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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章76 『家庭の問題』

 「早速だけどアルテイン、こっから出るぞ」


 「え、いや、ちょっと待っt」


 「ちょっと割とホントにあまり洒落にならねぇ事態なんだよ。分かってくれ。後、諦めて」


 心では冷静さを演じていたつもりだが、どうやら身体は隠しきれていないようで、気づけばオレの存在に狼狽し、展開の速さについて行けないアルテインの腕を引っ張っていた。


 オレの掌は別段大きいという訳でもなく、小さすぎると言うこともない一般的な男子の掌でが、アルテインの腕は簡単に手中に収めることができる程に細く、日光に当たっていない時が長いのかと言わんばかりに、肌が白く感じられた。


 強制になってしまう、と感じたオレは目じりに潤いを感じてしまうような眼で此方を見てくるアルテインの腕を解放する。


 「すまねぇ、オレとしたことが強引っぽくなっちまって・・・」


 「え、あ、その・・・・」


 腕を摑んだことに関する嫌がり、なのかと思っていたが、アルテインの目はオレが生きて、元気な状態でアルテインの目の前に現れているのが異様に感じていると言うのを表していた。一瞬、「オレ生きてんだけど」と疑問がよぎったが、すぐさまイドがこの世の法則を捻じ曲げてオレが死なない状態にしていると言う話を思い出した。


 アルテインはオレを”殺した”と勘違いしているのだ。いや、確かに喉をしっかりと掻っ切られていたらしいのでおそらくは死んでてもおかしくない。いや、死んでないとおかしいのだろう。しかし、アルテインはイドによる工作を知らないのだ。アルテインの中ではオレは死んでいる存在なのだ。だからこそ、今の状態に納得が出来ていないのかもしれない。


 「アルテイン、―――」


 実は、今はちょっとキチガイの手違いで死なない身体になってるんだ。――と、説明しようと口を開いたが、即座に行っても理解できないのではないかと考えた。


 「(今の状態、ってか現状でイドの存在を説明しても時間がかかるし、なによりオレがよく理解していないのにアルテインが理解できる訳がないよな・・・)」


 どうしよう、と。


 ほんの一瞬、言いかけの口が反射的にオレの記憶を引っ張り出して、疑問の目に向けて返答をした。


 「言ったじゃねぇか。むしろ何度でも言うぞ。――死んでも蘇って、迎えに行くってな」


 「――――!! それは、あくまでも比喩みたいなもので!」

 

 「真実味のねぇ夢物語を、オレが何度現実にしていると思ってるんだ? オレの愛情は世界の常識すらも捻じ曲げる。歪んだ愛情とはまさにこのこと。一つの選択肢から複数の可能性を生み出すような前衛的な男だぜ、オレは」


 「――――ッッッ!!?」


 思っていた、というか思ってすらいなかった言葉が反射的に口から飛び出し、アルテインの目を見開かせる。問題は、その直後に来る感情の波が、嬉しさなどではなく、むしろ後悔や不安、そういうものが合わさったようなものだ。


 目からは、復讐されるのではないか、絶交されるのではないか、という不安が垣間見えている。


 なんでアルテインに復讐しなきゃならんのかは分かりかねるが、”あれ”の内容を見る限り、何処かの過程で感情の欠落や思考能力に障害が生まれたとも考えられる。


 オレはそんな血の気が失せた様な顔をするアルテインを落ち着かせるように、頭に手を置く。


 ビクッと震えるアルテインだが、そのままわさわさと撫でられる状況にオレを疑問視してくる。


 「何故か?」という疑問だった。


 オレはそれに対して決まっている答えを出す。


 「オレは死んでねぇからな。これと言って復讐する意味も、絶交する利益が見当たらねぇんだ。むしろ、絶交をすると、人間国宝と言っても過言ではない可愛さの究極みてぇなアルテインがトラウマ背負うことになりかねん。そうなったらオレ、罪悪感だけで死ねるわ」


 冗談も交えつつ、しかし言葉の芯はずらさずに、アルテインの頭を撫で続ける。急に理解という訳にも行かないが、怒鳴るようなことにはならないはずだ。――と、そう思っていたのだが、だ。


 「―――ち」


 「ち?」


 「致死量だったんだよ!? ゼクサー君の首を切って、血まで抜いたのに! 普通なら死んでるんだよ!? それなのに、そんな酷いことをしたのに、許されなくって当たり前、同じことされても文句言えないのに、絶交なんて序の口なのに・・・ッ!! どうして!? どうしてゼクサー君はボクを見捨てないんだッ!?」


 返って来たのは怒号だった。


 叫び、むしろその懺悔は慟哭と言うべきか。悪いとは分かっている。やり返されて当たり前、それなのに許されてしまう。それが本人にとってはあるべきではない可能性であって、忌むべきものなのだろう。アルテインが風紀委員長でもあると言うことに、その叫びの本質は深いつながりがあるのだ。


 オレに嫌われることが大前提。なのに嫌われない。ずっと好きでいられてしまう。それが理解しがたいのだ。アルテインにとって、それがアルテインの常識とはかけ離れていると見える。


 だが、だから何だと言うのか。


 嫌いになってほしい? そんな願いは此方から願い下げだ。


 なぜなら―――。


 「オレには今嫌いな奴が数人いる」


 「――――」


 「まず親父な。こいつは論外だ。約束破っといて記憶無くして、被害者に許すことを強要してくるんだ。しかも、自分にとって都合の悪いことを受け入れない。次に母さんな。オレのこと大嫌いなんだってよ。自分にとって都合の良い子がタイプだったみてぇだ。後は幼馴染共だな。ミルティアはまだちょっとオレ自身が嫌いに成りきれてねぇってところがあるけど、他は大体クソだ。正義感空回り女とナルシスト剣士、空気を読まないクソ男に、姉狂い。碌なのが居ねぇ。そして最後に、――アルテイン」


 「――――――っ」


 「――にオレを刺せって命令してきたクソ義父だな」


 「!!!!!!?????」


 今度こそ、その眼がしっかりと開かれ、驚愕に瞳を染めるアルテインを見ながら、オレはアルテインの両肩を摑んで引き寄せる。


 思っていたよりも抵抗なくオレの中にぽすっと収まったアルテインに言った。


 「わざわざ親友を刺して血を抜けとか、実の子に対してそんな事言える親がクソじゃない訳がない。子供を使ってる時点でアウトなんだよ」


 「それは・・・・違う!!」


 オレの抱擁を無理矢理にも突破し、銀色の髪を振り乱しながらアルテインは叫ぶ。


 「違う! ボクが、全部一人でやったんだ!!」


 「いいや、お前はなんにもやってねぇよ! お前が刺したって言ってるオレは生きてるし、首に傷もねぇ! そもそもアルテインは自ら進んでオレの血を黙って抜くような奴じゃねぇよ! それともあれか? オレの意見は無視ってか?」


 「そういうわけじゃない、けど・・・っ!」


 ちらりと、アルテインの瞳に、琥珀の光に影が入った。それだけで、アルテインが自ら進んで行ったとは言わない証拠が揃っていく。


 それはオレの瞳が、アルテインの瞳に映る一種の悪意を捉えたこと。写された悪意を映している、その悪意を感知したことだ。


 だからこそ、オレはアルテインの必死に隠そうとしている悪意を、明示してやる。


 「クソ義父から、何で釣られたんだ・・・?」


 「―――ッ!!」


 「金、ではねぇな。じゃぁなんだ、兄妹でも人質に捕られたか? 大事なもの、もしくは秘密とかか? 違うか・・・。じゃぁなんなんだろうな?」


 金でも、人でも、物でも、秘密的な情報でもない。だとしたら、もう答えは決まっているも同然だ。


 オレの試すような口調にアルテインの肩が震える。オレはアルテインから距離を取り、プレッシャーをかけないように背を向ける。


 返答はない。かといって、オレを攻撃するような前兆は見当たらない。


 オレはそんな時間すらも惜しくなり、答えを出した。


 「正解は、愛。この場合は家族愛か、そんなところか。――アルテイン、お前はエルダーデイン家の家族として、認められたかったんじゃねぇのか?」


 「なッ!!?」


 振り返り、驚くアルテインの目からは読み取れる答え合わせは合致している。


 今思えば、その答えに行きつくまでに多くのヒントがあった。


 灰獅子戦ではオレを初対面にしてはやけに同情的であり、周囲の評価とは打って変わってオレと会話を成り立たせて来た。


 弁当の時は、家族になりたいようなことを言っていた。


 そして、オレと一時的なお別れをする時に言っていた「認められたかった」。


 アルテインとオレは似た者同士だったのだ。


 似た者同士、オレもアルテインも、親から愛情を教えて貰えなかったのだ。


 だからあんなにも最後に見た時のアルテインは、一番伝えるべき想いが抜け落ちた様な瞳をしていたのだ。


 「アルテイン・・・・」


 声を掛ける、もしくは掛けた後か、アルテインがハッとしてオレを見る。


 どうしていいのか分からない、そういった表情をしている。いや、もしかすると、今いったい自分が何を考えていたのかも分からない、そういったところだろうか。混乱しているのは確かだ。


 オレも声を掛けるべきなのは分かっているが、何を喋ればいいのかは分からずに、


 「おい」


 「「―――ッ!!」」


 この場に居た誰かに、場面の変化、その権限を与えてしまったのだ。


 変わりゆく変化は幸福と言うよりかは不幸、それは一人の者にとって、あるいは二人にとっての幸福である。だが、それは反対に二人の不幸を生み出してしまうことにもつながると言える。


 それは巨人のような体格の大きさ。だがしかし、そんな冒険的な見た目とは裏腹に白衣を着た人物だ。


 科学者、と言ってしまえば聞こえはいいが、どうにもこうにもアルテインとの距離が妙に近いとさえ感じれた。


 黒い髭にガタイの良い男。中年のその男に、アルテインの態度が急変する。


 突然全身から冷や汗がでているのだ。


 「誰だぁ、お前・・・」


 おそらくはオレが壁を破壊したときについでに蹴り飛ばした科学者なのだが、どうにもただの科学者という訳ではないようにも感じるし、どこかで見た事がある気さえする。


 オレはアルテインの目の前に立ち、斧を引き抜き、意識を更に敏感にさせていく。ごつい身体は並大抵の鍛え方ではない。それに、相当の修羅場をくぐってきている猛者のような気配を感じた。少しの油断が命取りとなる。


 しかし、その科学者はまるで攻撃の前兆を見せずに、アルテインを見る。そしてその次にオレを見下げて、軽く頭を下げた。


 「私はドメヴァー=エルダーデイン。現エルダーデイン家の当主だ」


 「―――」


 「早速だが、手を引いて貰えないかね。これは家庭の問題だ」


 そのクソ義父がぼそっと呟いたかと思えば、瞬間、人体を吹き飛ばす威力を持った波動砲がオレの眼前に顕現した。


 


 

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