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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章5 『スイートポテトパイ』

 おじいちゃんの作った、おばあちゃんが大好きだったスイートポテトパイは美味かった。


 戦乱の時代、おばあちゃんは元々好物は無かったそうだ。今は栄えていても、昔は疫病『龍血』の感染患者の隔離される場所だったり、闇医者や反社で溢れかえっていた貧民層である最西端の出身であるおばあちゃんは、好きなものどうこうではなく、生きるのに必死だった。


 だからか、そのまま誰でもなれる密偵として働き始めるまでの期間は長くなかった。


 おじいちゃんは最初、学者になる予定だったらしい。生物学の研究に熱心に力を入れているパーティアスの生物学者集団の一人となり、”外”のモンスターの生態などを調べる夢を持っていたそうだ。


 だが、時代は戦乱。知識よりもまず先に”外”の向こう側がいつこちらに進撃するか分からないが故、他国の情報が黄金よりも高い時代だ。確かに国は学問に関する事も大事だとは言うものの、当時に流行った『パーティアス大伝説書』という昔の古い言い伝えが広まったのも有り、おじいちゃんの親は密偵として働くようにとおじいちゃんに言い、おじいちゃんもまたその気になって行った。


 そして二人は出会った。


 ―――という、内容だった。


 もうただただ、おじいちゃんが初めて妻を見た時の美しさ、綺麗さ、儚さ、かわいらしさをひたすらにしゃべり続けていた時間だった。


 「(「カカポみたいなふわふわぽわぽわしたアホっぽい顔」とか「浜辺に打ち上げられたクロダイみたいな儚さのある顔」とか、もう悪口一歩手前なのに、これを婆ちゃん許してたのな・・・。天使かよ)」


 感想はやっぱりなんか夫婦だけあって、面白おかしく解説されているようで全然特別な出会いとかじゃない。でも、どこか追いつけない高見というか、高貴さがあるような気がした。そんなところだ。


 スイートポテトパイは、密偵先の外国で外食したときに出された料理らしく、これにおばあちゃんがいたく感動したらしい。それから店の味にするまで数年間研究し続けたようだ。


 オレはそのスイートポテトパイに舌鼓を打っていると、話し終えたおじいちゃんがふとオレに話を振って来た。


 「そう言やぁ息子よ。この前十四歳になっただろ? そろそろ属性が発現したんじゃぁないのかい?」


 「「―――ッ!!」」


 わずかに肩が揺れるオレとアルテイン。千年は下らない期間、差別認識が出来ていた電気属性をおじいちゃんが受け入れてくれるかどうかが疑問だった。しかし嘘を言う意味もない。受け入れてくれなければ、それまでだったと言う事だ。


 オレはそっと口を開き、おじいちゃんと目線を合わせる。おじいちゃんもただ事ではないと踏んだのか、全身に気が入り始めている。


 そして音を紡いだ。


 「電気属性だ。――電気属性が発現したよ」


 数秒間の沈黙。おじいちゃんが眼を伏せ、そっと頷いて、そして目を開ける。


 ―――同時に、喜び出した。


 「はっはっはっは――――ッッ!!!! そうかそうか!! 電気属性か、素晴らしい属性だ!! やっぱり妻に似たのぉ・・・。妻も電気属性でよく雷とか落としていたもんじゃよ! モンスターに撃ったり、ワシに落としたり」


 「「・・・・・・・・・」」


 想定外の反応だった。すっかり「この異端児めがぁッ!!」とキレるのだとばかりに考えが寄ってしまっていたのもあり、おじいちゃんが電気属性が発現したことを喜ぶなんて想像してもいなかったのだ。


 そして驚くことに、オレはおばあちゃんの属性を遺伝していたようだった。


 明かされる事実に目を丸くしていると、おじいちゃんはすかさずスイートポテトパイを切り取ったかと思うと、オレの開いた口の中に突っ込んできた。


 「今の社会じゃぁ電気属性で冒険者はなれんとかほざいてるようじゃが、妻は十九の時には雷を落とせとるんじゃ。息子だって時間はかかるかもじゃが、電気属性で冒険者は出来るさ」


 「ひいひゃん(爺ちゃん)・・・」


 「自信を持ち給えよ、若人。国と言っても所詮は人の集まりじゃ。人の集まりには必ずと言って抜け穴がある。全てだとは思うなよ。『パーティアス大伝説』なんてつまらん嘘をつく国じゃ。電気属性は戦える。冒険者になれる。縋るのは自分の心にある自信たる法じゃ」


 「もっきゅもっきゅ・・・」


 押し込まれたスイートポテトパイを呑み込み、オレは「あぁいや」と首を振る。


 「オレもう”外”でモンスターぶっ倒したことあるし、属性大会も総なめしたし、雷落とせるどころか砂鉄くらいなら引き寄せられる」


 「ぶふぅッッッ!!!!??」


 「うぉわッ!? きったな!! ってかどうした爺ちゃん。なんか喉に引っかかった? 背中さすろうか?」

 

 「息子よ! 今のはいったい、えぇ!? 年寄りに対してなんでもねぇような顔して言う事じゃねぇぞッ!! なんてこった”外”でモンスターか!? 何と戦った!?」


 素晴らしい弧を描いてポテトパイを吹き散らかし、血走った眼でオレの両肩を摑んで揺さぶる。


 アルテインが驚き、オレもまた驚きながら必死に記憶の棚をこじ開けて記憶を放っぽり出した。


 「熊と、ビッグフットの獣と、チュパカブラの魔獣と、パンダの魔獣と、奇形ワイバーンの龍、―――あぁ、後ヒュドラの龍かな。流石に最後の二体は先に友人が羽もぎ取ってくれた後で戦った相手だからノーカンかな?」


 「ぶッッッ!!!??」


 「アルテイン!? 何故吹いた!?」


 今度はアルテインが飲みかけていた紅茶を噴出した。「えぇ嘘!?」みたいな疑念を含んだ目を向けてきたが、全部本当なので何とも言えない。


 熊は心臓破裂。ビッグフットは斧で両断。チュパカブラは巣穴を放火。パンダは生態電気操作で血管破裂。ワイバーンは雷撃。ついでにヒュドラも雷撃だ。


 「(ヒュドラは火炎自体どうってことはないけど、息吹がすっごい風圧だからな。砂鉄の武器が一気に崩れるんだよなぁ)」


 おそらくオレは今の状態であれば普通のモンスター相手にやり合えば勝てるかもしれないが、”魔龍”とかの種類になると勝てなくなる可能性が高い。”悪意の翼”は制御しきれていないから、発動すれば一撃必殺だが自身が呑まれる可能性もあることから諸刃の剣と言っても過言ではないだろう。


 自身の今を振り返り、オレは少し息を吐く。気づけばおじいちゃんは自分の肩をわなわなと震わせていた。


 「ワシでさえも十五までに”ムシュフシュの魔龍”共を単独討伐出来るように鍛えていたのに、息子はこの年で”外”のモンスターとタイマンが張れたと言うのかぁッ!?」


 「ムシュフシュって、あの幼児で体長二十mとかいうドラゴンですよね!? ゼクサーのおじいちゃん、それの”魔龍”を単独討伐って、すっごい強いじゃないですかッ!?」


 「いんやアルテインちゃん。ワシの時代は戦乱の時代。一人一人の戦闘能力が高いのは普通じゃて。でも今はイズモとそのクソ嫁が為した平和な時代。強くなる必要はほとんどないってのに、ここまで強くなってんだぜ? いくら”魔龍”つっても、”外”のモンスターってことに変わりはねぇ。ワシよりも幼い歳で、尚且つワシが十四の時に倒したモンスターの数より多いんじゃ。褒めるのが親心ってもんじゃろ?」


 「オレの歳だとおじいちゃん心なんだよなぁ・・・」


 そうは言いつつも、おじいちゃんはなんだかんだでオレを褒めてくれているようだった。そしてオレもまた、おじいちゃんに褒められることを受け止めていた。おじいちゃんの手がオレの頭に触れた。昨日からごたごたがあって洗っていないのに、おじいちゃんは平然とオレの髪を撫でてきた。


 なんだか、嬉しい気分だ。


 ひとしきりオレを撫で終わると、「さてさて、風呂でも焚いて来るかの」と言っておじいちゃんは新聞片手に玄関を出ていった。


 バタンと扉が閉まり、明りが付いている団らん場でオレとアルテインが残された。


 わしゃわしゃと髪をいじくられたか、嬉しさか、なにか頭の中がごわごわする。


 微妙にカピついている髪の毛をいじりながらオレはふと視線を感じた。


 「なんだよ、アルテイン」


 「む~~~~」


 視線の方を向くとアルテインが頬を膨らませながらこちらを見ていた。あら可愛い。


 「どうした、そんなリスの如く頬を膨らませて・・・。ん、嫉妬?」


 混沌とした色の中に見える小さい琥珀色の瞳から、オレはアルテインが嫉妬を抱えていることが分かった。何故嫉妬なのか。それはある種、オレとアルテインが似た者同士であるがゆえに分かったことだった。瞳が写すアルテインの心情を読み取り、オレはそっとアルテインに近づいた。


 「アルテイン」


 「なに?」


 「アルテインは良い子だよ。そして、オレよりも凄い子だ」


 「みゃっ、みゅみゅ・・・。もっと撫でて~~」


 「おー、よしよし」


 背後に回り、アルテインの頭を撫でた。銀色の髪の毛は一夜を越えているのに折れようなパサつきはなく、丁寧な滑らかさを持っている。これも遺伝能力の類なのかもしれないが、本人が完全に癒されている顔をしているのでこれはこれで良いのかもしれない。


 「(人ってか、なんか愛玩動物を愛でている感覚になるのは何故だろうか・・・)」


 「今ゼクサー君、ボクのことネコかなにかだと思ってなかった?」


 「うぃえッ!? お、思ってないでございましゅよ!?」


 「ふーん」


 噛んだ。それも何故か使ってしまった変な丁寧語でだ。恥ずかしいと言うよりも、アルテインの能力がイドに近づいている気がして少し恐怖を覚えた。


 「(心読んでくるって、こりゃアルテインに嘘は通じない、か。まぁ、アルテインに付ける嘘がないがな)」


 アルテインを騙すときは、それはもうとんでもないような事だけだろうと、


 オレはそう思いながら、そんな日が来ないことを願いながら、アルテインの頭を撫で続けた。



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