表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
76/178

第一章71 『何故?』

 今日一日でこの作業をするのはもう四回目だ。


 石畳から土を踏みしめる瞬間、会場が大きく盛り上がる。良い意味でも、悪い意味でも。果たしてオレと相手、どちらに対する声なのか。


 数々の兵士が汗と血を流してきた土を一歩、また一歩踏み込みながらオレは相対する人間を見る。


 瞳はよく見えないが凛々しい顔立ちであり、黒い髪は珍しく後ろにまとめ上げられている。全体的に鍛え上げられた身体つきをしている。きっとこの日の為に相当練習をしたものだと窺える。袖口から削られた治りかけの皮膚が見えた。 


 見ただけで分かる。なんとなくだが。


 ――今までのように一筋縄ではいかないことを。


 その男はオレを一瞥し、少し強く奥歯を噛んだ。

 

 「――お前が来たのか。残念だが、デルシは俺が倒した」


 「あぁ、それが?」


 「―――――」


 「まさかオレが能力量切れのデルシとの対戦を夢見ていたって言いたそうじゃねぇか」


 「・・・相変わらず生意気だな。儀礼的に頭を下げたくとも、こんな奴相手に下げる頭は持ち合わせていない」


 そう言って、――ウガインはオレの足元に唾を吐く。全体的に近衛騎士に近い服装に装飾の施された剣を帯剣しているっていうのに、中身はまんまナルシストだった。


 誰かを見下してなきゃ生きていられないだなんて難儀な人生だが、そんな奴に負けてやるほどオレも寛容な性格はしていない。あまり慈悲深くないのがオレだ。


 「(新しい力。つってもまだ元々の能力量の問題であまり強くは扱えないし、作用範囲も小さい。でもこいつを相手するにはお釣りが出るレベルだ)」


 オレはそう思いながら、頭の中で脳内物質の電気信号をいじり、限りなく頭を爽快にする。頭に直に冷風が送られてくるような感覚を呼び起こす。


 「―――――、ふ」


 「・・・?」

 

 轟ッ!!と、頭の中で氷のような涼しさを持つ強風が脳みそを回転させる感覚が俺の全神経をむき出しにする。


 そして、その感覚を薄く、そして世界に広げるように伸ばしていく。世界にオレの神経に直結する薄い膜を被せるのだ。


 「―――これが、オレの『平面の集中力(レーダー)』」


 「何を言っているんだ? 頭でも狂ったか?」


 狂った性格の奴が問いかけてきた。怪訝な顔をしているが、こいつにオレの感覚は分からないだろう。電磁石化をする上で、何度も試行錯誤をした逸品だ。まだまだ進化の可能性が秘められた”もしも”の探究者だ。


 オレは笑いかけるようにウガインに言う。


 「分からないか。この、感覚が。――世界を覆う全神経。可能性の究明者たるオレの権能が」


 「何を言ってるのか、だな。その残念な頭、早々に終わらせてやる」


 「残念な性格に言われたくねぇな。オレもそのオブラートに包んでも高いお前のプライド伐採してやるよ!」


 ウガインが腰に据えてあった鞘に手を掛ける。オレは何もしないで、突っ立ったままだ。


 「おい、あの電気。武器取り出さねぇぞ!」


 「前の試合もそうだったじゃねぇか! ふざけんな!」


 「ウガイン! あいつの鼻っ柱へし折ってやれ!」


 観客の声が聞こえる。が、オレは攻撃の構えなどしない。それは舐めプをするという事ではない。以前にも言ったが、観客を驚かせるためであり、アルテインとの戦闘に向けて力を温存しておくと言う算段がある。


 舐めてなど、いないのだ。


 「(全力を出しても良いが、それでは面白くない。もっと観客を見せる必要がある。飽きさせてはならない。驚かし続けてこっち側に引き込むんだ)」


 オレが心に決めた直後、祭司が声を響かせる。


 「それでは、ウガイン=ペドワルルとゼクサー=ルナティックの第五試合を開始する!」


 ゴングが響き渡り、観客をより一層沸き立たせた。

 


 A A A



 ゴングが鳴った。――瞬間に動いたのは、ウガインだった。


 一度の蹴りで間合いを詰めて、無防備なオレの懐に入り、鞘から剣を引き抜く。息を吐きながら、筋肉の動いた先にはオレが居る。


 全部、バレバレだ。


 オレはその攻撃を最小限の動きで避ける。ウガインの剣撃が遅く見える。筋肉の動きも、眼ではっきりと追うことができる。


 「――――ッ!!」


 体重移動による綺麗な躱しっぷりに、ウガインのくちから息が止まった。だがすぐに持ち直し、オレへ怒濤の追撃を開始する。


 「絶華剣術、『追い椿木』!」


 繰り出されるのは剣撃を一つの向きに縦横無尽に突き出す剣術の『追い椿木』だ。高速の連続刺突技であり、バスターソードでそれを為すのはかなりの筋肉量が必要となる上、バランスも必要となる。


 まさかの剣技に観客も沸く。


 「あれって絶華剣術だよな!? 使えるヤツって結構年老いた奴だよな!?」


 「おいおいおいおい! あの剣術って最北端の山奥でしか受け継がれない剣技だよな!?」


 「やべぇやべぇ!! 実物見るのは初めてだぞおい!」


 「あいつまさか、あの頑固花好きに弟子入りできたってのか!?」


 オレもこの剣術に関しては体育で軽く教えられたくらいで、実物など見たことはなかった。でも、だから何だと言うんだ。見えにくい? 連続刺突? 高速?


 「(こちとら人の産毛の動きまで感知できるようになった超繊細な『平面の集中力(レーダー)』があるんだよ! 舐めてんじゃねぇぞ!)」


 オレはその連続刺突を一つ一つをしっかりと余裕を持って避けきってやった。


 「あいつ! 運がいいな!」


 「当たってねぇ! きっとなにかズルをしているんだ!!」


 「やっちまえウガイン!」


 「電気野郎の化けの皮を剥がしてやれ!!」


 が、まだ観客はオレの波に乗ってこない。相当深く”電気属性=戦えない属性”の偏見があると思われる。


 「(そりゃ数年の偏見とかじゃなくって、単純に数千と数百年の偏見だしな。中々はぎ取るのは難しいって訳だ)」


 「絶華剣術、『鬼薔薇』!」


 「っと、考え事してたらこれだぜ」

 

 ふと気を抜いていたら、ウガインの一撃が地面に突き刺さり。そのまま刀身が土を斬り上げて地面からオレを捉える。


 ――も、だ。


 「いややっぱ遅ぇな。次はもうちょいと余裕を持って避けるかね」


 「――――これもッ!!? ならば絶華剣術、『白銀金合歓』、『烈風秋桜』、『金剛紫陽花』!!」


 繰り出されるのは(オレには余裕で見える)音の剣劇だ。突き出し、舞うように三回転、そして振り下ろして振り上げる。


 一撃一撃が洗練されており、その一つ一つが花を想起させるような、空気と同化した自然に紛れ込んだ暗器のように、確実にオレを仕留めようと喉元に喰ってかかる。


 「そもそも当たらなければ意味はないんだがな」


 「ふ、ふざけるなッッッ!!?」


 「次は目を閉じて避けてみようかな?」


 「ふっ、ふざけるなぁッッッ!!!」


 怒号と共にウガインの剣劇も鋭くなっていく。だが悲しいかな。オレが経験し、慣れさせられた感覚よりずっと遅い。


 「(こちとら、イドに落雷を静物画にしろとかくそみたいな鍛練させられてんだぞ。今はまだ三十点しか取れねぇけど、ウガインの剣劇の静物画なら満点イケるわ!)」


 正直な話、オレは今ウガインを武器なしで倒せる自信がある。失礼かもしれないが、ウガインの態度よりは失礼でないので、逆説的に言えばオレは礼儀正しいと言えるだろう。と、そんなことはさておき、だ。


 「今の内に降参しておけよ。怪我せずに済むぜ」


 「誰がお前n」


 「よし、じゃぁ吹っ飛べ」


 「なにg――――ごえ」


 怪訝に顔を歪ませるウガインが急に苦鳴を漏らして数m先までぶっとばされた。


 剣を突き立ててなんとか踏みとどまるも、あまりの衝撃に吐瀉物を地面にぶちまけた。そんなウガインの腹部にはオレの足跡がくっきりと着いていた。


 その一瞬の光景に何が起きたのか、思考を置いていかれた観客はウガインの吐瀉物に現実を見た。


 「きゃあぁぁぁ――――――――ッ!! ウガイン様が!!」


 「え、いったい何が起きたんだ今!?」


 「一瞬あの電気野郎の脚が見えなくなった気が・・・」


 「そんな馬鹿な! 人の肉眼で見えないなんて!?」


 今度はオレへの罵声が少し減ったように思えた。観客は今ので何が起こったのか分からなかったのだろう。


 驚きが罵声に勝った瞬間だ。


 オレはファイティングポーズを取りながら、視線の先で蹴っ飛ばされて呻き声を上げるウガインを挑発する。この程度なら斧を出すだけ無駄だと確信したからだ。


 「さっさと降参するんだな。次はご自慢の顔がオレに足蹴にされるぞ」


 「・・・・・答えろ」 


 「おん?」


 プライドみたいな逆鱗に触れてカウンターと思っていたが、想定外のウガインの言葉にオレはほんの少し気をとられた。しかしすぐに持ち直してウガインの言葉を待った。


 ウガインはオレが待つ姿勢を見せたことに、息を着きながら首を此方に向けてきた。目は見えなくともやけに攻撃的な目線だと言うのは分かった。


 「いったい、どんなズルをしたんだ・・・?」


 「えあ?」


 「電気属性は雷を落としたり、物に電気を纏わせる力を持っている。少なくとも、お前のように身体能力を高めたりする力は持っていない! そしてお前は電気属性以外の属性を発現していない! だとすればお前のその力を説明つけるなら、ズルだとしか言えない! いったい何のズルをしたんだ!?」


 「なんでそこでズルってなるかなぁ・・・? オレの力はズルなんかじゃねぇよ。オレ自身の力だからな、素晴らしいことに」


 両手を広げて讃えるように、オレはウガインを見る。


 ウガインはやはり納得いかない様子で、オレの態度に余計口元を歪ませる。


 「今なら、見逃すのは俺の方だ。――今、お前がズルをしたと言うのなら公言して、帰れ。さもなくば、俺は本気を出すことになる」


 「なんっ、・・・だと!!?」


 この展開は予想すらしていなかった。まさかオレが見逃すのではなく、ウガインがオレを見逃すと来た。どうやらオレはズルをしている様に見えるらしい。


 「(妬み深いもいいところだな。自分にとって都合が合わなかったら相手のせいか。オレがやるにはいいけど、ウガインがやるのは生意気だな。だが、まぁここは乗ってやろうか)」


 一興を思いついたオレは、少し焦ったような顔をして周囲を見回す。


 観客は首を此方に向けている。オレの焦った様子になにやら小声で話す奴が居るが、喉の動きは『平面の集中力(レーダー)』で丸わかりだ。


 どうやらウガインの忠告に、やはりオレが何かズルをしていると考えているようだ。


 「どうした。ゼクサー、今さっきまでの強気な姿勢はどうした?」

 

 「あ、いや、その・・・」


 ウガインの声音に余裕が出てきたように思えた。


 もう一押しとウガインが思っていると同時に、オレはここだ!と悪戯を決行する確信を摑んだ。


 「そ、そうだ。お、オレは今までの試合でズルを―――」


 「ズルを、なんだ?」


 ウガインの声音に笑いが含まれているのが分かった瞬間、オレは勢いよく頭を下げる。そして前目乗りになる。


 そして―――。


 「してなぁ―――――――いぃッッッ!!!」


 脚のバネで地面を蹴り飛ばし、オレは頭を下げたままウガインに突きかかった。蹴り飛ばし、直後にオレの頭になにかが触れる感触があって、


 ぐきょッッ!!! ――――ゴッッ!!!


 「―――――ガぱッッッ!!??」


 何かが潰れる音と、人一人が壁に叩きつけられる音が会場内に響いた。


 オレが顔を上げるとそこには鼻がへんな方向に曲がった血まみれのウガインの姿があった。相当油断していたようで、剣が握られておらず、オレの少し先の地面に突き刺さっていた。


 オレは髪の毛を触り少し濡れた毛があることを確認する。


 「ちっ、汚れちまった・・・」


 オレが毒を吐いていると、やはり状況に一歩出遅れた観客が数秒遅れて絶叫した。


 「「「「「ひ、卑怯だぁ―――――!!!!!!!」」」」」


 「これがホントの頭脳プレイだ。教養が足りてねぇな観客共ぉ・・・、と」


 自分の頭に指を当てて、悪だくみ成功の顔で観客を煽る。だが、それも長くは続かないと分かった。


 それはほんの物音と、向けた視線の先。一人の人間の姿だ。


 ――ウガイン=ペドワルル。彼が生々しい音を立てて鼻の位置を戻し、突き刺さっていた剣を抜いたところだった。


 とんでもない胆力だ。オレも脱臼した腕を戦闘中にアルテインにぶつけてはめ込んだ経験があるからこそ、今の場面でウガインが相当な修羅場を潜ってきたことが分かる。


 「これで倒れねぇってことは、ちょっと見誤ってたなぁ・・・?」


 蹴りだけで倒すのは無理だと分かった刹那、オレは腰に装備している斧を引っこ抜いた。鈍く鋭く黒光りする斧はイドの創作物だ。弧の刃は生き物の命をするりと刈り取る形をしている。恐らく今のウガインは『幻影操作』しようとも、地面に頭を打ち付けて無理やり洗脳を解除しそうだ。


 オレが斧を持ち、再び『平面の集中力(レーダー)』の細微性を意識して伸ばす。


 「(打ち込んできた瞬間に刀身を叩き割って、気絶するまでメンズボールを蹴り上げるくらいしねぇとコイツは倒れそうにねぇよな。――さっさと終わらさねぇと、アルテインに会えねぇ)」


 ウガインは今までの雰囲気とは打って変わり、腹の底から剣士のような戦士の矜持のような力を感じる。そっと空気の抵抗を感じさせない程に流れるように剣先をオレに向けると、ウガインはそっと呟く。


 否、―――呟いた。それも、オレの意識がそれの意図を感知できなくて。


 「”千剣天威”、―――カラドボルグ」


 「ぇ


 刹那として、螺旋状の竜巻がオレの顔の横をすれすれで突き抜けて壁を穿った。


 ――穿ったのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ