case2.異世界ってのは僕等の夢なんじゃないですかね_1-4
1-4
拘留後、地下牢にでもぶち込まれるのかと思いきや待遇は意外と悪くなかった。
本来、王族と選ばれた騎士以外の立ち入りが禁止されている聖域への侵入。全裸で王国の象徴である剣に触れた国家侮辱罪でダブル死罪級の罪らしいのだが、流石に勇者の剣を抜いた者を処刑するのは……という声が上がり現在は王宮の隅に建てられた離れの一室に軟禁されている。
軟禁され2日、俺の処遇は未だに決まらないらしい。幸いこの世界は上下水の整備が進んでいるらしく、トイレも水洗式だし、蛇口を捻れば水もでる。不満と言えば食事が味気ないくらいか。食事は一日二食、パサパサのパンに、塩味のスープ、干し肉と変わり映えのしないメニューが続いている。
「うーん、悪くない……悪くないなこの生活……」
多少退屈だが、何もしないことに体が慣れてくるとどうということも無い。
ニートは何もしないことに耐える才能が必要と聞くが恐らく俺にはその才能があるのだろう。……天職見つけたかもしれんなぁ。
とはいえ筋トレをしてみたり、窓から外を眺めるだけというのも流石に飽きてきた。次の暇つぶしを何か考えないとな……。
「んむ?」
視界の端の本棚に目を止める。
そう言えば言葉は通じるようになったけど文字はどうなんだ?
一冊の本を手に取り表紙を見ると
「おお! 凄い! 読める、読めるぞこれ! 知らない文字なのに読める! 不思議だなぁ」
その本のタイトルは「勇者カシウスの冒険」どこかで聞いた名前だ……。そうだ確かこの国にいる勇者の名前じゃなかったか? 本棚を見ると同じシリーズと思われる本が本棚のを埋めている。
本になって、しかもこれだけのシリーズになっているのだから勇者カシウスというのはよほど信奉されているのだろう。
俺はそんな勇者の英雄譚に興味を惹かれ「勇者カシウスの冒険」を読み始めた。
※※※
「あっつぅ……熱すぎるだろ魔都武術トーナメント編……! これからどうなっちゃうんだよ……」
俺は気付くと勇者カシウスの英雄譚を読み耽っていた。
強く、優しく、正しい心と信念を持ち、どんな絶望的な状況でも希望を見出し、勝利と平和をもたらす真の勇者。この偉業を成し遂げた男が実際にいるということに感動すら覚える。
「ふぅ、つい夢中になってしまったな……。魔龍討伐編は明日読むことにしよう」
気が付くとだいぶ陽が傾き始めていた。
ガンゴンガン――
と、乱暴なノックが響く。
時間的に夕飯だろうか。内側から扉を開けることが出来ない為、扉に意識を向ける。いつもの給仕さんはこんなに乱暴なノックはしないんだけどな。
鍵を解除する音と共に扉が開く。
「変態、貴様に面会だ」
棘のあるというか敵意むき出しの声音と言葉。
その声の主は、深い色合いの銀髪をポニーテールに括り、灰簾石のように碧い瞳の美女……いや年齢的には美少女だろうか。大人っぽい顔立ちではあるがまだ幼さが残っている。とにかくとんでもなく美人ということは間違いなかった。
細身の白いパンツに装飾のあしらわれた紺のジャケットを纏った姿は甲冑こそ纏ってないものの王宮の騎士というのがしっくりくる。
わぉ女騎士だ。生の女騎士だよ。生の女騎士が見れただけでも異世界に来た価値はあったかもしれんね。
「服を……着ている、だと……?」
女騎士は俺の姿を見て愕然とした表情を浮かべた。
「そりゃ着てるでしょうよ。変態じゃあるまいし」
「貴様は全裸で聖域に侵入し、国家の象徴たる剣を汚すことに悦びを覚える変態ではないか⁉」
「そ、そこまで倒錯してないですが!?」
性癖歪んでる自覚はあるが、俺はそれを外側に発散しようとは思わない。節度ある紳士なのだ。
「あ、その剣まさか……」
女騎士が腰に下げている剣に見覚えがある。もしかしてこの女騎士、あの時に切りかかってきた隊長か? 甲冑を着込んでたし、声もくぐもってたから男かと思ってたぜ。
「あの場で貴様を斬れなかったことを今でも後悔している。何故貴様の様な者が――――っと、今回は貴様を斬りに来たわけではない。斬りたいのは山々なのだが……貴様に面会だ」
「面会って……」
一体誰だ? 当然ながら、俺はこの世界に知り合いなんて居ない筈だが……。
「入ってきても構わないぞ。済まないな、待たせてしまって」
「いえとんでもございません。この度は主人が、とんだご迷惑を……面会のお許しを頂けて感謝の言葉もありません」
扉から現れたのは白いエプロンに漆黒のミニスカ、フリルがあしらわれたメイドさんだった。
「い、生芽……⁉」
「はい、お坊ちゃま専属メイドの生芽でございます」
品よくスカートの裾を摘み一礼してみせる。ミニスカでそんなことをするものだから、ストッキングで包まれた鼠径部が大胆に露わになる。さらに下の布地が見えそうで見えない絶妙なラインだ。
「やはりただの変態か」
女騎士が俺を蔑んだ目で見ている。
やれやれ……誤解は深まるばかりだ。




