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須賀幸平は凡人である〜case2.もしも凡人が異世界召喚されたら〜  作者: 井上むくすけ
case1.もしも凡人がラブコメ主人公になったら〜
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3-8


 何処をどう走ったかなんて覚えていない。

 体力の限界まで走り続け、そのまま道に倒れこむ。

「ハァッ、ハァッ、ハァ………………」

 息が整い始めると、酸素が体を巡り思考が鮮明になっていく、それと同時に自分の犯したとんでもない行いへの嫌悪感と後悔が混じったぐちゃぐちゃの感情が溢れだした。

「お、俺……なんてこと……ッ、生芽……どうしよ……どうすれば……でも……」

 こんな時にさえ「仕方がない」「しょうがない」「どうしようもない」そんな言い訳の言葉ばかりが浮かんでしまう。思い浮かぶたびその言葉を払拭しようとするが消えることはない。

「ごめん……ごめん……ごめん、生芽……」

 俺は言い訳をするように謝罪を口にし、その場にうずくまる。

 誰か助けてくれ……何とかしてくれよ……。

「幸平君? どうしたのボロボロだよ!?」

「司さん……? どうしてここに……」

「どうしてってここうちの近くだし……。ってそんな事よりどうしたのその怪我!? 生芽ちゃんは……?」

「生芽は……たぶん……攫われて…………俺、何にも出来なくて……どうしよう、どうしよう俺、俺、生芽を置いて逃げ出しちゃってぇ……」

「幸平君落ち着いて、落ち着いてよ。……大丈夫、――――私、全部知っているから」

 司さんの雰囲気が変わる。

「え――――」

「ずっと見てたよ。幸平君が痛めつけられるのも、生芽ちゃんがそれを助けようと身を差し出すのも、幸平君がその場から逃げ出すのも、ずっとずっと見てたからさぁ。もう自分も被害者ですって顔するの止めても良いよ? 私と初めて会った時も見捨てようとしてたもんね? 迷子の可哀そうな男の子さえ助けようとしないんだもんねぇ」

 昼間と変わりなくニコニコしているのに、その声音は凍えそうなほどに冷たいものだった。

「はぁーあ、つまんないつまんないつまんないのー。こーんな退屈な結末になるなんて思ってもみなかったよ。本当につまらない」

 司さんはまるで演劇でも興じるかのようにその場で、ステップを踏みながら振り返る。


「幸平君って、本当につまらない人間だね!」


 司さんの俺を見る目、アレは白井金嗣が俺を見る目と同じだ。興味を失った玩具をみるかのような目。

 気付くと司さん忽然と姿を消していた。

 頭の傷が痛み、意識が遠のいていく。


※※※


 現実とは別次元に存在する『箱庭』第357428支部のとある一室。

 この支部の代表を務める僕、南雲一は悩まし気な表情で物思いに耽っていた。

「うーん……これは困ったねぇ……。これ以上、プレイするソシャゲは増やせないよ……。どれだけ可処分時間あっても足りないよねぇこれ。流石に厳選した方が良いかなぁ。プロデューサーに司令官に指揮官に先生にマスターに大忙しだ。でもそれぞれ結構課金しちゃってるしなぁ。うーん……」

「代表、こんな所でサボってたんですか、探しましたよ」

「み、水木君!? 違うよ、サボってないよ!? ど、どどどどうしたんだい? 何か飲む?」

「いえ結構です。それよりも至急の報告が」

「えぇ……もしかして面倒な仕事……? そんなの水木君が適当に割り振って処理しといてよ。僕、忙しいから」

「………………チッ」

 完全に見下した表情で舌打ちをキメられたけど僕は知っている、これは信頼の証なのさ。でも後で水木君には美味しいご飯を奢ってあげようと思う。

「そ、それで報告というのは?」

「はい、良くない話と悪い話と最低な話があるんですが……何から聞きたいですか?」

「良い話は!? こういのって良い話が一個くらいあるものじゃないの!?」

「無いものは無いんだから仕方がないじゃないですか」

「と、取り敢えず聞こうか」

「はい、では良くない話ですが、この支部のコンピュータにハッキングの形跡が発見されました」

「は、ハッキングぅ!? 大問題じゃないか!? 上にバレたら僕のクビがとんじゃうよ!?」

「いえ下手したら代表だけでなく支部の全職員のクビが飛ぶレベルの不祥事なので、こちらは全力で隠蔽作業中です。犯人も特定済みです。幸いなことに抜かれた情報に重要機密類は含まれていません」

「な、なるほどね……ま、まぁ、うん、犯人も分かってるんなら何とかなるね。上にバレる前になんとか揉み消そう……」

「続いて悪い話ですが、そのハッキングの犯人が須賀幸平さんに接触しボコボコにして、神楽生芽を攫いました」

「ほわ!? え、何で幸平君が!?」

「抜かれた情報が彼の関わってる実験に関する部分だったことが原因かと」

「幸平君は無事なのかい!?」

「無事と言えば無事ですが……実験的には最低の状況です」

 水木君にしては歯切れの悪い物言いだね。状況は相当良く無いらしい。

「それが最低な話という訳か……。で、具体的にその最低な状況は?」

「須賀幸平さんが……神楽生芽を見捨てて一人で逃げ出してしまいました……。観測していたあらゆる数値がマイナス、折角徐々に同調し始めていた世界とのパスも完全に途切れてしまっています……」

「それは……最低だねぇ……」

 幸平君を責めるのは筋違いだろう。何故なら彼は生まれながらの主人公では無いのだ。我々が実験の為に選んだ普通の少年だ。だが幸平君、僕は君にとても期待しているんだ。このまま逃げ出したままでいないでくれよ。


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