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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章73 『決戦当夜』

 遠く、意識は海の中を漂っている。


 広がっていく波紋、まどろみの中で夢と現の狭間でオレの意識は浮き沈みを繰り返していた。


 「――――血が足りていない! これ以上は食塩水の入れ過ぎだッ!!」

 

 「誰か、輸血を! こんな時に限って輸血パックは無しか!!」


 「どうすれば――――!!」


 遠く、近く、彼方と此方の境目で、誰か達の慌てた声が聞こえる。


 そこに一滴の雫が滴り落ちた。


 「私の、血液を使ってください」


 「しかし、君h


 「私ができる償いは全部やらなきゃいけないから・・・! ゼクサー君にひどい事を言ったのに、謝れずに死んじゃうなんて、耐えられない! どうか、私の血液を使ってください!!」


 困惑を押しのけて、また一つの滴りがオレの耳の中にゆっくりと入っていく。


 そしてまたオレの意識は深い、深い水の中へと落ちていった。


 

 A A A


 

 「――――――――ぁ」


 最初に目に入ったのは見慣れない天井の模様だった。全体的に石造りと言った印象を受け、無駄な装飾どころか殺風景な装飾すらもない不格好な屋根だった。そして次は首を動かして左右を見る。


 左方にはもう一つ寝台が有り、右方には天井と同じく石造りの壁が有り、ガラス窓がある。


 あぁ、ここはどこかの病室か。


 そう思ったと同時に声が聞こえた。


 その声は久々に聴くように思えて、実はずっと近くに居た様な、そんな不快感と不思議感が含まれていた。そしてオレは、その声の主に心当たりがある。


 「イド、か・・・」


 「俺以外いねーだろーがよ。さっさと起きろ。身体の傷は俺が対象の部位の時間を巻き戻して完治させておいたからな」


 イドの言葉からして、オレは元々何処かを怪我していたらしく、ここまで運ばれて来たと見える。意識を失って運ばれると言うことはつまり無視できない程に重症だったと言う事だ。


 オレはゆっくりと身体を起こすと、寝台の端っこに裸族が居た。


 黒と灰色のオッドアイに黒い髪、上半身は裸で筋肉が余すところなく全身に付けられている。下は簡単な半ズボンに何かの獣の皮を羽織った状態で、そんな隙間からもやけに鍛えられた脚(太もも)が覗いていた。なんという嬉しくないラッキースケベ。何処の層向けなのか、果てしなく謎は残るがしかし、それよりも聞いておくべきことがある。


 「オレはいったいなんでこの場所に? いったい何の怪我をしたってんだ?」


 ググっと全身をしならせてみるが、特にと言って引き千切れるような痛みを伴く個所が無く、なんで病室に居るのか分からなくなってくる。


 イドはコリッと首を鳴らして人差し指で自身の首に向けて、スッと横に線を引く。


 「喉」


 「へ・・・?」


 「首だと言えば流石に分かるだろー? ルナは首を切られて、血ー抜かれたんだよ」


 「なんで生きてんだオレ」


 「なんで生きてんだお前」


 「「・・・・・・・・・・」」


 「・・・・・冗談だ。俺が個人的に保険をかけておいたってだけだ」


 居心地の悪そうな顔をするイドの言葉、保険と言う文字にオレは少し混乱した。戦闘とか殺傷とかにおける保険ってのは、所謂裏方仕事とか恋人のペンダントが銃弾を弾いたとかそんな奴ではなかろうか。伏線回収とか、まさに保険と言う奴だと思う。


 「生首切られるのに保険とかあんの?」


 「あー、簡単に言えば、「ルナが受ける致命傷を峰打ちにする」っつー法則を世界に書き足したんだよ。だから基本的にどんな痛手を負ろーが、首をもがれよーが、存在的根源を破壊されよーが運命がお前を復活させるんだよ」


 「え、つまり、オレ死なねーってこと? お前のせいで?」


 「あー、死なねーな。俺のおかげで。まー、今回は首切られたって致命傷が貧血と切り傷に置き換わったってだけだからな。輸血すりゃ復活できる。後は俺が傷口を戻せば終了だ」


 「強すぎんだろ・・・」


 げんなりとしつつも、イドのおかげでオレは天に召されるのを回避できたと考えれば、イドには感謝しかない。原理が謎過ぎるということを除けばの話だが・・・。


 「超特異次元に脳ミソ繋げたり、陽子(?)を崩壊させたり、更には法則書き換えて時を戻す。イドってなんだかんだただの不審者じゃねぇんだよな」


 「まるで俺がにんにくみてーな言ー方だな。顔面異世界人の癖して中々言ってくれる」


 ははは!と笑ってくれるイドを見ながら、ふとオレは傷がついていたであろう首の周りを触る。滑らかであるが、人の皮膚だと感じれる生暖かさ。わずかに硬い骨の部分を感じ、血液が運ばれている感触が伝わる。


 そして次に思考するのは、何故、誰が、何時、だ。アルテインに肩揉みをしてもらった後くらいから記憶がないので、もしかしたら。


 ――――――ッッ!!?


 少し過去を振り返ろうと、オレは過去を遡り、気づいた。


 とんでもない事実に。


 「げぇッ!? 大会終わってるじゃねぇかッ!!」


 窓ガラスから差し込んでいるのは陽光ではなく月光と、天井の明るさが部屋の真ん中に付けられた電球だと気づいた。この条件から導き出される結論はつまり、オレの総なめが未踏で終わったと言う事だ。


 イドはイドで「やっと気づいたかー!」と笑っている。


 「マジかよお前、もっと早く起こしてくれても良かったんじゃねぇのッ!?」


 「無理言うなよ、久々に神界の牢獄から抜け出した”機械仕掛けの神”をキルエルと一緒にぶっ倒しにあっちまで行ってたから、お前が死んでるって情報が入ってこなかったんだよ」


 「あぁ、異世界行ってたのか。なら仕方ないのか・・・?」


 「そーだな。優勝はアルテインだったぞ。不戦勝で。すっげ―言葉にしがてー顔をしてたぞ」


 「―――――ッッ!!??」


 その益体のない台詞に、無意識にオレの表情が強張るのが分かった。一瞬、イドの表情が悪魔のような狙ったような表情見えた。そして、瞬く間に想像もしたくない現実が頭の中で再生する。


 ――「――――次に、―――――君のお―――にしてね」

 

 冷めたような身体の熱が沸騰し、脳の思考が加速する。気づかないようにしていた。悪い夢か何かだと思っていた。それが現実でも、忘れようと―――、


 「忘れられねぇよ・・・」


 脳が、思考が、現実が、オレの世界が目覚めた。


 じっくりと、濡らすように口から飛び出た言葉は本物だった。か細くても、それが自身の口から出たものであるなら、それに力が宿るのは当然のことだ。


 「そうだよ、今まで変に入っちゃいけねぇラインだと思ってたから踏み入れてなかったけど、あれは、異常だ」


 その独白を皮切りに、アルテインが入室した時の、あの一瞬が見せた台詞の違和感が息を吹き返す。瞳を見せないようにずっとニコニコしていた、あの変な笑顔。照れて元の素顔に戻ったかと思いきや、ふと罪悪感のようなものを瞳に宿すあの不安そうな瞳。


 全部が全部、アルテインの本音だったわけではないのだ。


 むしろ、アルテインがあの時に喋った言葉は限りなく、本人の口から洩れたもので間違いはない。ただ、それは本心ではないのだ。「仕方ないから、言う」という表現が近いのかもしれない。諦めた、妥協した、もしくは、言うべき人が死んだから、とかだろう。


 恥ずかしがってくれた、あのアルテインのほうがずっと彼の本音だ。


 だとしたら、彼はなんでオレの血を抜いたのか。殺すだけなら、血を抜く必要はない。何かに使うから、血を抜いたと分かる。これは分からない。でも、それをする理由は何だったのか。


 血、と言えば何かの実験とかだろう。オレの想像では血は主に材料として認識している。中には媒介とするのもあるがどうにもアルテインがそんなことをする理由が分からない。


 そういう性癖があったとか? だったらもうオレは文字通りアルテインに食われている。


 何かの宗教にはまってしまったとか? だとしたらあんな風に、感情のよく読めない瞳をするはずがない。


 もっと、ドロドロと、歪んでいる何かがあったのだ。


 「(これは、オレだけでどうにかなるもんじゃねぇな)」


 そうと決まると、オレはずっと目の前で待ってくれていたイドに依頼をする。


 「イド、オレをアルテインの所まで連れてってくれねぇか?」


 「なんでだ? 夜這い目的なr」


 「イド、実はオレ、決勝の待機室でアルテインと駄弁ってたんだよ」


 「そうらしーな」


 「そこで駄弁ってたアルテインの顔がさ、なんかこう、よく分からなくって。”いつも”っぽくなかったんだよ。話もなんかちょっと変だった。何かをずっと気にしてる、葛藤してるって感じがあった。それで、オレ、アルテインの気持ちが全然分からなくって、肩揉みをしてもらってた時に切られたんだ」


 「そーか、ルナの首の切り傷がアルテイン製だったから、こりゃまたどーしてとは思っていたが、無理解が原因か・・・。それで、”どうしてこんなことをしたのか話し合ってみたい。理解してみたい”そーゆーこと?」


 悪戯っぽく、イドが口を歪ませて聞いてくる。筋肉しかないのに、どこか小悪魔っぽさを感じるがしかし、イドの代弁は間違っている。人の無理解ってのは確実にオレに悪いというのは一理ある。それでも、その答えは間違っている。


 オレの答えは確定しているのだ。


 オレは「いいや」と首を横に振って、寝台から降りる。


 そしてくたびれたシャツを伸ばして人差し指をイドの眼前に叩き込む。



 「今からオレは、アルテインを嫁にする!!」


 

 る、る、る・・・、とオレの声が部屋の中に木霊する。イドは小悪魔顔のまま固まった。時が止まったかの如く、何も動かない。


 そんな中でも、オレは未だ止まることを知らない。


 「人なんて簡単に分からねぇんだよ! オレ達はイカレている。だから理解なんて出来ない。しようとするだけ無駄だ。だからオレはアルテインに関わるって決めたんだ! 隠し事を暴くのは友人とは言わないと思って、踏み込まないようにしてたが、もうそれはここで終いだ! 理解するのと関わるのは全くもって違うもんだぜイド! 関わるってのはぁッ!」


 「―――――」


 オレは気持ちを高ぶらせたまま、イドの両肩を摑んで引き寄せる。


 「家族になるってことと、同義だろぉがよぉッ!!」


 「!?」


 お互いの息が掛かりそうになるほどに眼前に迫り、オレの意見を叩きつける。


 驚愕の色に染まるイドの瞳も、すぐにその意味を理解し、眼を閉じ、そして何故か頬も染めた。


 そして―――、


 「あーはっはっはっはっはっはッ!!!」


 盛大に笑われた。


 「あーマジかよ。一瞬、ルナの言ーたいこと当ててやるよ!って思って言った言葉を素晴らしく超えた答えを出してきやがって。この男たらしめ! 嫁にする? なんて壮大な家族化計画だぶっ飛んでやがる。それにしてもwww嫁にするってwwwホントにルナはオレの思考を越えた答えを出してきやがる」


 「んで、連れてってくれるのか?」


 ひちしきり笑い終わり、どこか尊敬の眼差しで見てくるイドにオレは答えを聞く。


 答えは勿論――、


 「あー! 連れてってやらーッ!! こんな殿方、アルテインが好きになるのも納得だ!」


 「じゃぁ早くしてくれ! ―――っと」


 急かすオレにイドが待てと手で制す。


 「なんだよ」とむっとするオレに、イドは掌から二つの斧と一組の脛具を生成してオレに渡す。


 「これ装備しとけ」


 「なんでだ? 人様の家に行くんだぞ?」


 「だからだよ。アルテイン嫁取り作戦が説得で何とかなると思うなよ。嫁にするんなら、間違いなく義父と一発戦闘になるからな。それも、かなりの子供好きな親だからな。いくら砂鉄で武器生成できるからって、屋内戦闘じゃ砂鉄は使えねーよ」


 「あ、そうか。確かに、・・・ありがとう」


 オレはイドにお礼を述べて、手渡された斧を腰につけ、脛具を付けた。新しいものだと言うのもあって、中々なじまないなと思った。

 

 「んじゃ、行くか」


 イドがオレに拳を突き出してくる。とてもいい笑顔を浮かべて。


 オレはその拳を突き合わせるように、同じく拳を出した。


 「あぁ、――行こうか!」


 

 

 さぁ、アルテインを嫁に取りに行くかッ!!

 


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