第一章81 『希望の雨』
属性能力の補佐、”悪意の翼”の出力の調整。脳に直接語り掛けてきたイドが全面的に協力をしてくれることによって成り立つ、”悪意の翼”の本質とも言える能力、――『能力の拡大解釈』。
「使えるチャンスはこの刹那だけだ! 何を拡大解釈するかはルナに任せるがー、俺の叡智も貸してやろー! この瞬間で、ルナが一番使えると思った知識を元に出力を調整した”悪意”で世界を変えろッ!!」
無茶な条件ばかりだなと感じつつも、直後に脳の奥の方から今までにない知識が芽吹き始めた。
どれもこれも、見ているだけで確実に混乱できる、知らない単語ばかりだった。それなのに、まるで思い出したかのようにその知識の一つ一つが持つ細微な情報を俺の頭は理解することができた。どうやらイドがオレの脳みそにまた何か細工をしてた多大な情報量を流し込んできたらしい。
『魔法現象の観測に関する法則』、『戦闘中に魔力を高める方法』、『主人公補正における絶対的な弱点とその効果』、『空気を読むための敏感肌』、『強化魔法とスキルと加護の使い分けによる部分特化について』、『回避行動における極意』、『ゲーミングPCの劣化におけるインターネット回線のラグ』、『イベント限定キャラの個体値変動におけるそれぞれの立ち回り方』、『見た目重い装備と回避時間の関係』、『ゲーム君解析版:全キャラクターのレベルアップ時のステータス強化における計算式』、『ゲーミングPCになった俺氏、ホモではなく女性に買われ無事死亡www』、『当たり判定に関する乱数調整』、『電脳世界のTCGで起こるアバターの座標情報によるバグ一覧』、『87chの伝説スレ:メンテナンス中のVRTCGに乱数調整ログしたら別世界に飛ばされて草』、『VRTCGでパックを開けた際にレアカードが適切に情報処理されずに二枚出るというシステムエラーについてのご報告とお詫び』、等々・・・。
頭に流れ込んでくるイドの知っている情報の一端。どれもこれも読めば面白く、味わい深くあるものの、致命的に知らない部類の話しかないのをのぞけば探究の領域に片足を突っ込んでいると思われる。
この中で今の状況で効力を発揮するものってなくね・・・?
と思っていたが、オレはその流れている大河の情報の中、ふと目についた項目があった。
手で探り、掴み手に入れてその情報を見る。見るからにクッソきつそうな話だが絶対に無視できない手法がそこにはあった。
物体ではない意識の中、オレの額に汗が一筋滴り落ちる。
出来るのか? やるしかない。成功するのか? 成功させる。他に方法は? ない。
猜疑、自問、そして解答、決心、そして行動へと、刹那の「せ」の字もない一瞬で即決し、オレはイドの補助へと全頼りにして己が身に宿る”悪意”を全力で振るう。
そして、―――――ッ!!
A A A
”悪意”が爆発し、振るわれる黒い力の中にオレは一人の存在を見つけた。
何故か自然と身体が動いた。腹部の損傷の事など頭には無く、ただただ目の前の薄くぼやけた存在を、混沌とした黒い霧へと消える前に、何としてもつなぎとめるべく、身体が動いた。
琥珀色に脆く輝くその存在はまるで誰かを探しているかのようにあちらこちらを見ている。目はなく、誰を探しているのかは分からない。それに向かって走り出したオレがたった一つの、それが本物であると言う証拠だろう。
誰かを探していた。それはオレじゃないのかもしれない。
――だが、そんな大好きな人が暗闇の中一人で居るのなら、迷っているのであれば、困っているのであれば、泣いているのであれば、
その人の手を最初に握るのはオレでありたい。
走り、ただひたすらに走り、うっかり霧の中に身体を入れようとするその光を摑もうと、全身全力で走り抜ける。地面を蹴っ飛ばす。世界を猛然と蹴り飛ばす。
光の存在は自身が黒い霧の中に入っているのを知らないのか、どんどんとその身体を闇の中へと染めていく。
それでもなお、オレは走る。
身体半分が浸かり、両足が消えた。
走る。
顔の半分が消えた。
走る!
顔が全部消えた。
走る!!
右腕が残る。
走るッ!!
右腕も消えようとして、右手が残r
走る―――――――――ッッ!!!
飛び、闇の中に入ろうとした掌を摑んだ。そしてそのままこちらに引っ張る。
引っ張られたそれは確かな質量を感じ、そしてオレによってを引かれるがまま、その存在が影の中から顔を、全身を出した。
蘇るようなふわっとした優しい香りに、胸の中に収まる可愛さ。男にしては細すぎで、女にしてはやけに整っている気がするその存在はオレの腕の中にぽすっと収まった。
そして同時に押し寄せる現実的な気配。夢が質量を持ったように、オレの中のその存在は確実な存在感を世界に信じさせた。”拡大解釈”された力が真に成功をもぎ取った、確かな証であった。
「よし、掴んだ」
”悪意”は人を害し、害される力であると、結局は負の感情が感情の領域を超えた力を作用させるものだと、オレウスは言っていた。人道的に真面な力ではない、と。
だが、使い方さえ変えればただの暴発地獄絵図で終わることはなく、人をよみがえらせる力にもなる。
その結果が、今オレの腕の中で小さく揺れる白銀の髪をした、オレの未来の嫁だ。しかし男だ。だが男でも結婚したい。否、男だからこそ結婚したい。この血迷う可愛さはオレの中でしっかりと愛でるべきだと、改めて思いました。
オレの感動とはよそに、目の前では白衣を着たオッサンが慌てふためきながら『ゆりかご』とオレの腕の中の存在を交互に見て、驚嘆を零していた。
「な、ん、だと・・・!!」
確かに驚くのも無理はない。なぜならアルテインは死んだからだ。そして同時に死ななかったからだ。
そんな両方の本物を見比べるクソ義父を尻目にふと胸元に収まった天使な妻、・・・アルテインを見ると、ばっちりと眼があった。
ほんの少し開く目に、無意識かほんのりと紅く頬が染まる。混沌とした色の中に眩く光る琥珀の瞳が一瞬にして、オレの溜めこんだ感情を溢れさせる。しかし泣くわけにもいかぬと踏みとどまり、代わりにオレは溢れ出す感情をこの場で別の表現で伝えようと、ニコッと微笑みかける。
微笑みかけて――、
「オレと、アルテインの願いだ。―――嫁にもらいに来たぜ、アルテイン。ここでしか言えないが、オレと結婚して付き合ってくれ!」
一世一代の大舞台には願いの告白を添えて。
オレはアルテインに最大限の告白をかましたのだった。
そして当の本人はと言うと、一瞬意味の分かっていない顔をしながらも、オレの言葉を頭の中で反芻させ意味を理解し、突如顔を赤くする。そしてわたわたと何か言おうとするも口ごもり、最後にはぎゅっとオレの背中に腕を回してオレの胸元に顔を擦りつけて、
「――――はい」
鼻息がダイレクトにかかるという興奮と、筆舌に尽くしがたいぬくもりが合わさってその返事は正に天使からの啓示と言っても過言ではなかった。
そして、そんな勢い余って接吻してしまうのではないかと思う程に愛おしさが爆発しそうになり、
「海外サスペンスラブコメディの映画みてーな感動シーンをぶった切るよーで悪ーが、先に色々決めなくちゃならねーことがあるだろーが、新婚さんらよー」
本当に間が悪いときに、イドがその場の雰囲気をぶった切った。
A A A
「おまっ、イドぉ~! もうちょっと遅くても良いじゃん! なんで今なんだよ!!」
「俺的にはお前らのキスシーンが似合うところは絶対ここじゃねーんだよ。大雑把に言えば完全に赤の他人の家だぞ。そこで《アッー♂》するならまだしもキスとかふざけんな。幾ら男性恋愛に寛容な俺と言えど、流石にキャットフードは猫の餌とか言ってる勘違い野郎はぶん殴るぞ!」
「え、あ、え? ゼクサー君、その上半身ハダカの人はいったい・・・? それに”穴掘り子づkもがッ!?」
「いやぁぁぁぁッ!! やめて! アルテイン! その先の言葉は喋らないで、まだ純粋でいてぇぇぇ!! そしてイド! お前アルテインはまだ純粋なんだぞ! 変な言葉をしゃべらせるなッ!!」
「あーすまね。ついうっかり、ルナの嫁ってことで気ー抜いてたわ。あ、でも安心しろ。ルナの嫁は遺伝能力上、どんなジャンルでも受け入れr」
「よし、大抵のことは分かった(分かってない)。それで、イドが此処に来た理由ってのは?」
長ったるい茶番を無理矢理捻じ曲げ、オレはイド来訪の理由を尋ねた。
イドは「あーそーそー」と、手を打ち答える。
「勿論、アルテインの今後についてだ」
イドの言葉にピリッと、その場の雰囲気が凍り付いた。だが現実の事だ。早く解決するに越したことはないし、アルテインの問題だからこそ、そういう問題はしっかりと決着をつける必要がある。
「アルテイン・・・」
オレがそっとアルテインの肩を引き寄せる。アルテインもコクリと頷き、未だ現状が掴めていないドメヴァーの方を見る。
「実験は成功している・・・。少年の血液と実験体の血の混血が本物の受精卵にしっかりと馴染んでいる。『ゆりかご』にはなんの問題もないし、このままノウスフォートの子宮に投入しても何も問題はない。だが、そうなると、そうなると・・・、今目の前に居る実験体は何だと言うのだ?」
自らの手で粉砕し、生き血を搾り取ったはずのアルテインが生きている。一番実験の内容を理解している者だからこそ、ドメヴァーは不安に駆られた。アルテインの生き血と、生きているアルテインを見比べながら現実から必死に覚めようとしていた。
その疑問はオレの横に居るアルテインにも伝播し、首を捻り始める。
「確かにあの時、ボクは粉砕機の中に入ったし、扉が閉じられるところまでしっかりと見ていたよ。でも、気づいたらゼクサー君の中に居て・・・。あれ? なんでなんだろう?」
本人も分かっていない様子だった。それはそうだ。密室に居た自分が、気づけば自分が殺したはずの男子の腕に抱擁されてるのだから。
四人の内二人が首をかしげる中、イドはすっと一本指を立てて口を開いた。
「鍵となったのは『電脳世界』、『VRTCG』、『電子ゲーム』、『シュレーディンガーの猫』」
「「―――???」」
「――――!」
「―――この世界の新概念として管理者権限の付与。”電気属性の力がこの世界の根幹に作用するものとして定義づけ、それを0と1の電子信号として分解し、アルテインが死ぬ未来と、アルテインが生きる未来の両方を同時に再現する事象の可能性を念頭に再構築する”。その結果、生き血となったアルテインと、生きながらえたアルテインが同時に存在するという現象を起こしたわけだ」
「それって―――」
「現実改変のような超常的な類いの業を、死にかけの身体で使ったと言う事か・・・? 正気とは見えぬ。実験体にそこまでの情をかけて救う意味がない。電気属性でそこまでたどり着いた。この時点で既に分からない上に属性技の理屈も分からない上に、さらに使用者の意図すらも分からない。なぜ、そんな無駄過ぎることを・・・?」
「知らねーよ。そんなもん。俺じゃなくてルナに聞け。俺はあくまでも補助係だったんだ」
アルテインがはっとオレの方を見、ドメヴァーはその行動が理解できないと問うてきた。そしてイドはそのまま次の言葉をオレに託してきた。なんか言えと、イドが顎で暗示する。
オレは内心めちゃくちゃな、と思いながらも本心を曝け出した。
「これはオレが働いてた精神病院の医師の人の受け売りだけど、「推しの人の推しを否定するのは傲慢だ」ってのが一番合ってると思う。オレはさ、正直アルテインさえ無事だったらその先の結果なんてどうでも良いって感じなんだ。でもアルテインは自分の命削って、新しい生命が生まれることを望んだんだ。行動を見ただけだから本心は違うのかもしれないけど、クソ義父の願いを叶えたいって気持ちはあったと思う」
「「「・・・・・・」」」
「オレはアルテインが生きていて、幸せになってほしい。それがオレの手によるものであってほしいって思うんだ。でも、アルテインはクソだとしてもドメヴァーの役に立ちたいって思ってたんだ。”見捨てる”って選択肢ができなかったんだ。ドメヴァーは奥さんに子供を宿してあげたくて、アルテインはドメヴァーの役に立とうとしていながらもオレのことが好きでいてくれて、アルテインの意思を尊重したいのに出来ないでいるオレがいる。――だから、”全員の願い”を叶えることにしたんだ」
「だからと言って、実験体にそこまで決心する意味はn」
「同じさ、クソ義父。同じだよ。あんたも、オレも。自分にとって大好きな人の為なら他人の命は省みないんだ。オレにとっちゃ奥さんなんてガラスに入ってる人って感じでどうでもいいが、ドメヴァーにとっては大事な人なんだ。その奥さんも、宿る子も。でもアルテインはどうだっていいんだ。所詮は消耗品だから。――でも、オレはアルテインが好きだ。大好きだ。若輩者の分際で言わせてもらうが、オレはアルテインを愛している。だから、同じなんだよ。同じ、ただの人間だ」
「・・・・・・・・」
「ゼクサー君・・・・」
「ルナは聖人君子じゃねーんだ。目の前で人が死なれるのは出来るだけ避けよーとする男だが、預かり知らねーところであまり人生に関わりのない人が死ぬことには興味すら湧かねー男だ。そしてどうしても、どんな状況下でも殺人を犯せない偽善者でもある。そこは、ドメヴァー。てめーと致命的に違うところだな」
アルテインがきゅっと唇を引き結び、オレの服の裾を強く握る。そのアルテインの目を見つつ、イドの注意が終わったところで、アルテインの頭を撫でる。
「それに、よぉ・・・」
「それに?」
「なんで沢山の選択肢の中から一つを選ぶなんて贅沢な真似しなきゃいけねぇんだ? 全部取って何が悪い。新しい生命が出来て、アルテインが生きている未来を作れば皆の願いが叶うじゃねぇか。一つの願いだけ叶えるなんて夢の無駄遣いだし、誰も幸せになりゃしねぇんだ。だろ?」
「まーな。ルナの回答としては百三十満点だな」
「一瞬悲しかったけど、やっぱりゼクサー君って感じだったな、今の。うん」
イドとアルテイン二人の称賛を浴び、なんとか話のテンションをお通夜にしなくて済んだことに胸を撫でおろしてみると、ドメヴァーが何も言えないような顔をして俯いていた。理解しようとも出来ず、かといってオレの感情がドメヴァーの感情に近いのも有り、返す言葉が見つからなかったのだろう。
そんな何とも言えないような雰囲気が漂っている中、不意に甲高い音が『ゆりかご』から鳴り響いた。
異常かと一瞬焦ったが、ドメヴァーがハッとした表情でガラス容器に閉じ込められたノウスフォートを見る。その容器に繋げられた管から何かが流れる音が聞こえた。どうやらノウスフォートの身体の中に送り込まれているようだった。
「ノウスフォートの全身の温度が上がっていく・・・。コールドスリープ状態を解除して暖房をつけて、―――あぁ、やった。やったぞ・・・!! やっと、愛しの我が子が出来るッ!!」
「あ?」
「どーやら、あっちの方も目覚めるみてーだ。ノウスフォートだっけか? 妊婦になった反応か、ホルモンが活発に働き始めたな・・・。後数時間ほどでコールドスリープ状態から元の人間くらいの健康状態に戻るぞ」
「分かるの? その、・・・イド君は・・・」
「あー、前世が向日葵の雄しべだったからな。ノウスフォートは。だから分かるんだよ。後紹介遅れたわ。ルナの師匠的な立ち位置の後方彼氏面してる友人のジォス=アルゼファイドだ。イドって呼び捨てで構わねーよ。それよりか」
「?」
「ここが勝負の決め時だぜ、アルテイン。この先は、アルテインだけが決めるんだ。むしろ、アルテインにしか、決められない」
イドとアルテインが何かを話し合っている中、ガラス容器に手を当てて薄く微笑むドメヴァーにオレは声を掛けた。このままでは全部があやふやなまま終わってしまいそうな気がしたから。
「ドメヴァー、お前なんか言う事があるんじゃねぇのか?」
「何を言う事があるのか、・・・・―――――ッ!? ま、まさか! や、やめてくれ! それはいくらなんでも非道すぎる! せっかくの家族との面会だけは邪魔してくれるなッ!!」
「おん?」
一言、アルテインに謝ってくれればと思っていたが、どうにも違うように解釈をしたらしいドメヴァーが慌てて此方に詰め寄って来た。今までの威厳は何処にもなく、嘘がバレるのを必死に隠そうとしている子供のように目に涙を浮かべていた。
オレが反応に困っていると、ドメヴァーは大声でアルテインを呼んだ。しかし無反応で返され、更に慌てた声音でドメヴァーが叫ぶ。
「じ、実験体!!!」
「ボクにはアルテインっていう名前があるの。実験体とか変な名前じゃない」
「ならば、アルテイン!!」
「・・・・なに?」
「妻に、ノウスフォートには何も言わないでくれ! せっかくの命を宿した妻に、お腹の子の経路を知られる訳には行かないのだ! 実験体、いやアルテイン! 頼む! 出来れば妻にはお前の存在も永遠に知らせたくないんだ! 速やかにここから出て行ってくれッ!!」
「なぁッ!!? クソ義父、お前、自分が何言ってるのか分かってるのかあ゛ぁ?」
ドメヴァーの口から出てきた言葉にオレの血管がはちきれそうになり、ドメヴァーの眼前へと立ちふさがった。何処まで行ってもアルテインが邪魔だとしか思えないとは、狂科学者これに尽きる、だ。
奥さんの子のためにアルテインを殺し、生きているアルテインに対しても奥さんに告げ口するな。存在が見られたら不味いから出て行け、だ。オレとしてはもういっそのこと奥さんにバラしても良い気がしてきた。
だが、
「ゼクサー君、ここはボクが決着をつけるよ」
「アルテイン!?」
「これは元々、ボクのせいだから」
オレの前にアルテインが立った。そして、人差し指を涙目で懇願するドメヴァーに叩きつける。
「当主様のお願い、聞いてあげる。その代わり、一個だけ条件を飲んでほしいの」
「なんだ!! 金か? あぁ、私の命と家族の命は除外してもらうぞ!! 私には愛すべき家族が居るからな!! 金ならいくらでもくれてやる!! それでいいな!? 良いよな!? 他に何があるって言うんだッ!!?」
半分パニックになりながら、自分が頼み込む側と言うのを忘れかけているドメヴァーの提案にアルテインは首を横に振って、―――言った。
「これから先ずっと、ボクとボクの大事な人たちに干渉しないで」
少しの沈黙、そしてオレの理解よりも早くドメヴァーが返答した。
「良いのかそんな事でッ!? あぁ良いとも! 正直実験体が二体に増えていようが何だろうが、ノウスフォートに今まで損させてしまった幸せを過ごしてもらえれば、それだけで十分だッ!! それで条件成立だッ!! 頼む! 妻が目を覚ますまであと数時間しかないんだ!! 早く出て行ってくれ!」
あまりにも早すぎる解答にオレが激昂しそうになるも、アルテインはオレの腕を摑んで無理矢理にもイドと共にその場から出て行った。
そして、もう二度と、アルテインがそこに帰ってくることなどなかったのだった。
A A A
「最初は堅牢なオッサンだったのに、子供が出来た責任感でもあんのか知らねーけど命乞い爺に大変身か・・・。すげーなあの変わり身の早さは。俺も少し混乱した。そこはアルテインにごめんなさいするもんだとばかりに思っていたが、子供ができたら次は実験の秘密を知られたくない秘密知ってるお前らでてけー!って、もー笑うしかねーだろ」
「大丈夫か、というか良かったのか、アルテイン」
「うん。お金貰っても嬉しくないし、あんなのから謝られたくないし、当主様も今は一人の親だから、殺したら見ず知らずの奥さんと子供が辛いだろうしで、一番あれとの縁を断ち切る選択肢が「干渉するな」って思ったんだ」
地下から屋敷内に出て、玄関を目指して歩くアルテインの表情はまるで憑き物が落ちたようにスッキリとしていた。
玄関を出ると外は雨だった。
アルテインはぼんやりと雨天を見上げながら疲れた様な溜息を吐いた。
「・・・雨か。なんだか不吉な気がするなぁ・・・」
「そうかな?」
オレの問いにアルテインは「?」と可愛らしい変な顔をする。だがこころなしか顔を伏せている様にも見えた。それが少しもどかしく感じつつ、オレは天を指さす。
「雨が降った日は顔を上げていられるし、何より雨ってのは降った後恵むもんだろ? いわば雨は次の芽の為の養分、つまり希望が降ってるようなもんだ。だから!」
「あ!」
アルテインの制止をも聞かず、オレは玄関の屋根を通り抜け雨を全身に浴びる。浴びて、濡れた掌をアルテインに差し出した。
「オレと一緒に希望でも浴びねぇか? 多分次はアルテインが恵む番だぜ」
アルテインはぱちくりと眼を瞬かせてオレを手を眺める。そしてほっと微笑んで、
「じゃぁ一緒に恵もう! ボクが幸せになった分、ゼクサー君にもおすそ分けしてあげる!」
オレの濡れて冷たくなった掌に確かなぬくもりが伝わった。
89話まで読んでくれた読者の方々有難うございました。途中から読んでくれた方々にも感謝をお伝えします。まだ読んでないと言う方々にもありがとうです。
誤字脱字や日付関係をミスって連続にしたり三日間空いたりと読者の方々には迷惑をかけてしまいましたが、数多くの読者数に評価Pt、多数いいねと元気を貰い有難い限りです。
そして本作の第一部はこの話で終了とさせていただきます。
第二部もそれなりにストックが出来たら投稿していきたいと思っている次第です。
ゼクサーとアルテインのカップルが出来たので次章からゆるゆると素人同士のBLも入ってきます。
良ければまた見に来てください。第二章の次回投稿は2月9日になります。
以上、パタパタさんでした。 じゃぁね。