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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章75 『ホムンクルス』

 「ホムンクルス計画・・・?」


 薄い明かりがついている紙だらけの実験、声は金属の空間内で反芻された。


 計画自体に何か知識があった訳ではない。だが、”ホムンクルス”という単語にのみオレには聞き覚えがあった。


 「都市伝説で聞いたことあるな・・・」


 都市伝説とは真実味のある嘘の話だ。親父が流行らせた『モモタロー』とかいう童話とは違って、こっちは割とどの国がどんな風にどんなことをした。それが戦争終結後の内偵から漏れたとか、真実に近そうで裏取りがされていない話だ。


 『スレンダーマン』だとか、『ザ・マン』だとか『ユーフォ―』だとか色々世界では度々陰謀論の媒介として使われているが、その中に”ホムンクルス”という単語があった気がするのだ。


 「どういう話だったっけなぁ・・・」


 なんだったか、人体実験っぽい話だったのは間違いなかったが具体的に。と言われると返答に困る。


 だが、少なくとも人体実験の名称を使っている時点でヤバい実験なのは明白だ。


 「アルテインの家の地下って、割とアングラなのか?」


 精神病院のアングラを見てきたオレからすると、実物を見るのとはまた違った恐ろしさを感じる。まるで公共の場に展示されている不発弾(本物)と密林の中に隠された地雷みたいな、そんな感じだ。

 

 「(とりあえず、見てみるとするかね。折角扉粉砕したし・・・)」


 薬品とかはオレに知識がないという点で、見ても意味はないが、実験内容や結果は文字である。多少なりと専門用語が書かれていても文字の羅列であることに変わりはないはずだ。


 つまりオレでも見れると言う事である。


 「(もしも実験内容がヤベェのだったら、賠償請求とかされた時に実験内容ばらすぞって脅して、逆に金をむしり取れるかもしれないし、見ておけるものは見ておくに限るな・・・)」


 そんな守銭奴みたいな卑しい考えを持ちながら、オレは黒板にかかれた実験名。その近くにある机の上から報告用紙の束を手に取る。


 「えっと、何々、・・・原子属性の応用、分子構造の把握及びディーエヌエー構造を変えて再度実験を行い、成長増進剤を投与したところ、二千百十六体の被験者の内、三体があらゆるウイルス、細菌に対しての完全な耐性、吸収し、無害な物質へ変換することが可能となった。しかし内三体の内の一体は筋肉が付きにくく、内一体は変換に関する力が他の有機物を消費して得られるエネルギーで賄われていることが判明した。残り一体は無償で変換能力を行使することが可能だと判明したため、その血を使い、次の実験段階へ移ることが決定した。・・・・なんだこれ?」


 書いていることはえげつないのはなんとなく分かるのだが、どうにも内容がよく分からない。


 多分文治構造がどうの辺りで、ただの音読状態になっていた気がする。正直理解しにくかったのは覚えている。


 「ダメだ。何がダメって、実験内容がなんか倫理的にマズイのは分かるんだが、どうダメなのか分からないし、そもそも実験内容の意味が分からねぇ」


 読解力のなさが裏目に出た。ただ文字を音に置き換えているだけで、その意味を分かってはいない。


 「ウイルスと細菌ってどう違うんだっけ? そもそもウイルス自体がちょっと分からねぇ。あれだよな? 喉にものが詰まって咳する総称がウイルスだったよな? あれ、逆だっけ? そもそもそれの変換ってなんだ? 細菌は生物なんだから耐性もなんにもないだろ。マジで何を言ってるんだこの文章は・・・」


 オレはその報告書を元の机に戻すと、その横にあったもう一つの用紙に目を通す。


 「実験対象の分子構造及びディーエヌエー情報を組み換え、成長増進剤を投与した実験をした結果、九十七万三百三十六体の被験者の内、十二人が波属性並びに他の属性の発現が観測された。同時に、多数の属性を持つ実験体の脳は通常個体の数倍の密度が有ることが確認されており、必要な属性を必要なだけ取り入れなければ、無駄な属性の為に使われる右脳及び左脳の情報処理能力がパンクする可能性があり、全属性を取り入れるとなると、成長増進剤を使った場合、脳の成長が著しく遅れ、能力の行使に相当の負担がかかる可能性がある。成長増進剤を使わなければ全属性行使も可能であるが、時間を掛け過ぎてはいけないため、ここでは電気属性を発現させない方針で行くことで、空いた要領による緻密な操作性を獲得することができると考えられる。それと同時に実験成功例の対象者の半数以上が一時的に行動が単純化することが確認されており、これは脳の密度の異常な増大に伴ったことによる別人格の形成だと考えられ・・・・・やっぱ、なんかなぁ・・・」


 文字の羅列、ではなく、オレはそもそも文章読解が苦手なのではないかと感じた。


 文章の最初はなんとなく分かるのだが、数字が出て来たり観測みたいな文字が出始めるとオレの脳はまるで障害を起こしたように理解を拒み始める。電気属性という単語が出てきたかもしれないが、もうよく分からねぇや。


 「もうちょっと優しい言葉で、オレにも分かるような専門用語で、あまり多くない文字数だったら分かるんだけどなぁ。あ、後、数字とか計算式もなしで」


 そんな都合の良い実験報告書たるものがあるわけがないとは心のどこかでは思いつつも、意識の網で空間内を精密に思い描く。


 そして――、


 「おん?」


 オレの視界の真ん前に陣取っている壁際の棚。その一番下にある金庫に目が行った。


 錆びて茶色になっている金庫だが、鍵がしっかりと掛けられている。しかしザラザラとした質感とは裏腹に、金庫からはとても軽い音がした。


 「(金とかが入っている訳ではないみたいだな・・・。なんだ? 本っぽい、手帳っぽいものだな)」


 『平面の集中力(レーダー)』で金庫の空間内を見てみたが、どうにも落ち着く先は辞書にしては厚さが足りない本っぽい手帳だった。


 「手帳をわざわざこんなところに隠すか、普通・・・?」


 科学者がどういう感性をしているのかは分からないが、金庫に手帳は初めてだ。普通は金とか古代遺物とか形見とか、そんな辺りを保管するものだと思うのだが、どうにも理解できない。


 「鍵ねぇし、斧で天井部分掻っ捌くか・・・」


 部屋を見回しても鍵らしい鍵は何処にもない。


 むしろあったところで鍵を使うかも怪しかった。


 結局オレは斧を抜き取り、錆びてガタガタになっていた金庫の天井にとどめを刺してその蓋を強引に開けた。


 中から出てきたのはやはり、『平面の集中力(レーダー)』で感知した黒い革製の手帳だった。


 辞書とまではいかなくとも、それなりに筆が入れられているのか、とても厚さがあった。湿っていたともいうが、へんなな臭いはしていないので、恐らくカビとかの心配はいらないと見える。


 「とりあえず、読むか・・・」


 オレは湿り気のある手帳を開いて、最初に飛び込んできた文字を読んで。


 読んで―――。


 ――――――。


 

 A A A


 

 「―――――おおおおッッ!!!」


 台地が爆ぜるような轟音が響き渡り、厚さ三mはある金属製の壁が直後に外側から崩壊する。


 それがたった一人の少年の放った蹴りだとは想像もつかず、ただ茫然と土煙の上がる瓦礫の上から近づく足音に耳を傾ける。


 が、急に足音が消えた。


 「っっっっるぅぅぅうああああッッッ!!!!!」


 業ッ!!と禍々しいものが爆発するような雄叫びと共に、とある少年の真横を風が凪ぐ。


そして直後に隣に居た存在が居ないことに気が付き、後ろを振り返ると、自身にとっての存在理由とも言える人物があおむけになって倒れていた。


 そしてその人物を足蹴にしながら、その少年にとっての驚愕が声を発して近づいて来る。


 異常だ、と。


 そう感じるよりも早く、その驚愕は段々と、運命にとって最悪な展開を形どる。


 「な、んで・・・」


 へたりとその場に膝を落とす少年を前に、その男が金色の目をらんらんと輝かせて、今さっきまで発していたとてつもなく大きい、忌々しい何かが成りを潜めていった。


 そして―――、


 

 「そりゃお前、言っただろ。死んでも蘇って迎えに行くってな!」


 

 笑いかける美貌、燃えるような赤い髪、全体的に鍛えられた体つきに斧を装備している人物が、――少年の初恋たる人物、ゼクサー=ルナティックが指先を少年に叩きつけ、笑いかけたのだった。


 

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