case2.異世界ってのは僕等の夢なんじゃないですかね_1-5
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「ふむ……なるほど……通行証は本物のようだな」
女騎士が羊皮紙を確認し、俺を一瞥する。
この世界では各国が発行する通行証が身分証代わりになっているらしい。
どうやら俺は極東島国貴族の次男坊、家督争いに負け、使用人一人と僅かばかりの路銀を渡され家を出奔し旅をしている最中……という設定らしい。相乗りの馬車でこの国へ向かう最中に野盗に襲われはぐれてしまった――というのが生芽の語ったことの顛末だ。
「まさかこの変態が小国とはいえ貴族とは……」
女騎士は胡乱な視線を俺に向ける。
「いえ、家を出された時点で貴族の身分は喪失しております。これまでは道中で仕入れた特産品を他の町で売り路銀を稼ぎながら細々と旅をしてきました」
「一つ聞いても良いだろうか。何故、君はこの男の世話を? 屋敷に残っていた方が不自由ない生活が出来ただろうに」
「それは……お坊ちゃまには恩がありますので。それに私自身、世界というものを見て見たかったんです」
「そうか、君は立派だな。もう一つ聞くが……その服装、従者にしては露出が多すぎないだろうか?」
「これはお坊ちゃまの趣味です」
「貴様、こんなにも献身的な従者にそんな理由でこんな服を着せているのか下衆め……!」
「えぇ⁉」
とんだ言いがかりである。それに俺はどちらかと言えばクラシックなロングスカートのメイド服の方が好みだ。ターンした時にフワッと広がるスカートに古き良き萌えが宿ると信じている。
「やはり貴様のような変態は此処で切り捨てて………………おい変態、貴様――剣はどうした? 見当たらないようだが?」
「剣……? あぁ、それならトイレの壁に立てかけてあるけど――」
ザンッ、と前髪を何かが掠りハラリハラリと俺の一部だった髪が舞い落ちる。
「国家の象徴たる剣を厠に……?」
「あばばばっ⁉ だ、だってあの剣こえーんだもん⁉ ちょっとでも離れたらすぐに隣に現れて不気味なんだよ!」
まるで捨てても捨てても帰ってくる呪いの人形だ。この部屋だと丁度ベットとトイレくらいの距離ならドアを隔てても移動してこないので、トイレに安置していたのだ。……踏ん張る時に握るのに丁度良かったとは言わない方が良いだろう。
「……まったく、貴様は、全く……その剣を何だと……! 何故貴様なんかが……!」
女騎士は俺を睨みつけながら怒りを抑え込むようにブツブツと呟く。どうもこの女騎士、この剣に特別な想い入れがあるとみえる。
「……チッ、本当に、本当に本当に本当に本当に本当に本当に貴様なんぞにこれを渡したくは無いのだが……仕方あるまい……」
女騎士は自らの腰に下げていた剣の鞘を俺に差し出した。言葉の通り本当に嫌そうな、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「これは……?」
「鞘だ。鞘も知らんのか?」
「それは見ればわかるけど……」
「これは英雄カシウスが使用していたものだ。つまりは貴様の抜いた剣の鞘だ。今日やっと宝物庫から持ち出す許可が出たのだ。勇者の剣には勇者の剣に相応しい鞘が必要だろう」
鞘に手を触れた瞬間、鞘に件の勇者の剣が現れる。これが本当の元鞘に戻るってやつだな。
「いいか! その剣は国家その物だと思って肌身離さず丁重に扱え! またトイレに立てかけでもしたら今度こそ叩斬ってくれるからな!」
「わ、わかったよ」
いちいち大きな声を出さないで欲しい。ビクッとしちゃうじゃないか。
「それと明日は朝、王宮に来てもらうぞ。宰相様と謁見して貰う。貴様の処遇が決まったらしい」
「処遇って……流石に処刑とかは無いっすよね……?」
「知らん。私としては一向にかまわないがな」
「大丈夫ですよ。お坊ちゃま、死ぬときは私も一緒です」
「何も大丈夫じゃないよぅ!」
※※※
女騎士が他に任務があるとかで立ち去り。
生芽と部屋で二人きりになる。
「はぁ~何で俺、あんなに嫌われてるんだ?」
「それはお坊ちゃまが勇者の剣を抜いたからでは?」
「お坊ちゃまは勘弁してくれよ……。てかさっきの設定は何なのさ」
「あれは水木達が考えた設定よ。地位を失った貴族の次男坊と、献身的なメイドの二人旅……とってもロマンチックじゃないかしら?」
「……ところで生芽はどうやってここに? 確か世界の移動は出来なくなってるって話じゃなかったか?」
「厳密には幸平と鹿山君だけ移動が却下されている状態らしいわ。だから私はここに来れたって訳ね」
「そう言えば翔は無事って聞いてるけど。何処にいるんだ?」
「さぁ……? ごめんなさい私も慌てて来たものだから……でも水木が無事と言ってるなら心配はいらないんじゃないかしら」
「そうだな。あいつのことだから心配はいらないか」
悔しいがアイツは有能だしな。俺と違って異世界でだって生き抜けるだろう。
「幸平」
生芽が俺を後ろから抱きしめる。
「な、ななななんだよ急に」
「心配したのよ。本当に……急にいなくなって…………。本当に……心配したんだから。名目上とは言えヒロインを置いていくなんて主人公失格なんだから……」
「生芽…………ん、あれ? 生芽さん? 何だか腕の力が強いような……?」
「すっごく心配してたというのに、さっそく異世界で新しいサブヒロインを見つけたようで良かったじゃない……?」
「サブヒロインって誰!? あの女騎士か? いやいやいや確かに美人だけど、明らかに俺嫌われてるじゃん!」
「馬鹿ね。ラブコメ的には出会いが最悪なほど反転した時のプラスは大きくなるものなのよ」
「ラブコメ的にはそうかもだけどさ⁉ ちょ、締まってる締まってる! 首が締まってるよぅ!」
正直な所、俺は安堵していた。この世界で見知った顔に再会できて、とりとめのないやり取りをしているということが、こんなにも嬉しいこととは思わなかった。




