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須賀幸平は凡人である〜case2.もしも凡人が異世界召喚されたら〜  作者: 井上むくすけ
case1.もしも凡人がラブコメ主人公になったら〜
27/41

4-2

 報告書(日記)の中で、生芽は須賀幸平の名前を幾度も出して、褒め称えていた。


 幸平は凄い。

 流石、幸平。

 きっと幸平には考えがある。


 どんな些細なことでも、マイナスになるような行動でも、深読み裏読み過大解釈なんでもありで、須賀幸平という人間がいかに素晴らしい主人公であるか綴られている。


 流石に気づく。これは俺じゃない……この日記に綴られている須賀幸平は、俺ではない。

 では誰か。

 そんなのは分かり切っている。

 主人公の須賀幸平だ。

 正確には、神楽生芽という少女が創り出した理想の主人公、須賀幸平。

そうか、そうだったのか。生芽と接していて時折感じていた居心地の悪さの正体はこれだったのだ。

 それもその筈だ。生芽は、出会ってから一度も俺のことなど見ていなかったのだ。

生芽が見ていたのは、会話していたのは、過ごしていたのは、この日記に書かれているのは――――存在しない主人公なのだから。

 これまで生芽と過ごしてきた日々の全てが崩れていく。生芽が俺に向けていると思っていた感情、言葉、しぐさが全く別のもの見えてくる。自分の存在が塗り潰されていくような感覚だ。

 だけど生芽を非難しようだなんてとても思えない。俺だって同じようなものだ。生芽と向き合おうとしていなかった。理由は簡単、怖かったからだ。生芽を知って、俺を知られるのが怖かった。生芽に俺がダメな奴だと、薄っぺらくてつまらない人間だと知られたくなかった。

 ある意味、俺と生芽は似たもの同士なのかもしれない。二人とも等身大の相手を見ようとせず、上辺ばかりのやりとりをしていたのだから。

 理想の主人公像を須賀幸平に投影し妄信していた神楽生芽と、出来損ないのハリボテ主人公須賀幸平。

 これが物語だとすればあまりに空虚な物語ではないか。

「生芽ちゃんはまだ夢から覚めれてないと思うなぁ……。生芽ちゃんからしたら酷いバッドエンドだよね。信じていた理想の主人公に見捨てられて、失意と絶望の中、マッドな感じの研究者の研究材料にされちゃうんだもん。可愛そうな生芽ちゃん……」

自分の中の感情も整理できていないまま司さんの独り言が耳に入り、ふと余計な考えを巡らせてしまった。

 そもそも何故、生芽は会ったこともなかった須賀幸平という少年に、妄信とも言える感情を抱いたのか。

 これはただの推測で想像だ。見当違いかもしれない。

 ある日突然、創り出された少女はどんな気持ちだったのだろうか。そんなどうしようもない境遇で、『君は須賀幸平という主人公のヒロインになる為に創り出されたんだよ』と吹き込まれれば、他に縋るものが無い少女にとって、須賀幸平はまさに主人公(ヒーロー)だったのでは無いだろうか。

 故に神楽生芽は須賀幸平を妄信したし、期待して、信じていた。人は自分の信じたいもの信じる生き物だ。俺だってそう、見たくないものは見なかったことに、聞きたくないことは聞かなかったことに、少なからず自分の都合の良い事実を取捨選択して生きてきた。神楽生芽が自律した思考を持っていたのならなおさらだ。実際がどうであれ、神楽生芽という少女にとって須賀幸平という少年は紛れもなく主人公(ヒーロー)として刷り込まれていったのだ。

 そんな主人公が自分を見捨てて逃げてしまったのだ。ただの一度も振り返ることもなく。

それがどれほどのショックであったかは知る由もない。しかし失意と絶望の底に沈むには充分だった筈だ。

 

「なんだよ、それ……」


 不思議だった。

 何故こんな感情が溢れてくるのか。

 


 まったく……。



 本当に………………。



 ――――――――腹が立つ。



 俺は、身勝手な人間だと思う。ついでに言えば臆病者だし、卑怯者だ。

 周りから自分がどう思われてるのかばかり気にして、波風を立たせないように、ことなかれ主義で生きてきたのも結局は自分のことばかり考えていたから。

 だから俺のこの感情は自分のしたこと、してきたことを棚に上げた利己的なものだ。

 生芽の身勝手さに対する憤り。

 勝手に期待して、失望して失意の底? 何て身勝手な女だ。

 このまま生芽に死なれでもしたら、この先の人生、一生気に病み続けることになる。それが嫌で、耐えらない。怖くて恐ろしくて仕方がない。

 だからこれは、生芽を助けたいとかそういう純粋な気持ちから決断したわけじゃない。

 俺は、俺の為に、神楽生芽の元に行かなくちゃいけないんだ……!


「南雲さん……。俺、行くよ……。生芽に文句を言いにさ……。本当に怖くて、自分なんかに出来るとは思えないけどさぁ……っ、ここで行かなかったらさぁ……っ、俺、駄目になっちゃうと思うんだよ……ッ! 二度と立ち上がれないと思うんだ! だから……助けて、くれないかなぁ……っ?」


 情けない、本当に情けないなぁ。俺って奴は。

 こんなに泣きながら言うべき言葉じゃないっていうのにさ。


「勿論さ! っとぉ、体が動く!?」


 南雲さんはその言葉を待っていたと言わんばかりに膝を叩く。

 いつの間にか司さんの姿は消えていた。

 もしかして司さんは俺を焚きつけるために……?


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