case1.エピローグ
騒動から一週間。
あれから生芽と会うことはおろか、連絡も取れていない。
生芽を助け出して地上に戻ると、『箱庭』の職員達が黒服達や研究所の職員の記憶を消すためにペン型のライト(MIB的ライト)を光らせていたり、白井が『箱庭』から盗み出したデータや、研究データの回収や削除など慌ただしかった。
南雲さんによれば、司さんも来ていたとのことだったがいつの間にか姿を消していたらしい。「残ったのは僕のパパ活疑惑だけだよ……とほほ」と悲しそうな顔をしながらぼやいていた。司さんにも、もう一度会って話したいんだけどな。無理かな、だいぶ愛想尽かされてたみたいだし……。
生芽はというと感極まった職員に囲まれ、困ったような嬉しいような顔をしながら医療ルームへと搬送されていった。身体に異常がないかを検査するらしい。
また連絡をすると言われ既に一週間、まるで全てが夢か幻かだったような気さえしてくる。
両親からは急に日本に戻るように辞令が出たとのことで、明日には日本に帰ってくると連絡があった。家から生芽の私物は消えていたし、学校に行っても生芽の席は無く、誰も生芽のことを覚えていない。翔に至っては生芽転校してからの数日の記憶を全て失っているようだった。他のクラスメイトよりも生芽と関わりがあった為だろうか。そんなことから実験は中止になったのだと思うことにした。
でも何故俺の記憶は消されて無いんだ? お目溢し? それともこれから消されるのか?
「もしかして、このままもう生芽と会えないのかもな……」
生芽が存在することを証明するのは、ブライダル会社から送られてきた俺と生芽と司さんとでとったブライダルフェアの写真のみ。写真の俺は相変わらず冴えない顔をしている。
「そろそろ学校行くか……」
制服に着替えて家を出る。
いつも通りの代り映えのない平凡な日常。
俺のいるべき世界はこっち側なのだ。
俺は凡人、須賀幸平。主人公は無理でも、ちょっとはマシな凡人くらいにならなれるはずだ。そう思わしてくれたのも生芽のおかげだ。
そんな風に自身に言い聞かせながら十字路に差し掛かった時だった。
「どいて、どいて、どいてぇぇええええええええええええええっ!!!!!!??????」
昨今聞かない古典的ラブコメちっくな台詞と共に、右側面からの衝撃を受け転倒する。
「ぐぅううう……っ! あ、すっごい痛い……意識を失わない限界値の痛みがッ……!?」
くそっ……! 何処のどいつだ! ラブコメ冒頭で主人公にぶつかる転校生ヒロインばりに飛び出してきたのは……!
「いった~い! ちょっと何処見て歩いてるのよ! 危ないじゃない!」
その犯人はトーストを片手にまるでラブコメヒロインのような台詞を言い放つ。
物凄い既視感。
ていうかこの声ってまさか──
「か、神楽、生芽……?」
「久しぶりね、幸平」
「な、なん……なんでぇ……?」
困惑のあまり間の抜けた声が出てしまう。
「相変わらず主人公らしくないのね。ここは『お前こそどこ見てんだ!』って怒鳴り返す所よ」
「いや、いやいやいやいや!? んなことより、何でここに……!?」
「何でって学校に行くからに決まってるじゃない」
「はぇ? 実験は中止になったんじゃないのか?」
「えぇ一度は凍結されたのだけど。一転再開されることになったのよね」
「そりゃまた何で……?」
「幸平の所為よ」
「俺ぇ?」
「幸平が私を助けに来てくれたでしょ? あの時、貴方、世界樹とパスが繋がっていたらしいのよね。あと幸平が私を助け出す映像を編集して上層部に送ったら好評だったらしいわ。それで実験が再開することになったの」
映像? そういえば超小型ドローン飛ばすとか言ってたけど……! …………ちょっと待て……? 俺、結構恥ずかしい台詞とか言ってませんでした……?
「い、生芽もその映像見た……?」
「……えぇ、まぁ」
生芽がちょっと頬を染めて目を逸らす。
「恥ずかしぃ!?」
手で顔を覆い身悶える。
「こ、幸平も私の報告書呼んだんだからお相子でしょ!?」
「何故それを!?」
「ばっちり映像に残ってたわ……」
「と、というか実験が再開ってどういうことだよ!? それで生芽がまたヒロインっておかしくないか!?」
「…………そ、それはヒロインになればまた幸平に会えるからって……」
生芽がもにょもにょと呟くが聞き取れない。(本当に聞き取れなかった)
「だ、だって好きに生きろだなんていきなり言われも何をすれば良いか分からないもの……! だから本当にやりたいことが見つかるまで、取り敢えず幸平のヒロインをやってあげても良いかなって」
「は、はいぃ……!? ちょっと待って状況が呑み込めないんだけど!?」
「あの……そ、それとね…………あの……ごめんなさい……!」
生芽が深々と頭を下げる。肩も声も微かに震えていた。
「本当に今までごめんなさい……! 私、凄く身勝手だった。幸平の気持ちも考えないで、勝手に主人公だって期待して……助けに来てくれた幸平に酷いことを言ってしまって……」
「生芽……」
「それで……もしも、もしもね、幸平が許してくれるなら今度はちゃんと幸平と向き合いたいって思ったの。ヒロインとか主人公とかそんなの関係ない。ただの神楽生芽として、須賀幸平のことを知りたい。須賀幸平にも、神楽生芽を知って欲しい」
顔を上げた生芽の瞳は不安と決意が半々で揺れていた。
「俺は……いや俺も、生芽と同じこと考えてた。お互い失敗しちゃったけどさ、もう一度チャンスがあるなら今度はちゃんと生芽を知って……その……と、友達に、友達から……? えっとその……あぁ気恥ずかしいな……だからあの……俺からも、よろしく頼むよ」
「……! これからよろしくね、幸平!」
お互いに差し伸べ合った手を握り返す。
何となく良い雰囲気で見つめ合っていると
「はい、どーん!」
握った手と手と間にチョップが差し込まれ強引に握手が終了される。
「へ?」
「こーへい君っ! おーはよっ! 朝から妬けちゃうなぁもうっ!」
その人物にも見覚えがあった。
「つ、司さん……!? 何で!?」
喜妃劇司もとい数多の世界を破滅へと追いやった第X級指定犯『語り姫』という物騒な肩書を持つ少女。
「何でって幸平君の近くに居たら面白そうなものがまだまだ見れそうだなって思って……来ちゃった☆」
「えっ、えぇ!? っていうかその制服うちの……?」
「今日から転校してきた。喜妃劇司です! 私も改めてよろしくね! あ、それと今日から私も幸平君の家住むからね。きゃっ、ドキドキだねぇ」
「情報量が多すぎるよぅ!?」
「まさか司があの悪名高き『語り姫』だったとはね」
「あ、生芽ちゃん元気になったんだ。良かったね!」
「貴方の目的が何であれ幸平に仇なすと許さないわよ」
「えーこわーい。幸平君、生芽ちゃんがいじめるぅ」
「…………むぅ」
「何で二人とも喧嘩しながら抱き着いてくるの!?」
美少女サンドイッチ再び。
こうなってくると次の展開の予想が付く。
「こ、コウ……? いったいこれはどういう状況だ!? 何で朝っぱらから生芽ちゃんと司ちゃんに抱き着かれてるんだよ!? ハーレム主人公か貴様ッ! お前は応援したくなるタイプの主人公じゃないってことを分からしてやろうかおぉん?」
「翔!? お前記憶が戻ったのか!」
「その物言い、俺の知らないところで物語が進んでる感あって凄い悲しいから止めろや!」
泣きながら襲い掛かってくる翔。
そして俺に抱き着きながら顔を寄せてくる美少女二人
「幸平君はあたしと再会出来てうれしいよね?」
「幸平ってば、聞いてるの!?」
あぁ、さようなら俺の平凡な日常。
これは何処にでもいる凡人の物語。
この物語の結末はきっと平凡なものに違いない。
須賀幸平は平凡で凡庸で凡才の凡人なのだから。
case1は、これで完結です。
近いうちにcase2〜異世界編〜
投稿したいです。書きたいことは色々あるので気長に書いていこうと思います。
読んでくれた方、ありがとうございます。




