ねぇ〜、無視しないでよ〜。もしかして、本当は私としたいんでしょ!」


…あの鈍感な彼女に図星を当てられるとは。そんなに分かりやすいのか、私?本心で言えば、進んで積極的に獣と化してしまうが、そんな邪な女だと幻滅されたらこの関係が壊れてしまう。それこそ、学校での居場所まで消えてしまう。


しばらく無視していると背後から抱きついてきた。そして、彼女は右手を私のお腹まで回すと片手で器用にパジャマのボタンを2個外し、その隙間から手を入れ、下へ徐々にじわじわと手を滑らせていった。彼女の手が私の腰に差し掛かる頃には先程までの理性による我慢の限界は既に超えていた。私は寝返ってリンと向かい合わせた。私がどんな表情をしていたのか、自分でも分からないが、美咲は少しびっくりして様子を見せた。


「わっ…、ごめんね。もう、イタズラやめるから…、ひゃっ!」


「…もう、遅い。全部、美咲が悪い。」


…もう後の事など知らない。こんなに挑発してくる彼女には配慮しなくても大丈夫だろう。大体、他人⦅ひと⦆の体で遊ぼうとしてきて…あなたは大人しく喰われてればいいのよ!


「リン、ご、ごめ…っん。」


彼女を仰向けにすると、最初に息が切れるまでキスをする。そして少し彼女の表情が蕩けた事を確認したら、敢えて美咲がやった手順を模倣して、彼女のパジャマのボタンを全て外すと、彼女の美咲よりも焦らす手つきで肩から徐々に下へと彼女を侵食すると同時に全身にキスをする。美咲が私のものである証拠の痕が残る様に。


「ッ〜〜、ンアッ。リ…、リン…はずかしい。」


私達しかいないのだから我慢する必要は無いと思うのだが、恥ずかしいのか彼女は必死に耐えようとして身震いしている。まあ、全く抑えきれていないが。以前、祭りに行く際の満員電車で偶然知った彼女の弱点である耳元で彼女への愛を優しく囁き掛ける。そのまま続けようと片手を腰の下までスライドさせていった、その時。


「……リン、もうヤメテ!」


その言葉が冷たく頭の中で響き、一気に血の気が引いて冷静になっていく。目の前には、美咲がまだ息を荒くしながら少し身震いしながら横たわっている。


「えっ…。…ご、ごめん。本当にごめん。他の部屋で寝るね。ごめんなさい。」


…どうしよう。ああ、やってしまった。もう、終わりだ、この関係も、学校での居場所も。全て自分のミスだ。


外されたボタンを直して、部屋を出る。彼女は何も言わなかった。広い廊下を歩き、リビングへ行き、ソファで横になった。とても寝付けそうにないが、まだ深夜なので帰ろうにも家族は寝ているので帰れない。ただひたすらに、時計の秒針の音だけが響く部屋で、時間が過ぎるを待つ。

ほんの2・3時間眠れたが朝7時には横になっているのも疲れたので深夜に暇過ぎて書いた謝罪のメモを残して家を出た。休日に遊びに行ったにしてはまだ朝早く、家に帰るのも気まずいので、駅前のムーンバックスに入り、ぼんやりと一番安いSサイズのコーヒーを飲みながら過ごし、駅からバスに乗り昼頃に帰宅した。店で飲んだコーヒーは、これまで飲んだどのコーヒーよりも苦かった。

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