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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章1 『今後の予定《3》』

 エルダーデイン家の屋敷から出ると、屋敷の門前に一台の馬車が留まっていた。


 筋骨隆々な馬二頭に繋げられた馬車はどこかの家の家紋が印されてあったのが分かった。一瞬エルダーデイン家の家紋だと思っていたオレだったが、横に居るアルテインは困ったような顔をしている。


 「お客さんかな・・・? こんな真夜中に、上品な黒茶塗りの馬車・・・。そんなに急ぎの用事なのかな?」


 どうやらエルダーデイン家の所有する馬車ではなく、全く別の、恐らくアルテインでさえも知らないどこかの名家のもののようだ。


 ふと鉄柵の間から覗く御車台の上に座る人物と目があった。


 あったからなんだと言うのか。しかし、その暗闇でも分かるこの背筋を凍らせるような赤い瞳には覚えがあった。


 「オレウス・・・!?」


 オレが電気属性を発現してから、何故かオレから見える全ての人の目に黒い靄がかかり、その瞳の奥にある真意を見出せなくなった。しかしこの謎の障害にも例外は存在し、その例がイドやアルテイン、ロデリー、エルメット、そしてオレウスだ。


 そしてその面子の中でも特に瞳だけで絶大なトラウマを与えてきそうなのがオレウスの赤い瞳だ。


 「(まるで社会の恐怖と返り血をまぜこぜしたような、とんでもねぇ眼圧持ってるから分かるが、あの人オレウスじゃね? あれがオレウスじゃねぇならこの世界は世紀末だわ)」


 悉く人の悪意を十数年以上浴びないと出来ないような眼、その瞳の荒れようは人の腸を掻っ捌いた時にはじけ出る返り血の如く、赤く黒く染まっている。


 偶然か人違いか、関係なくオレはその場で立ち止まる。理性ではない。生物的な本能がオレの足を止めたのだ。睨まれたとは感じたものの、少なくともその悪意がオレには向けられていなかったことだけがよく分かった。


 では、このキツイ目は誰に向けられているのかと言うと、


 「おー、ネr、オレウスじゃねーか! ルナ、アルテイン、早速だがこの馬車に乗るぞ!」


 気付けば後ろに居たはずのイドが数m先、馬車の眼前にある高さのある鉄門の前まで移動していた。それをイドが物理的に根元から捻じ切り、”門だったもの”を作成し、庭にポイッと投げ捨てる。ガインッ!と、庭の中で鉄が潰れる音が響いた。その大雑把な腕力にアルテインが「えぇ!?」と驚きの声を上げた。どうにも鉄の門を素手で捻じ切ったことと、何事も無いような顔で他人の家の門を破壊する行動に自身の常識が外れたらしい。


 この怪力には流石の御車台に乗っていたオレウスもイドに向かって険しい顔をする。


 「オイ、クソイドォ、テメェオレ様に対しては「出来るだけ音を立てずに急いで来い!!」ッて怒鳴ッてやがッた癖に、自分は平然と物音を立ててるたァどォいう理屈だオイ」


 「落ち着けよオレウス。一旦深呼吸するんだ。そして冤罪で人を怒ることは悪ー事だぞ。ちゃんと怒るべき相手ってものを見るんだ」


 「―――はァ、相変わらずのクソ理論だが、ここでブチ切れすンのはナンセンスだな。ゼクサーも見てやがッし、夜中だ。変に騒ぐのは不味ィな・・・。オイ、ゼクサー」


 イドとの意志疎通を諦め、オレウスがオレを呼んだ。


 アルテインが物珍しそうな顔で「知り合い?」と、付いてくるのを聞きながらオレは御者台の上で機嫌を悪くしているオレウスに近付いた。


 するとオレウスはひらりと御者台の上から音もなく飛び降りて馬車の扉を開いた。親指で奥の方を指差している。


 「さッさと乗れ。雨降ッてるし、ここじゃァ話しにきィンだ。後、そこの後ろに居るゼクサーの恋人とやらも乗れ。一度こッから離れるぞ」


 「えっ、あの貴方h」


 「五月蝿ェぞ。話は後だ。・・・オイ、クソイド! 何しれッと走る体勢に入ッてンだ。テメェも入るンだよ」


 「えー、俺走って追い付くからいーよ」


 「よくねェンだよオレ様が! ただでさえ、ここら辺は警察騎士の目が厳しくッてここまで着くのに二、三回職務質問されたッつゥのに、真夜中上半身裸体の原始人が馬車と同等の速度で馬車追いかけて走る構図なンて警察騎士が黙ッて見過ごしてくれる訳がねェだろォがッ!!」


 「へーい」


 見られただけで人が死にそうな眼圧を浴び、イドが口をとがらせながらも馬車の中へと入っていく。その後ろに続いてオレが、その後ろをアルテインが、そして最後にオレウスが乗り込んで馬車の扉を閉めた。


 内装は見た目よりは広く感じ、高級感を漂わせる赤と黒の配色に古風感を感じさせる匠の家具があった。その広い空間の真ん中にある机を取り囲んだ長椅子にオレとアルテインが隣になり、イドとオレウスに対面する形で腰かけた。


 「オイ、さッさと出ろ」


 オレウスの声を皮切りに馬車が動き出した。


 若干木材の臭いが漂う中、早速と言わんばかりにオレはオレウスへと問いを投げた。


 「オレウスさn」


 「”さん”を付けンじゃねェよ。すり下ろすぞ」


 「・・・・・オレウス、はなんでわざわざエルダーデイン家に来たんだ? さっきイドがどうこう言ってたけど」


 オレウスはこのヤバい眼圧からは想像もできないが、とある精神病院の課長をやっている人物だ。アングラどころの騒ぎじゃない。下手をすれば国が全力で介入をしたくなる情報のほとんどを彼が持っているのだ。無論、彼の強さも相当凄まじいものだが割愛する。


 謎なのはそんなヤベェ所の課長が真夜中に馬車を引いてここまでやって来た理由だ。何故他の人に任せないのか。いや、確かにロデリー辺りが迎えに来るよりかは全然マシだが、それでも変だと言うことに変わりはない。


 オレの問いにオレウスははァと息を吹くと、隣に居るイドを親指で指す。


 「コイツに頼まれたンだよ。押し付けられたとも言うが・・・」


 「そーなんだよ。新聞見せたら気が気じゃねー!って慌ててよ。場所を教えろって言うから教えたまでだ」


 オレウスの言っていることとイドの言っていることが微妙に食い違っているが、この場合オレウスの言っていることが正しいであろう。


 「(そうか、押し付けられちゃったか・・・)」


 イドの絡み相手となったオレウスの心境は計り知れない。真夜中寝てる中起こされて馬車動かされるとかどんなSMプレイだって言うのだ。誰も喜ばんし、得もしないまである。


 オレウスの疲労感が垣間見える溜息を聞きながら、可哀そうにと思っていると、横に居たアルテインが「はい!」と手を上げた。


 「ジォスさんの言っていた”新聞”って何ですか? それを見せられたからオレウスさんは来たんですよね?」


 今日が初対面のメンツが半分を占めている中、物怖じしない態度でアルテインは上半身裸体のどこかの部族の人に問いかける。これにはオレウスも少し引いていた。・・・何故引いた?


 「こんな見てくれが露出狂の奴に、裸体の事を聞かずに話の内容を問う奴が居るッてのかオイ?」


 「(あ、そっち・・・)」


 まぁ確かにイドの半裸を初対面で見てインパクトに値しないとかいう奴は居ないだろう。でもオレも何で半裸なのかは聞いたことねぇな・・・。


 多分触れたら負けみたいな要素なんじゃねぇかな。と思っていると、イドがどこからかアルテインの質問内容にあった新聞を取り出した。そしてその見出しを開き、机の上に広げた。


 内容は、――――ッ!!?


 大きな見出しを筆頭に、小見出しとそれに付随する文章がオレの脳に現実を叩き込んできた。


 横を見ればアルテインも絶句している。


 それはそうだ。何故なら――、


 「「『イズモ様の実子、国が国籍と苗字を白紙に戻す』ッ!!??」」


 見事にオレとアルテインの声が被り、わなわなと新聞の内容を見てみる。およそ五つの面にこれでもかとオレの悪口三昧が書き綴られており、オレの擁護意見は一切見つからなかった。


 「『イズモ様の機嫌を損ねた事を国の重大な損失として重く受け止め、国はイズモ様の実子であるゼクサーの国籍を白紙に戻し、ルナティック家からの永久追放並びに国内の永久追放とすることを決定した』って、ひどくない!? ゼクサー君何も悪くないじゃん!」


 アルテインが憤慨し、拳を机に叩きつける。アルテインの怒りは最もだ。実子の活躍に腸が煮えくり返り、家から追い出す父親なんて最低にしか見えない。国も国で、いくら伝説の勇者だからって父親の機嫌を窺うくらいに落ちぶれていると言う証を堂々と見せつけている事態だ。無能が過ぎるがここまでとは正直思っていなかった。


 オレは怒りに震えるアルテインの腕を摑んで言う。


 「まぁ落ち着けアルテイン。怒ったって事態は改善されねぇんだ。――そのために、イドがオレウス連れて来てくれたんだろ? 一旦鉾は収めて、少し話を聞いてみようじゃねぇか」


 「ゼクサー君・・・・」


 何か言いたそうなアルテインだったが、すぐに表情を戻しオレの横に座り直した。気づけばオレの掴んでいた掌はアルテインの掌を繋いでいた。きゅっとアルテインの掌がオレの掌をより強く握っているのを指先の温かさから感じた。


 今更ながらに距離が近いなぁと思いつつ、目線をイドへと移した。イドは全てお見通しなのか少し柔和な笑みを浮かべ、机にあった新聞を畳みながらほっと息を吐いた。


 「ごちそーさん。だが、ルナが国を追われることに変わりはねーんだよな。それにアルテインも家族とは実質的な絶縁状態だ。そーなると少なくとも現状、国内で生活するのは厳しー。だから新しい生活先をオレウスに考えてきてもらった。―――ではどーぞ、オレウス君」


 「人様に逃亡用馬車と逃亡先を考えろと真夜中に無茶を押し付けてきやがッたクソイドな訳だがァ、オレ様も身内の不憫さを放ッておくほどクソな精神は持ッてねェ。だから、オレ様も三日完徹したアタマで考えて、考えて、考えたわけだ。――それで、思いついた」


 一息置いて、オレウスは膝を組み直して人差し指を立てる。


 

 

 

 「ダンケルタン。―――オレ様の故郷に行けばイインじゃねェかッてなァ?」

 


始まりました。第二部始動です。

この小説を初めて読む方にも、読まれていない方にも、もう既に読まれている読者にも、よろしくお願いします。パタパタさんです。


さて、初めに少し裏話ですが第二章中盤はとあるゲームとゾンビ映画を参考にしています。ロボットが出てくるゲームなんですが、この人間のような思考の仕方にインスピレーションを感じました。しかし設定丸パクリは作者の流儀に反するので何か良い融合素材は無いものかと探しているとゾンビ映画にぶち当たりました(正確にはゾンビゲームですが)。結果として今章のテーマは「ロボット系ゾンビ型ター●●イター恋愛ざまぁAIの逆襲異世界生活モドキ」となりました。


これから二日に一話、午前一時に投稿していきます。先月に予告した通り、ゼクサーとアルテインの絡み合いが多く出てきます。お互いまだまだ素人なのでラブラブシーンはもうちょっと先になるかもしれません。そして”あのクソ男”、・・・ぶっ飛ばされます。


怒濤の伏線ばら撒き&回収!休みといえどハードスケジュールに作者の前頭葉が異世界転生しております。良ければブクマや高評価を付けていただきたい。「いいね!」も受付中でせぅ!!


それでは、あらゆるキャラが集まり、それぞれの過去と思いが複雑怪奇に運命に絡みつく脅威の第二章『ニーナ編』、是非とも―――ご照覧あれぃッ!!

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