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須賀幸平は凡人である〜case2.もしも凡人が異世界召喚されたら〜  作者: 井上むくすけ
case1.もしも凡人がラブコメ主人公になったら〜
19/41

3-2


「さて今日のプランを伺いましょうか?」

「どうして生芽ちゃんが仕切ってるのかな?」

 この二人、こんなにギスギスしていただろうか。こと在るごとに衝突を繰り返している。

 いつまでも駅前で騒いでいるという訳にもいかないので、俺達は司さんに先導され三駅ほど離れた商業地域に向かうべく電車に揺られている。

「幸平に関することだったらまずは私を通して貰わないと」

「生芽ちゃんって結局幸平君の何なのかな? 彼女じゃ無いんでしょ?」

「愚問ね。私はヒロイン、そして幸平は主人公、もうお分かりでしょ?」

「全然分からないけど……」

 司さんがこちらに疑問の視線を向けるが、俺としても生芽との関係性は良く分かっていないのだ。主人公だと言われたとて全く自覚も何もないのだから。

「生芽は、ほらずっと海外暮らしだったから日本の文化を色々間違えてるんだよ……………たぶん」

「あー漫画の知識を本気しちゃってるタイプか~。残念だったね、生芽ちゃん。忍者はもう現代に居ないんだよ?」

「文脈は良く分からないけれど馬鹿にされていることは分かるわ」

 少しばかり高圧的な生芽に対して、司さんも言われてばかりではなくしっかりと言い返している。うーんこの二人仲良くなれるのか?

「きょ、今日の予定に関しては俺も聞いておきたいかな?」

 二人を放っておくと口論になってしまうので会話に割り込む。

「えっと、今日はね。今向かってる駅前に大きな商業施設あるでしょ? あそこって休日はいろんなイベントもやってるし、色々お店も入ってるからお礼を選ぶのに丁度良いかなって!」

 その商業施設は俺も知っている。基本的に人が多いので休日に寄りつくことは無いのだが、確かに色々とイベントを催してたりしていた気がする。

「へー、なるほどなぁー。………………。」

 いかん、会話が続かない。生芽とは多少の会話が出来るようになったとは言え、経験値の少なさがここに来て如実に表れている。くっ……女子に馴れてないと思われたく無い! そんな繊細な男心に苦悩していると

「はぁ……司、駄目ね。ダメダメだわ……」

また生芽が司さんに突っ掛り始めたようだった。

「え、えー、今、あたし何にもしてないと思うんだけど……」

「幸平が会話に困ってるじゃない!」

 不服そうに口を尖らせた司さんを生芽が一喝する。

 え、俺……?

「幸平は女の子喋るの苦手なんだから司が気を使ってあげないと。良い? 幸平はね、普段女の子と話す機会が無さすぎて基本的に目も合わせられないし、自分では普通に話してるつもりでも凄く早口になってしまうのよ!? それに今日は貴方のお礼とやらに幸平を付き合わせている訳でしょう? 余りにも気配りが足りてないのではないかしら」

「っ!?」

 司さんもどうしてハッとした顔してこっちみるの? その『やっぱりそうなんだ……!』 みたいな顔は何なの?

「わ、私もあんまり男の子と喋るのに慣れてないから…………ううん、違う、気づかないフリをしちゃってたんだ……。ごめんね、幸平君……。辛かったよね……?」

「………………うん」

 なんだろう、めっちゃ辛いわ。

「生芽ちゃん、気付かせてくれてありがとう……!」

「気にしないで、幸平の為に言っただけよ」

 二人は少しだけ仲良くなったようだ。

 それから目的の駅まで女の子二人に大いに気を使われ、会話は途切れることはなかったという。


 ※※※


「とーちゃーくっ!」

「思っていたよりも賑わっているのね」

 目的地である商業施設前に到着した俺達は今後の予定を再確認することにした。

「とりあえず適当に見て回る感じ?」

 とは言ったもののこの商業施設、増改築を繰り返しネット上では新宿駅、横浜駅に次ぐダンジョンになるのではないかと囁かれるほどに広い。

「一応何件か目星は付けてるからそこを回りながらって感じかな。雑貨屋さんとか服屋さんとか、幸平君が実際に見て貰っての意見とか聞きたいしね」

「本当に色々なイベントがやってるのね……子供向けからカップル、年配の方に向けたイベントもあるわ」

 ざっくりした行動予定を立てた所で、小さくお腹が鳴った。朝食をとってから大分時間も経っているし、お昼時だ。

「まず食事にしようか。ここなら大抵のものは揃ってると思うけど」

「あ、それなんだけど……実は今日、お弁当作って来たんだよね。公園で食べない? 良かったらだけど……」

「本当に? 何だか悪いなぁ」

「良いの良いの! 好きでやってることだもん!」

「んじゃ何処で食べようか……。流石にフードコートで弁当広げるのもなんだし」

「確かそこの公園にピクニック用のスペースあったよ。丁度良いんじゃ無いかな!」

「こほん……こほんこほん」

 生芽がわざとらしい咳払いで視線を集める。

「どうしたんだ?」

 生芽がもじもじとしながらトートバックを開いて見せた。

「実は、その……私もお弁当、作って来たの……」

「おぉそっか……」

 もしかして早起きして作ってくれていたのだろうか。言ってくれれば俺も手伝うのに……。

「て、手伝いもせず、本当にごめんなさい……」

「何で幸平が謝るの? 私も好きで作ってるんだからそんな顔しないで」

「へー、生芽ちゃんも作って来たんだ。これは……勝負だね!」

「それはどちらのお弁当が幸平の好みに合うかということで良いのかしら?」

「平和的に楽しいご飯にしようよ……」

そんな俺の意見は無かったことにされ、第一回お弁当審査会の開催が決定したのだった。


※※※


 土曜日ということもあり公園のピクニックゾーンは家族連れやカップルで賑わっている。なんとか空き場所を見つけ、レジャーシートを広げる。多少窮屈ではあるが何とか三人分のスペースはある。

「あたしのお弁当は……じゃじゃーん! おにぎりでーす! 二段目におかずもあるからねっ!」

 司さんがリュックから取り出したのは二段構造のお弁当箱、重箱よりも一回り小さいそれの一段目には、つやつやとした米のおにぎりが詰まっていた。どれも均等なサイズに握られており、日頃から料理に触れているということが伝わってくる。二段目の箱には、ほうれん草の和え物、金平、豚の角煮、筑前煮など、色合い眩しいおかずの数々が敷き詰められていた。

「私はこれを」

 生芽のクリーム色のトートバックから取り出されたのは、バンブーボックスと呼ばれる竹で編まれたお弁当箱が二つと小さなタッパーが一つ。一つ目のボックスにはサンドイッチが敷き詰められていた。レタスとトマトを薄くスライスしたものとベーコンを挟んだBLTサンドに豚バラを重ねて揚げたミルフィーユカツサンドとタマゴサンド。二つ目のボックスには赤ウィンナーや鶏肉のから揚げ、卵焼き、レタス、プチトマトなどが敷き詰められている。二つのお弁当箱には、華麗に飾切りされたリンゴのウサギさん達が鎮座していた。どうやって切ったらこんなリアルなウサギさんになるんだろう。今度教えて貰おうかな。


「「…………」」


 互いに自身のお弁当を紹介したのち無言で俺を見つめる二人。

「そんなに見られてると食べづらいんだけど……」

「あはは~っ! ごめんねぇ! 口に合うか気になっちゃって。じゃあ私のおすすめのおにぎりをどーぞ!」

 そう言って小ぶりなお握りを手渡される。

「待って、私のサンドイッチもお勧めよ。ちゃんと幸平好みの味付けにしたんだから」

 と、タマゴサンドを空いている方の手に渡される。

 期待を込めた視線が二つ。

 どうすれば……? どっちから食べれば……? どちらかを先に食べても角が立ちそうなこの状況。凄く嫌だなぁ。選択するということはストレスであると聞いたことがある。特にこういう男女関係に関する選択は特にストレスなんじゃないかと思う。主人公ってやつはこんなにもストレス過多の生活を送っていたんだなぁ。

「い、頂きますっ!」

 俺はおにぎりとサンドイッチを同時に口に放り込む。もぐもぐごっくん。

「いやーどっちも美味しそうで思わず同時に食べちゃったよー。はははっ」


「「…………」」


 何故だろう二つの視線に落胆の感情が混ざっている気がする。

「その、なんていうか……交互に食べるので勘弁してくれないですかね……?」

 俺は二人が小さく溜息を付いたのを聞き逃さなかった。少し傷ついた。ぐすん。


※※※


「…………お腹が……はちきれそう……。うぷっ……」

 生芽と司さんがそれぞれ3人分作っていたので計6人分のお弁当を胃に収めた俺はゴロリと横になる。柔らかな風が吹き、気温も穏やかで心地が良い。

「ちょっと暫く横にならせて……今動いたら全部出ちゃいそう……」

「幸平ったら、無理しなくて良いって言ったのに……」

「でも全部食べてくれて嬉しいよ! あ、良いこと思いついた! 幸平君、ここ使って良いよ!」

 と、俺の横に移動してきた司さんが、そっと俺の頭部に手を回し優しく持ち上げる。とても柔らかくて暖かいものの上に降ろされた。なんだろうこれあったかくて柔らかくて、でも程よい弾力があってサラッとした肌触り。

 え、これって……オン ザ 太もも……? いわゆる膝枕ってやつでは!?

「ひゃっ、くすぐったいよぉ~」

「アイェエエエエッ!? ナンデ!? 膝枕ナンデ!? ――うぇっぷ!?」

 とっさに体を起こそうとするが残念なことに腹部の膨張により身動きがとれない!

「ほらほら幸平君。身動きしちゃだめだよ、ね?」

 優しくおでこを抑えられ、そのまま額をなでなでされ――

「よーしよーし。なんか可愛いかもー」

 なんだ、これ……これは、母性……バブみってやつか!? まさか司さんは俺のママになってくれる女性なのか!?

 くっ、逆らえない……! これが赤い彗星ですら逆らえなかった母性か……! そんなの俺が逆らえるわけないじゃないか! 無性にオギャりたい!

「ば、ばぶばぶー!」

 精神が赤子へと逆行しかける最中、――ガシッと頭を掴まれ、そのままグリンと首が回転する。

「幸平」

「は!? 生芽!? 俺は一体何を!?」

 とても甘美な空間に居た気がする。

「ねぇ、こっちの膝枕の方が気持ちいでしょ? 幸平」

 司さんに膝枕をされていると思ったら今度は生芽に膝枕をされている。

 どうやら向かい合わせに座った生芽と司さんの膝の上を移動させられたらしい。

「膝枕をするなら断然私の方が適任だと思うのだけど、人工物が間に挟まった膝枕と違って私の膝枕は生よ。ね? 幸平、生の方が気持ちいでしょ?」

 確かに後頭部というか頬に感じる感触は人肌のそれである。生芽はシャツワンピをめくって生足で膝枕をしているのだ。

「ちょっと大胆過ぎないかな!? スカートのとこめくり過ぎじゃない!?」

「この位置なら誰にも見られないし、幸平も生の方が気持ちいでしょ……」

 耳元で囁かれ脳がぞわぞわする。これが生ASMR……。

「むぅー! そんなことないよ――ねッ! こっちの方がサラサラしててべたつかないしお昼寝ならこっちの方が良いよね?」

「――がッ!?」

「いいえ、生の方が気持ちいいいに決まってるわ」

「ごッ――!?」

「もう、生生言わないでよ! 恥ずかしいじゃん!」

「げッ――!?」

「はぁ? それは貴方の頭が桃色なだけでしょう? 厭らしい」

「ぐぺッ――!?」

「違いますー! ていうか神楽さんこそ狙ってるでしょ! 絶対狙ってる! そっちの方が桃色じゃん!」

「――――」

「幸平君……?」

「幸平?」

「寝ちゃったのかな?」

「全く良いご身分ね」

 慣性の法則ってご存知かな?


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