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2話:喧噪の中での前進

1学期の終業日、HRも終わり解散したところで、いつも通り廣田さんは私に話しかけてきた。


「リン〜、来週の天神祭に花火を見に行こう!」

「ああ。予定も入ってないし、良いよ。かなり混むって噂だし、高槻駅で集合して一緒に行こうか。」

「了解〜。せっかくだし浴衣を着て行かない?リンと浴衣を着たいなー。」

「浴衣かぁ…。持ってないけど、レンタルするのはちょっとなぁ…」

「大丈夫!私の家に確か私ともう使ってないお姉ちゃん分で合計2着あるから。ね?行こう!」

「う、うん。それなら、行っても良いよ。」

「じゃあ、詳細は後でLINEで送るね。」

その後、集合場所や綿密なタイムスケジュールが送られてきた。


7月25日。予定通り浴衣を着付け終わり、予想以上に混雑した電車を2人で乗り継ぎ、天満橋駅に到着した。


「やっと着いたね〜。それにしても到着時間を遅めにしなくて良かったね〜。」

「確かに、この時間でもこの混み具合だからもっと混んでそうだね。」

「早めに大川の河原で場所取っちゃおう!」


無事に観覧の場所取りが出来たのだが、駅から直行してきたので手元に食べ物を持っていなかった。私は、廣田さんに頼まれて屋台へ甘味として、いちご飴を買いに行った。戻ってくると廣田さんは同年代の知人らしき女子と話しているようだった。


…やはり、私と来るのは退屈だったのだろうか。だから誘っていたのだろうか。しかし、今回誘ってくれたのは向こうだし、私だけのはず。


そんな事を考えながら彼女を少し遠目に見つつ立ち止まっている間に、気付けば知人が彼女を誘うような仕草をしている。胸の騒ぎが増す。


…廣田さんを取られるのは嫌だ、何としてでも引き留めないと!焦った私は気づいたら廣田さんと知人の間のスペースに強引に割って入り、座っている廣田さんに飴の付いた竹串を差し出していた。


「はい、コレ。」

「あ、リン、ありがとう〜。って訳で、さっきから言ってるけど本当に友達がいるから大丈夫だよ、凛花。」

「あ、あら、お連れさんがいたのね。そうだ、連れの方が良ければ私達の場所に来て、美咲も一緒に見ない?」

「あの…、結構です!」


予想外の知人の提案により焦りが増した私は廣田さんが返事をする前に、間髪入れずに提案を遮ってしまった。私とは対照的に知人は冷静だった。そして、悲しむ様な演技をしながら


「残念〜、お連れさんに断られちゃった…。じゃあ、また今度ね〜。」

「廣田さん、なんか…ごめんね。」

「別に中学生の頃のクラスメイトだから、全然大丈夫だよ。」

「それとさ、私も貴方のことを『美咲』って呼んでもいい?私もその呼び方で…、っん!?」


私が話している途中で急にリンが私に抱きついて、キスをした。


「なっ、なっ、なに?」

「妬いてるリン、可愛い過ぎる!…あっ。えっと〜。本当にごめん、この通り。」

「あっ、いや、そんな、流れるように土下座しないでよ…。で、でも、急にどうしたの?」

「ごめん、リンが可愛すぎて、つい…。」

「よく分からないけど、ほら、とりあえず、顔上げてよ。で、どうしたの?」

「うーんと、えっと、あのね。完全にリンとは関係ない話なんだけど、私って小さい頃から何故か周りの子に尊敬されがちで、友達はいたけど『廣田さんは、周りと違うすごい人』って言う位置付けにされちゃって、本当の友達って感じがしなかったの。凛花も仲良くしているけど、結局はそっち側で。でもリンだけは、いつも『すごい人』じゃなくて『私』と話してくれて、嬉しかった。それに、こうして一緒に遊んでくれるから嬉しくて。しかもそのリンが嫉妬してくれたから喜びが爆発しちゃって…。ごめんね。その…もし良かったら、これからは美咲って呼んで!」

「み、美咲…、あの…、本当に急なんだけど…、私と本気で付き合って!私の恋人になってください!お、お願いします!も、もちろん、急だし、女子同士だし、もし今、無理だったら返事は今じゃなくてもいいから…。って、何で泣いてるの?やっぱり、嫌だった?…よね…。」

「いや…、そうじゃ…なくて…。嬉しくて…。こちらこそ、お願いします。」


そう言って、彼女は泣きながら私に抱き。そっと、そのサラサラな髪をした頭を撫でる。


「嬉しい…。あれ、おかしいな…、私まで泣けてきちゃった。あ、花火、始まったみたい。」


…気付いた時には、私は彼女が好きになっていた。そして、遂に恋人同士になれた。お互いに嬉しさのあまり、しばらくの間は見つめ合っていたので、気が付けば花火はフィナーレの段階に入っていた。花火も終わったので、今度は2人で一緒に少し屋台を巡る事にした。


「花火、綺麗だったね〜。あー、えーっと、その…、アレは急にごめんね?」

「別に、それは…嫌ではなかった…です///。それに、美咲って大胆なところあるから、そこまで驚かなかった…。」

「そっか。なら良かった〜。」

「切り替え早っ!あっ、今日は腕を覆ってないんだね。」

「今日は、リンとだけだから、大丈夫かなって。それに、せっかくリンと浴衣着てるのに、記念写真にアームカバーが映るのは嫌だからね〜。」

「見てもいい?」

「えぇ〜。リン、怖い〜。…まあ、リンならいいよ。」


真っ白な細い腕に、無数の引っ掻いた様な線の傷跡があった。


「あ〜。はいはいはい。なるほど…。うーん、予想と違った…。これね。でも、最近はやってなさそうだね。良かった。」

「えっ、たったこれだけで、そんなところまでリンは分かったの!?と言うか、そもそも分かったんだ!」

「ほら。」


そう言って、私は浴衣の袖をまくり上げて、リンに腕を見せた。美咲ほどではないが、数本も似た様な形状の古い傷跡が残っている。それを見たリンはとても驚き、

「わっ、リンも?えっ、もしかして、私が無理なお願いする事があったから…?」

「いやいや、なんで、そうなるのよ。美咲は関係ないよ。中3の頃のものだから。美咲の理由は知らないけど、私は成績が悪化してた頃に学校だけでなく親との関係まで学習状況関連で悪くなっちゃったから。でも、しばらくしたら、この跡が増えた事で気付かれて、いじられるのが心配だったし、周囲の人を気にするのがアホらしくなったから、意図的にやめたの。まあ、最初は無意識で自然発生的だったものだけどね。」

「私も似た様なものだよ〜。だけど、リンにアームカバーについて勘繰られた後、リンと会う時は付けず取った状態で一緒に写真とか撮りたいなぁ〜って思って、それからは出来るだけ控えてる。まだ、取るには早かったかな。」

「私だけの美咲の秘密、また、増えちゃった。」

「フフッ、なにそれ。リンも私だけを見ててね。あっ、晩御飯食べてなかったし、焼きそばとか買う?」

「確かに、それもありかもね。あ〜、でも、こういう屋台のものって味付け濃いけど、美咲は大丈夫?私は、得意じゃないから私がよく行く高槻の蕎麦屋に食べに行かない?」

「そうだね〜。じゃあ、そうしよう!」


そして、いつもの蕎麦屋で私はいつも通り鴨せいろを、彼女は天ぷら蕎麦を食べ、そのお店で解散した。

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