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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章74 『予想外の奇襲方法』

 滑空する空、そして疾走する風。風圧が置き去りになる幻想のような世界感。夢にも思ってしまう感じた事のない感覚に鈍感な人肌も鳥肌になる。


 ただ一つ、欠点があるとすれば―――。


 「なんでオレ今イドにお姫様抱っこされてんだッ!!?」


 「諦めてください」


 「なんでじゃ!? おんぶか抱っこでも良かったじゃねぇか!!」


 「強ーて言うなら俺得。それに、座標飛ばすのは少しロマンがねーからな」


 「座標を飛ばすロマンとはいったい・・・」


 分かるとは思うが、オレは現在、イドにお姫様抱っこされながら空を高速滑空している。イドに翼は生えていないし風属性を使っている様にも見えない。意味不明な力を行使して世界の空気をわがものと言わんばかりに操っているのだ。


 そしてオレの膝と腰はがっしりとイドの腕と掌によって抱えられており、筋肉がオレの信頼を勝ち取っているのは本当である。


 見下ろしてくる空は月以外ちらほらと星が輝いているだけであり、後は曇天が視界の全てを覆っている。今にも雨が降り出しそうな世界、下には国が導入した街灯が夜の首都街路を照らしている。


 「なんか、不吉だなぁ。オレ、雨とか嫌いなんだよな」


 「そーかー? まー確かに、雷雨はきちーよな。雷が不定形だからちょっとしたコツを使わねーと掴めねーんだよな」


 「その悩み持ってる奴イドだけでは・・・?」


 「お! そろそろアルテインの家が見えてくるぞ」


 「どれだよ。暗すぎて分からねぇ」


 きょろきょろとイドの見ている方角を見て見るが、いくら街灯がついているからと言っても暗すぎる。それにオレはアルテインの家を見た事がないのだ。行こうとも考えた事はなかったが。


 たいしてイドは「ほらあのでっけー建物!」だとか、「明かりがついてるだろー?」と言ってくれるが、ここは首都街路近くの高級住宅街だ。デカい建物なんてあちらこちらに散らばっているし、名家も多いから家に電気を繋げているところは沢山ある。


 オレが当ての外れた方向ばかり見ていたのか、イドが「前!」と言う。


 「ほら見えるだろ? あのなんか水滴を太くしたよーな感じの屋根! 分かるだろ? カンブリア宮殿を真っ二つにした感じのでけー建物!」


 イドの言うように首を前に、そして太い水滴の形が頭をよぎったが、実物を見た瞬間に頭の中の水滴が視覚情報と合致した。


 ――そこには、確かに水滴を太くしたような特徴的な屋根が一つ付いた、世にも珍しい変な形の屋敷があった。


 他の住宅街と比べて高さも広さも相当なものだと、オレは少し度肝を抜かれた。しかしすぐさま戦意を取り戻し、同時に抱いた一つの疑問をイドと共有する。


 「ここがアルテインの家ってのは分かったけど、何処にアルテインが居るんだ? この建物一帯を探すとか、朝になるぞ」


 「朝にさせねーし、アルテインのいる場所も分かってる。―――地下だ」


 「は? 地下?」


 オレは二重の意味で首を捻った。


 これだけ大きな建物なのに地下があるのか、という安直なものではない。


 一応、アルテインは大会優勝者と言う扱いを受けている。どう考えても、普通の家ならばパーティを開いている頃合いではないだろうか? それにパーティと言えば大きな部屋が必要だ。少なくとも、地下でやるもんじゃないはずだ。そして、何故そこにアルテインが居るのか、ということだ。


 「――もしかして、アルテインって家族間になんか問題を抱えてんのか?」


 「地下にアルテインが居るってだけでそこまで突き止めるとか、どーやらルナの”翼”は思考も加速させる効果があるらしーな」


 脳裏に浮かび上がった可能性、今までのアルテインとの会話を逆算し、オレの今までの過去をもう一度蘇らせたことで捻出した一つの真実。信じたくなかった想像がイドによって完全な真実へと変わることに、オレの背筋は冷え、頭が冴える。


 だとすれば、アルテインがオレを襲った原因は親にあるのではないか。母親か、父親。もしくは両方が、何かを盾に、餌に、もしくは恐怖心や歪んだ真心でアルテインを操っている可能性が大いにある。それが何らかの歪んだ愛情みたいなものであれば、オレがぶっ飛ばす相手は両親だけに終わらないかもしれない。


 が、ここでイドが口を挟む。


 「想像のし過ぎは偏見の元だ。一度現実を見ろ。想像はその上でしろ。アルテインとはぶつかるかもしれねーが、なんとかすりゃぶつからねーことだって出来る。常に最悪を考えるのは良ーことだが、考え過ぎると勝つことを考えられなくなっちまう」


 「・・・・」


 「ちなみに今のルナの想像は半分正解だ」


 「・・・そうか」


 「そろそろアルテインに一番早く到着できる目的地に着くぞ」


 イドに忠告を促されて少し肩を落とすオレだったが、イドの声が変わった瞬間、下を見る。


 ――芝生だ。それも、敷地内の。


 あまりにも高い場所から下を見ると酔いそうになるが、もっと酔いそうなことをイドは平然とした表情で言った。


 ――いや、多分死ぬようなことを。そして多分死ぬ。


 「今から垂直に落ちます。重力を数千倍に引き上げて、あらゆる力の抵抗を無効にするから舌は噛まねーよーに引っ込めてろ」


 「は


 心持、覚悟、心構え、信念、準備、その全てを投げ飛ばしてイドがオレを抱えたまま文字通り垂直に落ち始めた。それもすごい速度で。


 加速する周囲の風景は流れるのではなく、オレを呑み込むように地上が大口を開いてオレを吸い込まんとするように急速に本来の風景色を失っていく。オレの意思関係なく落ちる様は正に隕石そのものだ。重力に引っ張られる感覚を肌身に感じながら、ガタガタとオレの意識は揺れる。ビチィッと紐が千切れる音が脳内に響き渡り、オレは意識を失う寸前まで行った。


 しかし、突如、


 ――ダゴンッ!!!!!


 と、土を抉り、数m下に敷いてあった金属の天井を打ち破る音に心臓を揺さぶられ、衝撃が辺りを吹き飛ばし反動で来る風圧に脳が揺さぶられ、オレは意識を失い、眼を覚ました。


 瞼の裏には情趣のある風景があったのに、いざ目を開けてみればそこはなんらかの薬品やら工具やらが棚に並べられた、とても整備の行き届いた場所だったのだろう。今では周囲が吹き飛び、荒れに荒れて廃墟かと言わんばかりの光景があるだけだ。


 授業でも見た事の無いようなラベルの張られたガラス片が散らばり、液体が地面と反応して有毒そうな煙を発している。壁と扉はあちこちにヒビが入っており、崩壊しているところもあった。


 損害だけで家一つ建つのではないかとも思える惨状。作ったのがオレでなくとも怖気が走る。


 部屋一つを人体の落下だけで機能不全に陥れた男は平然とした表情でオレを下ろす。


 「すまねーな。人的被害の出ない落下地点が此処しかなくてよー。一応、一番早くアルテインに会える距離だから勘弁してくれ」


 「オレはいったいお前の何を許せばいいんだ?」


 「あ、そーそー、ついでに今回のアルテイン嫁り作戦、俺も参加するから。友人枠で」


 「おい、話飛んでるぞ」


 「話飛んでるって・・・、俺別に結婚式の話をしてるんじゃねーんだぜ? ただ単に、ルナの作戦邪魔する奴をぶっ飛ばして、ルナがピンチの時に手を貸して脳を貸すってだけの話だ。別に奪おーとは思ってねーよ。俺は純愛派なんでな」


 「いや聞いてねぇよ。オレも純愛派だけど」


 「なら、問題ねーな!」


 イドが大丈夫と言わんばかりに親指を立てる。何一つ不安が解決していないが、イドが参戦すると言う謎の安心感があるのが不思議だ。


 しかし、オレの露払いとはいったい何をするつもりだろうか。


 オレが疑問を呈した瞬間、イドが「例えば」と答えを切り返す。そして思い切り、”ドア”だったものを蹴っ飛ばした。


 刹那、蹴飛ばされた扉が音を置き去りにして何かにぶつかる。そして追いつく金属の擦り切れる音に、蹴っ飛ばされた先の方から助けを呼ぶ声が聞こえた。


 「このよーに、ルナの目の前に現れる邪魔科学者は壁と扉でサンドイッチにします」


 視界の先には精神病院の廊下のような、無機質な金属の床、壁、照明の付いた天井が並んでおり、その先には白衣の袖と掌が飛び出した状態の科学者が助けを叫びながら壁を必死に叩いていた。蹴飛ばした扉は歪んでいたのも有り、ぴったりと科学者を挟んでいた。


 哀れに感じつつも、まぁ仕方ないかと割り切り、オレは『平面の集中力(レーダー)』を発動する。


 澄み渡る空間把握能力が唸りを上げて世界を監視下に置く。


 勿論、地下だけでは留まらず、地上の気配も全てだ。


 そしてその気配の鋭さはオレの目的を綺麗に捕捉した。


 アルテインだ。


 それも、かなり近い場所に居る。


 オレは腰に装備している斧を抜き取り、イドのこじ開けた突破口に身を乗り出す。瓦礫に踏み込みを入れ、猛然と大地を蹴り飛ばした。


 同じような景色が繰り返すなか、イドがまるで壁と一体化したかのようにオレの横を通りすがる。 


 「前方に敵が三人。全員科学者だ。男しか居ねーからそのまま突き進め。敵の意識は刈り取っとく」


 そう言い残し、一瞬にして壁を曲がるイドを最後に、曲がり角の奥から流されるように何かが崩れ落ちるような音が聞こえた。


 直後にオレの意識が遅れて曲がり角の先にいた三人が崩れ落ちる図を脳内に流した。そして実際に曲がり角の先には崩れ伏した科学者が三人居た。ちなみにイドはオレの意識の網に引っ掛からなかった。地下のどこを見てもイドの存在を認知できず、ただただ、地下内の科学者の意識が刈り取られているところばかりを写し出している。


 「本当にあいつ、こういうときだけ凄い頼りになるよな・・・」


 なんだか都合のいい友達感がある言葉選びだが、イドの存在自体が都合の良い悪いを超越したところにあるからか、あまり気にするべきことではいと思った。


 イドを主体に物事を起こすと、原理も過程も謎に包まれた事象が発現するが、後ろ盾にすれば意味分からんくらいにありがたい活躍をしてくれる。勿論、それに付き合わされることを覚悟の上で、だが。


 そんなことを考えながらも、オレの脚は進み、一つの部屋に到着した。この部屋の先にある通路を通ればアルテインの居る部屋へと最速でたどり着けるのだ。


 「誰も居ねぇのは知ってるが、頼もーうッ!!」


 二、三重の鍵に四、五重の鉄板を敷いた重苦しい見た目の扉の取っ手を斧で叩き斬り、無理矢理に扉を開いた。


 そこでオレは目を見開いた。


 時が止まったかのように、オレの意識は一瞬だけ世界から切り離される。 


 それもそのはずだ。


 壁、床、天井、その一面にあらゆる何かの紙で埋め尽くされており、壁に貼り付けられた黒板にはオレの目が釘付けにされる程のものが描かれてあった。


 大きなガラスの中に赤子の絵。


 その絵の横にはデカデカと何らかの計画の名前が書かれてあった。


 その計画の名前を、オレは口から音として発する。

 

 

 

 「『ホムンクルス計画』・・・・?」




 それはオレが襲われた原因、その全体の背景であった。 

 


 

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