case2.異世界ってのは僕等の夢なんじゃないですかね_1-6
1-6
「お坊ちゃま――お坊ちゃま起きて下さい。朝ですよ」
身体を揺さぶられ目が覚める。
掠れた目を擦りながら状態を起こすと、目の前にはミニスカメイドの見目麗しい少女が水の張った桶を差し出していた。
「さ、これで顔を拭いて下さい。――――はい、ではこちらで顔を拭いてくださいな」
「お、おう、さんきゅ……」
「こちら朝食です。簡単なものしか用意できませんでしたが……、それと紅茶の準備もございます」
「…………」
「お坊ちゃま、どうされました?」
「なんか滅茶苦茶手際よくない?」
起床してから一歩も動くことなく朝食まで出てきてしまった。
「そんなこと無いと思いますけど? あ、食べる前に美味しくなるおまじないしますね? おいしくな~れ♡ 美味しくな~れ♡ 萌え萌えきゅ~ん♡」
手慣れた手つきで手でハートを作り、秋葉原辺りでお馴染みのおまじないを猫撫で声で披露する。首の角度まで完璧にだった。
「何で急にメイド喫茶風?」
「お坊ちゃま好きですよね。こういうの」
「い、いやっ? 別に? メイド喫茶とか数えるくらいしか行ってないですが?」
滅茶苦茶キョドってしまった。
「でも引き出しにメイドさんとのチェキ隠してるわよね?」
「何故それを⁉」
「それに上着に入れっぱなしになっていたポイントカード、随分と来店ポイントが溜まっていたようだけど?」
「何でキャバクラ行った旦那を詰める感じになってるのさ⁉」
「別に行っては駄目なんて言ってないじゃない。ほらご主人様も一緒におまじないをかけましょう?」
「な、何で俺まで……」
「そう言うものなんでしょ?」
「そうだけども」
これで生芽の気が済むのならと覚悟を決める。
「「おいしくなぁーれ♡ 美味しくなぁーれ♡ 萌え萌えきゅ~ん♡」」
「朝から一体何をしているのだ……?」
おまじないの最中に部屋へ現れた女騎士が訝し気な顔をしていた。
とっても恥ずかしい所を見られた気がする……。
「これは故郷に伝わる伝統的な食膳の儀式です」
ギリ嘘ではないけども……。良くもまぁ顔色一つ変えず言えるものだ。
「珍妙な伝統もあるものだな。まぁいい。その食事が済み次第、宰相様と謁見して貰うぞ。申し訳ないがイブキ……だったか? 君は此処で待っていてくれたまえ」
「かしこまりました。どうか寛大な処置を」
生芽が恭しく頭を下げる。
……え、この朝食が最後の晩餐になったりしないですよね……?
※※※
用意された衣服に着替え、女騎士に案内されるまま王宮に足を踏み入れた。
通されたのは大きな広間。体育館がすっぽりと収まりそうな大きさで幾本もの柱で支えられた天井は高く、まるで王族の権威を示しているかのような場所だ。実際、謁見の間と言っていたし、権威を知らしめる意図もあるのだろう。
「止まれ」
女騎士の言う通り、その場に立ち止まる。
目の前の一段高くなった壇上には大きな椅子が一つ。王座というのは見れば分かる。しかしその席は空席で誰の姿も無い。
「待たせてしまったかな? 申し訳ない」
壇上の奥の扉から一人の男が現れた。がっしりとした体躯、髪を後ろ手に纏め、その顔にはクマにでも引き裂かれたかのような4本の生傷。宰相というよりかは歴戦の戦士といった風体の男だった。
「宰相様、件の男をお連れしました」
女騎士が無駄のない洗練された動作で膝をつく。
「ほう……君が噂の……」
噂というのが良いものであると助かるが……。
「全裸で国の象徴を汚すことに悦び覚える倒錯者か」
最悪の内容だった。
「異議あり!」
「馬鹿者! 宰相殿の御前だぞ! 跪かんか!」
「へぶッ⁉」
スパーンと頭を叩かれ、そのまま無理やり跪かされる。
こ、この女! 俺のことをなんて報告したんだ⁉ まさか本当に今の言葉のままに伝えた訳じゃないだろうな!
「これリン、良さないか。私は別に王族ではない。跪く必要などないよ。あくまで私は病に伏せる王の代行にすぎん。すまないな、この子は昔から融通が利かないんだ」
「ば、バルジ様ッ! このような場でリンと呼ぶのはおやめください! 部下に示しが付きません!」
「うぅ……昔はワシの後ろをおじちゃんおじちゃんと呼んで付いてまわっていたというのに……ワシは寂しいよ……」
「む、昔話は結構です! 彼の処遇が決まったと聞いたのですが……!」
「おぉそうだったな。コウヘイ殿でしたかな? 私の名はバルジ、現在は形ばかりとはいえこの国の宰相を任されております」
「は、はいッ! あ、あの、あののっ、俺、本当にあそこが聖域とか知らなくて、全裸で勇者の剣に触れたのも決して国を馬鹿にしようとか、勿論、倒錯的な欲望を満たす為でも無く手ですね……!」
宰相様は俺の懸命な弁明に耳を傾ける。
「ふむ、コウヘイ殿が嘘を付いているようには見えませんな」
よしっ、中々の好感触だ。これなら処刑は免れるかもしれない。
「騙されてはいけません! その男は自らの立場を利用し、従者に卑猥な格好を強いるような外道なのですよ!」
「だからそれは誤解だよぅ⁉」
生芽が勝手に着てるだけなのに⁉
「ほほう、それは是非とも私も一度拝見したいものですな。それでその従者はどちらに?」
「バ ル ジ 様 !」
「コホン、冗談はさておきだ。ではコウヘイ殿、貴殿に沙汰を言い渡そう」
女騎士に睨まれた宰相殿は肩を竦めて真面目な顔を取り繕い俺を直視する。
「コウヘイ殿、そなた我が国の勇者になりませぬか?」
あれ、なんだかこんな展開、最近体験したような……?




