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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章3 『実家』

 ゴトゴトと何かを踏む音、そして直後に伝わる振動。そしてオレ達を支える車体が段差を走ったのか大きく揺れ、反動がオレを寝ていたソファから落とした。


 「ぐぇ!? なnごふぁッ!?」


 ソファと床には高さはあまりないものの、不意に打ち付けた背中に肺の空気が口から押し出される。後頭部も遅れて打ち付けられ何が何だかと言う混乱の中、ソファに寝ていたもう一人の人物が落下し、オレが押しつぶされる形で受け止めた。


 衝撃と混乱と衝撃の組み合わせにより、急速に眼が冴えていく。視界が現実感を帯び、同時に敷布団となったオレは、眠い目をうとうとさせながら良い匂いを漂わせる男子を見る。

 

 そしてふと、その白銀のまつ毛が動き、混沌の眼がオレを見た。


 「ふぁ、・・・おはようゼクサー君」


 いつもなら可愛すぎて心臓が止まらなくなるオレも、今ばかりは苦鳴を零してしまった。


 「お、重い。・・・・どいて、死にゅぅ・・・」


 恋人の初添い寝の結論としては、「馬車の中で寝るべきではない」でした。


 

 A A A 



 アルテインは身体の割に重かった。


 オレはよく小説を読む。国語が、主に現代文が苦手なオレは作者の言いたいこととか、小説の登場人物の考えていることとか全然理解できない。何故この場面で泣くのか、怒るのか、嫌いなのに好きとかもう訳が分からい。


 だが文章で用いられる表現は結構好きだったりする。特に漫画の原作だったりすると、漫画での”絵”という枠組みでの人物の動きと、”文字”としての枠組みでの表現が違っていたりするのだ。それが面白い。


 そんなオレは小説の中で主人公がヒロインをお姫様抱っこする時に使う、「綿のような」や「天使のような」という言葉をよく見かける。確かにヒロインは大体なんか主人公より小柄だったり細かったりする。もしくは主人公に筋肉がある時があるが、大体はそういう理由でヒロインが軽く感じるのだろうなと、あまり気に留めていなかった。


 そして現実を思い知らされた。


 オレが主人公とか自信過剰にもほどがあるのかもしれないが、これだけは絶対的な真理だ。ヒロインの代名詞と言っても過言ではないアルテインは重い。体重が重い。


 結論を言おう。


 「アルテインは重い。そして割とのしかかられると重くて痛い」


 「だからゴメンってばぁ! そんなに重い重い言わないでよぉ! 確かに三十八キロは重いかもしれないけど・・・、う~ん・・・」


 アルテインは謝りながら顔を赤くして腹回りを気にし始める。制服姿のアルテインはびっくりする程贅肉とは縁の無いような華奢な体つきをしているので、別に気にする事でもないと思うのだが、それは割愛。


 「まぁアルテインはもう少し太くなっても良いと思うけどな。デブは勘弁だけど、流石に男でそのナリだと健康的な面で心配になってくる。健康なんだろうけど・・・」


 「ボク的に言えば筋肉を付けたいな。でも運動しても硬くならないんだよね。やっぱり体質的な問題なのかなぁ・・・」

 

 未だにオレの懐に入っているドメヴァーの日記にはアルテインの実験についての色々が書かれてある。日記自体も保管されていた場所からして相当の年代物で、全てではないがアルテインの持っている遺伝能力についても触れられていた。


 その中には、アルテインの身体はどんな状態でも健康を保つように遺伝子レベルの回復能力を持っていることが記載されており、アルテインが常時健康だと言う事が良く分かる。体型などは妻が可愛らしさを求めていたので合わせたとか。脂肪と筋肉が非常に付きにくい代わりに、基礎のスペックをとんでもなく上げているのだと。


 「(他にもなんか凄い事色々書いてたけど、難し過ぎて分からなかったんだよなぁ)」


 完全に捨てる機会を見失ってしまった忌み日記。何処かで捨てようとは思いつつも、大体何かと忘れてしまう。


 「(今度こそ、どっかで燃やすかして処分しねぇと面倒だな)」


 アルテインの個人情報、それに色々違法なことが書いてある日記をいつか処分しようと心に決めていると、ふと馬車の扉が開いたことに気づいた。


 入って来たのは変態、ジォス=アルゼファイドだ。


 オレの友人であり師匠的な立ち位置をしている。精神病院に勤めていたオレが引くレベルの性癖や性格をしており、正直人が理解できる領域に居る存在ではないことは確かだ。そんなド変態としての名をほしいままにしているイドは相変わらずの上半身裸体だ。だがその露出した中身は筋骨隆々で、黒髪に黒と灰色のオッドアイと来るものだからある種の”えげつなさ”を感じてしまう。


 イドは馬車の中に入ると「ふー」と全く汗をかいていないのに汗をぬぐう仕草をする。ちなみに走っている馬車の中に入ってくるイドのことは触れないでおこう。


 「おかえりー」


 「あ、ジォス君。おかえりなさい」


 「おー、オレウスの奴をダンケルタンまで送って来たぜ」


 オレ達が寝ている間、どうやらイドはオレウスをダンケルタンに運んでいたらしく、今帰って来たと言うところだ。


 「ダンケルタンの入国ってどうだった? 無事にオレウスは帰国できたのか?」


 「オレウスは大丈夫だったぞ。でも、オレも入ろーとするとなんか「パスポートがないから入れない」とか、「露出狂か貴様!」とか色々言われて、挙句銃器まで向けられたから首都の時計塔ぶっ潰してきた」


 「おいこら全部ド正論じゃねぇか! 正論言われてやり返すとかイドらしくねぇ!」


 「ええぇ・・・」


 「何言ってんだルナ。俺はきちんと下は隠してるし、胸部もしっかりとオレウスの持ってた変装セットの中にあった女性用のブラを付けて隠してたんだぜ? パスポートだってどーせダンケルタンで発行するんだから何も問題ねーだろ。むしろ俺の付けてたブラを剝ぎ取った衛兵の男共をお姉さんにしなかった俺にこそ常識はあるとおもうんだ」


 「あ、いつものイドだったわ。何にも問題ねぇな。すまね、思い違いだったみてぇだ」


 「えええええええええッッ!!? これが日常なの!? これが!? 男の人が女性用下着付けて入国しようとか変質者だよ!!? 大丈夫ゼクサー君、ジォス君に何か変な子とされてない???」


 一瞬遂に理不尽な理由で暴力を振るったのかと思ったが、やっぱりイドだったことにオレはそっと胸を撫でおろした。しかしアルテインは完全に驚愕しており、オレの貞操について心配しだす始末だ。オレはオレの身体をペタペタと触るアルテインの無防備な頭を撫でた。


 「そんなに驚くもんじゃねぇだろアルテイン。その内慣れるよ。後、イドは紳士だ。カップルに手ぇ出すほど落ちぶれていないさ」


 「むぅ・・・、ゼクサー君がそういうのなら、そうなんだろうけども・・・」


 頬を膨らませて、撫でられることに嬉しさ半分、なんか子ども扱いされているような感じで不服と言う気持ち半分という感情が見て取れた。可愛い。


 そのままアルテインは何を思ったのかオレの背中に手を回し、そのうち国家転覆とかしそうなイドを見る。


 「ゼクサー君はボクのだから、取っちゃダメですよ!」


 「ぐほぁッッッ!!!」


 可愛いアルテインからの独占宣告にオレの心臓が高鳴り、ギャップという破壊力に全身を貫かれた。予想外のスキンシップに予想外の言葉と、オレは反射的に口元を抑えた。


 ――吐血していた。


 「(と、尊い・・・。萌える・・・!!)」


 なんだか更に新しい扉を開きそうになる感覚を覚える。ここ最近、アルテインだけで色々な扉を開いている気がするのは気のせいではないだろう。おそらくこれがロデリーが抱く気持ちなのだろう。


 「(やっぱアルテインは女神だわ。可愛いしかわいいしカワイイ)」


 「相変わらずルナはアルテイン好きだな。見てる分には面白いから良しとしておこーか。ルナに脳髄まで焼かれたアルテインに、アルテインを嫁に取ろーとするルナのコンビだ」


 心が読まれているのか、イドがオレの心情をさらっと暴露しやがったせいで現実に戻ったが。そのままイドはなんてことのないような表情で親指で馬車の外を指差した。


 「そーいや、そろそろルナの爺ちゃんの家に着くから準備しとけよ」


 「マッ!!?」


 茶番の中、何の脈絡もなしに爆弾を放り込んできたのだった。


 

 A A A 


 

 おじいちゃんの家。


 クソ親父の新築ができる最中の家として使わせてもらっていたのもあってか、その特徴的なキノコみたいな屋根の家はすぐに見つかった。


 窓の先から嫌でも眼に入るキノコ頭。沢山の木々のてっぺんにそれはそれは清々しいほどに無視できないキノコ頭があった。


 「相変わらずの白に赤い斑点模様。毒キノコかよ・・・」


 「ちなみにルナの爺ちゃんに今日ルナが嫁さん連れてくるとは言ってねー。サプライズってことでアポなし訪問をぶちかます」


 「ジォス君、思ってたより最低なのでは?」


 「おぉアルテイン今更だな、イドはオレ達の想像では対処しきれない行動をするからな。もっとすごいぞ」


 「言ってることと考えていることとやってること全部が違っている、正に一貫性の塊みてーな漢だぜ俺は」


 「ジォス君、それは褒められていないから」


 「あれ!?」とイドが騒いでいる間に馬車は森の中を抜けてキノコ型の家の数m前に停車した。草木を踏みしめる音が辺りに響くも、早速と言っていいほど自然特有の音で掻き消された。オレとアルテインが降りるとイドはサバイバル道具袋を手渡し、一瞬の内にその場から消え失せた。夢が覚めるよりも早く、その場から消えた。


 「すご、大自然って感じだ。ボクが実験で行った事のある山よりもずっと整地されてない、自然そのものって感じがするよ!」


 イドが馬車ごとどこかへ消えたのを認知し、その後アルテインの感激する声が聞こえた。


 どうやらここまで自然なのが初めてらしい。


 「(確かに、馬車も獣道走ってたし、そもそもこの山自体が爺ちゃんも持ち物だからなぁ。爺ちゃん一人で管理するのとか無理そうだよなぁ)」


 結構前に聞いた話だが、爺ちゃん曰く山の管理はバチクソに難しいらしく、岩雪崩とかが起きると業者を呼んだり、獣が出てきたら猟銃会に連絡を入れなければいけず、山自体もかなりの曰く付きの場所とかで時々山なのに田んぼの様子を見に行きたくなるらしい。


 名前も分からない木々と雑草を踏み越え、鉄の壁のある入り口までやって来た。


 アルテインは何やら楽しんでいる様子だが、オレとしては立場上喜んでいられない。オレには何の罪もないってのに焦るこの感覚は何だと言うのか。いくらオレの事が好きだと言っても、オレが会うという覚悟が足りていないのだ。


 玄関の柵は開いており、入ってみれば家庭菜園の方から土いじりの音が聞こえてきた。


 「失礼します」


 「おじいちゃん、居るー?」


 アルテイン、そしてオレの声が敷地内に響く。


 そして何の反応もなしに時間が経過し、「あれ? 今の音って難聴か?」と自身の耳の性能を疑った瞬間だった。


 「おろ? もうお迎えが来てしまったのかの?」


 しわがれた声に反してその芯は力強く、泥の付いた作業服をきつつもその存在感は身内でも圧迫感があり、白い長いひげを持ちつつも、その金色の瞳にはオレ以上の闘気が秘められていた。


 エルディオル=ルナティック。


 横に居るアルテインの表情が強張り、オレの鍛えられた本能が臨戦態勢に入った。


 しかし、当のおじいちゃんはオレの顔を見た瞬間目じりに大粒の涙を浮かべて泣き始めた。


 「うぉぉぉぉぉう!! 嘘じゃろ! ワシよりも息子が早く逝くなんて考えられんわ!! どうして逝ってしまったんじゃぁッ!! まだ武勇伝も語り終えていないし、オメェの晴れ姿も見てねぇってのに! 大人になるよりも早く天使様になるなんてこの世は残酷じゃ! 兄家族も亡くなって、妻も亡くなって、息子まで先に逝くのか!!」


 「お、おじいちゃん。落ち着いて・・・」


 「天使様よぉ! 幾らワシが息子好きじゃからって、わざわざお迎えに息子の顔で来るなんて悪趣味にもほどがあるじゃぁないですかぁ!! うおおおぉぉぉぉぉぉぉんんんッ!!!」


 「あの、えっと、ゼクサー君のおじいちゃんさん・・・」


 アルテインがおじいちゃんのテンションについて行けずにおろおろとし始める。どんな声掛けをすべきか分かっていないようだ。


 「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!! クソ! クソォッ!! こうなったら息子の分も生きてやるぞうおおおおおおおッッ!!!」


 沸き上がる活力におじいちゃんの気配がミシミシと音を立て始める。なんか目も光っている気がする。


 「落ち着けおじいちゃ―――んッ!!」


 オレは流石にちょっと色々ヤバいと感じ、捨て身の攻撃態勢でおじいちゃんに突っ込む。


 

 その後、おじいちゃんの誤解を解くために四、五時間は費やした。

 

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