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「あー……どっと疲れた……折角の休日に何をやってるんだ俺は……」
事務所のソファに体を預け、大きく息を吐く。
俺達の参加したイベントは中々盛況だったようで、問い合わせやら相談の予約も上々、SNSにアップされた生芽と司さんの映った写真やらショートムービーやらも中々伸びているらしい。
「あ、須賀さん、お疲れ様でーす。これ先程撮影した写真の現像が出来たので良かったらどうぞー」
由美さんから写真を受け取る。
「どうです? 中々上手く撮れてないですか?」
「……うん、上手く撮れてるとは思いますが」
「何です、含みがある言い方ですね」
「この映ってる新郎って誰ですかね?」
由美さんが不思議な顔をして写真を覗き込むと
「誰って、須賀さんでしょう?」
きょとんとした顔で答えた。
「この身長180センチ超、パッチリ一重の爽やかイケメンが?」
「画像加工アプリってご存じではない……?」
この人、常識を知らないのかしら……? とでも言いたげな口調である。
「完全に別人ですが!?」
「あぁすいません。これ店頭に飾る用の宣材写真でした。こっちが無修正版です」
「人を無修正扱いしないでくれます?」
無修正版として渡された写真には確かに俺が映っていた。緊張で顔をヒクつかせ,
締まらない顔をした自分が映っている。比べて生芽と司さんは、先程の写真と何も変わらない。無加工でこれか……やはり二人ともとんでも無い美少女である。いつどこのタイミングでシャッターを切られても奇跡の一枚になるんじゃなかろうか。にしてもこの写真、俺のノイズ感が半端ないな……。
「因みに須賀さん」
「はい」
「結局どっちが本命なんですか?」
「ゲホゲホゲェホッ――!」
不意打ちの質問に器官が変な動きをした。
「な、なん、なんですかっ、唐突に!」
「暇なので」
「暇って……一応俺もお客なのでは……?」
「あと最近、私生活にトキメキが皆無なので、ここらで摂取したいなって。大人になると仕事と家の往復で一日が終わるんです! キラキラしたアフターファイブを送ってる人なんてほんの一握りなんですよ! 私だって良い男捕まえて高級レストランでディナーとかしたいんですけど!?」
「知らないですよ、そんなこと!」
「で、どっちが本命なんです? ほらほら、おねーさんに教えて下さいよっ」
うりうりと肘で突くの止めて欲しい。この人、黙ってれば普通に美人なので悔しいけどドキドキしちゃうよ……。
「二人は、そういうんじゃないんで……どうみても俺じゃ釣り合わないでしょ?」
「それはそうですけど」
おいノータイムで肯定するの止めろ! せめて一回くらいは否定してよ!
「なるほど……、仕方ないですね。ここは経験豊富なおねーさんが相談に乗ってあげましょう」
「いや遠慮します。本当に」
「倒置法使われると、本気で遠慮されされてるみたいなんで止めて下さいよぅ!」
本気で遠慮しているんですけど……。
「じゃあ勝手にアドバイスしますけど」
「えぇ……」
「須賀さん、もしかしてこの状況がずっと続けばなんて考えてませんか? 色々な事情があるでしょうし、それが悪いことだとは言いませんけど。でも変化は必ず起きます。特に男女の関係なんて変化の連続です。望む望まざるに関係なく、決断を迫られる時が来ます。良いですか、大事なのはしっかり決断することです。それがどんな決断にせよ。自分で納得して選んだならそれ以上の答えって無いんですよ」
意外なほど真っ当なアドバイスに呆気に取られてしまった。
なんだかんだこの人も社会人、これが社会経験の差なのかもしれない。
「あらあら由美ちゃんってば、自分は男の人とお付き合いもしたことない癖に、凄く良いこと言うじゃない! 感動しちゃったわ!」
「げっ! 社長!? いつからそこに!?」
「由美ちゃんがイキって相談に乗ってあげるとか言い出したとこかしら」
「ほぼ最初からじゃないですか!? っていうか何で私に彼氏がいたことないって知ってるんですか!?」
「この前の飲み会で由美ちゃんベロンベロンに酔っぱらって、泣きながら話してたじゃないの」
「嘘っ!? 何も覚えてない!? は!? 違いますよ須賀さん! 私本当に経験豊富なんですよ!? 社長が嘘ついてるんです!」
「おほほほ、由美ちゃんってば本当可愛らしいわぁ。じゃ、私はこれで」
「何しに来たんですかあの人!?」
いやアンタも仕事しなよ。
それから俺は生芽と司さんの着替えが終わるまで由美さんの愚痴を聞く羽目になったのだった。聞いた限りどう見てもブラック企業なので早めに転職なりなんなりすることをお勧めした。
※※※
「今日は本当にありがとうございました! お陰様でイベントは大盛況、既にお問い合わせやアポイントメントも何件か頂けてまして、何とか月末を乗り越えられそうです」
「私の給料も何とかなりそうです! 本気のマジでありがとうございました。しゃっすあざーすッ!」
感謝の念が強すぎて最後のほう体育会系になってない?
「今回撮影させて頂いた、お写真やお礼の引き出物のサンプルは後でご自宅に配送させて頂きますので」
「いやいやそんな私もドレス着れて嬉しかったですし! また何かあったら呼んで下さい! いくらでもドレス着ます!」
「私も楽しかったです。貴重な経験が出来ました。ね、幸平」
「俺を見ないで欲しい……」
社長と由美さんは扉の外までお見送りに出向いてくれている。それだけ感謝をされているということだろうか。
「「本当にありがとうございました~」」
村を救った勇者を送り出すかのように大げさに手を振られながら見送られる。
「あ、須賀さん、私のアドバイスしっかり参考にして下さいね~!」
去り際に由美さんからそんな声を掛けられた。振り向いて軽く会釈を返す。
「アドバイスってなぁに?」
「どんなアドバイスを貰ったの?」
「別に大したことじゃないって」
「怪しいわね」
「由美さん美人だったもんね~」
由美さんからのアドバイス『しっかりと決断を下す』その瞬間は思っているよりもずっと早く訪れることになるんなんて露ほども考えていなかった。




