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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章幕間《アルテインの告白》

 ついに決勝だ。でも、全然嬉しくない。


 相手はゼクサー君なのに。


 「そりゃそうだよね。ボクが、勝っちゃうから」


 苦悩を抱えながら、今でもいいから引き返せばと考えてればいつの間にか、彼の居る部屋までやってきてしまった。


 引き返そうにも、ボクは引き返すことができない。


 「ぁ」


 気づけばボクは、無意識の内にノックをしていた。


 引き返そうにも、引き返せなくなってしまった。後に引こうと背を向けようとしたが、先にボクを摑まえる声が先制を為した。


 「お、アルテインじゃねぇか。入れよ。立ち話もなんだしさ」


 「


 逃れようと何かを言おうとしたが、上手く音が喉から出なかった。それがボクの無意識にある潜在的な縛りなのか、はたまたゼクサー君の誘いを断る意思も言葉もなかったからか。ゼクサー君は半ば強引にボクの腕を引っ張って部屋の中に入れる。


 ゼクサー君の掌が思っていたよりも温かかったのと、ゼクサー君にしては珍しい大胆な行動に驚いた。まるではっちゃけたような、なんだか重りの枷を外したような、これが本来のゼクサー君の姿のような気がして、ボクの心を余計罪悪感がかすんでいく。


 胸の奥が痛むが、ボクはなんとか平静を取り戻す。いや、取り戻せてなんかいない。これはただボクの顔に張り付けてあるだけの紛い物だ。


 ボクは瞳すら見えないような笑顔を浮かべてゼクサー君に称賛を送る。


 「すごいね、ゼクサー君。遂にここまでやって来たんだ! ま、まぁボクは元々ゼクサー君が此処まで来ると信じていたけどね!」


 「・・・・・。―――あぁ! やっぱりな、アルテインを手に入れる時はすぐそこだぜ! 世界に名を轟かして、アルテインを貰いに義父さんに挨拶しに行くんだ!」


 「挨拶、・・・ん? 義父? あ、あれれ? え、まさかゼクサー君・・・」


 「ん? 勿論お付き合いするってことは伝えとかなきゃだろ?」


 「ぼ、ボク男なんだけど・・・?」


 「え、でもアルテインはオレのこと好きだろ? 恋愛的な意味合いでさ」


 「・・・・それはm、――それは言いませんッ!! ボクに勝ったら教えてあげるから!!」


 「もう言ったも同然だがな。でもこれだけは言っとくぜ、アルテイン。――オレは、お前の事が好きだぜッ!! そりゃもう視界に入れるたびに動悸息切れ高血圧になる!」


 「それはもうおじいちゃんなのではッ!? でもってサラッと流す事じゃないよ今の告白は!」


 手で触れなくっても分かる程に熱を帯びた頬、目を丸くしてゼクサー君の冗談に突っ込みを入れる。それに笑い声で返すゼクサー君を見ていたら、途端に申し訳なく感じてしまう。


 本当なら、ボクに顔を紅くする権利も、ゼクサー君の冗談に付き合う権利もないのに。ゼクサー君は何も知らないから、ボクはこうして被っているだけだと言うのに。


 ゼクサー君は太陽よりも赤い髪の毛を揺らしながら、金色の瞳を細めて目じりに涙を浮かべている。


 「くはははッ!! 今は冗談で終わっているけど、次このセリフを言う時はそれ相応の覚悟をしておけよ!!」


 「ゼクサー君とはもうちょっとの間は友達の関係であり続けたいから、それを言うのは数年先じゃないかな?」

 

 「いぃや、もうすぐ先の未来だぜ。この未来はオレが掴むからなッ!!」


 「はいはい、分かりましたよ。そうやって現を抜かしてたら負けるんだからね」


 そう返してボクはそっと目を逸らす。今のゼクサー君と話していると、なんだかいつもの自然体が引き出されるような感覚になる。それが罪悪感と合わさって、今にも吐きそうになる。


 何でこんなに醜いことを考えているのに、こんな自然体で、いつも通りの心持になるんだろう。あまりにも薄情な現実にボクはボクが気持ち悪くてたまらない。まるでボクがゼクサー君と別れたくないから、みたいじゃないか。


 そんなのとても強欲だ。この時間だけがゼクサー君と会える最後の時間で、ボクはそれを断ち切る義務があるのに、ゼクサー君とお別れなんてしたくないと考えてしまう。この時間が永遠に続ける世界があるなら、何もかもを捨ててそこで永遠に過ごしたいとまで思えてしまう。それが償いになるのなら、ボクは喜んでそこに行くだろう。


 でも現実はそんなに簡単じゃないし、幻想的じゃない。


 もっと厳しくて、ゼクサー君の境遇みたいな想像もできない程の残酷さがあるのだ。そこで義務を全うしないなんて、とんだ夢物語だ。


 「夢物語なのに・・・・」


 「――――? どうした。なんか言ったか?」


 「――ッ!! 何も言ってないけど」


 「そうか。一瞬、夢物語云々ってことが聞こえた気がしたんだがなぁ・・・。難聴かな」


 「だからゼクサー君はおじいちゃんなのッ!?」


 目をひん剥いて突っ込むと、またしても大笑いでゼクサー君がボクの心を”そっち”へと引き込もうとする。


 ひとしきり笑ったゼクサー君はひーひーとお腹を抑えながら部屋に常備されているソファへと座る。


 「あー、腹痛い。こういうのも悪くねぇな。あー、肩いてーwww」


 「なんで笑うと肩が痛むの?」

 

 「さぁな、歳だからじゃねぇの? オレだって四十肩の四つや五つあるわ」


 「そんなに肩があっても困るでしょ。全くもう、揉んであげるからその態勢で居て」


 「悪いね、いつもいつも」


 「それは言わないお約束だよ、ゼクサー君」


 肩を回すたびにコキコキと小さい音が鳴っている。かなり近づかないと分からない音だけど、本当に凝っているようだった。

 

 僕はゼクサー君の後ろに回り、当主様がご伝授してくださった肩のツボマッサージを披露する。自分のような女子みたいな細い手でちゃんとマッサージできるか不安だったけど、いざ触ってみるとゼクサー君の肩は全然大きくなくて、ボクの掌でもしっかりと押せた。


 「お゛ふぅおぉぉおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」

 

 「ちょっ! 変な声を漏らさないでよぉ!?」

 

 「や、これは、―――フゥン。素晴らしい! キマりますねぇッ!!」


 「それって褒めてるの? だとしたらありがとうなんだけど」


 「褒めてるよ。正直嫁に欲しい。っていうか、今すぐに嫁にしたい。大会の勝敗に関わらずアルテインを嫁に取りたい! 一緒に墓に入って微生物に食われてぇ!」


 「嫁って、えぇぇ!? ・・・ん? 微生物・・・」


 なんだか頬が色づく前に変な単語がゼクサー君の台詞に入っていた気がするが、おそらく勘違いか何かだろう。それにしても、まさかボクを嫁に欲しいなんて言うとは思っていなかった。


 思い浮かんだのはゼクサー君によってお姫様抱っこされているボクの姿だった、闘技場の中、歓声が沸き上がる中で優勝したゼクサー君がボクを抱き上げて、「こいつはオレの嫁にするぜ!」と言っている姿がありありと瞼の裏に浮かび上がる。


 「嫁、嫁かぁ・・・。お嫁さん・・・」


 そうして少し気を抜いてしまったのが間違いだった。このまま時間切れとか狙えればそれでよかったのに、だ。


 ボクはそっと肩を揉むのをやめて、腕をゼクサー君の首に巻きつかせる。ボクの意識とは関係なしに、別のボクが居るかのように、するっと両腕をゼクサー君の首に巻き付ける。


 「んあ? なんだ、妙に積極的だなアルテイン」


 「そんなことないよ。ちょっと、ゼクサー君のお嫁さんの姿を想像していただけだから」


 「くはは! マジかよ。まぁ、なんにせよお前を嫁に取る時は、オレが自ら迎えに行くぜ。死んでも、地獄の底から蘇って迎えに行くぜ!!」


 「それもうゾンビじゃんw」


 ゼクサー君の会話に応じる。完全に呑まれたように、身体はボクの言う事を聞かない。でも、それを何とかして取り外そうとも考えられなかった。


 心のどこかでは、こういう状況を望んでいたのか。


 元気よく笑うゼクサー君の首、ボクはそっと手首に仕込んでおいたナイフを取り出す。ゼクサー君からは死角になっていて見えない。


 やめてほしいと言えば、それは多分嘘だと思う。


 ボクはやっぱり、あの時ちゃんと言えば良かったと思っている。


 ―――ボクに関わったら碌な目に合わないって。


 「ゼクサー君は知ってる?」


 「んー、何を?」


 燃えるように立ち上がった髪の毛に鼻をうずめてゼクサーに問いかける。


 その次の言葉は言わない。言えない。


 その次はない。ここで終わりなのだから。


 でもどうせなら、知っておいて欲しかった。でも、言えない。


 知ってる訳なのに、知ってるなんて決まってないのに。


 だからボクはそっと息を吸って口を開ける。


 「






                            

                                  

                                 

                                       


                                    

                            

                                   

              

                                                                       」


     

 そうして、ボクは手首に仕込んだナイフを取り出して、ゼクサー君の喉元を斬り裂いた。


 

 A A A



 「ごめんね、ゼクサー君。やっぱりボクは君の事が好きだよ。ずっと、一緒に居たいくらい、好きです。今も、これからも」


 虚ろな目でボクを見るゼクサー君に、ボクはそっと息を零した。


 「だから、さようなら。ごめんね。ボクは、認められたかったんだ」


 もうゼクサー君は動かない。


 ボクはゼクサー君を尻目に扉に手を掛ける。


 「次に出会うことがあったら、その時はボクをゼクサー君のお嫁さんにしてね」


 そう言って、頬が一筋に濡れる。


 多分、これが本当の本当に、答えなんだろうなと。


 そんな儚い を抱きながら。



 

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