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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章幕間《完封》

 闘技場には人類史にて類を見ない聞いたことのない叫び声が響き渡っていた。


 その声の主のほとんどは観客側の席からだ。


 あらゆる生物の不安、その悪意を四方八方にばら撒く存在から無意識に供給され続けられているのだ。誰一人として今の状況に何かを言おうとしない。全員が全員、頭の中が不安ととある存在への憎悪で埋め尽くされている。


 そしてその元凶は闘技場の中心で一人の剣士を圧倒していた。


 「”千剣天威”フロッtごふッ!!」


 ”千剣天威”フロッティ。”突き”を重心に置いた属性技と物理攻撃の融合技だ。イズモが作った『千剣天威』のシリーズの中でも一番属性を圧縮し、一点突破に重きを置いた技である。だが、その剣士は構えこそまさにイズモがたたき上げで鍛え上げたものであるが、発動する瞬間に一人の少年の拳によって無理やりに妨害をされる。


 更に追撃とばかりに斧が振るわれ、剣士の持っている刀身の剣先をまたもや削る。切り飛ばされた一撃、そして飛ぶ銀色の剣の破片。それが数回転する間に、更に連続で剣士の腹に蹴りが入れられる。


 どれもこれも、その少年によって限りなく調整された一撃なのが更なる”悪意”だ。


 壁に叩きつけられ、あばらの骨が二本複雑骨折した剣士が血を吐きながら、自らが最も嫌悪する少年へと眼を向ける。


 その少年は見た目は何の変哲もない、赤髪に金色の目をした整った顔立ちをしている。脛具に斧という変わった武装以外は全く変哲もない。

 

 今さっきまで剣士が圧倒していた、そう思っているだけあり、今の今に至る展開に頭が追い付いていない。


 「がっ、ごほっ、ぐ、ぅ・・・。いったい何が・・・・」


 苦痛に顔を歪めながら、今さっき自分が体験したことを記憶を通じて蘇らせる。


 自身がその少年相手に、余裕を持った一撃である”千剣天威”カラドボルグを放った瞬間だった。一瞬視界が暗転したかと思えば、”千剣天威”カラドボルグに直撃しても無傷で平然と突っ立っている少年の姿があった。


 ただし、纏っている雰囲気は尋常ではなく、その時点からその少年に対する憎悪と不安、嫌悪が数十倍に膨れ上がったのだ。


 そこから一気に形成逆転されてしまい、その少年に素手で小石を蹴り飛ばすように軽々と弾き飛ばされ、刀身の長さを少しずつ削られていく始末だ。


 「クソッ! いったい何のズルをしやがったんだ、ゼクサーは・・・!!」


 「敢えて言うなら、今まで抑えられていた力を解放したって感じだな」


 感情ばかりが爆発し、言葉が上手く伝えられない中なんとか紡いだ言葉に対して、その少年は少し含んだような返事で持って返す。


 そのあまりにもふざけた解答に剣士は憤りが頂点に達し、剣を強く握り、自身を抱擁する壁から脱する。そのまま猛然と突っ込みに行く。


 「ふざけるなよ! お前みたいな奴が力を解放だなんて偉そうに!!」


 「オレ、ウガインのそういう所、大嫌いだぜ。いつも通りの平常運転が『悪意』を纏ってオレを不快にさせてんだからよ」


 「何を――――――ッッ!!!!」

 

 「愛されてるくせに、ズルいのは、お前だ」


 「なn、――――がぴゅ」


 一瞬視界が上を向いた。直後に顎の骨がイカれる感覚が襲い、ここで初めて蹴りでアッパーカットをされたことに気づく。


 それだけじゃない。


 「いいよなぁ、愛されてる奴ってのは。愛されてない奴の気持ちなんて分らねぇんだから。どこまでも理解することができないんだから」


 「おごッッ!!? ごふぁッッ!!? お゛ァッッッ!!!!!」


 海老そりにのけぞった剣士の身体。その無防備な男子の象徴を脛具の蹴り上げが穿つ。それも何度もだ。そしてダメ押しの骨折した個所への鋭い蹴り込みである。


 面白いくらいに軽々と地面を転び、床を何度も撥ねる姿は痛々しいを通り越して滑稽とすら呼べる。


 もっと滑稽なのは今まで少年が剣士に攻撃を当てるとヘイトの大合唱をしていた観客側が何も発することができずに、一方的にやられていく剣士を見ていることだ。


 そんな一方的な試合。実力が未知数、だがしかし理不尽なことにその未知数の力も未だに上がり続けているという少年の状況。それに対して剣士は対抗手段を持ち合わせてはいるが、それも今の能力量を全て食らう諸刃の剣だ。出す場所は考えなければいけない。


 しかし、今の彼にそんな余裕は心身共に在りはしなかった。


 それはナルシストであるが故の、電気属性アンチの真っ盛りだからなのか。それとも、かの少年が周囲に与え続けている”悪意”が影響しているのか。


 剣士の心はさも原子爆弾でも落ちた都市のように荒廃しており、真面に相手をして勝てないことは簡単に想像できる。だが、それは剣士の心情にとっては大きく頷きがたいものであった。


 「俺が、・・・お前みたいな出来損ないに負けるはずが・・・ない!」


 「まるで主人公みたいな不屈の精神だな。普通なら玉蹴られたら身悶えするってのに、脳ミソが狂ったか?」


 「決勝で勝つのはこの俺であり、そのためにもお前は俺の持ちうる全力で叩き潰すのだ!」


 興奮物質が異常分泌され、今までにない猛烈な踏み込みが一瞬音を置き去りにする。


 完全状態の動体視力。全てが止まって見える世界の中で剣士は剣を振り抜き、呆然と斧を持って突っ立ったままでいる少年の首筋に剣を――――!!


 「がっ――――!!」


 「へぇ、次は当たるんじゃないかな? 頑張ってね」


 完全に見切ったと思われた剣撃だが、何故か切ったのは空気であり、直後に心臓が抉られるような、脊髄を粉砕されたような衝撃が下腹部に集中、拡散する。


 叩き込まれたのは斧の柄だった。


 あの刹那の時にして、剣士をも軽々と超える反射神経で剣劇を避け、ガラ空きになった腹に一撃を入れたのだ。


 吹っ飛ばされる剣士が壁に突き刺さり、歴史ある闘技場の壁の一部が崩落する。


 だが、それだけ滅多打ちにされたとしても剣士の傷は怒りへ、そして力へと塗り替えられる。


 強風が吹き、土煙をかっ飛ばして煉瓦や鉄骨と共に剣士が猛然と少年に突きかかる。


 少年は剣士の獅子奮迅には驚いたようで少し距離を開ける。だが、その引かれた脚を見逃さず、態勢を崩した少年の腹部めがけて剣士が吠える。


 「”千剣天威”ナーゲリングゥッ!!!」


 断頭の剣、ナーゲリングの名を冠した風の一撃がゼロ距離にて少年の腹部に必中する。


 そしてそのまま引き抜く!


 「どぉうだぁッ!!!」


 血まみれの顔でありながらも、一矢報いた事に剣士が少年の警戒の足りなさを指摘する。だが、その直後、本当に警戒が足りなかったのは自分自身だと痛感させられることになると――。


 違和感。


 「――――!!?」


 その正体は少年の腹部だ。


 断頭の大剣である。一撃をもろに喰らって五体満足で居れるはずがないのに、その少年は立っていた。腹部には、黒い煙が、――否、粉だ。黒い粉が超高速で少年の腹部周辺で震動していたのだ。


 「な、ん―――!!」


 まるで自身が今抱える”悪意”を形どったような、残忍性と不安だ。冷酷に振動する黒い粉はカツオブシを削るような音を響かせながら、わざわざ突っ込んでくる馬鹿を待ち構えて、少年の腹に巣くっている。


 そして近づいた者はその高速振動する黒く小さい捕食者に、”例えこの世で最も固い金属”だとしても容易く噛み砕き、髄を削る。


 ―――剣士の持っていた剣は、元々の半分ほどの刀身になっていたのだ。


 食いちぎれた。――と、そう確信したのも束の間、今度は後ろに回り込まれて背中をきしませる威力の蹴りが振るわれた。


 前方から地面に衝突し、土を喰った顔のまま少年から何mも離れた地点でその勢いが止まる。


 少年はとても悪そうな顔つきのまま、剣士を覗き込むように頭を下げている。


 「驚いた。それで少し下がった。―――見事、隙を許さないウガインは、オレの撒いた種にあっさりとはまってくれたね」


 「ゼクサー・・・・、お前・・・」


 「本当はアルテイン相手に使うのが最初って決めてたけど、盛大に舐めプして勝利したいから君相手でも使っていいかなって思ったのさ」


 「その、黒い霧のような、粒子は、なんだ・・・? 答えろ」


 「それは君らが一番知っていることだと思うけどぁッッッ!!!!」


 「!!?」


 少年の嗤う絶叫に闘技場全体の土が内側から隆起させられ、そこから更なる黒い霧が、捕食者の粒子が際限なく溢れ出る。まるで恐竜時代の火山の噴火の如く、だ。


 会場は今でもなお、その少年に対する感情が不安と憎悪で塗りつぶされ、満足に何かをする気力も別の事を考える力もない。ずっと、その少年へのどす黒い感情があふれ出ており、闘技場の惨事を応報処理している暇などなかった。


 「――全力で来いよ、ウガイン=ペドワルル。色んな人に愛されて育った人間が、オレのような異端児に勝てる訳がねぇんだからな?」


 「お前ぇ・・・ッ!!」


 「せいぜい、華々しく散らせてやるから感謝しろよぉ? ほらほら、見せてみろよ。せんけんなんちゃら剣を、なぁ?」


 「イズモ様の剣技を冒涜するなぁッッ!!!」


 最後の最後まで持ち堪えていた理性が少年のクソ親父の冒涜によって完全に、完璧に決壊する。


 全能力量を体から沸き立たせ、剣を握る腕一帯に渦を巻くように絡ませる。


 この技は元々使用する属性の基準が風属性と言うことも有り、剣士にとっては一番相性の良い必殺技だ。だがしかし、その緻密な操作性と莫大な能力量から、所謂自分か相手への必殺技でもある。


 剣士は自身の腕に属性を縫わせるように纏わせ、剣自体も属性によって刀身を伸ばし、更に超風速の風の刃を搭載する。


 これが、剣士の現在の最高峰にして、最強。


 「”千剣天威”ダインスレィヴ!!」


 自身の二回りも大きい属性で形取られた腕と剣、それを振り回し、剣士は飛ぶ。


 だが悲しいかな。その必殺技も少年に届くことはない。


 黒い波のような粒子の渦? 斧? 脛具? 反射神経? 全部違う。


 これこそが電気属性としての、彼の領分なのだから。


 

 「―――『雷撃』」


 

 晴天の中、太陽光すらも穿つ一筋の光。いや、光エネルギーすらも破壊力に変換された無色透明な一撃が光に最も近い速度で闘技場、そこで飛び、斬りかかる剣士の腕を捉える。


 必殺技。少年が口にした直後として、線の一撃が剣士を、そして着弾した会場を中心に、世界の重力を揺らす一撃となって、惑星全土に衝撃を撃ち抜いたのだった。



 

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