2-4
早速、閃いた名案を提案する。
「あの司さん、お礼の件なんだけどさ。翔も一緒で良いかな?」
「それって……?」
司さんが不思議そうな顔で聞き返す。
「ほらあの時、警察が来てくれたでしょ? アレ呼んだの多分コイツ」
「そ、そうなの!?」
よくよく考えてみればあのタイミングで通報出来るのは翔くらいだろう。俺を路地に突き飛ばした件は許しがたいが……。
「で、お礼っていうか、皆で遊びに行く感じで……生芽も一緒に4人でさ。司さんがプランを考えて俺達をもてなしてくれるってのはどう?」
正直、女の子と二人で出かけるというのは糞ナード(童貞)である俺にはハードルが高いし、皆で遊びに行くという体裁なら生芽が居ても問題ないだろう。それに司さんが段取りを決めるというのもお礼の形として妥当ではないだろうか。問題は俺がお礼を受けるようなことをしていないという点だが……。警察に連絡をした翔の方がよっぽど役に立っている。
「うん! 幸平君の案良いと思う! …………本当は幸平君と二人で……ううん! なんでもない! 何でもないよ!」
本当は二人で……というのを完全に聞き取っている訳だが変に突っ込まない方が良いだろう。難聴系主人公は実際全てを聞き取っている説に一
「ありがとう。じゃあ鹿山君にもちゃんとお礼しないとだね」
司さんは、未だに膝から崩れ落ちた姿勢でメソメソしている翔の近くにしゃがむと声をかける。
「ね、鹿山君……で良いのかな……? あたし、喜悲劇司っていうの。昨日は本当にありがとう。すごく嬉しかったよ」
「うぁ……?」
顔をあげた虚ろな瞳に司さんの整った顔が映る。
「わァ……ぁ……」
翔の口からちいさくて可愛いキャラクターが泣いちゃった時に出るような声が漏れる。
「今度、そのお礼がしたくて幸平君と生芽ちゃんと出かけるんだけど、鹿山君も一緒に来てくれないかな?」
「そ、それって俺も仲間に入れてくれるってコト!?」
こいつちい〇わなんか?
「勿論だよ~! だって幸平君と鹿山君は私の恩人だもん」
「行く行く! 絶対行くよ! ヤター!」
翔は生気の漲った表情で立ち上がると、改めて自己紹介を始める。
「俺は鹿山翔、この須賀幸平の親友です! 以後お見知りおきを」
「へぇ二人は仲良しなんだ。素敵だねぇ」
「もう親友も親友、心の友という奴ですよ!」
言いながら俺の肩を抱くと高笑いをし始める。唐突に親友キャラを思い出したらしい。俺はこいつの情緒が心配だよ。
「鹿山君、よね? 同じクラスの。幸平と仲良くしてくれてありがとう。これからも仲良くしてあげてね。この子、友達が少ないみたいだから」
生芽どんな立ち位置なの? お母さんなの? 人付き合いが苦手な息子を心配するお母さんなの?
「勿論。コウのことは俺に任せてよ。何たって腐れ縁の親友だからね!」
バチコーン☆と腹が立つ程にさまになるウインクまでキメてみせる。相当浮かれているようだ。恐らく司さんも翔基準で二次元レベルの美少女認定をされているのだろう。翔が三次元の女の子に興味を抱くというのはそういうことであり、翔はそういう奴なのだ。
「あ、そうそう幸平君、鹿山君。連絡先教えてくれるかな?」
「「わァ……ぁ……!」」
女の子との連絡先の交換なんて人生で初めての糞ナード(童貞)達が、ち〇かわになってしまうのは仕方がないことなんじゃないでしょうか。
その後、余りに連絡先を交換しないあまりメッセージアプリのID交換方法が分からない、陰キャ二人はなんとか連絡先を交換したのでした。
因みに交換した覚えはないのに既に生芽の連絡先が登録されていたことに恐怖を感じたのはまた別の話。
※※※
「じゃあ連絡するねーっ! 幸平君、鹿山君、あと神楽さんもまたねー!」
電車通学である司さんは、ハツラツと手を振りながら駅の方への駆けていく。清涼剤のような子だった。そんな子に無い恩を返して貰わなければならないという状況に胸が痛む。チクチクするよ……。
「あの子、私のことだけオマケみたいに扱わなかった?」
「俺は、コウだけ名前呼びなのに明確な格差を感じているよ」
二人は何やら引っかかっているようだが、なんだかんだと丸く収まって良かった。……いや、丸く収まったか? ラブコメの型に嵌められてないか?
「ところでコウ、どうして生芽ちゃんとコウがこんなところで一緒に居るんだ? お?」
万力のような力で俺の肩を掴みながら翔がにこやかに問うてくる。
やっぱ聞いてくるか。ここは正直に一緒に暮らすことになったと言って良いのだろうか? というかコイツはもう全てを察している気がする。察したうえで俺に確認をしていると思う。
「昨日は、部屋の居住権を賭けた決闘をしたんか? 朝までお楽しみだったんか? おん?」
それはちょっと意味が違ってくるし、俺達は学園異能バトルラブコメの住人では無い。
「あーえー…………てる訳で……」
「お?」
「……色々あって一緒に暮らすことになった訳で……」
「そうか……やはりそうなったか……。じゃあ俺は先に学校行ってスタンバイしとくから……ちょっとゆっくり来いよ!」
「お、おう……?」
奇声をあげながら襲い掛かってくることを想定していたので拍子抜けである。てかスタンバイって何? こいつ何する気なの? 絶対碌なことじゃないよな?
「なぁ翔、お前何する気だ? あんまり変なことしてくれるなよ? 分かってるよな? フリじゃないからな?」
「大丈夫大丈夫、心配するなって。上手くやるから」
「だから何を!?」
「じゃあ生芽ちゃん、また学校で!」
そう言い残すと翔は一足先に学校の方へと走り去ってしまった。
「一応、言っておくけど学校では俺等が一緒に暮らしてるってことは秘密だからね?」
「どうして秘密にする必要があるの?」
「どうしてってそりゃ色々不味いでしょ……」
ただでさえ目立っている話題の転校生、神楽生芽が糞陰キャである俺と一緒に暮らしてるなんてバレたら絶対に禄でも噂がたつに決まっている。下衆な噂も立つだろうし、俺だって逆の立場ったら「若い男女が同じ屋根の下――何も起きない筈がなく……」みたいな上から下へと流れてきてスワイプとかタッチの邪魔をしてくるエッチな漫画の広告みたいな勘ぐりをするだろう。え? ああいう広告はターゲッティング広告だから日頃からエッチなサイトを見てないと出てこない? 今はそんな話してなくないですか? 俺の検索履歴とか関係なくないですか?
「と、とにかく秘密だからな!」
「幸平がそこまで言うなら構わないけど……」
生芽には念押したものの、ラブコメにおいてこの手の秘密はバレる為にあると言っても過言ではない。ふとした拍子にボロが出ないようにしなければ……。