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「てかさぁ生芽ちゃん今日もカラオケ一緒に来てくれなかったわぁ。ショックだわぁ……」
「ちょ、あんたさっきからそればっかりじゃんw。どんだけ神楽さんとカラオケ行きたいわけ?」
「逆に行きたくない奴なんておらんやろ」
「ほんとそれ」
「わかりみ」
「『お夕飯の準備があるから……』って可愛すぎかよっ! あの見た目で家庭的とか反則だしょ!」
「あーくそ、あいつ羨ましいなぁ。なんて言ったっけ? 須賀? 生芽ちゃんと一つ屋根の下とか羨まし過ぎるだろ!」
「ほんとそれ」
「つかあの二人の関係って本当にそれだけ? 怪しくない?」
「怪しいって?」
「だってさぁ。神楽さん妙に須賀のことかまってるじゃない?」
「それは俺も思ってた! あれは何かある!」
「ハイハイ! 俺、須賀が生芽ちゃんの弱み握ってるって噂聞いた!」
「うわまじ? 須賀最低じゃん。喋ったことないけど」
「まぁ俺も喋ったことないな」
「私も~」
「まぁマジなこと言うと、須賀も須賀だよな。生芽ちゃんにあんなに気を使わせてさ。何様って感じ……内心、生芽ちゃんも困ってるだろあれ」
「一理ある~」
「ほんそれ」
「完全に調子こいてるよね」
話声が足音と共に遠ざかっていく。
部室錬から教室に戻る途中、同じクラスの連中が進行方向から接近してくることに気づき、とっさに空き教室に潜んだのだ。うわぁクラスでも目立つグループじゃん……ちょっと気まずいなぁ……。と軽い気持ちで身を隠したらというのに、まさかこんなダイレクトな悪口を聞く羽目になるとは……。
「…………」
感情を飲み込むように深めに息を吸う。
別に面と向かって言われた訳でもない。今日一日ですら、俺に聞こえるようにちょっかいかけてくる奴は何人か居たし、そいつらに比べればさっきの奴等は大分マシ。むしろ配慮している方だ。
「………………くだらないよな、本当に……」
一言だけ吐き捨てるように口にして、再び教室に向けて歩き出した。
大丈夫、俺は、大丈夫だ。