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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章67 『意図せぬ再会』

 晴れ渡る太陽がオレの髪を照りつける。雨雲ひとつない明瞭な天空。


 祭りさながらの出店も並び、朝早くから子連れの親子や仕事を休んだ大人たちが溢れ、皆が同じ場所を目指していた。首都の通りはいつも以上に人が賑わっているが、そのほとんどがとある場所に首を向けていた。


 オヴドール学園の少し離れたところに設立された超大型のコロシアム。


 その偉大なる大門の前にオレは立っていた。


 今日はオレの努力の成果のお披露目会。


 ――属性能力者競争大会と呼ばれる、パーティアス民主国を代表する大規模な大会だ。


 国民だけでなく、数々の諸外国からお偉いさんが来る、その年の学園最強の属性能力者を決める大会である。勿論そんな大会は国内の至る所で開催されるが、決して小さいものではない。国の未来を担う若者たちのお披露目でもあり、国民だけではなく、外国の観光客やお偉いさん含めた外国人も観戦する長年続く伝統と格式ある国際的な一大イベントである。


 最初は外的要因で鎖国状態だったがために国内だけのイベント事だったが、ウチの親がこの国を戦勝国にした辺りから外国人も観戦し始めたんだそうだ。親父が十七歳のころにはこの国は戦勝国になっていたため、おそらく二十年間外国人も観戦している計算になる。


 そして何を隠そう、オレが電気属性でも冒険者になれる事ができることを知らしめる最高の切っ掛け作りとなるところだ。


 「やっぱでけぇな・・・!!」


 今までは物心もついていない時に爺ちゃんに連れていってもらったこともあって、あまり物の大きさを感知していなかった。


 だが今はどうだ!


 門だけでも随分と巨大なのにコロシアムの壁面と来たら”外”を隔てる壁くらい大きく、威圧感を感じるのだ。


 「まるで見下ろされてるみてぇな気分だ・・・」


 何故かコロシアムがオレを陰で「ここはお前のような恥知らずが来るところではない」とか言っている感覚を覚えてしまうが、オレは負けじと天に向かって中指を立てる。太陽光がオレの指を照りつけていた。


 「行くか」


 世界に対する宣戦布告も終わり、オレは大門の奥へと脚を運ばせた。



 A A A



 大門の前にも人は居たが、中はもっと人が居た。


 まず城門をくぐると上にあげられた鉄柵の鋭利な先端が見えた。何回か改修工事が行われているらしく、教科書では全体的に古びた茶色が印象的だったが、今こうして見て見ると現代の若者の好みに沿ったような、白を基調とした壁色に赤のラインが添えられている色になっている。その中でも鉄柵だけは昔と変わらずその頑丈な黒々とした印象がそのままだった。


 そしてオレの視界に映るのは今さっき言った通り、多数の人々だ。


 星の数よりずっと多い人だかりが色々なところでカメラを使ったりして記念写真を撮っているのだ。


 カメラ自体がそれなりに場所を取るが、それもほんのすこしと思えるほどに人の数が圧倒的に多かった。


 オレは石畳の廊下を歩きながら人混みをかき分け、なんとか大会出場者待機室の前までたどり着いた。


 「(オカシイだろ・・・! ほんの五m歩けばつくのに一㎞歩いた気分になるんだが・・・!?)」


 ドアの前で息を切らし、待機室の扉に手を掛けようと手を伸ばしたところで――、


 「あれ? ゼクサー君?」


 「んぇあ?」


 開けようとしたところで後ろからの声に反応し、変な声が出た。


 後ろを振り返ると、そこには銀髪ショートの男の娘が居た。


 混沌とした色の奥に見える一筋の琥珀色の光ある眼。体つきは男子だと言うのに、オレウスを彷彿とさせるほどに男要素がなく、白い肌も相まって女子にしか見えない。それにオレに声を掛けた仕草と言い、周囲の鼻の下が伸びた視線と言い、完全に女子のそれだ。


 オレの知っている限りでこんな可愛らしい男子と言えば思い当たる人は一人しかいない。


 アルテイン=エルダーデインだ。


 白を基調に黄色の線が沢山入った動きやすい服装だが、腕や足には鉄製の防具(おそらく女子用だと思われる)が付けられており、帯剣もしていた。


 女傑と呼ぶには格好良さとか威圧感が足りていないが、女騎士と言うにはとても戦士らし過ぎる。


 そんな印象が今の彼にはあった。


 「よぉ、アルテイン。久々だな。どうだ? 調子良いか?」


 「うん。ボクすっごい頑張って指向性とか能力量とか伸ばしたし、新しい能力も開花したんだよ!! 当主様もボクを見てくれるようになったんだ! 「お前には期待している」って言ってくれてさ! ボク、すっごく頑張ってゼクサー君に勝つから!」


 「お、奇遇だな。オレも昨日なんとか新しい技を習得したんだよ。勝つのはオレだな。アルテイン相手は苦戦するかもだが、それ以外は総なめしてやんよ」


 「そう言えば毎年毎年だけど、優勝賞品はかなり豪華らしいね」


 アルテインがころころと笑みをこぼしながら話す姿にオレは少し頬を染める。


 どうでもいいのだが、大会の優勝賞品と言うもの過去から上げ連ねても軒並み豪華なものばかりで、最近のであれば大企業の管理職の推薦状や”外”の”魔龍”種から作られた武器や防具、調査員や近衛騎士団の試験免除等だ。


 オレは首を傾げながら思いついたものを冗談半分で口にする。


 「なんだろうな、優勝賞品。アルテインとかかな? だったらもう勝つしかねぇんだが・・・」


 「みゃっ!? な、なっ、何言ってるの!? ボク男だよ!? いいのそれで!? ・・・まぁ、ゼクサー君が男好きなら別に良いし、ボクも女子より男子の方が好感度高いから別に断る理由はないけど、やっぱりそういうのは伝説の桜の木の下での告白とか、手を繋ぐとかのデートを挟むものじゃないかな・・・?」


 「あれ!? 思ってた反応と全然違う!?」


 なんかアルテインがよく分からない勘違いを起こして頬を染め始めたんだが?


 オレの予想では「人を物扱いしてはいけません!」って怒られるもんだと思ったが、別の方向に解釈を拗らせたようで、思い通りの反応にならなかったことに驚愕する。


 「冗談なのだが、・・・なんだ、なんかごめん」


 「え、あ、いや、あ、その・・・、冗談なのは分かってたよ! の、乗ってあげたの!」


 「(相変わらず嘘が下手すぎる・・・)」


 思わず頭を抱えてしまう程にしょうもない嘘だが、本人が顔を真っ赤にしながら手をわちゃわちゃと動かすので一概に間違いだとも言えなくなってしまった。


 「冗談」と言って断ち切ってしまうのはあまりにも無責任な気がしてならない。


 オレはこの空気の流れを変えるように、長らく忘れていた存在に目をやる。


 「そろそろ入ろうぜ」


 「あ、うん・・・」

 

 完全に耳元まで真っ赤なのに、顔を隠すように少し俯いた状態のままオレの背中を軽くたたく。


 「痛い、痛いです」


 痛くはないが、痛かったのでオレはとりあえず苦痛の声を漏らしておいた。


 

 A A A 


 

 扉を開けてオレが中に入ると、複数の人と眼があった。というよりかは、首が此方に向いていた。黒いモザイクで相手の目は見えていないが、次の反応でオレを見ていたことが分かった。


 直後に首を逸らされて小声で話をされたのだ。


 少なくとも歓迎されていないのは分かる。


 だが、ここで引き返す訳にも行かない。これよりひどいのにオレは出会ってきたのだ。精神病患者(あんな奴ら)に比べればどうってことはない。


 「(あいつらに比べれば、見てなんか喋って終わるだけだ。実害がないだけまだマシだ。ロデリー刺された時はマジで焦ったが・・・)」


 オレはそのまま部屋の中に入り、アルテインも続いてオレの後ろから入り扉を閉める。


 内装は看護師待機室を石造りにしたという感じだが、内包する雰囲気は筆舌には尽くしがたいほどにオレを邪険していた。


 アルテインもこの空気の悪さには違和感を持ったようで、俺にそっと耳打ちする。


 「どうしたのこれ?」


 「分からねぇ・・・、オレ今入って来たばっかなんだよ・・・」


 本当はオレがこの部屋に入ってきたことが原因なのだろうが、本音を話す必要はない。アルテインがキレて修羅場になる可能性が高いからだ。


 「とりあえず座るか」


 オレはアルテインに耳打ちし、脚を踏み込む。


 瞬間だった。


 「おい、ゼクサー=ルナティック。貴様、どういう了見のつもりだ?」


 「あん?」


 一歩踏み出したところでとある人物がずかずかとオレの目の前に立ち塞がった。


 金髪ロングにこの声は聞き覚えのあるクソだ。


 「マテリア=オーネットか、了見もなにも、オレはこの大会の出場者なんだよ」


 「―――はぁ!? あれは貴様と同姓同名の別人ではなかったのか!?」


 「オレの名前だよ」


 「見りゃ分かるだろ」とオレが無言で言うもこの女、マテリアは全く聞き入れず間髪入れずに平手打ちをしようと一歩大きく踏み込んで掌を向ける。口の上手い奴相手には暴力で勝ると言ったところか。頭が原始時代で止まっていると見える。


 「(動体視力がよくなったか? なんにせよ避けねぇと痛いし避けるか)」


 オレがそっと体重移動で後ろに下がろうとすると、不意にマテリアの腕が止まった。


 見て見ればアルテインがマテリアの手首をつかんでいたのだ。

 

 「ダメですよ暴力は。いくら学校の外と言えど、常識は持ち合わせていると思いますが?」


 「離せ! 私はこの親の気持ちも考えないクソに女性に対する男の立場と言うものを教えてやろうとしたまでだ! そもそもアルテイン=エルダーデイン! 貴様、女性に対して「鉾を収めよ」とはどういう身分だ!! 男風情が女性の行く道を塞ぐとはどういうことだ!! 男は女性の行く道を開けると言うのが普通であろう!!」


 「なんだその女尊男卑」


 毎度変わらずだが、マテリアは女性限定自己中みたいな精神を持っている。ウガインはただの自己中ナルシストだが、マテリアはそれに過激性と男性蔑視を加えた様なクソ模様。頭に要らんもんが沢山詰まっているに違いない。


 一見マテリアの方が体格的にも強いような気がするが、アルテインによって簡単に右手が封じ込められている。


 「離せ! こいつは親の期待に沿った子供として生まれてこなかった、所謂忌み子であり、呪われた子供だ! 私のように親から祝福された存在ではない! しかも女性に対して、特に私にとって誠実な姿勢も見せることなど出来ない男だぞ! 存在価値もないような無駄種を消費するだけの能無しとは違って私は存在して、生きているだけで他の有象無象から尊敬と忠誠を集められる絶世の美少女なのだぞ! 男を殴って何が悪い!!」


 「なんであんなに優しい母親からお前みたいなのが生まれてくるのか分からねぇな。きっとオレの親みたく、親にもいろいろあるのかもな。・・・まぁ、オレの場合100%親が悪いんだが。後お前も悪い」


 オレが親指を下に向けて言い放つと、マテリアの顔がどんどん般若のような顔になって行った。それと同時に周囲の空気も一段と悪くなる。


 だがオレは構わず反旗を翻してマテリアに反論をする。


 「呪われた性格したお前には分からんかもだが、オレの親は相当狂ってるぞ。力持ってる分相当性質が悪いと言える。オレの親は母親はオレの名前を忘れるクソだし、父親に至っては会話できるだけのただの脳筋馬鹿おy」


 「黙れ」


 言い終わると言うところで、オレは無理矢理に口を噤まされた。


 それはオレの喉元に当てられた剣先だ。白銀に輝くそれはとある男の手元から伸びているもので――。


 「ウガインか、どうした? まだ大会始まってすらないぞ」


 「撤回しろ。イズモ様はそんな人ではないと。とてつもなく高貴な御方だと言う方にどういう神経をしてるんだ」


 目の前には黒髪をたくし上げて、人を殺しそうな目でオレを睨むウガインの姿があった。


 どこの逆鱗に触れたかは分からないが、少なくとも親父の事でブチ切れているのだけはよく分かった。


 「(なんだよお前、お父さんっ子かよ。オレの親父だけど、お前がキレるってどういうことだってばよ。隠し子かな? やめろこれ以上親父に変な要素を入れるんじゃねぇ!)」


 心の中でそう突っ込みながらもオレはこのことに対して全く持って反省はしない。なんで謝罪しないといけないのか分からないからだ。

 

 はるか前、親父に「友達と喧嘩したら先に謝った方が勝ち」、「大人でも中々出来ないことだ」とか言われたが、正直悪くないと思ったのなら謝らない方が賢明だ。これを喧嘩と呼ぶのは他人次第だが、オレの論理上、どうしてもって時と尊敬する相手以外であれば謝罪も撤回もしないのが正解だ。


 なのでオレは剣先をオレに向けるウガインを挑発して、オレの喉元を突き刺すように誘導することにした。


 「いやなんで撤回の必要が? 頭オカシイ親に生まれたオレが悪いって? それは最早暴論だろ?」

 

 「ゼクサー!!」


 「叫ばれたって分からねぇよウガイン。お前と親父になんの関係があろうと、オレの親父は糞で、母さんもクソなんだよ」


 「その口を塞げえええええええええええええ!!!!」


 「ウガイン君!」


 アルテインが注意するもウガインの耳には入らない。咆哮し、剣を振り上げてオレの頭を叩き割らんと勢いをつけて振り下ろす。


 が、それと同時にオレも動き、腰につけていた斧を抜き取ろうとして―――、


 「すみません、失礼します」


 コンコンと扉がノックされた。


 「ちッ!」


 「今は、見逃してやる・・・」


 ガチャリとドアが開く前に、マテリアは舌打ちををして両手でアルテインの拘束を取り、ウガインはそっと剣を鞘に収めた。


 祭司が入ってくる瞬間にはオレ達はいつも通りの情景となっていた。


 誰も武器を取り出してはいない。


 祭司はオレ達を見やると、手元にある書類とオレ達を代わる代わる見ながらうんうんと頷く。


 「そろそろ大会の式が始まります。各々は準備をしてください。お手洗いも今の内に済ませてください」


 祭司はニコッと微笑むと、連れて来た他の修道女に色々と指示を出し始める。


 今の部屋の雰囲気は今さっきまでの剣呑としたものはなく、新しい風が入ってきたようで全員が全員心持は分からないが、顔は晴れやかに見える。


 ひと悶着あったが、今からオレが世界を驚かせる舞台が幕を開けると、そう確信した。


 

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