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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章7 『トラウマ』

 目の先に居るのは一匹の人間サイズのバケモノ。


 見た事も無ければ、どの生物の特徴にも当てはまらない。


 正に、正真正銘のバケモノだった。


 「(どうする・・・。どっから入って来たのかは分からねぇけど、無性にヤバい感じのする奴だ。早くどうにかしねぇと・・・!)」


 そのバケモノはオレをまだ認識できていないのか、其処らを見回しながら周囲を徘徊している。ただ徘徊しているだけなら、山というのもあって、野生の動物でも紛れ込んだか程度で済ませるがこれは違う。少なくとも同じ生物の枠組みに入れるべきではない、文字通り別世界の”何か”だ。


 オレの脳が本能的に「モンスターとも動物とも違うがヤバい相手」だと感じ取り、元々の背筋の冷たさも相まって更に恐怖が助長される。この寒さとこの”何か”は関係があるのではないかと思う程に。


 しかしここで何も見なかったという訳には行かない。


 どうにも、ここで見逃すことは未来の後悔に繋がるのではないかと思ってしまったのもある。そして何より、アルテインが居るのだ。


 「戦闘に、なるかな・・・!!」


 オレはベランダから部屋の中へと戻り、寝間着姿であるにも関わらず、斧二本を抜き取り、脛具を付ける。そしてすぐさま脳内物質の電気信号を操作し、『平面の集中力(レーダー)』を起動した。


 薄く、深く、自身の神経を最大限まで伸ばし、再び世界をオレの意識で席捲する。


 脳内に庭の様子が事細かに再現される。無論、あの”何か”も『平面の集中力(レーダー)』に引っかかっており、その運動方向がオレへと筒抜けになっている。


 オレはそのまま音もたてずに部屋からベランダ、ベランダを飛び越えパルクールの要領で庭の木を踏みつけて外へと降り立った。


 「―――よぉ」

 

 両手には斧、脚には脛具。何処からともなく現れ、オレは目の前の”何か”に挨拶をする。やはりこれだけ近くても黒いことに変わりはない。影だから黒く見えているのではなく、本当に黒いのだ。オレの声に三つ目は目の焦点を此方に合わせてくる。黒い毛むくじゃら、しかし口らしきものは見えた。毛むくじゃらの真ん中に獣のような口がある。


 その存在を確信した瞬間、オレの背中に更なる寒気が走る。だが、いくら寒くなったところで『平面の集中力(レーダー)』がさらに精密になるだけだ。脳に冷たい風が吹くのを感じた。


 「今なら、見逃してやるよ。だからさっさと巣に帰れ」


 斧の先を”何か”に向ける。しかし、その”何か”は物怖じしていない、というよりかは刃物が見えていないのではと思えるほどにオレを見ている。と、獣らしき口が開いた。


 「喰ッテヤル」


 「あ、そう」


 意思疎通は可能、ではないようだ。あっさりと食事宣言されてしまった。しかも目がかなりの憎悪に燃えていることが分かった。「喰う」よりは「喰い殺してやる」の表現があっているのかもしれない。


 しかし見ず知らずの他人から憎悪を向けられることには定評がある。電気属性を発現してから沢山の縁も所縁もねぇ人から散々な罵声を浴びせられた。今更何が理由だろうと逆恨みしてくる連中が一匹増えようが関係ない。


 「(こちとら国のほぼ全員から恨まれている身だ。この程度の”寒気”で怯むとでも思ったか!)」


 オレはあっさりと返事をし、大地を蹴り、一瞬にして”何か”に近づく。そして斧を振り下ろす。しかし”何か”には当たらず、素早し回避動作でオレの攻撃が空を切った。その勢いに乗せて、オレはその場で一回転。そしてそのまま背後に回り込んだ”何か”と相対する。


 「(驚いた感じはねぇ。ずっとオレを憎悪をぶつけてきやがるか・・・)」


 ”何か”はオレの動作には微塵も反応せず、虎視眈々とオレを凝視している。


 素早い動き。オレの『平面の集中力(レーダー)』が細部までの動きを把握していたとしても、相手の動きがオレより速ければ対処は出来ない。


 だとしたら、取れる手段は一つだけだ。


 「『雷撃』」


 一言、そして上空に立ち込める暗雲を操作し、電子の線を創り上げ、真下に撃ち落とす。威力は庭に少し穴が開く程度。流石に全力でやると世界の法則が一瞬バグって重力があっちやこっちやに行くことになるからだ。


 空から流れ落ちる一筋の閃光。しかしそれは制御性によって統括された動きと、落雷特有の破壊力を兼ね備えた一種の兵器だ。


 オレが言い終わるのと同時に、”何か”の身体を真上から閃光が貫いた。


 ドンッ!と言う衝撃音と共に、”何か”の身体がぐらつく。流石に小規模な落雷を喰らって無事で済んだことはないだろうと思ったがしかし、”何か”はすぐにその細い手足で持ち直すと、自身を穿ったオレに更に憎悪たる”悪意”を湧き立たせてきた。


 「呪ウ、祟ッテヤル、・・・オマエノ不幸を、全世界ノ大怨ヲクレテヤル・・・」


 その声は荒々しく、そして生々しく、正に”呪い”となって、オレの中の記憶を引っ張り出してきた。思い出したくもない過去が、何故かその声で引きずり出された。



 ――「言ってたか? そんなこと。俺が覚えてないってことは言ってないことだからな。――お前、嘘ついてんだろ? 俺がほんの少しの心変わりでお前の約束破ってウガインに剣術教えたみてぇな言い方だしな。変な嘘つくなよ。嘘つくようなクソは俺の子供じゃねぇしな。お前、誰?」


 ――「俺は最初お前と約束していたことと仮定しよう。俺はその次の日の早朝、そんなどうでもいい時間の無駄の極みみたいな約束は忘れて仕事に行っている途中だ。そこでウガイン君と出会って剣術を教えるという素晴らしい約束をする。そしたらどうする? 普通は仕事休んでつきっきりで剣術を教えるのが普通だろう? どうせ忘れたんだ。人の過ちは許さねぇといけねぇんだぜ。それが子供の役目だからな。それを未だ引きずって待ってるって時間の無駄じゃねぇか! 勉強しろよ勉強! 国語が苦手なんだろ? 知らんけど」


 ――「ずらしてねぇだろ。お前が嘘ついて、大人の過ちを赦せないままなんだから、お前がしっかり謝るべきだろ? それで次からは嘘をつかないって言うんだぞ? それにくらべてどうだウガイン君は。しっかりと大人に対して敬語を使えるし、俺の言った事を頑張ってこなそうとしてくれるんだぜ? それに比べてお前はどうだ。母さんを悲しませてばっかりだし、電気属性? 論外ですねハハッ!」


 ――「出てけ」


 ――「お前みたいな場の空気を読めない生き物なんて、人間様の期待も投げ捨てて、俺に母さんの凍えた目を見せやがって、電気属性ってだけでもクソなのに、ましてや一丁前にウガイン君の剣術も避けて、更には俺の教えた剣術まで避けて、嘘までついて、謝らないで、そんな生存価値もない生き物から「親父」なんて呼ばれたくない。死ね。消えろ。それ以上に苦しんで死ね。俺の無双人生ぶち壊しやがって、世界が受けた苦しみよりも苦しんで絶望しながら死ね。あの一撃を受けてゲロ吐いて喀血して骨折したらまだ許してるが、お前みたいな役立たずは出てけ。あの家はお前の家なんかじゃない。お前の家族は俺じゃない。ゴミより希望がない生き物の存在の容認なんて、こっちから願い下げだ」


 ――「好きとか嫌いとか、お前がそんな高尚な所に立ててると思ってること事態異常だな。産まれてなんて頼んでない。父性も湧かん奴なんて産まれないのが世の幸せだ。勝手に受精なんてしやがって、母体に負担掛けやがって、無駄金掛けやがって」


 ――「ついでにこれ以上勘違いさせない為にも言っておくが、俺のモットーは、『愛は妻、情は子供』だ。お前は生き物未満だからモットーにすら入っていない。そこんとこ、ちゃんと弁えて死ぬように。もう家にも帰ってくんなよ。お前の部屋のもの全部捨てとくから」


 ――「今だウガイン君! あの生き物の余生に終止符を打て!!」



 墓場まで持っていくべきオレの中の膿が、今まさにオレの横で、オレの耳元でオレを侮蔑し、嫌悪し、憎悪する絶叫していた。


 大会の時の感覚が蘇る。世界に裏切られた時の、あの”悪意”が”悪意”たる所以の感覚が全部丸ごと時すら超えてオレの意識の中で息を吹き返し、存在を声高々に主張する。


 その瞬間、無意識的に抑えていた扉が内から破裂した。頑丈に、もう絶対に万一の事がない限り開けないと決めていた鍵が無理矢理に壊される。


 ―――自然と口が開いていた。


 「よぉくもまぁ、こんな感覚を戻させやがって、せっかくオレが報われよぉと努力してたってのに、お前は邪魔するんだな?」


 殺気立つ全身の神経に、憎悪の虫がオレの脳ミソを這いずり回る感覚が蘇った。忌々しく、全てが敵にしか見えなくなるこの絶望を叩き潰そうと、地獄を体現してやろうという欲望があふれ出す。


 気づけば、オレを見ながら”何か”が後ずさりをしていた。


 「バケモノメ・・・、我等デモ人間デモナイ・・・」


 「何言ってるんだかさっぱりだ。まぁ、撒いたのはお前だ。動物だろぉがモンスターだろぉが別の何かだろぉが、代償はきちんと払ってもらうぞ?」


 「呑ミコマレタ・・・、呪イガ、祟リガ、モット強イ悪意に・・・・!」


 「――――クソが」


 その一言と共にオレはふつふつと漏れ出す悪意を目の前の”何か”向ける。


 瞬間――――、


 「ゼクサー君!」


 「ッ!?」


 何かがオレを覆い隠す、その一歩手前で聞きなれた声がオレの攻撃の手を緩めた。


 直後、不完全な”悪意”の力が顕現し眼前の”何か”を庭の壁に穴を開けて吹き飛ばした。


 ――同時にオレの意識は暗闇に導かれた。



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