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HRが終わるや否や、翔に連れてこられたのは校舎裏。
バシッと頬を引っ叩かれ、その場にへたり込む。
「すまんな転校生。俺はお前を殴らなあかん、殴っとかな気が済まへんのや」
「落ち着け違う! 転校生、俺じゃない!」
ついでに言えばエヴ〇パイロットでもない。
「妹がお前を殴れと熱く囁いている」
「お前に妹なんて居ないだろうが!」
「は? 居るが? 12人の血の繋がらない妹が家で待っているが?」
こいつに妹がいないことは実証……以下同文。
「で、どういう事なんだよ! あの転校生は……生芽たそは一体何者なんだ!?」
生芽たそ……?
「そんなこと俺聞かれても、俺も何が何だか……」
「やられたよ……まさかコウがこの世界の主人公だったとはな……」
「誰が主人公だよ」
「なぁ俺はモブか? 俺はコウの青春を彩るモブなのか? 教えてくれ!」
「聞けや」
一切俺の言葉に耳を傾ける気はないらしく翔は呪詛のように言葉を吐き続ける。
「俺はどこで間違ってしまったんだ……」
「そのアニメTシャツじゃないか?」
間違いなくこいつの真っ当な青春を阻害してる要因の一つだろう。それでもこいつはそこそこモテているのがムカつく所だ。イケメンが憎い。
「俺に残りの高校生活を、コウにヒロインの好感度を伝える為に過ごせって言うのかよ!」
「親友キャラに対するイメージが古典的だな。というか別に誰も頼んじゃいないんだが……、そもそも俺を主人公として話を進めるのを止めろ」
「主人公はモブの心が分からない……」
「お前は円卓の騎士か何かなの?」
「頼む教えてくれ! どうすれば俺も主人公になれるんだ!? な、なぁ頼むよ……お、俺達友達だろ……? か、金か……? いくら払えば良い!? いくらでも出す! なぁ頼むよぉ、へへっ」
主人公になりたい奴の言動じゃないんだよなぁ。
「この状況を一番教えて欲しいのは俺だっての……」
「本当に身に覚えがないのか?」
「嘘ついてるように見えるか?」
「じゃあノウハウもない?」
「あるわけないだろ」
「……チッ、役に立たないな。仕方がないプランBで行くか……」
嫌な予感しかしない。
「ちなみにプランBって?」
「作戦『親友キャラで行こうっ!』だ」
「はぁ?」
「よくよく考えてみると主人公の親友キャラって結構美味しいポジションだと思うんだよ。責任とか苦労も少なそうだし、しかも主人公パーティだから二次元的青春イベントも起こりそうだし、親友キャラとして人気が出れば俺を主人公としたスピンオフで、俺専用ヒロインが追加されるかもしれないしな。なんなら終盤でコウに選ばれなかったヒロインをお零れにあずかれるかもしれない」
発想が最低だよこいつ。
バチコーンッ☆とさまになるウインクをかましてくる翔。
どうやら俺は親友キャラを手に入れたらしい。
……あれ? 俺が主人公ってことで話が進んでない?
※※※
放課後。
吹奏楽部の弦楽器や、運動部の掛け声、教室や階段での談笑、学校という空間で産み落とされたあらゆる音によって奏でられる青春の音色。
そんなノスタルジックな演奏曲をBGMに、俺、須賀幸平は教室の掃除に勤しんでいた。
「くそっ、くそっ、あの陽キャども! なーにが『生芽ちゃんの歓迎会やるから。掃除替わって! お願いっ!』だ! あんなんもう脅迫だろ!? しかも俺が断ると微塵も思っていないのが透けて見えるのがまたムカつく!」
乱雑にモップで埃を集めながら悪態をつく。
「文句言う割には快く承諾してたじゃんか」
「当たり前だろ!? これで断ったら絶対に陰口言われるし、今後の学校生活に支障をきたすわ!」
翔は手伝いもせず、ロッカーの上に陣取りスマホを弄っている。
「コウって面倒な生き方してるよなぁ」
「これはこれで処世術なんだよ」
「ふーん、ま、コウが良ければ良いんじゃないか? なんてーの? その自ら貧乏くじを引いていくスタイル」
「…………好きに言え」
いつからだろう。こんな性分になってしまったのは……物心がついたときにはもうそうだった気もするし、そういう性根ということかもしれない。事なかれ主義とでも言うのか波風を立たさず生きていけるならそれが一番だと思ってるし、俺が多少我慢することで物事が丸く収まるなら、貧乏くじの一つや二つ引いたって良い。最悪の結末になるよりかはずっとマシ。勿論それでも我慢の限度は自分の中で引いてるつもりだ。
「…………」
苛立ちを誤魔化すようにモップを持つ手に力を込めた。
※※※
「よし、これで終わりだな」
最後の机を運び一息つく。
「ふぅ……くたびれたくたびれた。後でジュースな」
「お前は最後にちょっと机運んだだけだろ?」
ふと窓へと目を向ければ、空が少しばかり橙色に染まり始めていた。
「ところで生芽ちゃんだけどさぁ」
「あ? だから俺は何も知らないって何度言えば分かんだよ」
転校生の神楽生芽。目下悩みの種である。
俺も野次馬に色々と聞かれたもののガチで知らないものだから、彼等の期待するような回答が出来ず、白けた空気になるだけだった。
HR以降、彼女はずっと陽キャグループに囲まれていたため何も話していない。悪びれも無く当然のように、『その席、どいてくれない?』って言ってきたサッカー部の陽キャは絶対に許さない。
「いやそういうんじゃなくて」
「じゃあなんだ?」
「俺の予想だと、コウが帰ったら生芽ちゃんが着替えてるところに遭遇して一悶着すると予想してるんだけどどう思う?」
「そっから居住権をかけた決闘でもすんのか?」
「学園異能バトルラブコメだったら定石だろ」
「お前はこの世界を学園異能バトルラブコメだと思ってるのか……?」
「違うのか?」
違うだろ。
「なら許嫁として生芽ちゃんがコウの家に転がりこんでくるとか?」
「…………無いな。無い無い無い。ラノベや漫画じゃないんだって」
「それ今のコウが言うと嫌味にしか聞こえないな」
「…………」
ともかくここは現実なのだ。現実。そして俺は凡人も凡人。科学と魔術が交差すると物語が始まるのかもしれないが、凡人と現実が交差しても物語は始まらないのである。