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幸せになりたい青い鳥  作者: 愚直や さとよ
1/1

僕の感じる"幸せ"を青い鳥が見つけるまでの物語。

幸せってなんだろう?

 何を、どうしたら"幸せ"と感じるの?

おやつを食べたとき?お昼寝したとき?晴れたとき?雨が降ったとき?

 幸せの感じ方はそれぞれだ。

 僕は鳥です。青い鳥です。

 僕も幸せになりたいです。



 人間たちは<僕>のことを"幸せの青い鳥"って呼んでいます。捕獲すると、一生の幸福が訪れると言い伝えられています。

 僕は自分がそういう存在なのだと知ってから、考えていました。

 僕は?僕自身は?もし捕まってしまったら、一生籠の中で暮らしてそれで幸せだと感じることができるのだろうか?考えただけで、息が詰まりそうだった。

 僕の感じる"幸せ"とは何なのか。知りたい。そう思い至ると、僕は幸せを探す旅に出ました。見つかるといいな。



 ある日のこと。雲一つない、澄み切った青い空を青い鳥が飛んでいた。

旅に出ていた青い鳥は、空を飛び続けて疲れていた。一休みしようと思い地上を見ると、森に囲まれた中に小さな穴が目に映った。芝生が絨毯のように柔らかそうで、自然の野花も咲いていて、人気もないので、羽を休めるには丁度良い場所だった。

 ゆっくり降りていき地面と自分の距離が近づくと、野花の内でもシロツメクサが咲いているのが目に留まった。

 そのシロツメクサの群れの中でも、凛と真っ直ぐ背筋を伸ばして空を見上げる一枚の葉

に目を奪われた。

 何と美しいのだろうか。

 青い鳥はその葉のそばに導かれるようにそっと降り、そして声をかけた。

 「初めまして。僕は青い鳥です。旅をしています。ですが長旅で疲れていて少しばかり羽を休めたいのですが、隣、よろしいですか?」

 葉は答えた。

 「初めまして、私はシロツメクサの四つ葉と申します。それはお疲れでしょう。ええ、構いませんわ。どうぞゆっくりしていってくださいな。」

 「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。」

 青い鳥はそう言うと、芝生に座った。羽を一度ぐっと伸びをしてからゆっくりと閉じる。

 「四つ葉さん。ここはとても素敵な場所ですね。空気は美味しくて陽が程よく当たって温かくなった草の上はふかふかで、包まれていて心地が良いです。肌に当たる風も柔らかくて、眠くなってしまいそうです。」

 「この場所が気に入っていただけて光栄だわ。私にとっては見慣れた、当たり前の場所だけど、アナタの目にはそんな風に見えるのね。何だか新鮮な気持ちになるわね。嬉しくなっちゃうわ。」

 「僕の言葉で喜んで貰えたなら、それは良かった。」

 「ねぇ、青い鳥さん。アナタは旅をしていると聞いたけど、どこから来たの?どうして旅をしているの?」

 「僕はここから遠い、海に囲まれた小さな島からやってきました。旅をしているのは、自分だけの幸せを見つけるためです。」

 「・・・自分だけの幸せ。」

 ぽつりと四つ葉はつぶやいた。呆けたようになった四つ葉に、青い鳥は不安になった。

 「やっぱり変・・・ですか?」

 「いいえ。それはとても素敵なことだわ。」

 四つ葉はしっかりとした口調で言葉を返した。青い鳥は安心した。

 「四つ葉さんはずっとこちらに?」

 「ええ。生まれたときからよ。だから退屈で、お話し相手が欲しいと思っていたところなの。だから青い鳥さんが来てくれて嬉しいわ。」

 「それは良かった。あの、四つ葉さん。」

 「何かしら、青い鳥さん。」

 四つ葉は首をかしげた。

 青い鳥はその先を言おうとして、逡巡した。初めて会ったばかりの彼女に、今から自分が言うことは唐突過ぎて引かれてしまわないか。嫌われたらどうしよう。だけど頭で考えている間に、口が体から切り離されたみたいに、先に想いを吐露していた。

 「四つ葉さんの名前はとても素敵ですね。響きが美しい。それに、空から貴女を一目見たとき、凛としていて美しいと思いました。」

 「あら、ありがとう。そんなことを言われたら照れてしまうわ。けれど、誉めてもらえて嬉しいわ。」

 良かった。嫌われなかった。

だけど、と四つ葉は続けた。

「私はアナタこそ素敵なお名前だと思うわ。それにそのお姿も、あの空の色と同じ青色で魅力的だわ。」

 青い鳥は、胸が高鳴った。自分の思って言った言葉に照れた声色も、自分を誉めてもらえたことも。そわそわして、くすぐったいような気持ちになった。言ってみて良かった。


 四つ葉は空を見上げた。青い鳥も真似して空を見上げてみた。

 森で縁取られた空は決して広くは見えない。けれど、風で揺らされて爽やかな音を立てる木々の葉や、木漏れ日も美しく神秘的で、簡素な空を引き立てていた。

 彼女の目線側に立って見てみた、見飽きた筈の空の景色は、いつもと違って新鮮でキラキラして見えた。今までも旅の途中で綺麗だと感じた景色を見てきたのに。今までで一番綺麗だと感じた。不思議だ。心もふわふわとして軽く感じるような。



しばらくお互い黙ってその景色を鑑賞したのち、四つ葉は空を見上げたまま青い鳥に話しかけた。

 「ねぇ、青い鳥さん。おしゃべり好きな友達の風さんから聞いたことがあるのだけれど、もしかしてアナタは〃幸せの青い鳥〃かしら?」

 「はい。僕は"幸せの青い鳥"って言われています。」

 「やっぱり、そうなのね。私と一緒だわ。」

 「何が一緒なのですか?」

 「私は"幸せの四つ葉のクローバー"って言われているの。他のシロツメクサの子たちと違って葉が四つなの。他の子たちの葉は三つなのよ。私を見つけると幸せに、摘むと幸福が訪れるそうよ。風さんが言っていたけれど、見つかって摘まれちゃった四つ葉のクローバーは、ティッシュに包んで本に挟まれちゃうって聞いたわ。四つの葉がちぎれてしまわないようにするためにだって。」

 そんな。

 青い鳥は心が痛くなった。脳裏に自分の姿が重なった。

 「四つ葉さんも同じように、いつか摘まれてしまうのですか?」

 「そうかもしれないわね。」

 四つ葉は苦笑した。

 「でも私、分からないの。他の四つ葉のクローバーたちは人間を幸せにできて嬉しいって言うわ。葉が四つで良かったって。見つけてもらえるのが楽しみだって。・・・誰かを笑顔にできるって、確かにそれはとても素敵なことだと思うわ。幸せにしてあげられたらきっと、それがあの子たちにとっての幸せなのね。」

 でも私は・・・。そう言うと四つ葉の声は弱々しくなり、空を見上げていた顔は自分の足元を見下した。自分の足と地面を見て、落ち込んだ。



 四つ葉は思い返していた。それは、おしゃべり好きな風のこと。最初に見つけて話しかけてきたのは風だった。それまで四つ葉はただ息をしているだけだった。そのことに意味などはなかったし、考えもしなかった。「あら、こんなへんぴなところに四つ葉が咲いているわ。これじゃあ、人間に見つかる前に枯れちゃうわね。もったいないわ。あなた綺麗なのに。」「四つ葉・・・?人間・・・?」山彦のように、最初はオウム返しするだけだった。風が自分に対して話しかけているのだと理解するまでには時間がかかった。「あら。ただの草だと思っていたけれど、ワタシの言葉が分かるのね。あなた。」たまにいるのよね、そういう子。と言って、風は四つ葉に興味をしめした。

風は四つ葉と出会ってから、よく四つ葉のもとへ遊びに来た。遊びに来ては、四つ葉の知らない色んなことを教えてくれた。四つ葉のクローバーもとい、シロツメクサのこと。人間のこと。自然のこと。それは、四つ葉にとっては刺激的で有意義な時間だった。そのうち自ら気になることを質問するようになっていった。自我意識が芽生えたからだろう。野花のこと。虫のこと。木のこと。天気のこと。空のこと。四つ葉は知識や感情をどんどん吸収していった。でも色々なことを知っていくうちに四つ葉にある思いが芽生える。

 自分は地面から動けない。それは絶対的な現実だった。自分が空しいと思った。自分の人生はなんてつまらないのか。風になりたかった。自分の目で風が言う世界を見てみたかった。風と知り合わければ、こんな感情は持つことは無かっただろう。でも、決して後悔はしていない。むしろ感謝さえしている。だって自分が"幸せの四つ葉のクローバー"で、人間に幸せを与えられる存在なのだと知れたからだ。

 でも。風の言葉を思い出す。「この間、他の四つ葉のクローバーが人間に摘まれてもっていかれるのを見かけたわ。何だか幸せそうだった。不思議よね。」

その四つ葉のクローバーの気持ちは何となくわかる。例えば、かくれんぼ。

 普段なら気にも留めず踏まれるだけの存在だが、四つ葉のクローバーを探すとなったら違う。そのときだけ人間と対等になって遊べるのだ。見つけてもらえるまでが楽しい。

こっちだよ。それは四つ葉のクローバーじゃないよ。葉が重なって見えちゃったね。残念、惜しかったね。次は見つけられるかな?頑張って。

見つかったら負けではなく勝ち。見つけてもらえない、かくれんぼなんて寂しい。だからきっとその子は幸せそうだったのだろう。例え、そのあとに本に挟まれる末路になろうとも。大事にしてもらえるだろう。それはそれで、幸せなのだろうなと想像する。だけど自分は違う。それだけで満足なんかできない。だって私は広い世界を知っているの。だから私は・・・・・・。



 どうやら四つ葉は深く思考の海に沈んでいたらしい。黙り込んでしまった四つ葉に青い鳥は困惑している。悩んだ末、青い鳥は片方の羽を広げると、嘴で器用に自分の羽根を一つ取り、四つ葉の目の前に差し出した。

 「えっと、あの!僕は〃幸せの青い鳥〃です。羽根一つでは貴女に幸せを運んであげることはできないかもしれないけれど、どうか元気を出して下さい。顔を上げて下さい。貴女が悲しいと僕も悲しくなるのです。」

 「ありがとう。親切な青い鳥さん。・・・羽根もとても綺麗で素敵だわ・・・・・・。」

 あの空と同じ・・・と言いかけて逡巡してから四つ葉は「笑わない?」とだけ聞いて、青い鳥を試した。

青い鳥も何にとは聞かず「笑いません。」と答えた。その言葉に安堵して四つ葉はおしゃべり好きな風にも言えなかった思いを言った。

 「・・・変わり者かも知れないけれど私、空を飛んでみたいの。ずっと憧れていたわ。土が無いと生きていけなくて。この場所から動けなくて。せっかく四つ葉のクローバーとして生まれてきたのに、こんな人気のない場所、見つけてもらえないかも知れない。」

 おしゃべり好きな風の言葉が頭をよぎる。「こんなへんぴなところ」「人間に見つかる前に枯れちゃうわね」

 「このまま枯れて土に還るのは嫌だって思ったの。・・・だから別の、私の、私だけの願いを見つけようって思って。考えて、考えて、やっと見つけた私の望みがね。私、空が飛びたい。それで自分の目で色んな景色を見てみたい。広い世界が見てみたいわ。だから、空を飛んでみたいのよ。」

 そのためにはと、四つ葉はまるで神に祈る様に、青い鳥に懇願する。

 「お願い。どうかその器用な嘴で私を摘んで、空へ連れて行って。」


 静かに四つ葉の思いを聞いていた青い鳥は最後の言葉を聞いて、目を見開いて言葉を失った。何か、重石が体に乗ったように。四つ葉の思いはすごく伝わった。でも、四つ葉を摘んで咥えて飛ぶということは。それがどういう意味か。他の誰でもなく青い鳥に願った四つ葉。内臓が拘束されたようにぎゅっと痛む。心臓が、胃が、喉が痛い。やがて重い口を開いた。

 「・・・それが、貴女が笑顔になる方法ですか?」

 「・・・!!ええ!!叶えて下さるのね。」

 青い鳥の言葉を聞いて、はじかれたように四つ葉は顔を上げた。ハッとした。青い鳥の顔は、さっきまでの四つ葉のそれと同じように交代して、暗くなっていた。四つ葉は胸が締め付けられた。自分の言葉が青い鳥を苦しめている。自分が何を言ったのかはちゃんと分かっていたつもりだった。でも、青い鳥の立場まで考えてなかった。ただ、青い鳥になら安心して身をゆだねられると。四つ葉の思いは、重かった。

 「・・・ごめんなさい。青い鳥さん。私、何て身勝手な願いを・・・。」

 「どうか謝らないで下さい。四つ葉さん。決して言わなきゃ良かったなどとは思わないで下さい。僕は貴女の望みが聞けて良かったと、心から思っています。僕に願ってくれたことも嬉しいと思ったのは嘘ではありません。ただ、覚悟を決める勇気が無かっただけです。」

 青い鳥は深呼吸した。そして言った。

 「・・・分かりました。空を一緒に飛びましょう。」

 「ありがとう。青い鳥さん。ありがとう。」

 涙ぐんだ声で、四つ葉はお礼を言った。青い鳥は苦笑か微笑か、どっちともつかない表情で、どういたしましてと言った。

 「ですが、四つ葉さん。どうやら、もうじき日が暮れそうです。夜は周りが見えにくく飛び辛いので、明日の明け方に出発しましょう。」

随分話し込んでいたのか、すっかり太陽は落ちかけている。夕日が森を包み暗赤色に染め上げていた。情熱的な夕日は、今日のお別れをしに来たように、四つ葉の願いと青い鳥の新たな旅を祝福するように、一瞬眩い程に輝いては、ゆっくりと大地に落ちていった。

 「あら、気付かなかったわ。もうじき夜がやってくるわね。星が踊り出すわ。ここの景色が気に入ったなら、夜の景色もきっと気に入るはずよ。眠る前に見てみて。きっと楽しいわよ。」

 「それはぜひ見てみたい。けれど星が楽しみだと眠れなくなってしまいます。」

 「それは困っちゃうわね。私は明日が楽しみ過ぎて眠れないけれど。地面に足が着いている内に今晩は星と一緒に踊ってみようかしら。」

おどけた風に四つ葉は言った。青い鳥はつられたように笑った。


 星が月に照らされて、輝いて踊っていた。闇夜は星のステージ場。大地は観客。星はまるで生きているかのように脈を打ち、鼓動のリズムに合わせて踊っている。

 青い鳥と四つ葉も観客席側から星のダンスを見ていた。瞼が閉じるまで、眠ってしまうまで、星空を眺めていた。



 そして、夜が開けた。

 朝焼け色のカーテンが名残惜しそうな星をなだめる様にして、優しく閉じていく。

 青い鳥と四つ葉は向かい合っている。

 青い鳥が聞く。

 「野暮ったいことを言うようで申し訳ないのですが、本当にこれでよろしいのですか?貴女は摘まれてしまえばすぐに枯れてしまいます。枯れてしまったら煽られて葉が千切れやすくなってしまい、景色を見ることが難しくなっていくでしょう。」

 「ええ。構いませんわ。私を大事に思ってくれてありがとう青い鳥さん。例え寿命が早まろうとも、少しの違いよ。どうせここに居てもじきに枯れるから。やっぱり、アナタに頼んで良かったわ。」


 青い鳥は四つ葉に顔を近づけた。口を小さく開けて、四つ葉の茎の根元部分を嘴で軽く挟むと、軽い音を立てて、摘んだ。

 青い鳥は飛んだ。四つ葉を咥えて。四つ葉は自分の生まれた場所を見た。どんどん小さくなっていく。もうそこには自分は居ない。代わりに、青い鳥が四つ葉にくれた青い羽根を置いてきた。その光景を目に焼き付けた。


そして空を見た。

 どこまでも広い空が視界いっぱいに広がっている。遮るものはもはや無い。

何て綺麗で美しい。もし涙が出るのなら、きっと今泣いているはずだ。感激するとはこのことを言うのだろう。

今度は森を見下してみる。今までは森に木に見下される側だった。

耐え切れず四つ葉は叫んだ。

 「どうだ!私は今空を飛んでいる。四つ葉のクローバーが空を飛んでいるのよ!」

 青い鳥は一瞬驚いたが、四つ葉の言葉に喉をクックッと鳴らした。

 「そんなに気に入ったなら、もうちょっと高く飛びましょうか。森を従える山が見えます。凸凹としていて面白いですよ。それと海。少し時間はかかりますが、これより先に行くと海が見えます。空と海が一面に広がる景色は貴女のお気に召すはずです。」

 四つ葉がはしゃいだ声をあげた。

 「まぁ、素敵。是非見てみたいわ。でも、まずは山ね!!」


 青い鳥は四つ葉の目線側から、四つ葉は青い鳥の目線側から、色んな景色を見て周った。山の木々草花、小川や滝。それは青い鳥にとっては日常の光景で、四つ葉にとっては知識では知っていても直接見たことのない景色ばかりで、四つ葉の感覚で表現する言葉で見る景色は、新たな発見をして彩られ、美しさを知った。


 青い鳥と四つ葉は旅をした。短い旅をした。海が見たいと言った四つ葉のために、青い鳥は海を目指していた。徐々に海が近づく。

 「四つ葉さん。もうじき海が見えますよ。そこは、空と海だけの世界が広がっています。見えますか、四つ葉さん。」

 「ええ。うっすらとだけど見えるわ。あれが海なのね。早く視界いっぱいに見てみたいわ。」

 四つ葉は、四つ葉の葉は、もういくつか千切れていた。海まで持ちこたえるかどうか。多分もうあまり見えないのだろう。あと葉は二枚。

 山を抜け、海が姿を現した。

 「四つ葉さん。これが海ですよ。」

 四つ葉は青い鳥に促されて海を見た。その景色は青い鳥が言っていたように空と海だけの世界が視界いっぱいに広がっていた。葉が一枚落ちていった。あと一枚。

 「まぁ!何て綺麗!何て素敵なの!星が寄せ集まったかのようにキラキラ輝いているわ。なるほど。太陽ね!月は星を、太陽は海を輝かせるのね!ああ。本当に何て綺麗なの。これが世界なのね。私こんな美しい世界の一部として生まれてきたのね。」

 四つ葉の声は嬉しそうだった。感動している四つ葉を見て、青い鳥は視界がぼやけた。何故、涙がにじむのか。泣いたらいけない。四つ葉の言葉で表現した海が見えなくなる。

青い鳥は海を見た。何故今まで気付かなかったのだろう。こんな当たり前の景色が綺麗だなんて。空も、森も、山も、海も。見ているようで見てなかったのかも知れない。

 「確かに美しいですね。とても。」

 「そうでしょう!」

 四つ葉は振り返って青い鳥を見て言った。きっと満面の笑みだ。だが、振り返ったことで最後の葉が千切れ、海に落ちていった。青い鳥は悲痛のような声をあげた。

 「ああ!!」

 茎だけになった四つ葉。もう顔は見えない。

 「ありがとう青い鳥さん。最期まで私のわがままに付き合ってくれて。」

 青い鳥は言葉が出ない。今自分はどんな顔をしているだろう。

 「きっとアナタは今、悲しい顔をしているわね。声だけで分かるわ。どうか、悲しまないで。私、今とっても〃幸せ〃よ。アナタのおかげだわ。アナタが私の元へ来てくれたから空を飛べたのよ。私の願いを叶えてくれて、幸せにしてくれてありがとう。」

 「そんな、僕は・・・。」

 何と返せば良いのか分からない。分からないけれど、きっとこの言葉でいい。

 「どういたしまして。」


 青い鳥と四つ葉の元に奇妙な風が吹いた。いや、舞ったというべきか。実態が無いが、そこに在ると感じ取れる。その奇妙な風は、「久しぶりね。」と言ってきた。四つ葉が、「ええ、お久しぶりね。風さん。」と返した。それでようやく青い鳥はその風が、四つ葉のお友達の<おしゃべり好きな風>だと理解した。

 「やっと見つけたわよ。遊びに行ったらいつもの場所にあなたが居ないから吃驚したわ。青い羽根まで残しちゃって。・・・まぁ、大体のことは分かったけど。それにしても。あらあら、まぁまぁ。せっかくの綺麗な姿が台無しじゃない。へんてこな恰好ね。茎だけじゃない。そうなってまで観たかったものなの?」

 どうやらこの、おしゃべり好きな風は、ある程度知っているような口ぶりだ。対して四つ葉も驚かない。

 「ええ。そうよ。風さん。私今とっても幸せなの。せっかく遊びに来てくれていたのにごめんなさい。驚かせちゃったわね。それと、風さんにもお礼がまだだったわね。ありがとう、風さん。私に色んな話を聞かせてくれて楽しかったわ。」

 「そう。なら良かったけど。ワタシは、ただ暇つぶしがしたかっただけよ。」

 つんとした声で風が答えた。四つ葉としゃべり方が似ているが、全然印象が違う。

そして改まった様に四つ葉と青い鳥に話しかける。

 「風の掟において、あなたを迎えに来たわ。それと、その青いの。確か・・・青い鳥・・・だったかしら?その子を渡して頂戴。土に還すの。安らかにね。それが「風」の仕事なの。種じゃないあなたがこんな行動に出るなんて思いもしなかったわ。おかげでこのワタシがわざわざ迎えに来る破目になった。あなたに構ったからね。いい迷惑よ。」

 青い鳥は不快感をあらわにした。静かに聞いていた四つ葉もそれを感じ取ったのか気遣うように喋った。

 「悪気のある言葉じゃないわ。青い鳥さん。風さんの言うことはもっともなの。それが自然の理なの。」

 四つ葉は柔らかい声で諭すように青い鳥に言った。

 「ここでさよならしましょう。青い鳥さん。私はもう土に還らなくちゃ。今まで本当にありがとう。感謝してもしきれないわ。」

 青い鳥は何も言えない。駄々をこねる前に諭すように言われては抵抗できない。自然の理。青い鳥では四つ葉を、安らかに土に還すことはできない。おしゃべり好きな風も、青い鳥が自ら口を離すのを待ってくれている。強引に引きはがすこともできる筈なのに。

 四つ葉が最期の言葉を告げた。

 「私の四つの葉ではアナタを幸せにすることは出来なかったけれど、どうかアナタが幸せを得られるように心から祈っているわ。」

 「四つ葉さん。僕の方こそ感謝しています。・・・・・・。ありがとう。」

 うまく言葉に出来ず、まだ伝え足りない物足りなさを抱えて、かろうじて感謝だけ述べた。四つ葉には見えていないだろうが、せめてもの思いでやせ我慢の作り笑いをした。

 青い鳥は四つ葉を咥えていた嘴を動かして、離した。おしゃべり好きな風が茎だけになった四つ葉をゆりかごに乗せるように優しく抱えて連れて行った。

 青い鳥は独りになった。四つ葉に出会う前とは違う感覚の、独りを知った。


青い空と青い海に囲まれた世界を青い鳥は飛んでいた。

凛としていて美しい葉に出会った。その葉と、とても短い旅をした。あの出会いは、何かを感じ取れたようで、取れなかった気もして、結局解らなかった。

自分には幸せは分からなかったけど、四つ葉は幸せになれた。幸せになってくれて良かった。

気が緩んだのか、少しだけ、ぽろぽろと涙がこぼれた。

少なくとも、四つ葉と過ごした時間は楽しかったと思う。それだけ解れば今はそれで良い。いつか思い出した時には、答えが変わっているかも知れない。

さぁ、幸せを探す旅を続けよう。


青い鳥は旅を続ける。


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