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須賀幸平は凡人である〜case2.もしも凡人が異世界召喚されたら〜  作者: 井上むくすけ
case1.もしも凡人がラブコメ主人公になったら〜
23/41

3-6


 ブライダルフェアの会場を出てから暫く、小休止もかねてベンチに腰をおろす。

司さんはお手洗いに行くとのことで今は生芽と二人だ。

 先程見せられた写真のことがどうにも頭から離れない。二人の美少女に挟まれた自分の姿はあまりに滑稽で、見劣りしていて、ノイズ以外の何物でもなかった。俺は主人公じゃない。そんなこと自分が一番理解している。なのに何故こんなにも心がざわつくのだろうか。

「……はぁ」

「幸平ったらまた溜息。溜息ばっかりついてると幸せに愛想つかされてしまうわよ?」

「そんなこと言われても自然と出るんだか仕方がないじゃないか」

「幸平は色々難しく考えすぎなんじゃないかしら。主人公の件だってもっと気楽に……」

「気楽にって……出来るわけないだろ……」

 気楽にという言葉に妙に苛立ちを覚えてしまいトゲトゲしい口調になってしまう。

「ごめんんさい……そうよね。幸平にも色々考えが……」

 考えなんてない……。生芽の俺を買い被る言動に、自分でも驚くほどイラついているのが分かる。

「だからそういう……!」

 と、その時――


「おかぁぁぁあぁぁあさぁあぁあああんっ! どごぉおおおぉぉおおぉおっっっ! おかぁーさぁあぁあああん!!!! おかぁぁしゃぁぁああぁぁぁああああんっ!!!!」


 小さな子供の泣き声が響く。

 声の方へと視線を向けると4.5歳位の男の子が泣きながらフラフラと彷徨っていた。

「迷子か?」

「大変、助けないと……!」

 生芽が一瞬の迷いなく子供に向かって駆けだす。

「ま、待てって……何するつもり!?」

 俺の言葉に生芽が足を止め振り返る。

「何って……助けないと、あんなに泣いて、きっと不安で一杯なんだわ」

 その瞳は一切の曇りなく真っ直ぐに俺を映していた。

 俺は、言いようのない感情が湧き出てくるのを感じる。

 こんなこと言うべきでないと分かっている筈なのに、止めることが出来ずに言葉にしてしまう。

「べ、別に生芽が声を掛けなくても……その内スタッフとか誰かが声掛けるって……!」

 生芽も俺が何でこんなことを言っているのか理解できないようだった。

「どうしたの幸平? らしくないわよ……?」

 らしくないって、何だ……? まるで俺が本来そういう人間だとでも言うかのような言い方じゃないか。

「確かに、私が声を掛けなくても誰かがきっと声を掛けてくれると思う……。でもね――」

 生芽が曇りのない瞳で俺を真正面から見つめながら口にする。

「――でも、それでも、私はその誰かになりたい。例えそれが最初の一人でなくても、私に出来ることなら、手を差し伸べる一人に。誰だってなれるの、勿論幸平にもね」

 そう言って生芽は少年の元へと駆け寄っていった。生芽が屈んで少年に声を掛けると、堪えていた不安が決壊したのかのように少年はさらに大きな声で泣きはじめた。

生芽が男の子に話しかけながら頭を撫で、手を握って歩き出す。微笑ましく穏やかな光景だと思った。だけどその光景の中に俺の居場所はない。俺はそれをただ見ていた。見ているだけだった。


※※※


幸なことに男の子の母親は直ぐに見つけることが出来た。

 母親と男の子は生芽にひとしきりお礼を言うと手を繋いで去って行った。

「あー! こんな所にいた! 良かった~。置いて行かれたののかと思っちゃったよ~。 あや? 何かあったの?」

「別に、迷子の子がいたからお母さんを探すのを手伝っていただけよ」

 合流した司さんに、生芽は端的な説明をする。

「えー嘘、本当にっ!? 大丈夫だったの? お母さん見つかったの?」

「えぇ、つい今ほどね」

「良かったぁ。でも流石、幸平君だね!」

「え?」

 不意に会話の矛先を向けられ困惑の声を漏らす。

「迷子の子に声を掛けるって中々出来ないよね。私も声かけなきゃ! って思うんだけど中々声を掛ける踏ん切りがつかなくて、そうこうしてる内に他の人が声かけてくれて、凄く自己嫌悪しちゃうことあるもんな~」

「いや、俺は何もしてないっていうか……。な、生芽も言ってくれよ、俺は何もしてないって」

「そんなこと無いわ。幸平もお母さん探してくれていたでしょう?」

「それは……」

 あれは探してると言えたものじゃない。ただ後ろを付いて行って視線を左右させていただけだ。

「…………」

 言葉が出てこない。ばつが悪いし、言い訳の言葉も浮かばない。

 これは自己嫌悪だろうか。いいや違う、これはもっと情けない自己憐憫というやつだ。

「あー! そうそう、実はさっきお母さんから連絡があって、お客さんが来るから今日は早く帰って欲しいって。だから本当に申し訳ないんだけど、今日はここで解散で大丈夫かな? もうお父さんが車で駅まで来てるみたいで……」

「……それはしょうがないな。今日はここで解散ってことで」

「でもでも~幸平君がお父さんに挨拶するってシチュエーションもあり?」

「い、いきなり挨拶はちょっと……」

「ちょっと司、お父さんが待ってるんでしょう?」

「むー、そうだね流石にそろそろ行かないと……。幸平君、今日は本当に楽しかったよ。今度はお礼とか関係なく、また遊んでくれるかな……?」

「お、俺で良ければ」

「本当? 約束だからね! 生芽ちゃんも今日はありがと! でもでも一緒に住んでるからって幸平君に手を出しちゃ駄目なんだからね!」

「それは時と場合によるわね」

「生芽ちゃん何だかんだで奥手そうだからあんまり心配してないけどね」

「はぁ? このメスガキ、一度分からせた方が良いのかしら?」

「やぁ~ん、幸平君こわ~い」

 生芽の視線から逃れるように俺の背中に回り込むと、司さんが耳元で一言囁いた。


『今度は二人で遊ぼうね』

 

「ふへ!?」

 耳朶を叩く甘い囁きに身震いしてしまう。

 司さんはぱっと離れると、出口の方に駆けていく。

「じゃあ二人ともまたね~。ばいば~い!」

 その姿が見えなくなるまで何度も振り返ってこちらに手を振りながら去って行った。


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