第二章2 『今後の予定《4》』
産業王国ダンケルタン。戦乱時代に”属性”を使った兵装を多数開発、使用し、小さな諸外国をいくつも葬ったとされる歴戦の技術国家である。しかし残念ながらその戦火もパーティアス民主国の”外”という壁には少しも進撃できず、そうこうしている間にイズモとカグヤによって多数の兵装もろとも鉄くずに変えられてしまった可哀そうな国家でもある。
それが影響してか、少し前からダンケルタンは表面上ではパーティアス民主国と平和条約を結んでいるものの、発明された最新技術の情報を他国に提供したりすることが無くなり、それどころか自国の情報に関する統制が厳格になったのだ。
その原因は、戦乱時代にダンケルタンが開発してきた兵装の情報が内偵によって漏れ出たことによるものだと、今では考えられているらしい。
今回の事件で逃げる場所となったダンケルタンだが、オレとしては気がかりな部分があった。
「そこ、入れるの?」
と言うのも、今ダンケルタンは海外の旅行客を規制している。移民も同じだが、かなり訪問客のことについて調べるらしい。それで、それがスパイだったり他国の科学者とかだと追い返される。移民だとしても長期旅行だとしても、オレが入ろうとすると危ないだろう。属性大会で顔はバレているし、名前を偽造しても調べられればすぐに分かる。これでは門前払い間違いなしだ。
しかしオレウスはなんてことはないと答える。
「誰が”普通に入国する”ッつッたかァ?」
「まさか、・・・・・”密入国”・・・」
「それ以外方法がねェからな。仕方がねェ・・・」
不服そうな顔をしながらオレウスが自身の肩をほぐす。
横を見てみればアルテインが「密入国・・・」と難しい表情をしていた。学園で風紀委員長をやっていたのもあってか、オレが違法な行為に手を染めるのが嫌なのだろう。しかしなんでもダメだと言ってしまえば、オレが本格的に住む場所が無くなる。結局、踏んだり蹴ったりな状況に変わりはないのだ。
「この世界の半分は死体蹴りで出来ている。真面目こいて成功するおとぎ話じゃねーんだ。泣いたってキレたって、どーにもならねー。現状打破をするなら黙って世界のもー半分を蹴り返すまでだ」
「・・・・それは、そうだけど・・・」
痛いほどわかる。それでもなお、アルテインは首を縦には振れなかった。
その様子を見ながらイドはオレウスを小突く。オレウスは一瞬嫌な顔をイドに向けたかと思えば、「はァ」と息を吐き、「分かッた」と手を上げる。
「なら、正規の方法で入国する方法を提示してやるァ。確かに、オレ様もゼクサーにはちゃンとした人生を歩ンで欲しいからなァ、気乗りはしねェが手段を手配してやらァ」
「手段って?」
「きちンとした入国。それが出来る奴がウチの組織に居る。そいつを使ッてゼクサーの国籍を新しく作るンだよ」
「えッ!? そんなことができるの?」
アルテインが眼を見開き、驚きの声を上げる。だが、すぐに「う~ん」と唸りながらオレウスに問うた。
「それって違法じゃないの?」
「偽装パスポートは違法だが、国籍を外人に与えるのが違法になッたら国際結婚で出来た子供が国籍を持てねェじゃねェか。偽の国籍なンかじゃねェぞ。新聞で国が直々にゼクサーの国籍を白紙にしたッて発表してンだ。なァら、新しい国籍が正式な国籍にならねェ道理はオカシイだろォ?」
「屁理屈な気がするけど、・・・何も言い返せない・・・」
「正式な国籍がありゃァ、正式なパスポートが発行される。それをゼクサーが持ッて入国すりゃァ、なァンにも問題は起きねェ」
オレウスがつらつらと密入国に変わる代替案を述べ、「どォだ?」とオレの反応を窺う。オレとしてはもらう側なので文句などはない。むしろ感謝してもし足りない程だ。しかし、オレウスの横に座るイドは「えー」と言った表情を覗かせた。
「おい、オレウス。アルテインの分も忘れんなよ。あいつも国籍ねーから。後、ついでに俺の分も発行してくれ」
イドの言葉にオレウスがアルテインを見た。そして何かに納得し、前言を言い直す。
「そォか・・・、じゃァアルテインとゼクサーの分だな」
「おい、俺の分忘r」
「テメェの分はいらねェだろォが。『座標飛ばし』で勝手に発生するだろテメェは」
「人をゴキブリみてーに言いやがって」
ぷんすかと頬を膨らませるイドにオレウスは「言ッてろ」とだけ返し、話の続きを口ずさむ。
「まァ、発行するッつッても簡単な話じゃねェが」
「何か問題があるのか?」
「いや、問題ッつッても一回オレ様がダンケルタンに帰国しなきゃならねェ事を除いたらこれと言ッた問題はねェンだがな。・・・・その、なンだ? まァ、あれだ」
「「?」」
「詰まるところ、発行するのに一周間要るんだろー? その間、ゼクサーとアルテインを匿える場所がねーってことだな」
オレウスの心情を読んだイドがオレウスの濁した部分を補ってオレ達に説明を施してくれた。どうやら国籍を作るのはかなり時間が要するらしい。
「(正規かどうかはさておき、一周間か・・・。精神病院でも良いんだけど、それだとアルテインがまた渋い顔をしだすからなぁ。確かに言い出しにくいわけだ)」
勿論一周間ともなると万一にもオレが不法滞在していることがバレる事だってあるのかもしれない。そんなことになったらアルテインに迷惑が掛かるのは勿論、間接的にオレウスの組織にもダメージが出るかもしれない。
「(一週間くらいなら住むことができて、尚且つオレがまだ国内に居ることがバレない場所ってあるか? それにアルテインも居るし、狭すぎるのも問題だよなぁ・・・)」
かなり条件が多いが、オレはただひたすらに思考する。全条件に合致した場所を。
そしてその答えはすぐに出た。
「”外”だったら大丈夫なんじゃねぇかな?」
「え?」
顔を上げるオレウスとアルテインを見ながら、オレは提案を申し出る。
「オレ、結構前にイドに連れられて”外”行ってサバイバル術を学んだことがあるんだよ。それに十数回”外”のモンスターと戦闘したし、一周間くらいなら何とかなるかもしれない」
「ダーメ」
「「「え!?」」」
我ながらこの作戦は妙案だと思った。これなら通るんじゃないかと思ったが、予想外にイドから却下を食らった。目を白黒させるオレに、困惑気味のアルテイン。多少キレ気味のオレウスがイドにつっかかった。
「オイ、クソイド。テメェ、この事態にどォ言う神経してンだ? そこしかねェだろどォ考えても」
「ばっか! お前、今”外”は大会に来たお偉いさんを送迎するのに厳戒態勢なんだよ。少なくともいつもの山には入れねーから野宿するしかねーわけだが、”外”の野宿は山の中でするサバイバルとは比べ物にならねーくれー危険だ。いくら俺が同行するとしても、ルナとアルテインの限界が来るのが先だ。なら、別の案を出した方がいーよな」
「――――。チッ、事実だから反論出来ねェな。だが、代替案はどうするつもりだ? それなりに考えがあるから意見を否定したンだろォ?」
「あー、あるぜ」
飄々としたイドの返しに、強気に出たオレウスが口ごもる。
「・・・聞こォか。なンだ、その代替案ッてやつァよォ?」
「ルナとアルテインが一周間、いやもっと長く居ることができる。二人以上が住む広さがある。そしてルナが居ることが周囲にバレない。更に、――”本人”がルナのことが大好きである。この条件が揃った物件、それは―――」
「「「それは?」」」
「―――ルナのおじいちゃんの家だッ!!」
イドがオレの方に人差し指を叩きつけ、出した答えはオレの爺ちゃんの家だった。
「―――はぁ???」
多分オレが一番困惑した。