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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章78 『著:ドメヴァー=エルダーデイン』

 ※本書は目的が成功した次第、燃やし、内容全てを忘れること。


 ※目的が迷走し、心が折れそうな時は、この本書を読んで気持ちを振るい立たせること。



 

 私は冒険者としての名家であるエルダーデイン家の長男として生まれ、父親と同じように有名な冒険者となることが私の人生の味気のない目標だと考えていた。


 しかし私の人生は二十歳になるまでとても面白くもなんともなかった。剣を振り、属性を鍛える毎日で周囲に居るモンスターや敵国の血の見たさで冒険者になった狂戦士共とは致命的に性格上相容れず、パーティに参入してもすぐに抜けてばかりだった。唯一の楽しみは生物学に関する研究だったが、年齢関係で実験室や深い研究学には入ることは出来ず、父親の「学歴は死すべし」精神のせいで満足に勉学を学ぶことは出来なかった。


 そんな人生に一端の面倒くささを抱いた私と妻の出会いは二十二年前に遡る。私がまだ冒険者として青かった時だ。


 当時、戦争をしていた我らの国で、密偵集団を他国に送り出す最中の遠征で運悪く二体の”ヨルムンガンドの魔龍”に遭遇した。どうやら野宿をした際に密偵集団が”ヨルムンガンドらしきモンスター”の巣に火を入れて燃やしたのが原因だろう。私達は応戦したが天まで届く巨体とばら撒かれる猛毒、人間と同じ”属性”を使う奴らには為す術なく、一方的に密偵部隊は壊滅させられ、私達護衛パーティは敗走した。


 私達は散り散りに吹っ飛ばされ、仲間の居場所も分からぬまま、野を越え山を越えて、私はボロボロのまま走って走って、走った。


 しかし一向に我が国にたどり着く気配はなく、疲労と体力が限界に達した私は遂に道半ばで倒れてしまい、意識を失った。


 だが、私は何の因果か次に目を開けて見たのは病院の中だった。


 どうやら私が倒れたのは国と”外”の駐屯地を結ぶ道らしく、交代の医療師団が国に帰還している最中に倒れている私を見つけたようだった。


 ――「最初あなたを見つけた時、死体かと思ってしまって。せめて死体はご家族の元にと思って近づいてみたらまだ息があったのですごく驚いてしまったのですよ」


 その駐屯地から帰ってきていた医師から目覚めの開口一番に言われた言葉だ。


 そしてこの医者こそ、今の私の妻であるノウスフォートだ。


 その時から私とノウスフォートは何かと馬が合い、仕事の合間に雑談をしたり、趣味の生物学の研究をして交友を深めていった。


 その交遊の間に知ったのだが、基本医者は冒険者がなんらかの理由で第一戦を退いた際に、代わりに就く後衛職であった。しかしノウスフォートは生まれながらにして遺伝的な身体の弱さもあって戦場で戦ったことは一度もなく、持ち前の頭の回転の良さで医療従事者へとなった天才だった。


 そんな勤勉な彼女に惹かれ、私はノウスフォートに毎日熱烈に好意を伝えていき、最終的にはノウスフォートと恋仲となった。しかし結婚は戦争が終結して世界が平和になった後にしようとお互いに決めていたため、あからさまなイチャイチャはせず、身近の出来事の雑談をよくしていた。


 そして私とノウスフォートが恋人となった二年後の事、戦争が主に二人の男女によって終結させられ、我が国が戦勝国となった。


 その後、少しノウスフォートの事についてイズモと揉めたが、カグヤの鉄拳制裁によってイズモの悪口を撤回してもらい、なんとか彼女との結婚に踏み出した。


 ――「これでも、私は子供の頃に病気をして死にかけた経験は沢山あります。少なくとも、”外”で死にかける冒険者達よりも、経験豊富だと思っていますよ」


 私がノウスフォートと結婚することを両親に伝えた時に出た話だった。


 私の両親は流石私の両親ともいうべき人で、生物学についての研究をする学者の母親に冒険者として名の知れた父親だ。母親は妻の生物研究の話題で仲良くなったものの、父親は学問とは縁のない人で、頭がいいだけで医師になれた妻に対して冒険者の苦労が云々という話をしていた時の妻の言葉だった。


 元々身体が弱いのは知っていたが、どうやら病気の方も遺伝のようで、兄妹の内二人の兄はその病気で亡くなったと私はノウスフォートから聞いた。


 だが、私の結婚の意思は変わらず、冒険者としての矜持が云々と言う反対派勢力の父親を拳で納得させて無事にノウスフォートとの結婚を成立させた。


 ここまでは良かったのだ。少し難があったとしても、ここから私とノウスフォートの輝かしい未来を築くと、そう思っていたのだ。


 

 問題は、十九年前に起きた。


 

 それは妻との間に子供が出来ないことだった。


 妻は健康体そのもので、私自身も冒険者としての怪我はしてもそこまで内面的な病気や怪我はしたことがない。


 一瞬、妻の身体が異常に弱いせいなのかとも思ったが、それでは義両親が三人も生んでいる意味が分からなかった。一時期、私か妻のどちらかに無意識的な病気があるのかと思い検診を受けたが、医師からも私と妻のどちらにも内臓の異常は見られないという結果になった。


 ――「もしも子供ができるなら、男の子かしら。それとも女の子かしら。属性は何になるかしら。波、それとも水? もしかしたらイズモさんやカグヤさんみたいに突然変異で沢山の属性を持った子が生まれてくるかもしれないわね?」


 最初は私ではなく、妻が精神的に疲れているから子供が出来ないのかと思い、冒険者としての仕事を早めに終わらせてなるべく共にいる時間を増やした。ずっと生物学に関する研究をして、医師をやっている妻だからこそ休息が取れていないのではないかと、私はそう思っていた。


 だから妻の希望に湧いた会話も、妻への心配からしっかりと聞いていた。


 ――「もしかしたら研究室に籠っていたり、”外”に行っているから心的疲労があるのかもしれない。しばらくは仕事を休んでみたらどうだろうか? その間の仕事は勿論、家事も出来るだけこなすよ。だからノウスフォートは不妊治療に努めてくれ」


 ――「分かったわ。私、頑張って治すわ」


 だが、そこから一年経っても妻との間に子供は出来ず、次第に妻が自身を追い詰め始めた。


 私は妻の不妊が治らず子供ができなくても妻との結婚生活を大事にしようと思っていたが、ノウスフォートは私の心配をプレッシャーだと感じてしまい、何時まで経っても子供が出来ない自分自身に嫌気がさしていたのだ。


 そして妻はおかしくなってしまったのだ。目元には隈が染みつき、頬もこけ、周期が来るたびに壁や床に頭を打ち付けて叫びまわる。その時は丁度”外”の脅威モンスターの掃討作戦の真っ最中で、家に帰ることがほとんどなかった。それ故に私は妻の状況が分かっていなかったのだ。


 出来るだけ妻のそばに居るように努力をしてきたのに、ここまで来ないと事の重大さに気づけない私は夫失格と自分に絶望した。


 しかし、このまま絶望しているわけにもいかず、私は仕事の合間に自分自身の身体の性質について研究をした。ここまで努力しても妻に子供が出来ないのは、もしかしたら自分自身に何か問題があるのではないかと。そう疑うと、疑うことを止めずにはいられなかったのだ。


 その過程で多くの人体に関する事が分かり、国から大量の賞金や実験器具が授与されたが、私は意に介さずに研究を進めていった。


 


 


 そして私は、私自身に繁殖能力がないと言う事が分かった。


 

 

 

 

 そしてそのことが分かったその日に、妻は自身の胸に短剣を刺して自室に倒れていた。


 


 

 私が事実を伝える間もなく、ノウスフォートは自身のふがいなさを恨んだようで、机に一筆「ごめんなさい。不甲斐ない嫁で」と書いて、自殺を図ったようだった。


 運が良かったのは刺した先が心臓の真横で急所になかったことだった。だが、その代わりにあまりも強いショックを受けたのか、その日から妻は目を覚ますことはなかった。


 私は私自身に問題があるとは考えておらず、あまつさえ何も問題のない妻を療養させてしまった事に強い自虐心が芽生え、もういっその事、妻を眠り姫にしてしまった代償に自身の命で罪を償おうと考えた。


 屋上へと行き、身を投げようとした私だった。だが、


 ――「もし子供ができたら、私とは違って身体も丈夫で強くって賢くて、格好良くて可愛い子が生まれたらいいなぁ」


 足を浮かせようとした直後に妻の笑顔と、不妊治療に勤めていた妻の言葉が落雷が落ちたように頭の中で蘇った。


 私の中で何かが変わったのだ。


 私は、償いに命を差し出すことを止め、道理を踏み外しても妻に子供を授けて妻を今までの妻に戻すことを誓ったのだ。その日の内に冒険者業を退職し、生物学者及び研究者として計画を練った。


 その日から、私は妻の身体の血液、その根本を魚と同じように組み替えてイズモが言っていた”コールドスリープ”を為した。もしも未だ実験が成功していなければ、妻の身体はガラス容器の中で眠っているだろう。


 そして半永久の眠りについた妻から取り出した卵子と、私自身の髪の毛から採取した遺伝子情報を精子に入れて受精させた。子供を作るだけならこれだけで十分だが、私の使命は妻の思い通りの子供を作ることだ。


 まずは私の原子属性を駆使して本物の受精卵と全く同じ性質を持った贋作を数千個創った。


 その後その贋作の受精卵数千個に国際法で違法とされている成長増進剤を使用し、遺伝した病気が発症せず、尚且つ身体の免疫能力や骨の密度、皮膚の丈夫さが秀でた贋作(実験体)を選出し、その贋作の血液を混ぜ合わせた後、遺伝子操作によって細胞分裂をし続ける情報を加え、更に増やした数千個の受精卵を成長増進剤と共に浸し、内臓や皮膚、脳や血管の傷の治りを人の数万倍速くする上長寿になった贋作を選出した。


 その後、計画の拡大化に合わせて地下の実験施設を改修し、同じくして人道を外れても人の医療推進を目指す研究員を増やした。この調子で理想の妻の子を作る計画を推し進めていくように。


 成功例の贋作の血液を絞り出し、それをまた数千、数万の受精卵に入れて成長増進剤を投与して成功例を選出する。その過程を目的が成功するまで何回も繰り返し、最後には本来の受精卵と成功した贋作の血液を調和させて妻の母体に戻す。


 それが『ホムンクルス計画』の全容だ。


 もしも、未来の私が躓いた時は、あの時の妻の言葉を思い出すように。子供を欲しても出来なかった妻に償う方法は、私が妻に、妻の願いを全て反映させた子供を作り与える事だけだ。この機会を逃したら、一生私は妻に償う日が来ないと思え。死んでも計画は成功させろ。


 沢山の属性を与えることはまだ計画の先の先だが、これは数万の贋作では足りないだろう。何年をかけてでも、何億の失敗作を生み出そうとも、統計学的に奇跡(突然変異)は存在する。その奇跡(突然変異)を信じて何度でも実験をするように。


 本来の受精卵には成長増進剤は入れないため、そこも加味して実験をするように。最後の仕上げをする時は実践も通して判断するように。可能な限り、”魔獣”もしくは”魔龍”を余裕で倒せ、属性競争大会を総なめ出来る力を出せるように調節する事。実験体はあくまでも実験体だ。無駄な情は掻ける必要はない。失敗作は漏れがないように全て処理し、成功例は生きた状態で血液を搾り取るように。可哀そうだと思ったら、妻の言葉を思い出し、自身の罪を振り返るように。後にも先にも、私の罪は妻を追い詰めた事だけだ。それ以上もそれ以下もない。




 ただただ、一人の親として一生健康で、人生に不自由しない笑顔の絶えない子供を作るように。


 それが今の私として、次に本書を読んだ私へ伝える親の在り方だ。

 


 

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