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意外な程すんなりと、建物への侵入に成功する。
箱庭によってセキュリティが掌握されているというのは本当らしく、裏口の高性能そうな電子キーは俺が近づくと自動開場され、監視カメラの前を通っても警報がなることはなかった。
「……にしても、この変装は流石にあんまりじゃないか……?」
俺は清掃員の衣装を羽織り、ダストボックスを押しながら建物内をおっかなびっくり進んでいく。南雲さん曰く、どんな場所にも自然に潜入できる魔法の衣装とのことだったが、映画の見過ぎなんじゃないだろうか。と思いつつしっかりと着用している辺り、俺も俺だ。縋れるものには何だって縋るのが俺のポリシーである。
「……っ」
前方のドアが開き、黒服を来た黒服が現れた。
「お、おつかれさまでーす」
少し声を高めに挨拶をしながら横を通り過ぎる。一瞬チラリと、こちらを見た気がしたが黒服は何も言わず逆方向へと去っていた。
おいおい清掃員のコスプレ最強か?
「おい、そこのお前!」
安心もつかの間に、後ろから黒服に呼び止められ冷汗が流れる。
「な、何でしょう……?」
「ここにゴミが落ちてるぞ! しっかり働け! 高い金払ってんだからよぉ!」
「は、はい! 申し訳ありません! 今すぐに!」
「ったく、使えねぇヤツだなぁ! 良いか、サボらずにちゃんと仕事しろよ。次見かけたら、上に報告するからな」
「へへっ、そりゃ勿論……!」
黒服は俺を一瞥すると、今度こそ去って行った。
「はぁ……気付かれなかったみたいだな……」
安堵の溜息を付くと、耳元の通信機が音を立てる。
「須賀幸平さん。神楽生芽さんの居場所が判明しました。その建物の地下に囚われているようです。その通路をまっすぐ進み、2回右に曲がった先の一番奥の扉の先に、地下に繋がる唯一のエレベーターがあるようです」
「分かりました。向かいます」
「ただ……」
「ただ?」
「その部屋は、黒服の詰め所になっているようで戦闘は避けられないかと」
「まじすか……」
「大マジです」
「…………」
箱庭から支給された救出用の装備があれば、俺でも戦えるかもしれない。問題は、今この場で一番信用出来ないのが、俺自身であるということである。俺の心が折れたらその瞬間に救出作戦は失敗だ。
「……よし!」
自分を叱咤し、件の部屋へと向かう。
「あ、お疲れ様です~」
道中、何度か黒服や白衣の職員とすれ違ったが、全く怪しまれなかった。清掃員の変装って凄い!
※※※
詰所の中には、三人の黒服が待機していた。その内の二人は見覚えがある。あの時、俺をさんざん痛めつけてくれた奴と、生芽を羽交い絞めにしていた奴だ。
大きめの会議室程度の部屋の奥には、エレベータの扉が見える。
『あのエレベータは完全独立制御がされていて、こちら側で操作することが出来ません。詰所にいる黒服の誰かがキーを持っている筈です』
それ即ち、どうにかしてキーを奪えってことか……。どうする……正面から乗り込むか……? 出来れば不意を突きたいところだけど……。
「そういやお前ら二人、この間、白井の旦那と出かけてたよな。どこに行ってたんだ?」
「お? 何だお前には話して無いんだっけか? 旦那が急に狩りに行こうって言いだしてよ」
「狩り? この辺、狩りするような動物なんて居ないだろ」
「バーカ、ちげぇよ。獣じゃねぇ。人間さ。それもただの人間じゃねぇぞ。旦那が言うには世界に選ばれた主人公って話だ」
「主人公ってそりゃ何だ? 漫画とかアニメに出てくる?」
「詳しいことは分かんねぇけどよ。旦那がそう言うなら、そうなんだろ。あの人の考えてることは俺等にゃ分かんねぇよ」
「で、お前等その主人公を殺っちまったのか?」
「いや旦那の目当ては、主人公のガキじゃなくて、そいつが連れてる女の方でな。旦那はヒロインって呼んでたな。主人公の方は、冴えないガキだったが、そのヒロインはビックリするくらいべっぴんでよぉ。俺がガキを痛めつけてる間に、そのヒロインを羽交い絞めにしてたボブが羨ましかったぜ」
「ベリベリナイスバディキュートガール ヤワラカ ヤクトク」
「マジかよボブ、そんな美人だったのか?」
「yeah! チョウゼツ ビショウジョ モエモエキュン」
「ボブ、お前アキバ系だったのか……? そういやお前、非番の日いつもチェックのシャツにバンダナ巻いて出かけてたな……。てっきりヒップホップとかクラブに行ってるもんだと思ってたぜ」
「モエ ニホンノ ブンカ デモ トッテモ ザンネン……」
「そうだよなぁ。勿体ないよなぁ。あの女、あれからずっと地下室から出て来ないし、白井の旦那も籠りっぱなしだし、こりゃもう研究材料にされちまってバラバラにされてるかもなぁ」
「俺も一目見たかったぜ……。ん? そういやその主人公のガキはどうなったんだ?」
「それが傑作でよぉ。主人公って言うもんだからどんなすげぇ奴かと思えば、弱いのなんのって……不意打ち一発で戦意喪失、最後なんてヒロインの嬢ちゃんに自分は良いから彼を開放してって庇われる始末よ」
「なっさけねぇなぁ」
「しかもちょっと拘束緩めたら一目散に逃げだしたんだぜ! 主人公が聞いて呆れるよなぁ! 逃げ出すときのあの顔、今でも笑えるぜ! 自分の身を案じてくれた女を見捨てて、血と涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしたまま逃げ出すあの顔! 全く、お前にも見せてやりたかったぜ!」
その行動は作戦も何もあったもんじゃなかった。
身体が自然に動いていた。
「なぁ」
「あ? 何だお前、清掃員か? ここは立ち入り禁止の筈だろ? そもそもどうやってここに入った?」
「なっさけない主人公のガキって、――――こんな顔、してなかったか?」
マスクと頭巾を外し、顔を露わにし
「な!? お前あの時のガキ――ぶべらッ!?」
振り向いた黒服の顔を思い切り殴りつけた。
※※※
「代表、須賀幸平さんが黒服達と戦闘を始めたようです」
「映像は?」
「今、モニターに」
モニターに黒服の一人を殴り飛ばす幸平君の姿が映し出される。
「お、やるねぇ。思ってたよりも吹っ切れてるみたいだ」
「ところで代表」
「何だい?」
水木君がキーボードを操作しながら、何故かとても冷たい目で僕を見ている気がする。
「いえ……別に代表がプライベートで何をしようと私がどうこう言うことではないのですが……流石に、この車両に女性を連れ込むのは職権乱用では? 普通に大問題ですよ?」
「君は突然何を言って……」
「わぁー幸平君すごーい! まるで別人だね!」
「か、語り姫ェ!? どうしてここに!?」
「えー? だってパパが面白いもの見せてくれるって連れてきてくれたんじゃーん!」
いつの間に現れたのか悪名高き第X級指定犯『語り姫』が僕の横でキャピキャピと映像を楽しんでいる。
「……パパ活ですか……。いえ双方の同意があればとやかく言う事ではないですけどね」
「違うよ水木くぅん!? 誤解だよぅ!? 彼女は『語り姫』だよ! 第X級指定犯の! 君も名前くらいは知っているだろう!?」
「それは勿論知っていますが……そんな大物がこんな所に居るわけないじゃないですか……。こんな所まで連れてきて特別な男感を演出したかったですか?」
「くそぅッ! これも彼女の改竄能力か! なんて便利な能力なんだ!」
「パパうるさーい」
「どうして君がここにいるんだ!?」
「どうしてって……この物語の結末を見届ける為に決まってるでしょ?」
「君は、幸平君と生芽君を見限った筈では?」
「誰もそんなこと言ってないじゃーん。私はただ、つまらなくて歪で退屈って言っただけ。私、結構好きなんだよねぇ。ダメダメな主人公が、追い詰められて立ち上がる話って」
目の前の少女はキラキラとした瞳をしながら笑みを浮かべ、楽しそうに映像を見つめている。
「幸平君を焚きつけたのは、彼を奮起させる為かい?」
「さぁ? 私は本心を伝えただけ、それで立ち上がって決意をしたのは幸平君だよ」
彼女の思惑は読み取れない。これまで数多くの世界を破滅に導いた彼女が、何故彼等を助けるような真似をするのか。そもそも怪物の考えを理解しようとするのが無駄か……。
「おじ、話は終わりましたか?」
「だからパパ活じゃないってば!?」
※※※
産まれて初めて思い切り人を殴りつけた。拳の骨が軋み、歯に当たったのか皮が切れて血が流れる。嫌な痛みだ。
「何!? アイツが一撃で!? そんな馬鹿なッ!」
俺が殴り飛ばした黒服は机をなぎ倒しながら吹っ飛び、ピクピクと体を痙攣させている。
長身の黒服が驚愕の声を上げるが、俺も全く同じ感想だった。
『箱庭』から支給された装備。その内の一つが、服の下に着用しているボディスーツ、説明では電磁波で筋繊維を刺激することで、普段は無意識にかけているリミッターを解除し、一時的に100%の力を出せるというものだ。身体に負担がかかる為、機能のオンオフが可能だ。推奨稼働時間は一日二十分。
「コイツ、シュジンコウ」
「それってさっきの話のか!? ただのガキだって話だったじゃねぇか!?」
「ソノハズ……」
黒服が混乱している間に、潜入用の清掃員の衣装を脱ぎ去り、そのまま外人黒服に投げ被せた。
「ワッツァ!?」
その場から跳躍し、飛び蹴りを放つ。
「グァッデム!?」
外人黒服はその場に横転しジタバタと身もだえる。踏み込みが足りなかったか!? 出来れば今ので仕留めときたかった!
「クソッ!? これでも喰らいやがれ!」
連続した銃声が響き、部屋に硝煙が蔓延する。
「何でだよ!? この距離で外す筈がねぇのに!? 何でコイツは立ってんだよぉォ~!?」
黒服の撃った銃弾は全て命中していた。しかし俺に怪我はない。これも支給された装備の一つ。いわば超性能な防弾チョッキ。見た目はいつもの制服だが、特殊な高密度ナイロン製で防弾防刃防火使用の特注品。こんなに薄いのにクッション性にも優れており、撃たれた衝撃もちょっと強めにどつかれた程度で済んでいる。性能を試さしてくれって言った時に、水木さんに至近距離で銃弾撃ち込まれてチビッたりしたけれど性能は本物だ。
「――シュッ」
「っと!?」
背後からの外人黒服のジャブを間一髪で交わす。
「――ッ!?」
そのままボクシングスタイルでジャブジャブフックジャブフックストレート、巨躯から繰り出される嵐のような猛攻を全て紙一重で裁いていく。
「な、何なんだよコイツは!? 銃も効かねぇし、ボブのボクシングをいなしてやがる!? ボブは裏闘技場のチャンプだぞ!?」
これも支給された装備のおかげだ。俺の瞳に付けているコンタクトは状況の解析や、周辺の監視カメラなどの電子機器と連携し、視界に指示を表示してくれる。それは戦闘面で大いに役立つ。相手の次の動作、どう動けば良いのかを直感的に行えるよう指示が表示されるのだ。
放たれたストレートを紙一重で避け、同時に放ったカウンターが顎に決まる。ボブと呼ばれた黒服は声も無く崩れ落ちた。あと一人。
「ボブまで!? くっそがァ!? この化け物め!」
黒服は錯乱した様子で銃を撃ちまくる。照準は滅茶苦茶、数発は制服に着弾するも効果は無い。俺は最後の黒服に近づいていく。
「く、来るな……! 来るんじゃねぇ!? 化け物ォ!? ――ひっ!?」
銃口を俺に向けたまま引き金をカチカチと引き続けるが、既に弾切れ、その行為に意味は無い。
「俺からすれば、人に銃口向けれるアンタの方がよっぽど化け物だよ……!」
「げはっ!?」
腹部への一撃。最後の黒服も沈黙した。
『幸平さん。騒ぎを聞きつけた他の黒服がそちらに向かっています。扉のロックは駆けていますがそう長くは持ちません。早くカードキーでエレベータへ』
「しまった。最後の奴にカードキーのありかを聞いておくんだった」
いかに装備が優れていても、使っているのは凡人の俺なのだ。あまりに多数が相手では分が悪い。
俺は急いで倒れた黒服たちの懐をあさりカードキーを発見する。
カードキーをエレベータにかざすと扉が開いた。
待ってろ生芽……!
GW中に最後まで公開したかったです、、、。
明日からお仕事イヤめう、、、許してめう、、、orz




