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須賀幸平は凡人である〜case2.もしも凡人が異世界召喚されたら〜  作者: 井上むくすけ
case1.もしも凡人がラブコメ主人公になったら〜
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4-1 凡人と主人公 case1 最終章


 嫌な夢を見た。

 誰もが俺を指差し笑っている。

 そして俺もヘラヘラとそれを受け入れる。そんな夢。

 俺、須賀幸平の人生は常にそうだった。恥をかくのが嫌で、失敗したら誤魔化して、何かを努力して成し遂げたことなんて一つもない。

 常に言い訳を探してばかりだった。

 その内、俺は体の良い言い訳を見つけた。


 俺は凡人だから、凡才だから、上手くいかなくても仕方がない。凡人なのだからしょうがない。

 

 楽だった。凡人という免罪符は心地の良いぬるま湯だった。

 だけど本当は気づいていた。見て見ぬふりを、気付かぬふりを繰り返して、凡人というレッテルを繋ぎ合わせた張りぼてを被った張りぼて人間、中身スカスカのダメな奴、それが須賀幸平という人間の正体なのだと……。


※※※


「目を覚ましたようだね。須賀幸平君、体調はどうかな?」

 とっくに目を覚ましているのにも関わらず起き上がろうともしない俺の元に、スキンヘッドの大男が現れた。

 秘密結社『箱庭』の代表を務める南雲さんは、パイプ椅子に腰を下ろす。

「……悪くは、ないです」

「まぁそうだろうね。体の傷は完治している筈だ。ここの医療ユニットは優秀だからね」

 言われてみれば不思議なほどに体に痛みは無い。あれ程の暴行を受けたというのにそんな形跡は微塵も残っていなかった。

「それにしても災難だったね。まさかこんなことが起こるなんて……僕達も予想外だったよ。本当に申し訳ない」

 南雲さんは大きな体を丸めるように頭を下げる。

「あれは仕込みとかじゃないんですか……?」

「残念なことにね」

 仕込みならばどれだけ良かっただろう。そんな一縷の望みも打ち砕かれる。

「…………俺、最低ですよね……。生芽を見捨て、逃げ出して……」

「あの場で君が立ち向かっても状況は変わらなかったと思うよ。君の傷が増えただけだろうね」

「生芽は助かるんですよね? ほらっ秘密結社の力を使って助け出せるんでしょう!?」

 俺の問いに南雲さんは小さくかぶりを振る。

「なんで……ッ!?」

「我々はこれ以上、直接この世界に干渉することは出来ないんだ。ましてや生芽君は正規の職員ではない。彼女はあくまで実験の……」

「道具ってことですか……そんな、そんなのって……」

 絶句する俺に南雲さんは言葉を続けた。

「一つだけ、生芽君を救う手段が残されている」

 南雲さんは続きを述べる代わりに俺をじっと見つめ返した。

「…………えっ、まさか俺に、行けって……言うんですか……?」

「そうだ。生芽君を救いに行けるのは主人公である君しかいない。我々も直接の干渉は出来ないが、あくまで間接的にならば援助可能だ。どうだい? 幸平君、彼女を、神楽生芽を救いに行ってくれるかい?」

 南雲さんの問いかけの意味を理解して、喉が干上がり呼吸が乱れるのを感じた。勿論、生芽を助けたいという気持ちは嘘じゃない。だけど体が、心が言うことを聞かなかった。

「む、無理です。無理ですよ、俺には……。生芽を見捨てて逃げ出すような奴なんですよ……? 俺は……」

 自嘲気味に答える。けれど南雲さんは引き下がらなかった。

「だが君しか居ないんだ。生芽君を救えるのは主人公である君しか」

 主人公という単語、体がそれを拒絶するかのように塞き止めていた気持ちが溢れだす。言ってはいけないと分かっているのに、それでも止めることが出来なかった。

「勝手なこと言わないで下さいよッ! 俺、言ったじゃないですか……向いてないって、主人公なんて出来ないって、それをアンタ達が無理やりやらせたんじゃないか! その結果がこれだよ! 失敗してるんだよ! アンタ達の計画は最初から! アンタは俺が主人公に見えるか!? 見えないだろ!? こんな奴が主人公な訳ないじゃないか!」

 紛れもない本心を吐露する。

「俺は、俺は……生芽を助けたい……でも、駄目だ……。俺じゃ駄目……。上手くいきっこない……。俺だって……なれるもんならなりたいさ! 主人公って奴に! でもそんなの無理だって…………俺が一番分かってるんだ……。だって俺には何も無い……。人に誇れるような才能も、信念や信条もなければ、勇気も無い……。今までだってそう……何も頑張ってこなかった……。そんな奴に何が出来るんだよ……。凡人は、主人公にはなれないんだ……分かりきってたことじゃないか……っ!」

 南雲さんは俺の訴えに何も答えない。もしくは呆れ果てて言葉も出ないのだろう。

 息を切らして、消え入るような声で懇願する。

「助けてくれよ……。頼むよ……お願いしますよ……」

「須賀君……」

 南雲さんが何かを言いかけたその時


「ぴんぽんぱんぽーんっ! 幸平君、問診の時間だよ~!」


 その場に似合わぬ調子で現れたのはミニスカナース服に、ナースキャップを被った少女。

 俺はその少女に見覚えがあった。

「司、さん……? 何でここに……?」

「はろはろ~幸平君、久しぶり~! 意外と元気そうだねっ! それから~、そ~んな物騒なものを女の子に向けるのは良くないんじゃないかな?」

 司さんの指差す先には銃を構える南雲さんの姿があった。

「……どうして君がここにいるのか聞いても良いかい?」

「え~、そんなこと言われても~、ここに来ちゃダメなんて言われたこと無いしぃ~」

 恍けた声音でケタケタと笑う。

 その姿は、俺の知っている喜妃劇司という少女とは全くの別人に見えた。

「聞くだけ無駄か……」

 南雲さんは溜息を吐きながら、銃口を下ろした。

「……二人は知り合いなのか……?」

 一人状況が飲み込めずに疑問を漏らすと二人は顔を見合わせ、一方はケタケタと笑い、もう一方は眉間に皺を寄せる。

「我々は彼女をこう呼んでいる。数多の世界を破滅へと追いやった第X級指定犯『語り姫』とね」

「そうなんだ! 可愛い呼び名をありがとう! 姫なんて照れちゃうね! でも数多の世界を破滅に追いやったっていうのは訂正したいかも。あたしは物語を盛り上げる為にちょ~っと、お手伝いしただけなのに~っ! あたしはね、最高の主人公が活躍する最高の物語を探しているの。つまらない物語なんて必要ないでしょ? だから早めに幕を引いてあげただけだよ?」

そう語る彼女の顔は夢見る少女そのもので、その瞳には似つかわしくない狂気が渦巻いていた。事情は知らないし、彼女が何をしたいのか理解は及ばないが、きっと彼女は目的の為ならどんなことでもするのだろう。

「まさかこの実験に『語り姫』が介入しているとはね。我々もどうして気づけなかったのか……。これが話に聞く君の改竄能力かい? 我々も喜妃劇司という少女については調べたんだけどね。不審な点は無かった。僕自身、君と対面するまで気が付かなかったよ。それで君の目的は? 何故この実験に?」

「え? 特に理由なんてないけど? 面白そうなことやってるな~って」

「そんな理由で……?」

 あっけらかんとした回答に南雲さんは頬をヒクつかせる。

「でも期待外れだったなぁ~。なんていうか人選がそもそも良くないよねぇ」

 司さんが目を細め俺を一瞥する。

「だって幸平君、本当につまらないんだもん。無理無理、どう見ても幸平君に主人公は無理でしょ。貴方はまだ幸平君に期待してるみたいだけど……諦めたほうが良いと思うなぁ」

「司さん、俺は……」

「あ、私の本名、喜悲劇司じゃないからね。偽名ってやつ? 今もだけど幸平君が好きそうな女の子演じてるだけだから。あーぁ……可哀そうな生芽ちゃん、主人公が幸平君じゃなければ、楽しいヒロインライフを送れたかもしれないのにねぇ」

 仮面のような笑顔を張りつかせたまま、喜悲劇司と名乗っていた少女は俺の頭を撫でる。

「まぁでも、生芽ちゃんは生芽ちゃんでヒロインとして歪んでるんだよねぇ……。傍から見ていてすっごく気持ち悪かったなぁ」

 生芽が歪んでいるという言葉に引っかかりを覚える。

 確かに生芽は少しズレている所はあったけど、俺なんかよりもよっぽど人間らしかったように思える。

「腑に落ちないって顔してるね。じゃあ私からプレゼント。はい、どーぞ」

「これは……」

 何処から取り出したのか、書類の束を手渡される。

「『須賀幸平、経過レポート』……」

「それは生芽ちゃんが、あのおじさん達に提出していた報告書だよ。それを読めば、ニブチンの幸平君にも、本当の生芽ちゃんの姿が見えてくるかもね!」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ! それを幸平君に見せるわけにはいかない! というか何処からそれを持ち出したんだい!?」

「おじさんうるさーい。ちょっと黙ってて」

「もご!? もごご!?」

 面倒そうに指を鳴らすと、こちらに駆け寄ろうとしてた南雲さんが不自然な姿勢で静止する。

「さ、幸平君、今の内に」

 促されるままに書類を捲る。

 俺に見せたくないものって何だ……? もしかして俺の悪口が書き連ねてあるとかか……? それはそれでへこむけど……。恐々と書類に掛かれた文字へと目を落とす。

 一枚目の書類の日付は俺と翔が出会った日の日付だった。

 

 5月×日


 はぁ~~~~~~~~生の幸平かっこよすぎ……! 尊い! 推せる! あれが私の主人公って本当!? やばやばやば~~~~。やっぱり生は違うわ。写真とは解像度がまるで違うわ。

はぁ~~~~ダメ、本当に緊張しちゃった……。変な子って思われないかな……。今日は56回も幸平と言葉を交わしちゃった……。32回も目が合ったし、私の入れたお茶も飲んでくれたし……。…………(割愛)…………。ちょっと出会いは失敗しちゃったけど、明日からは幸平のヒロインとして頑張らなきゃ!


 目が点になる。

 何度も目を瞬かせ内容を確認する。

 書類から顔を上げ静止したままの南雲さんに視線を向ける。

 南雲さんはばつが悪そうに眼を逸らした。

 え、これは日記じゃ……それも人に見せられないタイプの。


 5月△日

 今日は幸平と初登校! 歩幅を私に合わせてくれた優しい! 何も言わずさり気なく車道側を歩いてくれた紳士! クラスに馴染めるようにそれとなく気遣ってくれているのを感じる。お弁当、喜んでくれたかな? 妙なサブヒロインが現れたのは驚いたけど流石幸平だわ。主人公やる気が無いだなんて言っておいて、ちゃんと行動してるんだもの。言葉でなく行動で示すタイプなのね。男らしくて素敵! でも少し不安……あの娘、とっても可愛かったから……幸平が取られちゃわないかしら……。ううん、自信を持つのよ生芽! だって私が幸平の好みに一番近い容姿をしているんだもの! …………(割愛)………… 幸平に相応しいヒロインになる為に、私も精進しなきゃ!


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 初めは気が付かなかった。

 だけど読めば読むほど違和感が強くなっていく。

 他人が読んでも、これはただの恥ずかしい日記でしかない。

 だけど、これは…………。

 一通り報告書……いや生芽の日記に目を通し終わる頃には、違和感は確信へと変わっていた。


「何だよ、これ……、これは俺のことじゃない……? 一体、誰のことを日記に書いているんだ……?」


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