case2.異世界ってのは僕等の夢なんじゃないですかね_1-7
1-7
宰相の放った一言。
「コウヘイ殿、そなた我が国の勇者になりませぬか?」
「……今、なんと……?」
聞き間違いだろうか。
「ですからコウヘイ殿に勇者となって欲しいのです」
最近、同じようなやり取りをした気がする。
勿論、俺の答えは決まっている。勇者? 無理無理、俺にそんな使命のある大役が務まる訳がない。こちとら凡人も凡人、ノーマルガチャ排出キャラの中でも低スペックな自覚はある。やりたくもないし、出来る訳もない。
「申し訳ないですが、お断り――――」
「もし勇者にならないということでしたら、聖域への不法侵入、国家の象徴たる剣への侮辱行為により、残念ですが処刑というこt」
「やりまァス! 自分、勇者出来まァス! やらせて下さい!」
ここ最近で一番良い声を出した。何しろ命が懸かっているのだ。ここでやると言わなければ死ぬ。あの宰相、おちゃらけているようで目がマジだった。あれは間違いなくやると言ったらやる男の目だ。やらないと言えば、即座に処刑され王城前の広場あたりで吊るされるだろう。
「おぉ! そうですか、そうですか! それは助かります。我が国には今、希望の象徴となる存在が必要なのです!」
「ま、ままままままま待ってください、バルジ様、一体何を言ってるのか分かっているのですか……?」
声を震わした女騎士が、宰相へ苦言を呈する。
「何か問題があるかい? 彼はこの数十年、誰にも抜くことの出来なかった勇者の剣を抜いたんだ。充分資格はあると思うけどね」
「それは……! しかしっ……この国の勇者は存命です! 英雄カシウスはまだ存命だというのに新たな勇者などと……」
「リン……気持ちは分かるが、カシウス殿はもう歳だ。いかに勇者と言えど老いには勝てぬ。それに最近のカシウス殿は会話もままならないとか……」
「そんなことは……」
そこであることに気付く。女騎士と宰相の後ろ、王の玉座に小柄な老人が腰かけている。
「のぉのぉ……ワシの朝ごはんはまだかのう……」
老人の言葉に女騎士が、老人へと顔を向ける
「カシウス殿!?」
「お爺様!?」
カシウス? カシウスって……まさかこの爺さんがあの大英雄カシウスなのか⁉
「朝ごはん、まだかのう……。昨日から何も食べていないんじゃが……」
「お爺様、朝食は私と一緒に先程取ったでしょう?」
「そうじゃったかのう?」
「そんなことよりカシウス殿! そこ王座です! 王様の席なんで流石にカシウス様でも不味いですよ!」
「ワシ、王様だったかのう?」
「取り敢えずそこ降りて下さい!」
「なんじゃいなんじゃい老人をもっといたわらんか。全く……ほいっと」
英雄カシウスもとい爺さんはひょいっと椅子を蹴るとひらりと宙を舞い俺の目の前に降り立った。ヨボヨボの姿からは連想できない身軽さだ。
「お主……良い剣を持っとるのぉ……」
「うぇ!? あっと……どうも……」
「ほほう……、なるほど……何やらお主も大変そうだ……」
「えと……それは一体……?」
剣を見た老人の瞳に強い光が戻る。なんだ、急に雰囲気が……? 老人には不釣り合いな生命力が漲っているというか、それに話し方もしゃんとしたような……。
「バルジよ。彼を頼むよ。きっと国の助けになる」
「カシウス殿、正気に戻られたので!?」
「うん! 俺はカシウス! 村の祠に祀られてる剣を抜いて、俺が魔王を倒すんだ! 今日も修行に行ってくるよ!」
しゃんとしたのもつかの間、爺さんは幼い子供のような言動で、広間を飛び出していってしまった。
「はぁ、正気に戻ったのは一瞬だけか……。しかしこれでコウヘイ殿はカシウス殿公認の勇者ですな。リンも文句あるまい」
「た、確かに一瞬、正気に戻ったようでしたが……」
女騎士はそれでも納得がいかないという顔をしている。この女騎士、カシウスのことをお爺様って呼んでたな……もしや? 孫? 勇者の孫なのか……? ともすれば俺のような部外者が勇者の剣を抜いて勇者に選ばれるなんてのは面白くは無いだろう。やけに嫌われているのにも合点がいく。
「ではコウヘイ殿は明日からリンのところの騎士団で面倒を見ている新兵教育隊で教育を受けて下され。見た所、戦闘経験は無さそうですし、いきなり戦場に出るというのも酷でしょう」
「わ、私の騎士団でこやつの面倒を見ろと……⁉」
「リンも彼を近くに置いて本当に勇者に相応しくないのか見極めれば良いだろう」
「む……確かにそれなら…………そうか痛めつけて勇者を辞めるように仕向ければ……ごにょごにょ……。分かりました引き受けましょう!」
「聞こえてるんですけど⁉」
「まぁまぁ勇者殿、そう言えば自己紹介をまだしていませんでしたね。私は親衛騎士団長、リンドウ=ユークリッド。明日からは勇者殿の上官になります。騎士団では上官の命令は絶対、上下関係はたとえ勇者であれど絶対です。訓練は厳しく不慮の事故や怪我があるかもしれませんが、この私がしっかりと監督し、立派な英雄として鍛えますので安心して下さい。えぇえぇ、くれぐれも不慮の事故や怪我にはお気を付けください」
「不慮の事故を故意に起こそうとしてないですかね⁉ ねぇ!?」
「我が国の大切な勇者様にそんなことするわけありませんよぉ。あははっ、明日から楽しくなりそうです」
「訓練課程が終了次第、国民にお披露目の場を設けましょう。既に何者かが勇者の剣を抜いたという噂は市井にも広まってますからなぁ。盛大に発表したいですな。その辺りはこちらにお任せを」
「はははっ……よ、よろしくお願いしますぅ…………」
と、いう訳で俺、須賀幸平は勇者として任命されたのであった。とほほ…………。




