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須賀幸平は凡人である〜case2.もしも凡人が異世界召喚されたら〜  作者: 井上むくすけ
case1.もしも凡人がラブコメ主人公になったら〜
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「今、ラブコメ主人公って言いました?」

 聞き間違いかな? ここまでの話の流れでラブコメ主人公なんて単語が出てくる要素は微塵も無かった。聞き間違いに違いない。

「はいラブコメ主人公です」

 聞き間違いじゃなかったんだが?

「ラブコメ主人公って……あの?」

「あのラブコメ主人公が何を指すのかは存じませんが、世間一般で言うところのラブコメ主人公です」

 こうも淡々と返答されると、自分がおかしなこと言ってるような気分になる。

「世界の崩壊がどうのって話はどこにいったんですか⁉」

「勿論大いに関係があります。須賀幸平さんにはラブコメ主人公となって、大樹と世界を繋ぐパスになって頂きたいのです」

「ぱ、パス……? 経路ってことですか?」

「その通り、大樹の枝と世界を繋ぎ、エネルギーを共有する経路となるのは、その世界で生活する生命体です。しかし全ての生命体がパスになりえる訳ではありません。その世界に生きる選ばれた者だけが、その自覚もなくエネルギー供給の経路となっているのです。そしてその経路となる生命体はその世界において大きな影響力を持つ者である割合が非常に大きいのです。偉人や英雄と呼ばれるような人のことでしょうか。我々は彼等のことを《主人公》と仮称しています。実際、物語の主役のような人生を送る者が多いですからね」

「それがラブコメ主人公と何の繋がりが?」

「ラブコメ主人公とはいえ立派な主人公です。当然パスになり得ますし、実際主人公と呼ばれる方を系統で分けると五割はラブコメ主人公と言えるでしょう。それにラブコメという舞台装置は安上がりなんですよ。この計画も予算が潤沢な訳ではありませんから。今回の実験は、人工的に後天性主人公を作り出し、パスへと成長させることが可能なのかの調査が目的です」

「愛は世界を救うってやつだねぇ」

「誰かさんが予算を使い込まなければもう少し余裕はあったんですが」

「サテナンノコトダカ」

 南雲さんが脂汗を噴き出しているが、そんなことよりも俺はある事実に震えていた。

 そんな……ってことは俺が知らないだけで世の中にはラブコメみたいな青春を送ってる輩が実際にいるってコト……? 羨まし……非実在青少年は実在したのかよ……!

 なんかショックだ……。ラブコメ主人公とか現実に存在しちゃいけない生き物だろ……。イマジナリー俺が包丁を握りしめている姿が鮮明に浮かぶ。

「と、いう訳で須賀幸平さんには、そこの神楽生芽をヒロインとしてラブコメ主人公をやって頂きたい訳なのです」

「…………はい?」

 神楽さんが俺のヒロインだって……?


 ※※※


 視線の先の少女も、その大きな瞳で俺を見つめ返していた。あまりに美人過ぎてすぐに目を逸らしてしまう。

「き、君が、ヒロイン……?」

「そうよ、私は貴方のヒロイン。須賀幸平のヒロインよ」

 少女自身がなんの疑問もない様子でそう口にするのだからそうなのだろう。

「いや……なんていうか……いやぁ……そうかもしれないとは思ったけど……」

「何か問題が? 彼女は貴方の好みの容姿をしている筈ですが?」

「そりゃ問題でしょ! 駄目ですよこんなの!」

 思ったよりも大きな声が出てしまう。

「何が……ダメなのかしら……?」

 隣の少女が気のせいか震えた声で問う。

 この声音で俺は確信した。神楽さんはこの『箱庭』とかいう秘密結社に無理やり俺のヒロインという役割を押し付けられているのだ。違いない。

「何がダメってそりゃ全部だよ。全部ダメだね。認められないよ」

 誰が好き好んで俺のような凡人のヒロインになりたがるというのか。自分で言っていて悲しくなってくるが俺は異性から見て魅力的な男ではない! もう間違いない。俺が女でも俺と付き合いたくなんてないものな! …………何だろう……目が潤んできた……ガチで危機感持った方が良いかもれないとすら思う。

 隣の少女もさぞ俺の人権意識の高さに感動していることだろう。

 ヒロイックな気分のまま横の少女へ顔を向けると


「……どうっ、して……? 何がっ、ダメ、だったの…………?」 


 大粒の涙を流し、悲壮感を纏わせた表情で体を震わせていた。

 な、なんで泣いてるんだろう……。え、俺……? 俺の所為ですか……? どう見ても俺の人権意識の高さに感動したとかそういう感じではない。

「うわぁ泣かしちゃったよ……」

「酷いこと言いますねぇ……」

「あれで主人公なんて出来るのかね」

「人選ミスかもしれないですね」

 言われたい放題だった。

「え、えっ、えぇ……っ、俺、何かした……?」

 女の子が泣いてる時ってどうすれば良いの? 全く分からない。だって近くに女の子がいた経験なんてないもの!

「ううん……幸平は……悪く、っ、無いから……私がっ、悪いから……。私ッ、直すから……っ、駄目な所、直すから……お願いだから……っ、駄目なんて言わないでっ……」

 な、ナニコレ……凄い嫌なんだけど! なんか拗れた別れ話みたいになってるんですけど⁉

「幸平君も残酷なこと言うねぇ」

「俺何か変なこと言いました⁉」

 全く心当たりがないんだけど⁉

「言ったじゃないか『全部ダメだって』。彼女にとっては存在否定と同じことだよ」

「存在否定って……そんな大げさな…………」

「大げさじゃないさ。だって彼女は君に否定されたら、廃棄されてしまうかもしれないんだから」

「廃棄って……そんな人をモノみたいに」

 あまりに冷たい物言い非難の目を向けるが、秘密結社の代表は秘密結社の代表らしく不敵に述べる。


「生芽君は人間じゃないからね。この実験の為に、幸平君の好みの外見を模して創り出した人造人間。いわば君専用のヒロインなんだよ」


 神楽さんが人間じゃない……⁉

「言ってる意味がわからないんですけど……?」

「言葉の通りだよ。彼女は君の――須賀幸平のヒロインとなるべく我々が創り出した人造人間だ。と言っても人とほとんど変わりはしない。自律した思考を持ち、感情だってある。遺伝子構造的には99.99999999999999%君達の世界の人類と同じさ。生殖行為だって問題なく出来る」

 倫理的のどうのなんて非難は的外れなのだろう。そういう次元の話ではないのだ。

「だからね、幸平君がこの計画に協力しないというのなら。神楽君はお役御免で廃棄処分な訳だよ。さっき水木君が言った通り予算もないし、彼女の体のメンテナンスには相応の予算が掛かるしね」

 だから彼女は涙を……? ヒロインと名乗った自分に対して『全部ダメ』と言われたと思って……。

「じゃ、もう一度聞こうか。須賀幸平君、我々の計画に協力してくれるかな? 別に何をしろというつもりは無いんだ。君は普段通りに生活をしてくれれば良い。ちょっとした仕掛けをこちらですることはあるけどね」

 俺がここで断ったら、神楽さんはどうなる……? 本当に廃棄されるのか……? 俺の所為で……。

 選択肢なんてありはしなかった。きっと俺が断れないことも最初から織り込み済みだったのだろう。

「や、やるよ……やれば良いんだろ……!」

「……!」

 これは善意からの言動じゃない。ただ責任を負いたくない故の、妥協でしかないのだ。

「じゃあよろしくぅ。さっきも言ったけど君は普通に生活してくれれば良い。青春を謳歌してくれれば良いんだ。悪くない取引だと思うんだけどね。幸平君は物事を深く考えすぎなのさ。もっと気楽に考えてくれ。今日から君は誰もが羨むラブコメ主人公なんだからさ」

 こうして俺、須賀幸平はラブコメ主人公になったらしい。

 実感はない。何故なら俺は凡人なのだから。



間幕


 須賀幸平さんと神楽生芽さんを、送り出してすぐのこと。

「良かったですね。引き受けてくれて」

 私、水木ほとりは、ズレた眼鏡の位置を正しながら代表に話しかけた。

「いやほんとにね。断られたときは心臓止まるかと思ったよ。普通断るかい⁉」

「怪しさ満点ですからね」

「我々クリーンな組織なのに悲しいねぇ」

「いえ怪しいのは代表の風貌ですが」

「怪しくないよ⁉」

「…………あのまま断られていたら神楽生芽を本当に廃棄処分にする気だったんですか?」

 聞かなくても答えは分かる。でも一応確認です。

「……勿論だとも」

 嘘だ。代表は神楽生芽を大事にしている。あまり当人には伝わっていなそうですが。まぁ日頃の言動があれですし、彼女は代表のことを怖がっている節がある。実際、代表は彼女の廃棄権限を持っていますからね。自身の生殺与奪権を持った男の人なんて恐怖の対象でしかないでしょう。

「本当ですか?」

「本当だとも」

 代表は尤もらしく首を縦に振っているが、ここで働いている職員なら誰でも知っている。神楽生芽が試験管の中にいた頃から、代表は足しげくラボにいたことを。実際のところ代表が彼女にどんな感情を抱いているのかは推し量れないけれど、父親が娘に向けるような感情が近いのかもしれない。

「須賀幸平さんは主人公になれますかね?」

「なって貰わなければ困るよ。世界の為にね」

 少し言葉が足りていない気もしたけれど、指摘するのも野暮ですし。


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